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私は狼獣人でファンゲンは猫獣人。現在、人の形をとっている彼の言葉が私に分かるのは当然だけど、種族が違うから獣化中である私の言葉は猫獣人のファンゲンには伝わらない筈なのに。
小さい頃から彼と私の間には、不思議とこういうことがあった。言葉がいらないというか……相手の言いたいことが分かるのだ。
お互いが番であると分かるくらい成長した今では、むしろそういったことを感じる機会が減っていたのだけれど。久しぶりにこういうことがあると、彼にとって自分が特別な存在であると実感できて、なんだか嬉しい。
『わふふ♡』
「……ちぇっ。先に成長しちゃった僕の気も知らないで嬉しそうな顔をしちゃってさ。番なのに成長が違うせいで、長年そういった感情だけ一方通行だった僕の気持ちが分かるかい? 分かるようになったら覚えていろよ。まあ、君がしっかりと理解するまで僕が教え込むけどね……。大体、君は知らないかもしれないけれど、彼と君の間にはあまりの仲の良さに一時期『番じゃないか』って噂が…出て……い…て。……ああ、そうか。その手があったな」
ニッコリ……すごくすごく悪い顔をして笑うファンゲンに一瞬だけゾッとしたけれど、前半部分は何故か言っている意味が分からなかった。
おかしいな。話している言葉自体は分かっているのに、何を言っているのか分からない……けれど、後半とその後に言われたことだけはしっかりと理解できたので元気に『わふっ!』っと返事をした。
やっぱり彼に任せておけば安心だわ! 大好きよ、ファンゲン。流石は大切な大切な私の番!
そうこうしているうちに屋敷の前まで着いたので、声が出せなくなってしまった。獣化した狼獣人の声は響くし、同じく狼獣人であるお父様は耳がいいのだ。仕方なく挨拶の代わりに頬をぺろぺろと舐めると、くすぐったそうに幼馴染の顔が緩んだ。その様子が嬉しくて、つい元気よくしっぽを振ってしまう。
するとファンゲンは私の耳の近くに顔を寄せて。
私にしか聞き取れないような小さな小さな声で。
「いい子だ。コレが上手くいったら君のお母様に邪魔される心配はなくなるよ。そうしたら――分かるよね?」
ニッコリ……。
やっぱりこの笑顔をするときだけは、幼馴染が何を言いたいのか分からなかった――が、とりあえず機嫌は良さそうなのでしっぽはふっておいた。
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