ハバナクラブ・モヒートは、あの日のまま

Nuit et Verre

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第3章 まだ、間に合うなら

第11話 モヒートに浮かぶ“あの頃の私たち”

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ふたたび差し出されたグラスの中には、さっきと同じようでいて、どこか違う空気が流れていた。
 ミントの葉がそっと氷に寄り添い、ライムの輪切りが沈むように浮かぶ。

 その姿が、どこか昔の私たちに見えた。

 ――互いに近くにいながら、想いを沈めるように笑っていた、あの頃のふたり。

 律希は変わらない手つきでラムを注ぎながら、ふとつぶやいた。

 「高校のとき、いつも君の言葉に救われてた。」

 「私?」

 「うん。何気なくかけてくれるひと言が、すごく大きくてさ。」

 言葉。
 私がいつも大事にしてきたもの。
 でも、最も肝心なときには飲み込んでしまったもの。

 「私も……律希が作ってくれたモヒート、嬉しかったよ。
 ぎこちなくて、ミントが浮いてて、でもすごく真っ直ぐだった。」

 「味、薄かったでしょ。」

 「うん。びっくりするくらい。」

 ふたりで笑う。その音は、少し遠くなっていた時間を埋めるように、静かに響いた。

 「でも、ちゃんと伝わってたよ。気持ち。」

 「それなら、よかった。」

 氷がグラスの内側でカランと鳴り、小さな波が広がる。
 その音が、まるで十七歳の記憶の水面を揺らすようだった。

 「モヒートってさ、透明なのに、いろんなものが入ってるでしょ。ミントも、ライムも、ラムも。」

 「うん。見えてるのに、混ざってる。」

 「なんか、私たちみたいだなって、さっき思ったの。」

 彼が目を見開いたあと、ゆっくりと頷く。

 「混ざって、沈んで、それでも透明で……今も、ここにある。」

 その言葉に、私は何も言えなかった。
 ただグラスをそっと傾け、彼の作ったモヒートを飲んだ。

 今度はちゃんと、味わいたかった。

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