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31 帰ってきたあの視線

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 じっくりと。

 俺を観察するような、値踏みするような――興味津々のその視線。


 その視線に気が付いたとき、俺は全てを思い出した。なので、俺は慌てて左腕にぶら下がる女に別れを告げた。


「番が見ているのでさようなら」

「は? ちょ、何を言っているの? ふざけないでよ。待っ……」


 それまで一緒にデートを楽しんでいた女はあからさまに不満そうな声を上げたが、そんなことに構ってなんかいられない。

 縋る女を力ずくで振り払い、俺は視線の持ち主を求めて駆け出した。




 ……俺はこの視線を知っている。
 女好きだった俺の前世。獣人に産まれながら『番』を迷信だと馬鹿にして、日替わりで違う女と遊び回っていた。

 そんなときに――この、『番からの視線』を感じたのだ。

 最初は意地でもそれまでと変わらぬ暮らしを続けていた。しかし、視線の主から見捨てられそうになったのをきっかけにして、俺はいらない順に彼女達と別れ始めた。

 でも、そんな俺の様子を街のどこかから見守るばかりで、一向に姿を現さない俺の番。

 焦れた俺は愚かにもヤキモチを焼かせる為だけに、別れる作業を止めて彼女達とのイチャイチャを視線の主へと見せつけた。最終的には本命の彼女も捨てて全員と別れたけれど手遅れだった。

 そもそも俺の愛する番は死んでいたのだ。

 番の死後、移植で『目』だけを受け継いだ番の親友だった女に、俺の人となりを観察されていただけだった。

 しかもその女によって、俺の愚かな行動はすべて死んだ番に報告をされてしまった。人は死んでからも、49日の間はこの世に留まっていられるのだそうだ。


 獣人にとって一番の幸福は運命の番と出会うこと。
 そして、一番の不幸は運命の番と出会えぬこと。


 そのため番に出会うことなく死んでしまった哀れな獣人はこの世界を統べる女神様の救済措置を受けられる。転生する際に、何でも一つだけ願いを叶えてもらうことができるのだ。

 多くの獣人は、そこで今世では出会うことのできなかった番と来世では出会う事を願う。

 しかし。俺の番は生前、自分の願い事を叶えるために、親友へある頼みごとをしていた。

 それは、

『自分の死後に、移植された自分の目を使って番を探し出し、相手の人となりを見極めて報告してほしい』

 ――――というものだった。


 番が良い人物だったら来世で出会えるように。
 番が嫌な人物だった場合には番の変更をしてもらえるように。


 親友からの報告を元に女神様の救済措置を使い、転生した後、確実に番との幸せをつかむ――それが報告の目的なのだと、番の目を持つ女は言っていた。


 結果、ありのままを報告され、俺のどうしようもない行動は全て番に知られてしまった。


 これで俺は永遠に番を喪った。


 ――――そう、思っていた。



 けれど、俺が今感じている『コレ』は間違いなく番からの視線だ。もしかして、番は女神様に番の変更を願い出なかったのだろうか。


 ――――だとしたら。
 俺にはまだ番を手に入れる可能性が残されている……と、いうことか?




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