◆青海くんを振り向かせたいっ〜水野泉の恋愛事情

青海

文字の大きさ
65 / 70

触れられたいっ★

しおりを挟む
 透が水野家に戻ってくれて早一週間……。

 前と変わらない生活が戻ってきた。

 「おはよう泉っ」

 目を覚ましてキッチンに行くと既に透が起きて朝食を作ってくれている。

 「おはよう透……起きるの早いね」

 エプロンをつけた透はにっこりと笑う。

 「なんか、目が覚めちゃって……真実は早朝のマラソンに出掛けたよ。そろそろかえってくるんじゃないかなあ?」

 そう言いながら目玉焼きを焼き終えた透は壁に掛けてある時計を見上げた。

 6時半……か……

 今日は休日なのだからゆっくりしていてもいいのに……透は今日もバイトなのだろうか?

 気になったので聞いてみる。

 「今日は休みだから家にいるよ。泉、よかったら勉強見てもらっても良い?」

 そう言われて、私はもちろん頷いた。

 透と一緒に勉強……何かいいことでも起きるかもしれない。

 


 ★



 「泉……ここって……」

 良かったら私の部屋に来ない?そう言ったのだが透がなぜか困ったような顔をして……結局リビングで勉強することにした。

 透の横に座って課題を解く。

 時折こっそり横を見ると、すぐ近くで透が真剣な眼差しで教科書と睨めっこをしていて……なんだかとても微笑ましい。

 
 透って……柔和な顔つきの、とってもハンサムさんだと思う。

 優しげな目元に、かわいい形の耳……でももうしっかりと男の子で……いつの間にかに喉仏が目立つようになっている。

 出会ったばっかりの頃は中性的で、男の子か女の子か分かりづらい体つきだったのに……ここ何か月で急に大人っぽくなった。

 そんな事を考えながらついぼんやりと透に見惚れていると不意に透が振り返った。

 「泉?どうかしたの?」

 そう言われて慌てて透から視線を逸らす。

 かあっと顔が赤くなるのがわかった。

 「ううん、なんでもないよ。ちょっと考えてただけ……」

 「ふうん……分からないところあったら言ってね。まあオレも分かんないかもしれないけどさっ」

 透が微笑んで、再び勉強を再開したのでホッとしながら私は気を入れ直した。

 ……せっかく一緒に勉強してるんだから頑張らないと。

 ……絶対に透と同じ大学に進学したい。




 お互いに分からない場所を教え合いながら進めていると、シャワーを浴び終えた真実が通りかかった。

 「進んでるか?」

 真実はペットボトルの水を飲みながら私たちを見つめる。

 「うん……まあ。シンジも一緒にどう?」

 透はそう言いながら背伸びをする。

 「そうだな……折角だから一緒にやるか」

 真実はそう言うと、一旦その場を離れて学校で出された課題を持ってやって来る。

 ……んー、どうせならこのまま二人っきりでも……

 視線を上げるとちょうど真実と目があった。

 真実が何を考えてるのかは分からなかったが、何か言いたげに私を見つめた後に透の正面の席に座った。

 ……もしかして、二人で勉強したいって考えてたことに気づかれてしまっただろうか?

 ……私の邪な考えを真実は見抜くのが上手いのだ。

 密かにため息をつき、参考書と向き合った。


 

 ★
 

 
 3人揃って宿題や課題を済ませ、ちょうどお昼頃になったので休憩する事にした。

 お昼を作ろう……そう思ったところで食材が足らない事に気づき、買い物に行く事にした。

 「オレ行ってくるよ?」

 透はそう言ってくれたが、二人になりたかったので一緒に行く事にした。

 

 スーパーまでの道のりはそんなに長くはない。

 天気は良くはなかったが、曇り空で日差しがあまりなかったので暑くはない。


 海がいた間は殆ど一緒にいられなかったので、透と二人で外を歩くのは久しぶりで嬉しかった。

 どちらからともなく手を繋いで歩く。

 「そういえば泉ってファンタジー小説とかも読むの?」

 透がふと、そんな事を言い出して、本の趣味についての話をする。

 「うん、ファンタジー小説好きで集めてたりするよ。存在しない空想の動物とか、世界観が好きなんだ」

 そう言うと透は微笑む。

 「あ、それは分かるかも。もし自分が今とは違う世界で生まれていたらって考えると怖いような、楽しそうな気がするよね」

 「透がもし生まれ変わって、世の中を自分の好きなように変えられるとしたら、どうする?」

 そう聞くと透はうーんと言って真剣に考え始めた。

 「そうだなあ……苦しいこととか悲しいこととかがない世界で、誰も死なない世界……暴力とか戦争とかもなくて……みんなが幸せになれる世界……って言ったら盛り込み過ぎかなあ?」

