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大福とよもぎちゃんは、昔シェルアさんが拾って家族に迎え入れたらしかった。
よもぎちゃんはシェルアさんにおやつのジャーキーを貰って食べている。
僕の側にいたはずの大福はジャーキーを食べているよもぎちゃんを見るなり、シェルアさんの所に走っていった。
現金な奴だ。でも尻尾を力いっぱい振って全力でアピールする姿は、見ていて可愛い。
大福はジャーキーを貰うと、よもぎちゃんの隣に行って咥えたジャーキーを前足で挟んで食べ始めた。
「服、部屋の前に置いておいたから整理しておいで」
「あ、はい! すみません、重いの運ばせちゃって……!」
「大丈夫だよ。終わったらまたリビングに来れる?」
「はいっ」
僕は二階に上がると、部屋の前に置かれた荷物を中へ入れた。
服のタグをハサミで切る。
予備の医療用の眼帯と革の眼帯はクリアケースに入れて、ノートとペンは机の引き出しにしまった。
作業をしながら僕は昼食に食べたあのパンの名前を思い出そうとしたけど、馴染みがない物なのか思い出せなかった。
確かヴァイツェンナントカだったはずだ。
名前が思い出せないのは記憶喪失のせいじゃなくて、初めての外出で緊張していたせいだと思いたい。
僕は階段を降りて歯ブラシを洗面所に置きに行くと、リビングに向かった。
ドアを開けるとジャーキーを食べ終えたであろう二匹がソファの下で寛いでいる。
シェルアさんはスマホを操作して文字を入力していた。
「戻りました」
「おかえり、早かったね」
「そうですか?」
「うん。ほら、座って」
「あ、はい」
シェルアさんに促されて、僕は向かいのソファへと腰掛ける。
ソファが思ったより柔らかくて、自分の身体が沈んでいったから少しびっくりした。
「何か飲み物でも淹れようか?」
「いえ、さっき飲んだばっかりだから大丈夫です」
「そう?」
「はい。シェルアさんは何か飲みますか? 僕淹れますよ! 茶葉と使う道具の場所を教えて貰うの前提になっちゃいますけど……」
「ふふ。じゃあ今度頼むね」
「は、はい。頑張って美味しいの淹れますね」
拳を握って言うと、シェルアさんは嬉しそうに笑みを浮かべた。
お手本のような綺麗な笑みに、僕は品の良さを感じた。
「今日紹介したい人がいるんだけど、いいかな?」
「え、あ、はい。誰……ですか?」
「私の部下の姉弟」
「ああ、今隣のアパートで暮らしてるっていう」
「そう。自己紹介出来る? 無理そうだったら私がフォローするから、あまり気負わないでいてほしいんだけど……」
「全然大丈夫ですよ! 緊張はしますけど、シェルアさんには最初からお世話になりっぱなしですし、自分の名前くらい流石に言えます!」
僕は大きく頷くと、自分の胸を軽く叩いた。
自分が記憶喪失の“才人”だと嘘をつくのは気が進まないけど、“凡人”だと素直に言うよりはトラブルが少ないとシェルアさんから言われている。
シェルアさんに迷惑をかけなくて済む一番の方法だと思えば、嘘をつくくらいなんて事はなかった。
「ごめんね、ありがとう」
「? 御礼を言うなら僕の方ですよ?」
「そう?」
「そう! です!」
大きな声で言い切ると、シェルアさんに笑われた。
さっきの上品な笑い方じゃなくて、思わずといった素の笑い方だった。
シェルアさんの話だと、地下には地上の凡人を気に入らない才人もいると言っていた。
あの時の僕は話を聞くので精一杯だったから深く追及はしなかったけど、シェルアさんはすごい才人なのだろうか。
だとしたら誰にでも平等ですごい人だと思った。
「……あの、」
「うん?」
「なんていうか、シェルアさんってすごい人ですよね。僕は凡人ですけど、それだけは今日一日通してわかりました」
「……」
何故かシェルアさんは黙り込んでしまった。
何かかいけない事を言ってしまっただろうかとおろおろしていると、シェルアさんが小さく息をついた。
