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39 魔法医師の記憶(先生視点)
しおりを挟む彼女を助けられなかった。
亡骸を引き取りに来たご両親はさも面倒臭そうに手続きを済ませ、さっさと帰って行った。
5歳にも満たない猫獣人の女の子。
あの年頃で命を落とせば残された家族は現実を受け入れられず、泣いたり怒ったりするものだが……彼女の両親はそれすらなかった。
世話を焼いていた看護師たちの方がよっぽど悲しんでいたくらいだ。
メイド任せで見舞いにすら来なかった両親だ。
そういう家庭環境だからなのか。上位貴族の御令嬢だからか。
年齢よりもかなり大人びた子だった。
注射の時ですらすました顔を保っていたけれど、ふわふわな耳だけはいつも年相応で、恐怖が隠せていなかった。
こういう時獣人は大変だな、と思ったのを覚えている。
日々の仕事に忙殺される中。顔や名前を忘れても、何故かあのふわふわな耳だけは何年経っても忘れられなかった。
仕事の傍ら研究を続け、あの子の病気は魔力が原因であることまでは突き止めた。
もう少し。あと少し。
王弟という気楽な身分から仕事と研究にのめり込み、身を固めることも無いまま自分が体を壊して、割と早めにこの世を去った。
そもそも人間の一生は何かを成し遂げるには短すぎるのだ。
死んだときに女神様とやらに会う機会があったので、そのことについて文句を言った。そうしたら記憶を残してくれた。
これはいい。『次』に無駄な時間を使わずに済む。そう思い素直に礼を言うと相手は驚いた表情を見せて、次に表情を曇らせ首を振った。
人間の中にはごく稀に、大きな何かを成すために産まれてくる者がいるそうだ。
そういった者は寝食を忘れ夢中になれる『何か』を持つ代わりに、人間として大切な別の『何か』が大きく欠けてしまうらしい。
済まなそうに他にも色々なことを言っていたが、せっかくの時間を無駄にしたくなかったので、ふーん、と思っただけであまりよく聞いていなかった。
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