5 / 26
列車は二十六時にしか来ない
第五章 一回目の巻戻し
しおりを挟む
列車が闇の孔を抜けた瞬間、車体は静かな逆流に呑まれた。視界が万華鏡のように割れ、星雲の裂け目がフィルムを巻き戻す手つきで後退していく。照人は手すりを掴むが、重力の向きが変わり、足元のフロアが斜めに傾いた。
「来るよ、最初の巻戻し!」
茅乃の声が遠雷の向こうで反射し、車両の窓が一斉に白く曇った。二:〇六が脈打つたびに、ガラスには雪、桜、稲妻、花火と季節の亡霊が浮かび、瞬時に溶けて消える。列車は時間の砂丘を一気に滑り降りている。
■ ■ ■
硬い衝撃。車体が停止すると同時に、扉がひとりでに開いた。そこは見覚えのある日永町の旧ホーム――しかし照人の靴裏が踏んだ枕木は艶のある新しい木肌で、錆びていたはずの金具が鈍い黄金を放っている。空は新月直後の無風の夜、湿度を帯びた宵闇が駅舎の輪郭をやわらかく包んでいる。
時計塔の文字盤が視界に入った。長針は十二、短針は二に揃い、秒針だけがぐるりと一周してから凍り付いた。──二:〇六ジャスト。
照人は深く息を吸う。肺に入り込む空気は先ほどまでの霧雨の匂いではない。代わりに梅雨前の生温い土の匂いが混じる。季節が跳んだのだ。
「一九年六月……たぶんそれくらい」
茅乃がホームに降り、吐息で曇ったイヤホンのコードを指で撫でた。光を失いかけていた耳たぶの粒がかすかにまた輝き、残り回数が一度だけ増えたように錯覚させる。
「一回目の巻戻しだから、時刻の罠が甘いんだ。ここなら兄君と真正面から出会える可能性が高い」
「どうしてわかるの?」
茅乃は胸のメトロノーム──灰色の殻と化したそれを持ち上げ、振り子の跡を透かして見せた。
「針は止まったけど、内部の水晶振動子はまだ生きてる。兄君の時間に共鳴するよう調整してあるんだよ」
水晶振動子という単語さえ、茅乃が発すると不思議と機械の温度ではなく体温を帯びる。照人は頷き、駅舎へ視線を戻した。
旧駅舎の扉は半開き。天井梁から吊るされた裸電球が、わずかな橙を落としている。床に刻まれた足跡は、さっきまでの自分たちのものとは異なる長さと重さ――兄のものだ。
「行こう」
扉を押し開くと、埃は少ない。掲示板には新しいポスターが貼られ、〈幽光線 七月一日より廃線〉の文字が鮮明に読めた。照人の胸が冷える。廃線告知のおよそ一年後、兄と二人で来た記憶がある。いまはその前年だ。
カウンター奥の窓口に人影。蛍光灯の影に隠れて顔は見えないが、身長と肩幅は兄によく似ていた。照人は声を張ろうとして、吃音が喉を締める。
「……兄、さん……?」
影が振り向き、窓口の小扉を通ってホームへ出てくる。G―SHOCKのバンドを巻いた左手――だがまだガラスは割れていない。針は二:〇六を指しているが、秒針が動いていた。
暁生は弟の姿を認めると目を見開き、すぐに穏やかな笑顔へ変えた。
「照人、こんな夜更けに……カメラを持ってるってことは、また撮影会か?」
時制が合わない。兄は過去の自分として立っている。照人は言葉を探すが、脳裏で鐘が三度鳴った。二:〇六を示すリマインダー。
茅乃が横から囁く。
「核心、撮って。ここで撮れば一枚目を上書き補強できる」
照人はカメラを構えた。ファインダー越しに見ると、兄の背後で時計塔の影が穏やかに揺らぎ、時間の糸が撚り合わせられている。シャッターを半押し──ピントが合わない。レンズは兄ではなく、その左側に立つ、もう一体の影へ引き寄せられる。
《線路守》がいた。
白い名札に書かれていない名。影は兄の肩へ手を置き、言葉の要らない命令を送る。兄の瞳が微かに曇り、秒針がたった一拍で停止した。二:〇六、再び凍結。
照人は息を呑み、シャッターを切れずにいた。兄が振り返り、線路守の影を見つめる。見えないはずの瞳に、抗いと諦めが等量に宿る。
「兄さん!」
