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Act 9. 歯車が狂いだす鳥

I’m not there, I don't sleep.

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 霊園はお盆を越したこともあってか前に比べて人が少ないように思えた。前に来てから2週間も経っていないが、献花は枯れたのか大方片付けられたのだろう。
 どことなく寂しげに墓石が連なっている。

 ここに過去の自分が眠っているのか、とふと考えた。俄かに感じた違和感に顔を顰める。

 自分が眠っている?
 俺はここにいるのに。

 この間来た時は深く考えないようにしていた疑問と焦燥が沸き上がってくる。
 魂が本質か、肉体が本質か、それともその両方が無ければ意味がないのか。

 哲学的で、宗教的な問題を知っていれば知っているほど、その問題が容易ではないと分かってしまって、呆然とその場に立ち尽くす事しか出来なかった。

 過去の自分の影がちらつくたび、感じるこの焦燥はなんだ。
 その問いの答えはない。
 ないが、代わりに、自分を呼ぶ声に弾かれたように振り返った。

「……伊織くん?」

「り……じちょ……」

 隆二の手には菊の花と水が入った桶。寛人の月命日に弔いにきてくれたというのは、明確だった。

 ――薫の叔父さんと仲の良かったやつが、今も月命日にお参りしてくれている。

 馬鹿なと何度も否定した事実。
 こんな期待は桐生に思考回路が犯されている証拠だと、その考えを即座に否定したのに、それが限りなく事実に近い可能性を見つけて胸が締め付けられるような気がした。

 どうしてここに?という顔をした隆二がこっちを見ていた。いつも気まずい別れ方をしていた手前、今更何を話せば良いのか考えあぐねてしまう。

「伊織くんもお参り?」

 お参りと言えばお参りなのだろう。でも、伊織と寛人の接点を説明しろと言われたら。

 ぐるぐると回る思考回路は、ドツボにはまっていくようだった。

「お参りに決まっているよね。ごめんね、変な事聞いてしまったね」

「いえ……」

 話はそこで途切れた。
 そこから逃げ出す事も、歩き出す事も出来ずに、まるで棒になったかのように動かない足を持ちながら、隆二が花を添えるのを呆然と見ていた。桶に入っている水を墓石にかけ、砂を落としていく。一通り水をかけ終わると、ポケットから線香の束を取り出し、ライターで炙るように火をつけた。

「君もいるかい?」

 束の半分を差し出された手と顔を見比べる。

「もしかして、持ってきてたかな?」

「いえ……持ってないです。ありがとうございます」

 線香を自分の墓前に添える。
 不思議な光景に現実味を失っていくような気がした。
 形だけ手を合わせ、隣の隆二をみれば、真剣に手を合わせ目を閉じている姿があった。

 ここに寛人は眠ってない。

 俺はここにいるのに。

 なんかの歌で、そんな歌詞の歌があったけど、本当にその通りだった。
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