魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

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38 王子と夜遊び

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 王子が夜のお出かけにハマった。

 スーパーの値引き販売が楽しかったらしい。外に出るのを嫌がらなくなったのはいいけれど、今度はやたら夜にばっか行きたがる。

 まあ、夜の召喚は週に数回あるかないかだからたまにはいいけど。王子のお目当ては菓子パン。なんか、いろんな種類があって楽しいらしい。でもねえ……そうなるとねえ……。


「ちょっと……太った……?」


 ス……っと目を逸らす王子。うわ、やっぱり!


「あっ! ちょっと! 何をする!!」

 壁に吊り下げられた王子が着てきた正装のズボンをチェックすれば、見事にボタンの位置がズレていた。相変わらず見事な仕上がり。……ってか、技術が向上している気がする。
 まーた、変な方向に努力して。


「そりゃあ、毎日おやつ食べて、夕飯後にも菓子パン食べて塔に引きこもっていればこうなるか。しばらく夜のお出かけは禁止です。アレは誘惑が多すぎるからね」

「そんな!!」


 久しぶりだからと連日大好物を用意したり、欲しがるものを買ってあげたりと、少し甘やかし過ぎてしまったのが良くなかったのかもしれない。

 そろそろ通常モードに戻した方がいいだろう。

 と、いうわけで。おやつはカロリー控えめの物に変更し、量も少なめ。王子も最初は渋っていたが、慣れれば気にならないようだ。まあ、前にも一度やっているしね。

 そして、昼間の散歩も再開。夜のアレはアレで良いリハビリになったみたい。流石にジャージだけでは寒いと思ったので、王子用に実家で新たにお兄ちゃんからのお下がりを調達。これで安心して一緒にお散歩ができる。

 とはいえ、あまり遠くには行きたがらないので、とりあえず現状大丈夫、と分かっている場所あたりまでを往復する。今回はそこまで太ってはいなかったのであっという間に王子の体型は戻った。

 そして、毎日散歩するのを条件におやつの量を元に戻す。

 春休みで召喚を増やしたのを除けば、王子が居なくなったころのような生活に戻った。苦手意識も減ったのか、少しずつまた遠くへと行けるようになった。

 ちょっと怖がっているのは何となく分かるので、その時は手を握ってやる。前回、自動翻訳魔法が切れた時は暴走して先に進もうとしたけれど、今度は進まず引き返せばいいんだから、って言ってある。手を繋いでいるのだから引っ張ってもらえばそれ以上は進めないからって。

 王子の方が力が強いからね。前回はそれでゴリ押しされて『強制召喚終了』状態になり消えちゃったわけだけど、逆を言えば嫌がる王子を私が無理強いすることはできない訳で。


 そして。


 ついに今日。前回王子が消えた場所にやってきた。




「怖いな……」

「大丈夫、大丈夫。いつでも戻れば……って、あれ? まだ言葉通じているね」

「本当だ」


 魔法陣から離れられる距離の長さは信頼関係の証。そう聞いている。どうやら、前回消えた時よりも随分と距離が伸びているようだ。


「どうする? そろそろ戻る?」


 少しだけ悩んで。王子は「行く」と言った。

 そして――。


「ここが、鈴木さんと会った公園か」

 王子と共に、あの公園へとやってきた。王子召喚とかいう訳の分からない事態に巻き込まれるきっかけとなった場所。前の召喚主である鈴木さんから魔法陣ラグを購入した公園だ。

 少し寒いし、木は寒々しいが、広くキレイな様子は変わらない。レジャーシートでも持ち込んで、お弁当でも食べたくなるような公園だ。


「そう。キレイなトコでしょ。でもねー、実はもっと……おっと。まだこれは内緒」

「内緒って何が?」

「来週か、再来週には教えてあげる。だから、また来ようね。ふふふ。びっくりするわよー。間に合って良かった!」

「……? ああ」


 曰く付きの公園が行動可能範囲内に入った。

 そしてここの公園へ来ることが、この日より召喚の日課に加わることになる。




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