声が出た。吃音は震えを伴いながらも割れた空気を進み、兄の耳へ届く。兄の目が細く笑い、影の手を振りほどく。
「大丈夫だ。写真を撮ろう。廃線になる前に、二人の記念だろ?」
影は一歩下がった。線路守が完全に姿を現したわけではない。黒い濃淡の層が人の形を虚ろに象り、名札だけが真白く浮かぶ。
照人は深呼吸し、ファインダーを兄へ戻した。背景の影は露光を邪魔するが、兄の笑顔が光源になったかのようにイメージセンサーが光量を拾う。シャッター。
カメラの内部でギアが嚙み合い、銀色のスクリーンに像が刻まれる。液晶を確認すると、兄の肩越しに焦点深度の浅い影が写り込んでいた。だが影の輪郭はぶれていて、線路守とは断定できない。写真は核心の一歩手前――半開きの扉だ。
「もう一枚」兄が提案する。「駅名標の下で虹を撮った日、覚えてるか? 今夜、雨上がりで星が近い。きっと軌道灯が反射して虹みたいに写る」
照人は首を振る。
「もう時間が……いや、でも──」
茅乃が腕を掴む。「巻戻しの残余はわずか。早く決めて」
廃線一年前の兄を助けても、現在の兄と繋がらなければ意味が無い。だがここで栞を挟むように写真を残せば、のちの修理に必要な座標が固定される。
「兄さん、シャッターは俺が切る。兄さんはG―SHOCKを正面に向けて。二:〇六が写るように」
兄は怪訝そうにしながらも腕時計を掲げた。未だ無傷のガラスに車載灯が反射する。線路守の影は消えたようで、周囲の空気が再び日永の夜の匂いを取り戻す。
シャッター第二声。
ファインダーが暗転した。次の瞬間、列車の警笛がホームを震わせた。茅乃が後ろへ引きずられる。兄の姿も水面の幻影のように波打ち、線路守の白い名札だけが残像を焼く。
「照人! 列車が戻る!」
茅乃の叫び。照人はカメラを胸に抱えたまま跳び乗った。兄の手が届きそうで届かず、ホームが後退する。兄の笑顔が霧に溶けて視界から消えると同時に、列車の窓に星が一列に並び直した。
■ ■ ■
車内に押し戻された衝撃で膝をつく。カメラの液晶が発光し、二枚の新しいサムネイルが青い光で縁取られる。メトロノームの死んだ振り子が一度だけ震え、灰色の殻に微細な亀裂を走らせた。
「核心には届かなかったけど、兄君の時刻は少し修復されたはず」
茅乃は疲労で額に汗を浮かべながらも微笑んだ。耳たぶの粒は弱い青を灯し、消えかけていない。
「次はどうなる?」
「二回目の巻戻し。景色は似ていても、兄君は必ず別の選択を迫られる。線路守も強く干渉してくる」
照人は液晶を見つめる。最初の家族写真、河原の笑顔、腕時計を掲げた兄――三枚のピースが同じ円を描くように配置され、中央に空白が残っている。残る一枚。それが真の核心。
列車の動きが速度を上げ、レールを刻む音が鼓膜へ戻った。車内灯が再点灯すると、通路の奥に銀灰色の懐中時計が漂う。九条の時計だ。
〈針はまだ踊っている。二回目の巻戻しは短い。撮るべき瞬間を間違えるな〉
揺らぐ文字がアナログな秒針で示され、メッセージは暗闇に吸い込まれた。
「わかった」照人は呟いた。「兄さんの核心は、俺とまだ撮っていない未来にある。二回目で、それを写す」
茅乃は頬を上げる。「じゃあ、ここからが本当のフレームだね」
闇を裂く車輪のリズムが胎動のように低く轟き、車内の空気が震える。照人は肩からカメラを外し、ひざに置いた。シャッターボタンはまだ余熱を帯び、撮影の衝撃が指の骨へ残っている。
「核心を逃さないコツ、ある?」
問いに茅乃はコードを結び直しながら答える。
「一度だけ、世界が無音になる瞬間がある。音も光も波を失い、すべてが一枚の絵に凝固する。あれが核心の前触れ。逆に言えば、その静寂を感じたら迷わず撮ること」
「無音……さっきホームで一瞬だけ耳が詰まった気がした」
「あれが半開きの扉。次は全開になるはず」