 苦笑する透。

 そんな透を見ているとなんだか切なくなった。

 「考えるのは自由だよ。誰にもそこまでは制限なんてできないし。……みんなが幸せになれる世界って良いね」

 そう言うと透は頷いた。

 「泉は?泉だったらどんな世界にする?」

 逆にそう聞かれて、私は戸惑う。

 「ん~。どうしようかな……」

 言葉を濁しながら私は考えるふりをした。



 ……私が好きなようにできる世界……

 私の願いが叶うなら、私は透と幸せに暮らせる世界がいいな……

 そう思いながら、透と比べたら酷く小さな願いだと気づいた。

 
 






 お昼ご飯を食べたら眠くなってしまい、午後は自由に過ごす事になった。

 たまたま付けたTVでホラー映画をやっていたので観ていたら、透も興味を持ったようで一緒に観る。

 真実はホラーものが苦手なのか、くだらないと思っているのかは分からないが部屋に戻ってしまった。

 
 
 ……日本のホラーはおどろおどろしい演出とジワリジワリと恐怖や不気味さが蔓延していくものが多い。

 反対に海外のホラーは突然出てきたり、大きな音や派手な演出で恐怖を煽るものが多い気がする。

 今日見ているものは日本物で、少し前に話題となった作品だった。

 
 ……そろそろ出そう……

 来たっ!!

 幽霊が画面一杯に現れた瞬間私は視線を落とし、TV画面が視界に入らないようにした。

 隣に座っていた透がビクッとし、隣に座っていたわたしにもそれが伝わってくる。

 「……い、今のすごかったね……」

 透が私に同意を求めてくるが、私は画面を見なかったので分からなかった。

 「……うん……」

 とりあえず返事はしたが……しかし画面を見ていなくても恐怖は伝わってくる。

 ……これは……幽霊が画面に出るのを見ちゃうと後で怖くなるやつだ……そう実感した。


 ホラー映画を見るのは好きだが、私は幽霊そのものを見るのは嫌いだ。

 作り物だとしても見てしまったらそれが脳裏に焼き付いて、きっと後になって夢に出てくるだろう。

 そんなに怖いなら見るのをやめたらいいと思うのだが、なぜかやめられない。

 

 物語は進み、音と演出で再び幽霊が出るのだと分かる。

 隣にいた透の腕にしがみつき、幽霊が出る直前に視線を落とす。

 女の子達の悲鳴がTVから聞こえ、透が再びビク付いた。

 やっぱり……今幽霊が出ているのだろう。

 物語は佳境に入り、どうやら幽霊と対決しているようだ。

 気づけば透にピッタリとくっついて、震えていた。

 


 ★




 「んっ……泉……」

 透の声で目を覚ます。

 どうやら映画を見ながらソファーで寝落ちたようだ。

ソファーの背もたれに寄りかかりながら眠っている透に抱きつくようにして、私は寝ていた。

 ……透……あったかい……

 まだ眠り続ける透の胸に顔を押し付ける。

 ゆっくり深呼吸すると、胸いっぱいに透のにおいが入り込んできて、とても幸せな気分になれた。

 ……さっきまであんなに怖い思いをしていたのが嘘みたいだ。

 
 付けっぱなしになっていたTVをそっと消して、再び透に抱きつく。

 ……大好きっ……

 



 ひとりでにやにやしながら透に抱きついていると、なんだか身体が熱くなっていく。

 この前はもう少しのところで真実のジャマが入ってしまったし……

 正直……透を独占したい気持ちは治まってはいない。

 透に触れられたいし、抱きしめられたい……

 この前は……キスだけでも気持ち良かった……

 透にもっと触れて……触って貰いたい……

 そう思ってしまう自分がいた。




 


 

 

 

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...