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27 真実の愛の子の最大の秘密

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「理事長は病気療養のため職を辞することになった。新しい理事長には既に引退されている先先代のツァールトハイト公爵が就くそうだ。あの家には既に亡くなられているが理事長の妹が輿入れされているからな。公爵位の継承もできる特別な家だ。長年、問題の多かった理事長の保証人を引き受けてきたから、何らかの取り決めが王家との間であるのだろう」


 病気療養とはいっても治ったところで二度と表舞台に出てくることはないのだろう。転生者でなければ。王族でさえなければ。悪い女に目を付けられることなく、理事長もこんなことにならなかっただろうに。

 前世の記憶がないから自然に受け入れられてはいるものの、やはり王族は大変なのだな、とメリーは思った。

 自分ではとてもじゃないがやっていけない。覚えていないくらいの小さい頃の話だが、王家との縁談が出ていたという。立ち消えになって本当に良かった、とメリーは思った。


「どうした? メリー。難しい顔をして」

「あ、いえ。王族って大変だなーと思って。実は小さい頃、私に歳の近い王族の方との縁談があったそうで」

「は!?」

「は!?」


 驚く部長とリキッド。2人は息がぴったりだ。


「それは……もしかして、第二王子か?」


 何故か少し硬い表情で部長は言った。メリーは首を振る。

 現在、この国には王太子である第一王子と、その弟である第二王子がいる。

 第一王子は他国へと留学中。第二王子は貴族学園の方へ通っていたのでメリーとは面識がない。確かに第二王子とメリーは年齢的には近いが違う。


「いえ、その……第三王子殿下です」

「はあ!?」

「はあ!?」


 国王と王妃は仲が良かったがなかなか子供ができなかった。そのため国王は側室を娶り第一王子と第二王子が産まれた。

 しかしその後、王妃も念願の第三王子となる男の子を産んだ。そのことで少々問題が起きたらしい。


「第三王子殿下の地位をより確実なものにするために『真実の愛の子』との縁談話が上がったそうです」

「ああ、なるほど。ありそうな話だ。しかし、何故実現しなかったんだ?」

「シャイン様との婚約が決まったからです」

「……なるほど、そういうことか」


 あのとき。シャインと婚約していなければメリーは家族と離れ王宮で生活をすることになっていたかもしれない。

 婚約は白紙になったが、その点ではメリーは本当にシャインにも伯爵にも感謝している。それは、メリーの両親も同じだろう。


「まあ、その後第三王子殿下は馬車の事故で亡くなってしまったので、もし婚約してたら大泣きしていたでしょうけど。まあ……ちょっとだけ残念ですけどね」

「えっ。ま、まさか王族との結婚に未練が?」


 メリーの些細な一言になぜか動揺する部長。


「いえ、それはまったくないんですけど。ただ、ちょっと……その……『お見合い』に憧れてたので」

「ああ……なんだ、そんなことか。確かに、恋愛結婚の象徴みたいな君が言うと意外ではあるが」


 確かに政略も見合いの一つではあるだろう。予想外ではあったが、たいしたことではないと部長は気を取り直した。しかし、何かがおかしい。


 何か言い足りないことがあるのか右に左に視線をやって落ち着かないメリー。よほど聞かれたくない話なのだろうか。夏休み中だから学園内に人は少ないが、周囲を警戒しているようだ。