沈黙。ギアの噛み合う金属音が遠くで跳ね、車体がさらに沈む。照人は液晶の三枚を見比べ、ある共通点に気づく。兄の視線の先には必ず空の余白がある。虹、月、霧の星。まだ写っていない最後の天体があるのかもしれない。
「兄さんが見せたかった“二:〇六の景色”って、何だろう」
茅乃が微笑む。「答えはきっと、次の巻戻しで水平線みたいに現れる。ピントを合わせるのは君自身だよ」
照人はカメラを抱き、瞼を閉じた。線路の震えが子守歌のように周期を刻み、意識が薄闇へ浸る。その奥で、父の声が遠いモノローグのように蘇る。
〈写真は未来を封じ込める宝箱だ。だからシャッターを切るときは、そこに閉じ込めたい願いを忘れるな〉
願い――兄を家族の写真に戻すこと。止まったG―SHOCKを再び時を刻む守りへ変えること。そのイメージを瞳の裏に焼きながら、照人は次のフレームを心に組み立て始めた。
車輪のリズムが一段下がり、空気が軋む。列車は再度の落下へ備えてエネルギーを溜め込むバネのように静まり返る。無音の前触れが、遠い鼓膜の裏でかすかに鳴いた。
そして──二:〇六は、再び息を止めた。
「来るよ、最初の巻戻し!」
茅乃の声が遠雷の向こうで反射し、車両の窓が一斉に白く曇った。二:〇六が脈打つたびに、ガラスには雪、桜、稲妻、花火と季節の亡霊が浮かび、瞬時に溶けて消える。列車は時間の砂丘を一気に滑り降りている。
■ ■ ■
硬い衝撃。車体が停止すると同時に、扉がひとりでに開いた。そこは見覚えのある日永町の旧ホーム――しかし照人の靴裏が踏んだ枕木は艶のある新しい木肌で、錆びていたはずの金具が鈍い黄金を放っている。空は新月直後の無風の夜、湿度を帯びた宵闇が駅舎の輪郭をやわらかく包んでいる。
時計塔の文字盤が視界に入った。長針は十二、短針は二に揃い、秒針だけがぐるりと一周してから凍り付いた。──二:〇六ジャスト。
照人は深く息を吸う。肺に入り込む空気は先ほどまでの霧雨の匂いではない。代わりに梅雨前の生温い土の匂いが混じる。季節が跳んだのだ。
「一九年六月……たぶんそれくらい」
茅乃がホームに降り、吐息で曇ったイヤホンのコードを指で撫でた。光を失いかけていた耳たぶの粒がかすかにまた輝き、残り回数が一度だけ増えたように錯覚させる。
「一回目の巻戻しだから、時刻の罠が甘いんだ。ここなら兄君と真正面から出会える可能性が高い」
「どうしてわかるの?」
茅乃は胸のメトロノーム──灰色の殻と化したそれを持ち上げ、振り子の跡を透かして見せた。
「針は止まったけど、内部の水晶振動子はまだ生きてる。兄君の時間に共鳴するよう調整してあるんだよ」
水晶振動子という単語さえ、茅乃が発すると不思議と機械の温度ではなく体温を帯びる。照人は頷き、駅舎へ視線を戻した。
旧駅舎の扉は半開き。天井梁から吊るされた裸電球が、わずかな橙を落としている。床に刻まれた足跡は、さっきまでの自分たちのものとは異なる長さと重さ――兄のものだ。
「行こう」
扉を押し開くと、埃は少ない。掲示板には新しいポスターが貼られ、〈幽光線 七月一日より廃線〉の文字が鮮明に読めた。照人の胸が冷える。廃線告知のおよそ一年後、兄と二人で来た記憶がある。いまはその前年だ。
カウンター奥の窓口に人影。蛍光灯の影に隠れて顔は見えないが、身長と肩幅は兄によく似ていた。照人は声を張ろうとして、吃音が喉を締める。
「……兄、さん……?」
影が振り向き、窓口の小扉を通ってホームへ出てくる。G―SHOCKのバンドを巻いた左手――だがまだガラスは割れていない。針は二:〇六を指しているが、秒針が動いていた。
暁生は弟の姿を認めると目を見開き、すぐに穏やかな笑顔へ変えた。
「照人、こんな夜更けに……カメラを持ってるってことは、また撮影会か?」
時制が合わない。兄は過去の自分として立っている。照人は言葉を探すが、脳裏で鐘が三度鳴った。二:〇六を示すリマインダー。
茅乃が横から囁く。
「核心、撮って。ここで撮れば一枚目を上書き補強できる」
