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アルケミラのことを悪く言うのは、かつての彼女を馬鹿にした者たちだけでしたが、その他の人たちは善い魔女だと評判になっていました。その話を聞くうちにアスターは、アルケミラに会いたくなり、彼女を探して居場所をつきとめます。それからは、アスターは年に一度は、アルケミラのところに立ち寄り、お喋りするのが楽しみで仕方がありませんでした。



「アスターと話していると本当に癒されるわ。あなたは、聖女となるべくしてなったのね」

「そんなことはないわ。アルケミラこそ、あのまま見習いを辞めていなかったら、聖女となっていたはずよ。私はあなたに仕えていたと思うわ。そしたら、毎日会えていたと思うと残念でならないのよ」

「それで自分が聖女となれなくともよかったと?」

「えぇ。世界をよりよく出来るなら、私は肩書きになんて拘らないわ」

「……あなたみたいな人がたくさん増えたら、争いなんてなくなるのにね」



でも、アルケミラは半世紀以上待ち続け、とうとう限界を迎えて、国王となった彼に会いに行きました。



「陛下。アルケミラと名乗る魔女が謁見したいと来ています」

「アルケミラ? 知らないな。それに魔女なんかに知り合いは居ない」

「昔、聖女候補だった者だそうですが」

「覚えがない。今は忙しいんだ。追い返せ」



すっかり忘れたギリアンの物言いにブチ切れてしまいアルケミラは、怒りを爆発させてついに大魔女となって、積もり積もった恨みつらみを呪いの糧にして、彼を呪うことにしました。



「おのれ、未来永劫、呪い続けてやる! 女性を蔑ろにするたび、お前の人生が破滅する。今まで、お前に与え続けた幸せは今日限りで終わりだ!」



アルケミラは、彼にひたすらに与え続けていたのは、献身的な愛でした。いつか、自分と結ばれる人に幸福が訪れるようにと誰に何を言われようとも、ずっと密かに祈って願っていたのを止め逆に呪ったことで、国王は次々と不幸に見舞われていきました。


たくさんいた側妃たちが相継いで死に。子供たちが病で死に。王妃も……。国中で流行っていた病は、決して王族にはかからない。それは、アルケミラの加護のおかげでしかなかったことを知っても、国王は謝罪することをしませんでした。



「あの魔女を殺せ! この国が破滅する前に殺すのだ!」



その頃のアスターは、諸国を巡り功績をたたえられ大聖女となっていました。そこに大魔女となったアルケミラの討伐命令が、あの国から出たことを耳にします。アスターはどうしてそうなったかを全てを知っていることもあり、一方的に悪者扱いされるのが許せなくて、説明をすることにしました。それにより、聖女の殆どが討伐には参加しないことになりました。もちろん、アスターも参加はしませんでした。


王族が軽々しくも、口約束をしたのが始まりてました。しかも、当時は聖女見習いだった娘に。その後、魔女から大魔女となった原因も、国王の自業自得だと判断されたのです。


討伐に参加した聖女は、力試しや度胸試し、功績が欲しいと思った者だけでした。ですが、アルケミラに敵う聖女は一人もいませんでした。むしろ、そんな思惑を抱いて討伐に参加したことを察知して、更に怒らせて跡形もなく消失させられたと報告があり、それにアスターは胸を痛めました。


アルケミラは、あの男への煮えたぎるような憎悪を脇に置けば、とてもいい魔女でした。彼女の住みついた森は自然に囲まれつつ、色鮮やかな花々や貴重な薬草が生えていた。密かにお茶をしに行くのが、アスターの楽しみだったからこそ、このまま怒りに任せて禍々しい魔女に染まりきるのを見過ごせないと思うようになりました。


ギリアンを呪い殺しても、アルケミラは来世も来々世までも追いかけて、彼を監視する気だとわかったのは、アスターが彼女に会いに行った時でした。自分のような被害者が出ないようにしたかったのでしょう。最期に会ったアルケミラは恐ろしい形相をしていましたが、アスターを見て笑ってくれました。憎しみに飲み込まれてしまっても、親友のことは忘れてはいなかったことにアスターはうれしくなりました。だからこそ、アルケミラを終わらせるためにアスターは力を使おうと決意しました。



「あなたにとどめを刺されるのは悪くないわね」

「アルケミラ。私は、あなたが笑ってくれている方がいいわ。こんなことをするために私は修業をつんできたわけじゃないんだから」

「……それでも、私はあなたに感謝しているのよ。最期に会えて、よかったわ」



そんな親友の最期から数年、アスターは天寿をまっとうしました。




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