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23、別世界
しおりを挟む裕の左手と昊人の右手はしっかりと繋がれたままカフェを出た。
駅の方へ向かうと裕は思っていたが、建物の裏へと手を引かれた。
建物のすぐ裏は4台ほどが停められる駐車場だった。
1階にある花屋の駐車場だと示す看板が見える。
黒っぽい車に近づき昊人がキーをかざし開錠して助手席のドアを開ける。
「乗って。」
短く言われた言葉がすこし鋭くて、裕の戸惑いを許さない感じがした。
少しの諦めの気持ちを抱いて車に乗り込めば、昊人がドアを閉めてくれた。
レディファースト、1年の半分は海外にいると言っていたことを思い出す。
閉められた瞬間、甘い香りが裕の鼻をくすぐる。
あの彼女の香りだ・・・。
残り香がこの車にあるという事は梨奈が同乗していたしるし。
今日感じた中で一番の嫌な気持ちが沸きあがってきて、唇をかみしめる。
運転席のドアを開け乗り込んできた昊人を見るのも残り香のせいで嫌になって窓から薄暗い外を見た。
エンジンをかける音、ギアを入れる音、車のライトがともると途端に正面だけがよく見えるが、その他は真っ暗でなにも見えなくなった。
普段、車に乗らない裕には、どのくらい走ったのか、どこを走っているのか、よくわからなかった。
何も話したくない気分だし、何を話していいのかわからず車内には沈黙が続く。
結局、2人とも言葉を一言も発さない内に車はどこかの地下駐車場に入った。
どこに連れて来られたかますます困惑する裕だが、昊人は車を駐車させ、さっさと運転席を出て外から助手席のドアを開けた。
「行こう。」
そう言うと裕の前に手を出した。
差し出された手が嬉しかった。
ここがどこだかわからないが、昊人が出してくれた手がついて行く勇気をくれた。
さっき、カフェから連れ出してくれたように、梨奈ではなく裕を選んでくれた事が嬉しかった。
でも、すぐに車内に残された梨奈の香りによって嬉しさは粉々になってしまったが・・・。
車のキーに付いているキーボルダーのようなものを建物に入る扉の前とエレベーター内部の操作パネルにかざす昊人に手を引かれたついていく。
どこかのマンションのようだと思った時は、1つの扉を開けて、どうぞ、と言う昊人が裕を見ていた。
扉を開けた事による玄関内のオート照明だとわかる明かりのほかに、この部屋の灯りは見えない。
ここが昊人さんの部屋?
1人暮らし?
こんな時間に男性の1人暮らしの部屋に入るのは気が咎める。
彼氏でもない人の部屋に入るのは普段だったらしない裕。
入るか迷った事は確かだが、ここに連れて来てくれた昊人の真意を聞きたかった。
そして昊人のテリトリーに入ってみたかった。
そこには裕の期待も確かに存在していた。
「・・・失礼します。」
「ピアノ・・・ないんですね。」
通された広いリビングをぐるりと見た。
ガラスのローテーブルにそれを囲むようにL字型のソファ、大きなスピーカーが付いている大きなテレビぐらいしか主だった家具が見えない。
「ん?・・・玄関近くの部屋が練習室になっていて、古いピアノだから湿気とか温度とか管理が難しくて・・・それに、そこは防音室なんだ。」
このリビングにはキッチンが扉無しで付いていた。
これなら、湿気は避けられないなあ、裕は納得したように何度か頷く。
「聞きたいなら、後で聞かせたあげるよ。・・・コーヒーを残して来ちゃったからね。まず何か飲もう。ラテがいい?」
そう言いながらキッチンに向かう昊人。
その後を急いで追う。
「私がやります。・・・!」
キッチンに入った昊人の手元を見れば、カフェなどによく置いてある本格的なカフェマシーンがあった。
「・・・使い方が難しいから無理かもね。・・・次回から使えるように一緒にやろうか。」
そう言って、裕を手招きした。
手招きと”次回”という言葉に心が少し跳ねた。
それだけで嬉しいなんて自分の恋愛偏差値の低さが笑える。
昊人に側に寄り、カップはここで豆はこっち、などと説明を受ける。
後はマシーンがやるだけ、となった時にシューシュー音をたてるマシーンを見ながら裕は昊人に聞いた。
「・・・ここは昊人さんの部屋?ですか?」
「そうだよ。日本にいる時は、ここか、実家だね。」
やぱっり、すごいところに住んでる。
自分とは別世界の住人なんだ・・・。
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