照人はカメラを構えた。ファインダー越しに見ると、兄の背後で時計塔の影が穏やかに揺らぎ、時間の糸が撚り合わせられている。シャッターを半押し──ピントが合わない。レンズは兄ではなく、その左側に立つ、もう一体の影へ引き寄せられる。
《線路守》がいた。
白い名札に書かれていない名。影は兄の肩へ手を置き、言葉の要らない命令を送る。兄の瞳が微かに曇り、秒針がたった一拍で停止した。二:〇六、再び凍結。
照人は息を呑み、シャッターを切れずにいた。兄が振り返り、線路守の影を見つめる。見えないはずの瞳に、抗いと諦めが等量に宿る。
「兄さん!」
声が出た。吃音は震えを伴いながらも割れた空気を進み、兄の耳へ届く。兄の目が細く笑い、影の手を振りほどく。
「大丈夫だ。写真を撮ろう。廃線になる前に、二人の記念だろ?」
影は一歩下がった。線路守が完全に姿を現したわけではない。黒い濃淡の層が人の形を虚ろに象り、名札だけが真白く浮かぶ。
照人は深呼吸し、ファインダーを兄へ戻した。背景の影は露光を邪魔するが、兄の笑顔が光源になったかのようにイメージセンサーが光量を拾う。シャッター。
カメラの内部でギアが嚙み合い、銀色のスクリーンに像が刻まれる。液晶を確認すると、兄の肩越しに焦点深度の浅い影が写り込んでいた。だが影の輪郭はぶれていて、線路守とは断定できない。写真は核心の一歩手前――半開きの扉だ。
「もう一枚」兄が提案する。「駅名標の下で虹を撮った日、覚えてるか? 今夜、雨上がりで星が近い。きっと軌道灯が反射して虹みたいに写る」
照人は首を振る。
「もう時間が……いや、でも──」
茅乃が腕を掴む。「巻戻しの残余はわずか。早く決めて」
廃線一年前の兄を助けても、現在の兄と繋がらなければ意味が無い。だがここで栞を挟むように写真を残せば、のちの修理に必要な座標が固定される。
「兄さん、シャッターは俺が切る。兄さんはG―SHOCKを正面に向けて。二:〇六が写るように」
兄は怪訝そうにしながらも腕時計を掲げた。未だ無傷のガラスに車載灯が反射する。線路守の影は消えたようで、周囲の空気が再び日永の夜の匂いを取り戻す。
シャッター第二声。
ファインダーが暗転した。次の瞬間、列車の警笛がホームを震わせた。茅乃が後ろへ引きずられる。兄の姿も水面の幻影のように波打ち、線路守の白い名札だけが残像を焼く。
「照人! 列車が戻る!」
茅乃の叫び。照人はカメラを胸に抱えたまま跳び乗った。兄の手が届きそうで届かず、ホームが後退する。兄の笑顔が霧に溶けて視界から消えると同時に、列車の窓に星が一列に並び直した。
■ ■ ■
車内に押し戻された衝撃で膝をつく。カメラの液晶が発光し、二枚の新しいサムネイルが青い光で縁取られる。メトロノームの死んだ振り子が一度だけ震え、灰色の殻に微細な亀裂を走らせた。
「核心には届かなかったけど、兄君の時刻は少し修復されたはず」
茅乃は疲労で額に汗を浮かべながらも微笑んだ。耳たぶの粒は弱い青を灯し、消えかけていない。
「次はどうなる?」
「二回目の巻戻し。景色は似ていても、兄君は必ず別の選択を迫られる。線路守も強く干渉してくる」
照人は液晶を見つめる。最初の家族写真、河原の笑顔、腕時計を掲げた兄――三枚のピースが同じ円を描くように配置され、中央に空白が残っている。残る一枚。それが真の核心。
列車の動きが速度を上げ、レールを刻む音が鼓膜へ戻った。車内灯が再点灯すると、通路の奥に銀灰色の懐中時計が漂う。九条の時計だ。
〈針はまだ踊っている。二回目の巻戻しは短い。撮るべき瞬間を間違えるな〉
揺らぐ文字がアナログな秒針で示され、メッセージは暗闇に吸い込まれた。
「わかった」照人は呟いた。「兄さんの核心は、俺とまだ撮っていない未来にある。二回目で、それを写す」
茅乃は頬を上げる。「じゃあ、ここからが本当のフレームだね」