 メリーの様子を見て話の内容が気になった部長は。


「リキッド手伝う」


 そう言って、窓を閉めだした。

 意図を察したリキッドもドアを閉め忙しく動き回る。いつもはリキッド一人でやっている防音対策も二人でやるとあっという間だった。

 リキッドは締め切った部室内が暑くならないようにと風魔法で適度に空気を循環させたうえで、部室の外に声が漏れないように風で音声遮断をした。

 防音は完璧。室内は適温。長期戦の構えだ。



 メリーは迷っていた。
 本当は家族から口止めされているし、言うべきではないのかもしれない。シャインにすら言ったことがないのだ。

 でも――この2人なら言っても大丈夫かもしれない。というか言いたい。今まで誰にも言えなかった、メリーの秘密。

 メリーは覚悟を決めると口を開いた。



「実はうちの両親お見合い結婚で」

「「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………は!?」」


 言葉を失う部長とリキッド。

 呆然とした後、気を取り直して復活するタイミングまで一緒だった。その様子にメリーはくすりと笑いを漏らす。


 前世で運命的な出会いを果たし、夫婦となったメリーの両親。メリーを授かるが不幸にも死んでしまった。

 どうかもう一度家族に。その願いは聞き届けられ、転生して様々な苦労を乗り越えた2人は再び夫婦になり念願のメリーを授った。家族の未来の象徴である弟も生まれた。

 世界の枠を超えて貫かれる真実の愛。恋愛結婚のバイブルとして、知らない人はいないほど世界中で大人気のメリー家族の物語。

 その中で一つだけ語られていない、意図的に隠された事実。

 主役の2人は――『お見合い結婚』


「いやいやいやいや、だって、前世で運命的な出会いを果たし――って」

「それが『お見合い』です」

「マジか……」


 脱力する部長


 そう。嘘ではないのだ。あえて語られていないだけ。物語をより魅力的に見せるためにそうされた。



 前世、メリーの父は仕事に生きる人だった。
 そして、メリーの母も仕事と趣味に生きる人だった。

 充実した一人の暮らしに満足していて、結婚なんて一切考えない。そんな2人にしびれを切らしたのは双方の両親だった。伝手を頼り、必死に気が合いそうな相手を探し、なんとかお見合いにこぎつけた。親同士が厳選して選んだ、似たような境遇の2人は気が合った。

 それでも結婚する気はなかったけれど、会社が近かったこともありなんとなく昼食を一緒に近くの公園で食べるようになって。

 両親もうるさいし、どうせ逃げられないなら気が合う相手の方がいいかと思い切って結婚してみれば思ったよりも幸せだった。

 そしてメリーを授かった。

 想像すらしていなかった結婚生活は想像できないくらいに充実していたそうだ。家族も増えて、この先が楽しみになった。しかし幸せは事故であっけなく終わってしまった。

 その時初めて後悔した。

 もっと早く出会っていれば、すぐ結婚していれば、結果は変わっていたのだろうか。家族で幸せな未来を掴めたのだろうか。

 次があるなら、家族のこの先の未来が見たい――。

 世界を変えて、その願いは叶えられた。


 その先は広く知られている通り。大変なことはあったけれど、弟もできて家族もメリーも幸せだ。

 隠されてはいるけれどこれこそが紛れもない真実。




「確かに……それは公にはしづらいだろうな」

「流石に予想外でした……大恋愛があったのだとばかり……」


 疲れたようにお茶を飲む二人。部長は緑茶。リキッドはいつものお手製の紅茶。すっかりいつもの部活の風景だ。


「ええ。だから内緒にしてくださいね」


 やはりこれは隠しておくべき話なのだろう。ショックを受ける2人を見ればわかる。夢を壊してはいけない。

 それでも。メリーは部長に伝えたかったことがある。だからすべてを話したのだ。

 出会いはお見合いでも、転生してまでその先の幸せを掴むことを望んだ両親。その姿を見てきたメリーは知っている。

 お見合い結婚でもここまで幸せになれるのだ、と。




「私も両親のようになりたくて、ずっとお見合い結婚にあこがれていたんです。だから……その、学期末のダンスパーティーの日、部長が婚約をしようと言ってくれたとき、これはお見合いだって言われてすごく嬉しかったんです」

「ああ、それであのとき『お見合い』に反応していたのか」


 真っ赤になって言い切ったメリー。納得がいったと笑う部長。


「ぶ――――――――――――っ!!!!!」


 リキッドは紅茶を噴いた。




「ゲホゲホゲホッ! ……ごほっ」

「ちょ、大丈夫かリキッド。ほらこれ使え」

「大変! 紅茶こぼれてますよ」


 部長がハンカチを渡して世話を焼く。メリーはリキッドが倒してしまったカップを戻し慌てて机の上を拭く。連携が取れている。その様子に。


「いやいやいやいや、婚約ってどういうことですか!?」

「あれ? リキッドに言ってなかったか?」




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