「あのね、あまり公にはしないけど、私は凡人も才人もそんなに差はないと思ってる」
「えっ……と、いうと?」
「この世界に生まれて落ちてきた事は一つの才能って事」
「?」
「うーんと、そうだなぁ……サンが凡人でも才人でも、サンの本当の価値は変わらないって事を言いたかったんだ。私の言い方が下手だったね」
困ったような顔をするシェルアさんに、僕は慌てて首を横に振った。
——本当の価値。
そんなもの考えた事すらなかった。だって僕は“凡人”だから。
“才人”にはどうやったって敵わないと思っていたし、今もそう思っている。
事実才人の方が凡人より上の存在なのだ。
だから凡人である僕には、才人みたいな価値はないと思っていたし、才人に憧れていた。自分もあんな風な才能があったら——、と。
「その……そんな事言われたの初めてで、今頭が追い付いてない、です……」
「そっか。今考えても、考えなくてもいいよ。答えは自分で見つけるものだからね」
「……はい」
思考は僕にだけ委ねられたもので、尚且つそれを選択するのも僕自身が決める事だとシェルアさんは言った。
多分シェルアさんは僕がどちらを選択しても、本当にどちらでもいいのだろう。
今考えてもろくな答えが出そうになくて、僕は心がざわついた。
「今考えるのは、やめておきます。なんとなく大切な事だっていうのはわかってる……ので……」
「うん」
「……」
「混乱させてごめんね。それと、二人が来るのは夕方だからそれまで自由にしてていいよ」
シェルアさんは僕を気遣って一人にしようとしてくれたけど、僕は今一人にはなりたくなかった。
言葉に迷っていると、大福の尻尾が揺れてパタリと床を打つ。
よもぎちゃんが伏せていた顔を少しだけ上げた。
「……此処に一人はちょっと……寂しくて」
「そっか」
会話は続かなかった。
それでも居心地が悪いなんて事はなくて、時計の針が時を刻む音と、犬の尻尾が揺れて床を打つ音がこの部屋に響いた。
それからしばらくすると、床で伏せていた大福が突然起き上がって僕の膝に飛び乗った。
大福は歯を見せて笑っている。
「ワゥ」
顎の下を優しく撫でると、大福はもっと撫でてくれと言わんばかりに僕に身体を押し付けた。
大福の望み通りに今度は両手を使ってもっと身体を撫でると、大福は楽しいのかゴロゴロ寝転んだ。
お腹もいっぱい撫でていく。
大福は尻尾が千切れそうなくらいブンブン振って“嬉しい”を体現した。
「もう仲良くなったんだ」
「大福がきっと僕に気を遣ってくれたんだと思います」
「ワフッ」
「うん、ありがとう大福」
御礼を言うと、大福は仰向けの状態から体勢を変えて僕の膝の上へと座り直した。
何度か座り直してようやくベストポジションが見つかったらしい。
ふと欠伸をしている大福と目が合った。
「?」
きょとんとしている顔が可愛くて、僕は自然と頬が緩んだ。
……でも、よもぎちゃんが嫉妬しちゃわないかな。
チラ、とよもぎちゃんがいる方を盗み見る。
よもぎちゃんはシェルアさんの足元で気持ち良さそうに眠っていた。
僕が警戒されているのはよもぎちゃんの表情と行動でわかっていたから、今こうやって無防備な姿が見られたのはちょっと嬉しかった。
「ワン!」
「わっ!? えっ、何!?」
大福が急に吠えるからびっくりした。
驚く僕を大福は気にする素振りも見せず、僕の膝に置いていた前足をてしてしと叩く。
何か抗議するような眼差しだった。
「……」
「……」
「ワゥゥン」
「よもぎに見惚れちゃ駄目だって」
「あ……そういう……」
「ワン!」
シェルアさんの言葉を肯定するように大福がまた吠えた。
なんだかとても自慢げである。
僕は一応誤解を招かないよう訂正を入れる事にした。
「あのね大福、よもぎちゃんを見てたのは僕が大福と仲良くしてて、よもぎちゃんが嫉妬しないかなって心配してたんだ」
「ワフゥン?」
「うん。大福からよもぎちゃんを奪ったりなんて考えてないから、安心してね」
「……!!」
