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しおりを挟む「まるで、やむ気配はありませんね。こんなに長く続くものなのですか?」
「いいえ。私が、知る限りでは初めてです。……今日も、王都に向かうのは、難しいようです。神殿に戻りましょう」
ヘルムフリートと他の神殿騎士と神官たちとヴィルヘルミーネは一緒になって、町外れまで季節風がどうなったかを見ることが日課となっていた。
色々あって、ヘルムフリートとヴィルヘルミーネは二人っきりになることはなかった。お互いが意識してしまい、会話をしても事務的なことにとどまっていた。
(一向にやまないわね。……私が、この季節風が長く続けばいいと祈っていたせいかも知れない。王都に向かった人たちのためにと思っていたけど、こんなことになるなんて……)
なぜか、季節風がおさまる気配を見せなかったのだ。
そんな時に街の人たちの中に石化病の兆候が見える者が出始めたのだ。
「そんな、信仰ある者はかからないはずでは……?」
「伝染病が変異したんじゃないか?」
街では、人々が自分にはちゃんと信仰心があると自負していたのに石化の兆候が見られるように慌てふためいて、神殿で祈るようになっていた。
だが、発病した者が祈るのを見て、伝染ることになると思った者たちが、そんな彼らを神殿から出て行くように言い始めたのだ。
ヴィルヘルミーネは、そんなことになっているとは知らずに祈っていたせいで、それまで熱心に祈っていた者たちが、減って行くことを不思議に思っていた。
そんな時に神殿の前で騒ぐ面々を見つけた。
「何をしているのです?」
「聖女様」
「何で、私たちが石化するんですか?!」
「え?」
「信仰心はあるのに何で発病するのですか?!」
「それは……」
「はっ、そんなのわかりきってることだ。お前たちの信仰心が本物ではなかったからだ。わかったら、帰れ」
「何を言ってるんですか? お祈りに来られたのなら、中に……」
「聖女様。ここは、神殿ですよ? 石化するような者を祈りの場になどいれたら、場が穢れるだけです」
「っ、」
その神官は、以前までそんなことを言う者ではなかった。ヴィルヘルミーネは、それを聞いて物凄く驚いてしまった。
(私が、ここに来た時に色々よく教えてくださった方なのに)
「そんなことあるものか。石化は、祈りでも完治すると医者は言っていた。そういう者こそ、中で祈るべきだ」
ヘルムフリートも騒ぎを聞きつけてやって来たようで、彼の言葉にヴィルヘルミーネも頷いていた。
「私も、お医者様にそう聞いています。お祈りをして、己の心を見つめ直してみてください。私も、皆さんの石化が治ることをお祈りします」
石化が見られる者たちは、それに涙した。でも、石化していない者たちは、一緒にいたくないと祈りの場から出て行く者が少なからずいた。
その日から、あの神官を祈りの場で見かけることはなかった。
「この街の者でも石化が始まるとは……」
「信仰心だけでは、足りないものがあるのかも知れませんね」
ヴィルヘルミーネは、思案した。石化をしなかった医者も、ここに来て、石化し始めた者も出始めたようだ。
(信仰はあっても、何かが足りないから石化が進行しているようね。共通点は、何かしら?)
そんなことを思いながら、祈っていた。
石化を始めた者が多くなり始めていた。その石化が早いものは、祈っても無駄だと言っていて、神は助けてもくれないと騒ぎ立てている者だった。
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