『二十六時のアオイヒカリ』

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逆光の兄と三度目の夜明け

第十三章 三度目の選択

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 十二月二十五日、クリスマスの飾りが早々に片づけられた商店街を抜け、照人は旧駅舎へ急いだ。気温は零度近くまで下がり、吐く息がフィルムのスモークのように薄く漂う。兄の時間を買い戻してから三週間、線路守は沈黙を保っている。だが切符に記された“零時零分行き未来列車”の発車時刻は、まさに今夜だ。  
 暗室では茅乃が最後のチェックをしていた。真昼フィルター、青光制御用トリプル振り子レンズ、そして九条から届いたカウンタープリズム。プリズムの中では極細レーザーが螺旋を描き、光陰の脈を数えていた。  
 「兄君は?」  
 「母さんと家で待機。列車に乗るか、写真で捉えるかは俺たちで決める」  
 茅乃はうなずき、二枚の設計図を示した。A案=乗車同行、B案=ホーム観測。どちらにも利点とリスク。線路守は“第三の選択”を迫っている。  

◆ 列車の影が動く  

 午後十一時四十分。ホームの照明は消えたまま。闇の奥でレールが低く鳴り始める。照人はプリズムをホーム中央に設置し、振り子レンズを垂直固定して観測準備を整えた。  
 そこへ光条の札が浮上、裏に〈写真は二度、旅は一度〉と墨が滲む。茅乃が「二度は過去のシャッター、旅は今回?」と読み解くが、札は上書きで〈乗らねば判じ得ぬ〉と告げた。  

◆ 同行プランへ傾く時刻  

 十一時五十七分。青白い列車が浮かび上がる。照人は両プランを融合する案を決断。カメラ二台を用意し、一台を三脚に残し、もう一台を肩に提げて車内撮影も行う。プリズムは無人露光モードへ切替。  

◆ 三度目の選択  

 十一時五十九分五十秒。ドアが無音で開き、客室に蒼光が満ちる。中央の光柱に兄のシルエットが浮かび、「三度目だな、照人」と微笑む。スクリーンに三フレームが提示される――  
 A:父と兄が生きる過去。  
 B:現在の家族が続く未来。  
 C:幽光線が観光列車として栄える新世界。  
 「どれか一つを定着しろ」と兄。  

◆ 同時露光の賭け  

 照人は二台シャッター+プリズム自動露光の三重撮影を選ぶ。零時零分ゼロ秒、  
 シャッター一=Aフレーム、シャッター二=Bフレーム、プリズム=Cフレーム。  
 三像が車内を包み、列車は静止。ドアが開くとホームの三脚カメラも三枚吐き出していた。  

◆ ホームで結ばれる選択  

 第一枚:父と兄、幼い照人の廃駅シーン。  
 第二枚:現在の家族と修復された時計塔。  
 第三枚:観光列車と線路守が駅員帽で敬礼する未来図。  
 札が〈選択確定〉と赤く染まり、三像は互いを否定せず重なった。時間は分岐ではなく「多重露光」として結実――兄の時計が澄んだ音を一度だけ鳴らす。  

 列車は去り、ホームに静寂が戻る。三度目の選択は終わったが、白紙切符はまだポケットで温かい。フィルムさえあれば時間は写し直せる。次のシャッターは、誰の未来を招くのだろうか。
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