僕の言葉に、大福はそうだったのかと言わんばかりの表情で大きく口を開けた。
驚いているのか安心しているのかはわからないけど、大福のその表情は劇的で面白かった。
大福は僕の膝上でぐるぐる回り出すと、次の瞬間僕の胸に飛び付いて、いきなり顔を舐めてきた。
「ぅわっぷ」
「こら大福」
「……クゥーン」
「僕なら大丈夫ですよシェルアさん。仲良くなれて嬉しいですし!」
「ワン!!!」
「……サンの事困らせたら駄目だからね」
大福はシェルアさんの言葉を聞きながら、僕の膝から飛び降りて何処かに行ってしまった。
注意されたからだろうかと思っていると、三秒後には戻って来た。早い。
大福の口には遊び道具であろう黄色いボールが咥えられていた。
僕は大福からそのボールを受け取ると、ソファから立ち上がった。
「あの、シェルアさん、庭で遊んでてもいいですか?」
「いいけど……大福はなかなか満足しないぞ? 体力あるから」
「望むところです」
「ワンッ」
「ふふ。じゃあいってらっしゃい。怪我しないように気を付けてね」
「ワン!」「はい!」
僕は大福とほぼ同時に返事をした。
ウッドデッキにあるサンダルを履いて外に出る。
芝生の庭は大福が走り回るにはもってこいのようで、僕がサンダルを履いている間に大福は既に庭の周回を終えていた。
持っていたボールを軽く放り投げると、ボールは軌道を描いて地面に落ちた。
落ちたボールをすかさず大福が取りに行く。
「はっや」
「フンッ」
鼻を鳴らす大福の口にはボールが咥えられていて、表情も得意げだ。
受け取ったボールをもう一度投げると、大福はまた走ってボールを取りに行った。
戻って来た大福をよしよしと撫でる。
何度もそれを繰り返して遊んでいると、約束の時間になったようで、僕達はシェルアさんに名前を呼ばれた。
僕は外にあるガーデンシンクで手を洗って、ついでに大福の前足と後ろ足を洗った。
家の中に戻ってシェルアさんにタオルを貰って大福の足を拭いていると、玄関のインターホンが鳴った。
よもぎちゃんはシェルアさんにおやつのジャーキーを貰って食べている。
僕の側にいたはずの大福はジャーキーを食べているよもぎちゃんを見るなり、シェルアさんの所に走っていった。
現金な奴だ。でも尻尾を力いっぱい振って全力でアピールする姿は、見ていて可愛い。
大福はジャーキーを貰うと、よもぎちゃんの隣に行って咥えたジャーキーを前足で挟んで食べ始めた。
「服、部屋の前に置いておいたから整理しておいで」
「あ、はい! すみません、重いの運ばせちゃって……!」
「大丈夫だよ。終わったらまたリビングに来れる?」
「はいっ」
僕は二階に上がると、部屋の前に置かれた荷物を中へ入れた。
服のタグをハサミで切る。
予備の医療用の眼帯と革の眼帯はクリアケースに入れて、ノートとペンは机の引き出しにしまった。
作業をしながら僕は昼食に食べたあのパンの名前を思い出そうとしたけど、馴染みがない物なのか思い出せなかった。
確かヴァイツェンナントカだったはずだ。
名前が思い出せないのは記憶喪失のせいじゃなくて、初めての外出で緊張していたせいだと思いたい。
僕は階段を降りて歯ブラシを洗面所に置きに行くと、リビングに向かった。
ドアを開けるとジャーキーを食べ終えたであろう二匹がソファの下で寛いでいる。
シェルアさんはスマホを操作して文字を入力していた。
「戻りました」
「おかえり、早かったね」
「そうですか?」
「うん。ほら、座って」
「あ、はい」
シェルアさんに促されて、僕は向かいのソファへと腰掛ける。
ソファが思ったより柔らかくて、自分の身体が沈んでいったから少しびっくりした。
「何か飲み物でも淹れようか?」
「いえ、さっき飲んだばっかりだから大丈夫です」
「そう?」
「はい。シェルアさんは何か飲みますか? 僕淹れますよ! 茶葉と使う道具の場所を教えて貰うの前提になっちゃいますけど……」
「ふふ。じゃあ今度頼むね」
「は、はい。頑張って美味しいの淹れますね」
拳を握って言うと、シェルアさんは嬉しそうに笑みを浮かべた。
お手本のような綺麗な笑みに、僕は品の良さを感じた。
「今日紹介したい人がいるんだけど、いいかな?」
「え、あ、はい。誰……ですか?」
「私の部下の姉弟」
「ああ、今隣のアパートで暮らしてるっていう」
「そう。自己紹介出来る? 無理そうだったら私がフォローするから、あまり気負わないでいてほしいんだけど……」
「全然大丈夫ですよ! 緊張はしますけど、シェルアさんには最初からお世話になりっぱなしですし、自分の名前くらい流石に言えます!」
僕は大きく頷くと、自分の胸を軽く叩いた。
自分が記憶喪失の“才人”だと嘘をつくのは気が進まないけど、“凡人”だと素直に言うよりはトラブルが少ないとシェルアさんから言われている。
シェルアさんに迷惑をかけなくて済む一番の方法だと思えば、嘘をつくくらいなんて事はなかった。
「ごめんね、ありがとう」
「? 御礼を言うなら僕の方ですよ?」
「そう?」
「そう! です!」
大きな声で言い切ると、シェルアさんに笑われた。
さっきの上品な笑い方じゃなくて、思わずといった素の笑い方だった。
シェルアさんの話だと、地下には地上の凡人を気に入らない才人もいると言っていた。
あの時の僕は話を聞くので精一杯だったから深く追及はしなかったけど、シェルアさんはすごい才人なのだろうか。
だとしたら誰にでも平等ですごい人だと思った。
「……あの、」
「うん?」
「なんていうか、シェルアさんってすごい人ですよね。僕は凡人ですけど、それだけは今日一日通してわかりました」
「……」
何故かシェルアさんは黙り込んでしまった。
何かかいけない事を言ってしまっただろうかとおろおろしていると、シェルアさんが小さく息をついた。
「あのね、あまり公にはしないけど、私は凡人も才人もそんなに差はないと思ってる」
「えっ……と、いうと?」
「この世界に生まれて落ちてきた事は一つの才能って事」
「?」
「うーんと、そうだなぁ……サンが凡人でも才人でも、サンの本当の価値は変わらないって事を言いたかったんだ。私の言い方が下手だったね」
困ったような顔をするシェルアさんに、僕は慌てて首を横に振った。
——本当の価値。
そんなもの考えた事すらなかった。だって僕は“凡人”だから。
“才人”にはどうやったって敵わないと思っていたし、今もそう思っている。
事実才人の方が凡人より上の存在なのだ。
だから凡人である僕には、才人みたいな価値はないと思っていたし、才人に憧れていた。自分もあんな風な才能があったら——、と。
「その……そんな事言われたの初めてで、今頭が追い付いてない、です……」
「そっか。今考えても、考えなくてもいいよ。答えは自分で見つけるものだからね」
「……はい」
思考は僕にだけ委ねられたもので、尚且つそれを選択するのも僕自身が決める事だとシェルアさんは言った。
多分シェルアさんは僕がどちらを選択しても、本当にどちらでもいいのだろう。
今考えてもろくな答えが出そうになくて、僕は心がざわついた。
「今考えるのは、やめておきます。なんとなく大切な事だっていうのはわかってる……ので……」
「うん」
「……」
「混乱させてごめんね。それと、二人が来るのは夕方だからそれまで自由にしてていいよ」
シェルアさんは僕を気遣って一人にしようとしてくれたけど、僕は今一人にはなりたくなかった。
言葉に迷っていると、大福の尻尾が揺れてパタリと床を打つ。
よもぎちゃんが伏せていた顔を少しだけ上げた。
「……此処に一人はちょっと……寂しくて」
「そっか」
会話は続かなかった。
それでも居心地が悪いなんて事はなくて、時計の針が時を刻む音と、犬の尻尾が揺れて床を打つ音がこの部屋に響いた。
それからしばらくすると、床で伏せていた大福が突然起き上がって僕の膝に飛び乗った。
大福は歯を見せて笑っている。
「ワゥ」
顎の下を優しく撫でると、大福はもっと撫でてくれと言わんばかりに僕に身体を押し付けた。
大福の望み通りに今度は両手を使ってもっと身体を撫でると、大福は楽しいのかゴロゴロ寝転んだ。
お腹もいっぱい撫でていく。
大福は尻尾が千切れそうなくらいブンブン振って“嬉しい”を体現した。
「もう仲良くなったんだ」
「大福がきっと僕に気を遣ってくれたんだと思います」
「ワフッ」
「うん、ありがとう大福」
御礼を言うと、大福は仰向けの状態から体勢を変えて僕の膝の上へと座り直した。
何度か座り直してようやくベストポジションが見つかったらしい。
ふと欠伸をしている大福と目が合った。
「?」
きょとんとしている顔が可愛くて、僕は自然と頬が緩んだ。
……でも、よもぎちゃんが嫉妬しちゃわないかな。
チラ、とよもぎちゃんがいる方を盗み見る。
よもぎちゃんはシェルアさんの足元で気持ち良さそうに眠っていた。
僕が警戒されているのはよもぎちゃんの表情と行動でわかっていたから、今こうやって無防備な姿が見られたのはちょっと嬉しかった。
「ワン!」
「わっ!? えっ、何!?」
大福が急に吠えるからびっくりした。
驚く僕を大福は気にする素振りも見せず、僕の膝に置いていた前足をてしてしと叩く。
何か抗議するような眼差しだった。
「……」
「……」
「ワゥゥン」
「よもぎに見惚れちゃ駄目だって」
「あ……そういう……」
「ワン!」
シェルアさんの言葉を肯定するように大福がまた吠えた。
なんだかとても自慢げである。
僕は一応誤解を招かないよう訂正を入れる事にした。
「あのね大福、よもぎちゃんを見てたのは僕が大福と仲良くしてて、よもぎちゃんが嫉妬しないかなって心配してたんだ」
「ワフゥン?」
「うん。大福からよもぎちゃんを奪ったりなんて考えてないから、安心してね」
「……!!」
僕の言葉に、大福はそうだったのかと言わんばかりの表情で大きく口を開けた。
驚いているのか安心しているのかはわからないけど、大福のその表情は劇的で面白かった。
大福は僕の膝上でぐるぐる回り出すと、次の瞬間僕の胸に飛び付いて、いきなり顔を舐めてきた。
「ぅわっぷ」
「こら大福」
「……クゥーン」
「僕なら大丈夫ですよシェルアさん。仲良くなれて嬉しいですし!」
「ワン!!!」
「……サンの事困らせたら駄目だからね」
大福はシェルアさんの言葉を聞きながら、僕の膝から飛び降りて何処かに行ってしまった。
注意されたからだろうかと思っていると、三秒後には戻って来た。早い。
大福の口には遊び道具であろう黄色いボールが咥えられていた。
僕は大福からそのボールを受け取ると、ソファから立ち上がった。
「あの、シェルアさん、庭で遊んでてもいいですか?」
「いいけど……大福はなかなか満足しないぞ? 体力あるから」
「望むところです」
「ワンッ」
「ふふ。じゃあいってらっしゃい。怪我しないように気を付けてね」
「ワン!」「はい!」
僕は大福とほぼ同時に返事をした。
ウッドデッキにあるサンダルを履いて外に出る。
芝生の庭は大福が走り回るにはもってこいのようで、僕がサンダルを履いている間に大福は既に庭の周回を終えていた。
持っていたボールを軽く放り投げると、ボールは軌道を描いて地面に落ちた。
落ちたボールをすかさず大福が取りに行く。
「はっや」
「フンッ」
鼻を鳴らす大福の口にはボールが咥えられていて、表情も得意げだ。
受け取ったボールをもう一度投げると、大福はまた走ってボールを取りに行った。
戻って来た大福をよしよしと撫でる。
何度もそれを繰り返して遊んでいると、約束の時間になったようで、僕達はシェルアさんに名前を呼ばれた。
僕は外にあるガーデンシンクで手を洗って、ついでに大福の前足と後ろ足を洗った。
家の中に戻ってシェルアさんにタオルを貰って大福の足を拭いていると、玄関のインターホンが鳴った。
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