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狂王・ジョージ五世
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オークランド王国の王都・ルフトゥキャピタル。
華やかで明るい文明の国の王都も、明るい大通りから一本入れば貧民街に繋がる。
治安の悪い、汚物と死体の転がる魔窟だ。
裸足で鼻歌を歌いながら、無精髭を生やした男が汚い道を千鳥足で進んでいた。
汚い着古した服に灰色の外套を纏い、手には酒の瓶を下げている。
彼は汚い路地に溶け込んでいたが、その腰には不似合いなロングソードが下がっていた。
「遊ぼうよ」
「寄って行ってよお兄さん」
道に商品のように並んだ夜鷹が男に囀った。
「断る」と男は無精髭の口元を歪めた。
「余は《王》であるぞ。
この国の全てが余のモノだ、余に指図するでない!」と狂ったように笑った。
その姿に客引きをしていた娼婦たちも気味悪がって「行こう」と逃げ出した。
男は逃げていく女たちを見送って喉の奥で笑った。
白目を赤くするための目薬と、わざと口から垂らした涎は狂人を装うのに最大限の効果を発揮していた。
裸足で歩くのも、千鳥のようにフラフラした足取りも、下卑た笑いも全て計算されたものだ。
全ては王権を我が手に取り戻すため…
生き残りをかけた狂った芝居だ…
ジョージ五世が、オークランド王国の国王として彼に与えられた名だ。
恥をものともせず、狂った芝居はもう十年近くなる。
ついにあの忌々しい宰相も狂人に匙を投げて、監視の目を緩めた。
努力とは実を結ぶものだ…
「陛下」と路地の奥から声がした。
「おぉ!余を陛下と呼ぶ忠義の臣よ!」
「その芝居はもうよろしいかと…」と仮面で顔を隠した男が呆れたような声で言った。
男の居る細い路地に入ると、そこは魔法の空間になっていた。
室内のような明るい空間に、暗闇に慣れた目が痛んだ。
「土産だ」とワインの入ったボトルを男に差し出した。
彼はジョージ五世から賜った酒を恭しく受け取った。
「アーロン、現状は?」と訊ねる王に、男は首を横に振って答えた。
「芳しくございませぬ。
戦は避けられぬかと…」
「全てテューダー公の意のままか…」
忌々しげに呟いて、ジョージ五世は無精髭を撫でた。
宰相の意に沿わぬものは王族とて表舞台から退場を強いられる。
彼の三人の兄王すらテューダー公の手の者に暗殺された。
兄弟で残ったのは、忠臣の助言により狂王を装った彼と、他国に嫁いだ王位継承権の無い姉妹達だけだ。
幼い息子もテューダー公の手の中だ。
彼が成長すれば、ジョージ五世も暗い墓に投げ込まれるだろう…
ラッセル朝は風前の灯となっている。
「《大賢者》の狂信者め…
好きにはさせんぞ…」狂気を装っていた瞳は理性のある人間のものになっていた。
「反テューダー公の勢力にもまだ伏しているように伝えよ。
あの用心深い簒奪者は余が確実に蹴落とす。
我が忠臣、アトラス侯に報いるためにも失敗は許されぬ」
「御意」仮面の男は王に短く応えた。
「獄中のメイヤー伯を味方につけよ。
彼は失うには惜しい男だ」
「脱獄を手引きしますか?」
「いや、それでは意味が無い。
この戦で戦功を立てさせ、汚名を雪ぐ機会を与えるように働きかけよ。
彼は父王の代から仕える優秀な武人だ、必ず重用される存在になる」
「御意」
「全く…アーケイイックの《魔王》に感謝する時が来ようとはな…」とジョージ五世が呟いた。
《勇者》をテューダー公に取られていたらと思うとゾッとする。
それこそ、ラッセルの姓は滅び、テューダー朝が誕生したことだろう。
彼らの命は首の皮一枚で繋がったと言っても過言ではない。
「まだ天は我々を見放していないと言うことだ…
テューダーが《勇者》を手に入れる前に、我が陣に招くことができないようなら…分かってるな?」
「承知しております」と仮面の男が頼もしく応えた。
仮面の下でサファイヤのような青い目が鋭く光った。
「陛下の悲願の障害は全て除かねばなりません」
「ふむ、よろしく頼むぞ、アーロン・サッチャー」
「御心のままに…」と恭しく頭を垂れる仮面の下にはサッチャー家の家督を継ぐべき男の顔があった。
王家の影として生きた魔術師の系譜に恥じぬ働きを…