闇を裂く車輪のリズムが胎動のように低く轟き、車内の空気が震える。照人は肩からカメラを外し、ひざに置いた。シャッターボタンはまだ余熱を帯び、撮影の衝撃が指の骨へ残っている。
「核心を逃さないコツ、ある?」
問いに茅乃はコードを結び直しながら答える。
「一度だけ、世界が無音になる瞬間がある。音も光も波を失い、すべてが一枚の絵に凝固する。あれが核心の前触れ。逆に言えば、その静寂を感じたら迷わず撮ること」
「無音……さっきホームで一瞬だけ耳が詰まった気がした」
「あれが半開きの扉。次は全開になるはず」
沈黙。ギアの噛み合う金属音が遠くで跳ね、車体がさらに沈む。照人は液晶の三枚を見比べ、ある共通点に気づく。兄の視線の先には必ず空の余白がある。虹、月、霧の星。まだ写っていない最後の天体があるのかもしれない。
「兄さんが見せたかった“二:〇六の景色”って、何だろう」
茅乃が微笑む。「答えはきっと、次の巻戻しで水平線みたいに現れる。ピントを合わせるのは君自身だよ」
照人はカメラを抱き、瞼を閉じた。線路の震えが子守歌のように周期を刻み、意識が薄闇へ浸る。その奥で、父の声が遠いモノローグのように蘇る。
〈写真は未来を封じ込める宝箱だ。だからシャッターを切るときは、そこに閉じ込めたい願いを忘れるな〉
願い――兄を家族の写真に戻すこと。止まったG―SHOCKを再び時を刻む守りへ変えること。そのイメージを瞳の裏に焼きながら、照人は次のフレームを心に組み立て始めた。
車輪のリズムが一段下がり、空気が軋む。列車は再度の落下へ備えてエネルギーを溜め込むバネのように静まり返る。無音の前触れが、遠い鼓膜の裏でかすかに鳴いた。
そして──二:〇六は、再び息を止めた。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語
kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。
率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。
一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。
己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。
が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。
志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。
遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。
その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。
しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。
ループ25 ~ 何度も繰り返す25歳、その理由を知る時、主人公は…… ~
藤堂慎人
ライト文芸
主人公新藤肇は何度目かの25歳の誕生日を迎えた。毎回少しだけ違う世界で目覚めるが、今回は前の世界で意中の人だった美由紀と新婚1年目の朝に目覚めた。
戸惑う肇だったが、この世界での情報を集め、徐々に慣れていく。
お互いの両親の問題は前の世界でもあったが、今回は良い方向で解決した。
仕事も順調で、苦労は感じつつも充実した日々を送っている。
しかし、これまでの流れではその暮らしも1年で終わってしまう。今までで最も良い世界だからこそ、次の世界にループすることを恐れている。
そんな時、肇は重大な出来事に遭遇する。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる