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17 初めて見るセカイ(リュシー視点)
しおりを挟む着々と、何かの準備が進む音がする。
既に彼女の身に何が起きたのかは分かっている。この先、彼女と自分に起きることも。それを認めたくはない――なのに。
体が動かなかった。動けなかった。
彼女の提案で、いざという時の為に魔法契約を済ませていたのだ。
『私とリュシーがお互いのドナーになることに同意はしたけれど。いざ、その時がきたら、感情的になって泣き崩れたり、相手への罪悪感から移植をごねてしまったり……魔法医の先生のお邪魔をしてしまうかもしれないわ。それではせっかくの機会を活かすことができない。だから、今のうちに魔法契約をしておきましょう」
言われた時は、自分が彼女のドナーになることしか考えていなかったから、少しでも移植の成功率をあげようと思って同意した。
――それなのに。
私が少し目を離した隙に、彼女の方が先に逝くなんて…っ!
こんなのダメだ! ダメ、だ、…嫌…だ……
………………。
…………。
……。
感情的になればなるほど強制的に心は凪いで、彼女の意思を自分の心と体が受け入れる。
どこまでも頭が良くて――残酷なまでに優しい彼女。
独りよがりな私の昏い希望すらも彼女の目には見えていたのだろう。彼女に見透かされた私の行動は完全に封じられて、気が付いた時には彼女の光を私が受け継いでいた。
魔術移植が終わったことによりようやく魔法契約からは解放された。
そうして心と体の自由を手に入れて。
目を開けた私が産まれて初めて目にしたものは。
私がこの世で一番大切で、大好きな彼女の――亡骸、だった。
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