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(て、転勤? 何で?? 聞き間違えたわけではないよね……?)


父から転勤すると言われたのは、これが初めてではない。正確に何回目になるかを凛は数えていないが、両手では足りないほど転校しているのは間違いない。

学期ごとに違う学校の生活を1年の間に過ごしたこともある。たった数ヶ月で転勤になるのも凄いが、父が仕事ができないから飛ばされているわけではない。その数ヶ月の間だけで、問題を解決したから、次から次へと問題となっているところに転勤になった結果、父はそういったことを任されることになったようだ。

仕事ができなさすぎて窓際に追いやられるのも考えものだが、仕事ができすぎて色んなところに行くことになるのも、中々に大変なことを凛も娘として身近で感じていた。

そんな父の血を色濃く引いているのか。凛も、これまでたくさん転校してきたが、そのたび上手くやってきていた。

いや、父と比べれば、上手くやれてはいなかったかもしれない。すぐに転校すると思って、やり過ごしていたところが多々あった。

でも、高校に入ってからは違っていた。違っていた理由もちゃんとあったのだが、凛は衝撃すぎて頭の中が真っ白になってしまって言葉が中々でてこなかった。頭の中では、思考は完全に停止しているわけではなかったが。

今更、引っ越すと聞いて驚くのも、変だと思われるかも知れないが、これまでとは事情が異なっていたのだ。どんなにたくさん転校していても慣れることはない。


「え? 転勤……? でも、私が高校卒業するまでは転勤は、もうしないって言ってたよね?」
「すまん。凛」
「……」


凛は、何とか言葉を紡ぐとそれを聞いて申し訳なさそうに謝る父を見ることになり、何とも言えない顔をすることになった。

いや、有能な父に頼らざるおえないところが出たのだろう。それでも、父だけが有能なわけではない。これまで、あり得ない数の転勤をしてきたのだから、3年だけ同じところに留まりたいというのも会社は理解してくれていると凛は父から聞いていた。

父の横には母も座っていたが、その表情は辛そうに見えた。


(二人とも、目の下にクマがある。何で、気づかなかったんだろ)


ここにきて、ようやく両親の顔をしっかり見た気がする。最近、何やら忙しそうにしているのには気づいていたのにちゃんと見ていなかったようだ。

これまで見たことないほど、疲れた顔をしていることに凛は、転勤と聞いたショックよりも、更にそっちの方が凛には物凄いショックだった。

転校続きなこともあり、両親とは色んな話をしていて親子の仲は他の家庭よりも良好だと思っている。それを凛は自慢に思っていたりするが、実際に自慢したことはない。

自分たちだって、新しい環境や状況なのに両親ら凛のことを何かと気にかけてくれていることを知っていたからだ。

友達になったかと思えば離れるような生活が当たり前だったため、家族サービスは中々濃いものがあったと思う。そう、濃厚もいいところで、もっと反抗的な性格となってもおかしくなかったのかも知れないが、凛に反抗期はまだ訪れていない。

両親がきちんと向き合ってくれるから反抗的にならなかっただけで、訪れてなかったわけではなかったようだが、この時の凛は転勤と聞いて初めて途方に暮れていた。


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