ハバナクラブ・モヒートは、あの日のまま

Nuit et Verre

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第2章 ライムの酸味とあの日のこと

第7話 ライムを潰した手のひらの熱

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「潰しすぎると苦味が出るから、ちょうどいい力加減が大事なんだ。」

 律希がそう言って、ライムを手のひらでぐっと押しつぶした。
 硬すぎず、でも芯までしっかりと圧をかけるように。
 その所作は、まるで誰かの心に触れるように、やさしく慎重だった。

 カウンター越しにそれを見ていた私は、思わず手を握りしめていた。
 あのときも、こんなふうに彼は真剣に果汁を絞っていた。

 ――高校三年、最後の夏休み。
 あの日の放課後、公園のベンチで、彼はライムを半分に切り、ぎこちない手つきで絞っていた。
 キャンプ用の小さなまな板と、百円ショップのプラスチックナイフ。
 どこか不器用で、それでも一生懸命だった。

 「モヒートって、ちゃんとしたのは初めてなんだけど、ちょっと試してみたくてさ。」

 そう言って差し出されたカップには、クラッシュした氷と、くしゃっとしたミントの葉、
 そして今、目の前で再現されているような――ライムの酸味。

 手のひらに残った果汁が、彼の指を伝ってカップの縁に落ちたとき、
 私はとっさにハンカチを差し出した。

 「これ、使って。」

 彼は照れくさそうに受け取りながら、なぜか少し顔を赤くした。

 その仕草が、今でも忘れられない。

 「……よく覚えてるね、あのときのこと。」

 気がつけば声に出していたらしく、律希が笑いながら言った。

 「俺のは、まだまだだった。苦くて、ミントも沈んでたし。」

 「ううん。……ちゃんと“伝わる味”だったよ。」

 その言葉に、彼の手が一瞬止まった。

 「そっか……ありがとう。」

 たった一杯の中に、当時の気持ちが染み込んでいる。
 酸っぱくて、少し苦くて、それでも忘れられない味。

 ライムを潰した手のひらに残る温度は、今も胸の奥でくすぶっていた。

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