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19 学期末のダンスパーティー

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 中高一貫教育である転生者学園の学期末のダンスパーティーはその規模の大きさゆえに学園内のいくつかの会場に分かれて行われる。

 一年が体育館。二年が校庭。三年がイベントホール。

 保護者達の社交も兼ねているし、学年を超えて婚約を結んでいる生徒などもいるので、行き来は制限されていない。

 また、親や婚約者がいる生徒は男女での入場が行われるが、そこは転生者学園。同性の友人グループや部活仲間などで気ままに入場することもできる。

 受付さえ済ませてしまえば移動は自由なので、メリーも部長やリキッドと入場し、校庭の会場で例のワインの到着を待っていた。

 会場にはメリーの両親も来ている。

 緩いとはいえ、一応は正式な学校行事。こちらの生活習慣に慣れるためにパーティーでのダンス参加を推奨されているので、メリーは一曲だけ父親に踊ってもらって、その後に部長たちと再度合流した。

 両親からは「あんなことがあったばかりだし、親と一緒にいた方が」と心配されたが、メリーは部活の友達と過ごしたいからと断った。

 もちろん、儀式のためもあるが、メリーの本心でもある。

 笑顔で即答する娘の様子に安心したのか、両親は時間差で開かれる中等部校舎の会場へと移動した。弟もまた、中等部のパーティーに参加しているからだ。参加人数が多いため、中等部は中等部で別に会場がある。そのため複数の子供を通わせている親はあちこち動き回ることになるが、歩いて行ける距離なのでそこまで移動は大変でもない。

 むしろ、両親にとっては前世とは違った社交の方が疲れるらしい。




「そろそろ例の物が届くころなんだが」


 飲み物を片手に歓談していると、部長が言った。事前に部長から受けた説明によると、直接会場に届けてもらえるように手配したらしい。

 許可は取ったが、人の多いパーティーだから行き違いがあったのかもしれない。


「ちょっと受付まで行って確認してくるか」

「ああ、それなら中等部の方の受付も確認した方がよろしいかと」

「そうだな。慣れない者だと間違えそうだ。リキッドはそちらを頼む。メリー嬢は会場で待っていてくれ。行き違いがあっても困る」

「分かりました」



 チラリ……チラリ……チラリ……。


 部長やリキッドが離れると、途端にメリーに視線が突き刺さる。何故だかは分からないが、2人と一緒にいる間はあまり視線が気にならないのだ。

「真実の愛の子……」「婚約解消……」そんな言葉が聞こえてくる。おかしいな、まだ公にはなっていないはずなのに。

 メリーは内心首を傾げるが、考えたところで分かるものでもない。とりあえずもっと目立たない場所に移動するか、と動き出したところで。幼い頃からの良く知った顔に話しかけられた。

 丸っこい顔に体、どことなく親しみを感じるその姿。声以外あまり似てはいないが優し気な笑顔はどことなくメリーの大好きな幼馴染を思わせる。


「ああ、メリーちゃん。会えてよかった。ちょっといいかい?」

「おじさ……グロウ伯爵。こんばんは」


 シャインの父親だった。




「すまなかった」


 人気のないところに移動するや否や、シャインの父親はメリーに頭を下げてきた。


「ちょ……やめてください。何も、謝られる事なんてされていません」

「婚約白紙の件だ。当時はみんなが幸せになれるいい方法だと思ってシャインと君との婚約を強引に勧めたが……こんな結果になってしまって本当にすまない」

「それは……私を守るためだったと聞きました」


 異世界に転生してなお真実の愛を貫いたメリーの両親。その感動の物語は父親の元婚約者の家によって大袈裟に脚色され、世界中に広がっていった。

 その影響からか、メリーには幼い頃から縁談が殺到していたらしい。

 実際。物語の中で主人公たちを献身的に支え、主役を食うほどの大活躍をしている父親の元婚約者は、熱狂的な読者だった大国の王太子に熱望され、彼の国へと嫁いでいる。夫婦仲が良いことで有名で、今では一国の王妃だ。

 似たような形で、メリーも幼いうちから家族から引き離される危険があった。

 せっかく転生してまで取り戻した家族の絆を政略でバラバラにされては堪らない。断りづらい案件が来る前に、と取った対策が仲の良かったシャインとの婚約だった。

 両親と共に生まれかわり、転生先で出会って仲良くなった幼馴染と婚約を結ぶ真実の愛の子。物語としては美しい。

 その2人の幸せを切り裂いて、悪人になってまで政略をごり押ししてくるものはいないだろうと考えてのことだった。

 実際、それのお陰で守られたことも多かったらしい。


「お陰で、私は家族とともに穏やかに暮らせたのだと聞きました。だから、両親にも伯爵にも、……シャイン様にも感謝しています」

「感謝……か。君は、本当にあちらの……転生者であるご両親によく似ているな。そんな、転生者の君を娘に出来なかったのが本当に残念だ」

「大丈夫ですよ。次の方も転生者ですから。しかも、ちゃんと記憶を持った、経験もある本物の転生者です。なのできっと、私なんかより有意義なあちらの話を聞けますよ」

「記憶……経験、か。そんなものよりもよほど……いや、何でもない」

「おじ……グロウ伯爵、婚約は白紙となりましたが、今後も父とは仕事で関わっていくことになるかと思います。私のことは気になさらずに、どうか、これからも父のことをよろしくお願いいたします」

「ああ、もちろんだ。君のお父上とは仕事上でのかかわりも深いからな。これからも家族ぐるみで顔を合わせることもあるだろう。だからこれまで通りにおじ様と――いや、ケジメはつけるべきか。メリーちゃん……いや、トゥルース伯爵令嬢」


 幼馴染に似た優しい目を細め、少しだけ寂し気に伯爵は微笑んだ。


「もし、息子のことで困ったことがあったら言ってくれ。アレは、少し夢見がちなところがあるからな。自分がしたことの意味を分かっているのかどうか……何か、迷惑をかけるようならすぐに対応する」


 一緒にいる所は見られない方がいいだろうと、グロウ伯爵は別の会場へと移動した。それを見送ると、メリーは校庭の会場へと戻ることにした。

 もしかしたら、荷物が届いているかもしれない。気持ちを切り替えなくては。




「ああ、メリー、会えてよかった。ちょっといいか?」


 戻った途端。メリーは既視感に襲われた。


 話しかけてきたのはよく知る人物。たった今、見送った人物とよく似た声。

 元婚約者。――幼馴染のシャインだった。



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