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Act 9. 歯車が狂いだす鳥
ささやかな願い(Ibuki.side)
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Ibuki.side.......
伊織が降りていった静かな車内。
伊織がタクシーを捕まえる所を見届けて、ふとわき上がる疑問が胸を燻っていた。
織はこれからどこに行くつもりなんだろう。
行き先は多分水無瀬薫の家じゃない。突然そんな気がしたのだ。
「ねえ、山口さん」
「どうしました?」
「織の後を分からないようにつけれる?」
「それは出来なくもないですが……」
運転手はミラー越しにこちらをのぞき、苦い顔をして渋りを見せた。
「いいんですか?」
「何が?」
問われたことは分かっていたが、首を傾げてとぼけてみせれば、山口さんは嘆息して車が滑り出す様に発進する。
「分かりました。どうなっても知りませんからね」
「山口さんには責任はとらせないから安心して」
「それは分かっていますが」
何か言いたげに再びミラー越しにこちらをみてくる視線から目を逸らし、窓の外をぼんやりと眺めた。
どうか杞憂で終わって欲しい。本当に水無瀬薫の家に行ってくれればいい。
そんな願いとは裏腹に、ギラギラと照りつける日差しとまとわりつくような日本の湿気の多い夏が僕のことをあざ笑っているかのようだった。
Ibuki.side......end
伊織が降りていった静かな車内。
伊織がタクシーを捕まえる所を見届けて、ふとわき上がる疑問が胸を燻っていた。
織はこれからどこに行くつもりなんだろう。
行き先は多分水無瀬薫の家じゃない。突然そんな気がしたのだ。
「ねえ、山口さん」
「どうしました?」
「織の後を分からないようにつけれる?」
「それは出来なくもないですが……」
運転手はミラー越しにこちらをのぞき、苦い顔をして渋りを見せた。
「いいんですか?」
「何が?」
問われたことは分かっていたが、首を傾げてとぼけてみせれば、山口さんは嘆息して車が滑り出す様に発進する。
「分かりました。どうなっても知りませんからね」
「山口さんには責任はとらせないから安心して」
「それは分かっていますが」
何か言いたげに再びミラー越しにこちらをみてくる視線から目を逸らし、窓の外をぼんやりと眺めた。
どうか杞憂で終わって欲しい。本当に水無瀬薫の家に行ってくれればいい。
そんな願いとは裏腹に、ギラギラと照りつける日差しとまとわりつくような日本の湿気の多い夏が僕のことをあざ笑っているかのようだった。
Ibuki.side......end
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