アーロン・サッチャーは決意を新たにした。
✩.*˚to be continued✩.*˚
華やかで明るい文明の国の王都も、明るい大通りから一本入れば貧民街に繋がる。
治安の悪い、汚物と死体の転がる魔窟だ。
裸足で鼻歌を歌いながら、無精髭を生やした男が汚い道を千鳥足で進んでいた。
汚い着古した服に灰色の外套を纏い、手には酒の瓶を下げている。
彼は汚い路地に溶け込んでいたが、その腰には不似合いなロングソードが下がっていた。
「遊ぼうよ」
「寄って行ってよお兄さん」
道に商品のように並んだ夜鷹が男に囀った。
「断る」と男は無精髭の口元を歪めた。
「余は《王》であるぞ。
この国の全てが余のモノだ、余に指図するでない!」と狂ったように笑った。
その姿に客引きをしていた娼婦たちも気味悪がって「行こう」と逃げ出した。
男は逃げていく女たちを見送って喉の奥で笑った。
白目を赤くするための目薬と、わざと口から垂らした涎は狂人を装うのに最大限の効果を発揮していた。
裸足で歩くのも、千鳥のようにフラフラした足取りも、下卑た笑いも全て計算されたものだ。
全ては王権を我が手に取り戻すため…
生き残りをかけた狂った芝居だ…
ジョージ五世が、オークランド王国の国王として彼に与えられた名だ。
恥をものともせず、狂った芝居はもう十年近くなる。
ついにあの忌々しい宰相も狂人に匙を投げて、監視の目を緩めた。
努力とは実を結ぶものだ…
「陛下」と路地の奥から声がした。
「おぉ!余を陛下と呼ぶ忠義の臣よ!」
「その芝居はもうよろしいかと…」と仮面で顔を隠した男が呆れたような声で言った。
男の居る細い路地に入ると、そこは魔法の空間になっていた。
室内のような明るい空間に、暗闇に慣れた目が痛んだ。
「土産だ」とワインの入ったボトルを男に差し出した。
彼はジョージ五世から賜った酒を恭しく受け取った。
「アーロン、現状は?」と訊ねる王に、男は首を横に振って答えた。
「芳しくございませぬ。
戦は避けられぬかと…」
「全てテューダー公の意のままか…」
忌々しげに呟いて、ジョージ五世は無精髭を撫でた。
宰相の意に沿わぬものは王族とて表舞台から退場を強いられる。
彼の三人の兄王すらテューダー公の手の者に暗殺された。
兄弟で残ったのは、忠臣の助言により狂王を装った彼と、他国に嫁いだ王位継承権の無い姉妹達だけだ。
幼い息子もテューダー公の手の中だ。
彼が成長すれば、ジョージ五世も暗い墓に投げ込まれるだろう…
ラッセル朝は風前の灯となっている。
「《大賢者》の狂信者め…
好きにはさせんぞ…」狂気を装っていた瞳は理性のある人間のものになっていた。
「反テューダー公の勢力にもまだ伏しているように伝えよ。
あの用心深い簒奪者は余が確実に蹴落とす。
我が忠臣、アトラス侯に報いるためにも失敗は許されぬ」
「御意」仮面の男は王に短く応えた。
「獄中のメイヤー伯を味方につけよ。
彼は失うには惜しい男だ」
「脱獄を手引きしますか?」
「いや、それでは意味が無い。
この戦で戦功を立てさせ、汚名を雪ぐ機会を与えるように働きかけよ。
彼は父王の代から仕える優秀な武人だ、必ず重用される存在になる」
「御意」
「全く…アーケイイックの《魔王》に感謝する時が来ようとはな…」とジョージ五世が呟いた。
《勇者》をテューダー公に取られていたらと思うとゾッとする。
それこそ、ラッセルの姓は滅び、テューダー朝が誕生したことだろう。
彼らの命は首の皮一枚で繋がったと言っても過言ではない。
「まだ天は我々を見放していないと言うことだ…
テューダーが《勇者》を手に入れる前に、我が陣に招くことができないようなら…分かってるな?」
「承知しております」と仮面の男が頼もしく応えた。
仮面の下でサファイヤのような青い目が鋭く光った。
「陛下の悲願の障害は全て除かねばなりません」
「ふむ、よろしく頼むぞ、アーロン・サッチャー」
「御心のままに…」と恭しく頭を垂れる仮面の下にはサッチャー家の家督を継ぐべき男の顔があった。
王家の影として生きた魔術師の系譜に恥じぬ働きを…
アーロン・サッチャーは決意を新たにした。
✩.*˚to be continued✩.*˚
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