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287 正装王子の主張(王子視点)
しおりを挟む「ああ、王子来てたんだ。……王子?」
この場にいない筈の人物の声に驚いた。
今日は召喚主から用事があると聞いていたので、事前に召喚機にクッキーを補充して、朝イチで召喚されるようにタイマーをセットしておいたのだ。
召喚主はあまり機械には詳しくないようで、かなりコレの操作にはてこずっている。が、僕は鈴木さんの家でこっそり好き勝手に使っていたので、召喚機の操作には慣れているのだ。
ただ、やっぱり暗い部屋に召喚されても今一つ僕のテンションは上がらない。
なので、少しでも気分を盛り上げるべく大好きなポテトチップスの大袋を……勝手に食べると後が怖いので小さめの物を僕の召喚用おやつ入れから拝借し、盗み食いをする。
召喚主は気付くかな? 怒るかな? 呆れるかな?
というワクワク感が抑えられない。
ようやく楽しくなってきたので拝借したポテチを食べながらのんびりとゲームをしていたら、突然召喚主が帰ってきた。
(あ、まずい現行犯だ。流石にそれは想定外……)
そうやって焦ったのはほんの一瞬。
声が聞こえた玄関の方へと視線向けて――僕は固まった。
え。何だ、召喚主のあの服装。
いつもの見慣れた肌触りのいい部屋着とも目のやり場に困るパジャマとも違う。
夜会で我が国の令嬢達が……いいや、王族が纏っている物にも引けを取らない美しく華やかな衣装をまとった召喚主がそこに居た。
いったい誰が見立てたのか。彼女が身に着けている衣装の繊細で美しい絵柄はあの日見た満開の桜を思わせるもので、召喚主にとてもよく似合っていた。
いつもは垂らしているいい匂いのする艶やかな長い髪を上品に結い上げ、珍しく化粧までしている姿は僕の心を落ち着かなくさせて――。
「……ちょっ! 何だ、召喚主その格好は!? ああ、いや、おかしいとかじゃなくてむしろその逆で。なんだ? 夜会……いや茶会か? はっ! もしかして見合い……!? そんな……いや、待て、そういや前に成人がどうとか言っていたな。と、いうことはデビュタントか……!! なら王族への謁見とかそういうのがあったり……何てことだ! 今の王族だれだっけ。ファーストダンスは召喚のよしみでぜひ僕が務め……ああくそっ、幽閉中では参加はできないし、そもそもここは異世界だった! そうなるとむしろ、会場が僕の行動可能範囲か否かの方が重要か。エスコート役はいったい誰なんだ? 召喚主は兄弟が多いと聞いているがもちろん兄弟だよな? はっ! もしや先輩とかいう人だったりしないよな!? あれだろ、アイツ、召喚主との楽しいゲーム中にやたらめったらメールしてきて、僕の建設意欲を削いでくる……ああ、いやいや、仮にそうだとしても僕には何も言う権利なんてないのだが。とはいえ、出来れば僕としてはお下がりいっぱい貰っているし、召喚主の話を聞いていて尊敬できる『ゲームが上手な3番目のお兄ちゃん』あたりがお勧めなのだがどうだろう。でもまあ、よくよく考えてみると3番目のお兄ちゃんはそういうことしそうなタイプじゃないものな。むしろ、そんな時間があればゲームしていそうな感じがするし。その辺は君もそうだが。流石兄妹だな、行動がよく似ている。僕としてはそんなところも共感できるし尊敬できるが、今回ばかりは困ったものだ。一応、そうなると次点としては鈴木さん辺りだと安心なのだが、あの人はあの人で会社を休むとは思えないしな……。ああ、でも召喚主のエスコートができるのなら会社くらい軽~く辞めてくれると思うぞ、頼んでみたらどうだ。念のためにその格好で『お兄ちゃん』とか言えばイチコロだと思う。もちろん召喚主なら他にも心当たりはいるとは思うが。いや、そうでもないか? 大体は僕と遊んでいるし、あまり大きな声では言えないが先輩と鈴木さん以外からはほとんど着信ないものな。あと店長。あれはあれで困ったものだ。シフト変更とかいうのがあると僕の召喚スケジュールが……って、そういえば一度も確認したことないけど、まさか、召喚主には決められた婚約者とかはいないよな? いたら、僕の召喚をしているのはどうかと思うが……ああ、いや待て、今のは冗談だ。今更、召喚をやめられても困る。なので、気にすることなく、これからも末永く召喚をお願いします。……あっ!! べ、別に『末永く』と言ってもそういう意味ではないぞ……(あせあせ)。いや、じゃあどういう意味? とか聞かれても困るのだが……(てれてれ)。おっと、よくよく考えてみたら一番大事なことを召喚主に伝えていないじゃないか。今更言うのも気恥ずかしいが、召喚主、とてもキレイだ。言葉を失うほど美しい」
胸のドキドキが止まらない。
記憶魔法が発動したのは判っていたが止められなかった。
何か色々口走った気がするが、動画、静止画、最高画質・僕の感想込みでたっぷりと記憶したから、召喚主には最後の方しか通じていなかったらしく、少しホッとした。
僕はテンションが上がると口数が多くなるらしいから、妙な発言をしないように気を付けないと。でも、伝えるべき言葉はしっかり伝えられたので満足だ。
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