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39 鈴木さんと後輩君(前の召喚主視点)
しおりを挟む「最近、なぜか妹がやたら俺のお下がりを欲しがるんですよ。身長差あるから結構ブカブカになると思うんですけど」
はーやれやれ、とでも言いたげな会社の後輩。悔しいことに彼は俺よりも少し背が高い。しかも、ストレスをため込まない性格をしているせいか、俺と同じ不規則な生活をおくっているにも拘らず肌も奇麗で、実はよく見れば顔も整っている。
ただ、縦だけではなく横にも少し大きいので女性にモテることはないそうだ。
痩せたら着るつもりだったのに、とか痩せていた頃はお気に入りだった上着が、とか言っている彼にかけるべき言葉は一つしかない。
「爆発してしまえ」
「妹ですよ!? 先輩、話、聞いてました!?」
彼は去年入ってきた新人だ。中々仕事覚えも早くて、何より趣味も合う。それまであの悪魔――王子くらいしか趣味の話を出来る相手がいなかったので、彼とはすぐに打ち解けた。仕事のない日にプライベートで遊ぶこともある。主にゲームの中で、だが。
特にゲーム、漫画、アニメ好きを隠しているわけではないが、俺の実家では理解されない趣味だったので、その経験から他人に話すのにどうしても躊躇してしまう。
そんな中、一切隠すことなく昼飯にゲームとのコラボをしているペットボトルドリンクを持ち込んで上機嫌だった彼は分かりやすくて話しかけやすかった。ちなみに飲み終わったボトルはキレイにすすいでお持ち帰りをしていた。お気に入りのキャラだそうだ。
昼休みや、行き帰り。ゲームやアニメの話をできるのは楽しいし、仕事で組んでいる分、会話をする機会も多いのでお互いについても分かってきたと思う。
その中で、どうしても羨ましくて仕方がないことがある。
「いや、妹なんて、別に特別なもんじゃないですよ? まあ、ウチは仲いいし趣味が同じだから一緒にゲームしたりもしますけど、小さい頃なんかは対戦ゲームで俺に勝ったら調子に乗って何回でもやりたがるし負けたら負けたで『お兄ちゃん、もう一回!!』ってキリないし」
「リア充め!」
「話聞いてます!?」
俺には姉がいるが、アイツらは俺の趣味を一切認めなかった。それどころか、嫁いで出て行ってからですら、帰ってくるたび『はっ! あんたまだこういうの好きなの? うちの保育園の娘の方が大人だわ』などなど、こちらを馬鹿にし、抉る言葉しか投げかけてこない。
それだけならいいが、エリート意識を拗らせた姉たちは両親まで味方につけて、徹底的に俺をディスってくる。まあ、俺だけならいい。耐えられる。でも、俺の嫁(たち)まで嘲り笑ってくるとは何事か!!
姉達が嫁いでからしばらくは平穏な実家暮らしを楽しんでいたが、姉の一人が出戻って来てからはもう、ストレス値が限界を突破してしまい、面倒くさくなって家を出た。それが一人暮らしのきっかけだった。
そんな俺からしてみれば。
「嫁、彼女、恋人成分は二次元で満足している。だから俺に必要なのは趣味を理解してくれる家族だ。姉には何の期待もしていない。なので、妹だな。『お兄ちゃん、ゲームするならコーヒー淹れるよ☆』なんて言ってくれる妹が存在してくれたら言うことない」
言いながら、ついスポーツドリンクの女神を思い出してしまう。これはあれだ。きっと、あの久しぶりの休日のゲームが思ったよりも充実していたからに違いない。
あの日は、朝食にコーヒーを飲んだおかげか眠くなることなく、時間を無駄にすることもなく、一日中ゲームを楽しめた。勧められるまま、色々買って帰ってよかった。見事なチョイスだった。
欲を言うなら夕ご飯も買っていくべきだった。次からはぜひそうしたいと思う。
「まー、うちの妹そんな感じですけど。現実は面倒なだけですよ? ゲームに負けると、こっちは眠いのに、『お兄ちゃん、コーヒー淹れるからもう一回! もう一回だけ!』って、すっげー量のコーヒー淹れてきやがるし。怖がりの癖にホラーゲームやホラー映画が大好きで付き合わされるし」
後輩の愚痴は自慢にしか聞こえない。ああ、いいな。楽しそう……としか思えない。しかも。
「俺からしたらキレイなお姉ちゃんの方が憧れますけどねー。写メ見せてもらいましたけど美人さんじゃないですか。ウチは妹と兄貴ばっかなんで」
とか言ってきやがる。分かってないな。
「そのキレイなお姉ちゃんは勝手に弟の宝物を処分したりするぞ」
「あ、それはいらないッス」
「だろ? 妹だ、妹。俺に必要なのは趣味を理解してくれる妹だ」
「まあ、理解はしてくれますかね。その分、ちょーだい、貸して、はありますけど。あいつギャルゲーもやるからな。先にお目当てのキャラをクリアされると流石にへこみますよ。平気で妹系キャラもクリアしてきますからね。まあ、リアルと二次元は別なんで」
「ははは。そんなこと言って、妹に彼氏でも出来たらお兄ちゃんとして泣いちゃったりするんじゃないのか? 急に知らない男を紹介でもされたらどうするよ?」
「あっはっは! それこそないッス。妹、乙女ゲー大好きだから完全に二次元で満足していますからね。まあ、小さい頃から犬や猫拾ってきては世話して、やたら面倒見がいいからどこかで攻略キャラでも拾ってきたら分かりませんけど」
「…………まあ、それは落ちてなくても召喚されてきたりするからな……」
「いや、何急に深刻な顔をしているんですか。今の会話でそんな要素ありました!? まー、妹は大丈夫ッスよ。俺と違って朝に強いし、しっかり者なんで。じゃなきゃ親が一人暮らしなんてさせません」
「あー、なんだ。今は一緒に暮らしていないのか?」
「ウチ、一度は一人暮らしをさせる方針なんで。俺も学生時代は一人暮らしをしていましたけど、家賃が勿体ないから就職を機に実家に戻ったんですよ。入れ違いに妹が一人暮らしを始めたんで、今は別ですね」
「そうか、それは寂しいな」
「いや、最近また帰ってくるようになったんで。そんで、ゲームやろうとか、この服くれとか言われるように」
「ドカーン!!!」
「いや、だから、鈴木さん『妹』に幻想持ちすぎですって!!」
「……おっと。昼休憩終わりだな。とっとと終わらして今日こそ定時上がりでゲームをやろう」
「そッスね!」
結局、定時には帰れなかった。
はあ……今日も残業か……。遅くなる前にコンビニに夜食を買いに行かないと。
……今日は『心の妹』に会えるかな?
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