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しおりを挟むそれを聞いたサヴァスティンカとアウレリューは、何とも言えない顔をすることになった。
それでも、次の日からアウレリューは留学生として学園に通うことになり、サヴァスティンカも学園を案内するのに忙しくした。
「サヴァスティンカ嬢!」
「?」
「よかった。やっと見つけた」
「??」
サヴァスティンカは、突然呼び止められて首を傾げた。約1年ぶりに学園に来たのだ。それをやっと見つけたと言われたのだ。誰かと間違えているのかと思いつつ、名前は合っているため、どこの子息だろうかと頭の中をフル回転させた。
「サヴァスティンカ。どなただ?」
「えっと……」
「は? そっちこそ、誰だ? 随分と馴れ馴れしいな」
「あの、こちら隣国の第2王子アウレリュー様ですけど」
「へ? お、王子!?」
「それで、そちらは?」
「こ、ラカトゥシュ侯爵家の3男アルサルイスです」
それを聞いて、あぁと思った。サヴァスティンカは、やっと顔をちゃんと見た気がした。
「私との婚約を白紙にした方でしたか」
「っ、あ、いや」
「へぇー、そうか。話は聞いているよ。サヴァスティンカとの婚約を白紙にしてくれて、ありがとう。おかげで、私が素晴らしい女性と婚約できた」
「は? え?」
「今、彼女の婚約者は、私だ」
「はぁ? 私がいながら、婚約したのか!?」
「「は?」」
アルサルイスの言葉にサヴァスティンカとアウレリューは、間抜けな声を出してしまった。
「私がいながら? おかしなことを言うな。君から、婚約を白紙にしろと言ったのだろ?」
「っ、あれは、間違えただけで、撤回しようとしていたんだ!」
「もう、かなり経ちますけど? それにあの時のことで、謝罪も聞いていません。特待生のクラスメイトの方々には謝罪なさったのですよね?」
「は? 謝罪? 何で、そんなことするんだ?」
「……なら、私と婚約者には?」
「?」
「今既に物凄く失礼なことをされているのだが、その謝罪はないのか?」
「は? いや、謝ることなんて何も……」
「私は、隣国の第2王子だ。その婚約者に貴様がいるのにと言っただろ? 誤解を招くし、失礼だとは思わないのか?」
アルサルイスは、慌てふためいて逃げて行った。アウレリューは呆れた顔をしていた。サヴァスティンカも、深いため息をついてしまった。
次男のオーレルが勘当されたとは聞いたが、3男の話を聞いていなかったのだ。まさか、婚約をまたしようとしていたとは誰が思うだろうか。あの調子で、特待生のクラスでもうろちょろしていたのだろう。
だが、3男のアルサルイスは特待生のクラスメイトを休み時間ごとに移動して、授業に間に合わずにそれをどうにかしようとして、授業が終わってもいないのに出て行こうとしたりして授業態度が悪くなり、成績も落ちる一方となっていたことで、貴族ばかりのクラスから平民たちの多いクラスに落ちてしまったようだ。
そこからだと特待生のクラスメイトまで、さらに遠いことで、問題行動ばかりとなり、ラカトゥシュ侯爵家は次男がいなくなったのにアルサルイスのせいで大変なことになっていたようだ。
それでも、サヴァスティンカと婚約すれば何とかなると思っていたようだ。もはや、何ともならない状況に自分を追い込んでいるというのに彼は全く気づいていなかったようだ。
そのせいで、ラカトゥシュ侯爵夫人は至るところでアルサルイスのことを持ち出され笑われることになり、それに仕返しするのも追いつかないほどになっていて、ラカトゥシュ侯爵は長男であるクリストフォルの婚約が頓挫しそうになっているのを理由に離縁しようとしているようだ。
まぁ、夫人を離縁したところで、今回のことを知ったら、クリストフォルの婚約も上手くいくかはわからない。なにせ、王子に謝罪すらせずに消えたのだ。
それを知って、クリストフォルはいち早く詫びに現れた。それにアウレリューは……。
「全く似ていませんね」
「アウレリュー様」
「あ、いや」
「いいんだ。サヴァスティンカ嬢、よく言われる。次男と3男は、母親と母方に似ている。だが、その下の弟たちは、凄くいい子たちなんだ」
「それでしたら、あなたとお父様に似られたのでしようね」
「あぁ、厄介なのが、みんないなくなったから、似ることはないはずだ」
クリストフォルの言葉にサヴァスティンカとアウレリューは、何とも言えなかったが苦笑した。
アウレリューは、侯爵家の長男のクリストフォルに共感を覚えたようだ。だが、クリストフォルの婚約者になりそうな令嬢とその家は、面倒はごめんだとばかりに婚約の話をなかったことにした。
それを知ってアウレリューは、とっておきの令嬢がいると紹介したのは、王子の従妹のペルセフォニアだった。サヴァスティンカも、隣国で紹介されて仲良くなっていた。
そんな2人は、初対面でお互い見惚れあってしまっていた。
「大丈夫そうですね」
「あいつの好みだからな。よかった。あいつ、あちらでは友達がいないんだ」
「え? ですが、いつも、ペルセフォニア様の周りに人がいたように見えましたが」
「あれは、上辺だけだ。本音で話していたのは、私とサヴァスティンカくらいにだけだ」
「……」
「私が婿入りすると知って、自分もルーニア国に嫁に行きたいから、良さげな人を探してくれと言われていたんだ」
「まぁ、そんなことをペルセフォニア様が?」
「俺の見る目はあてにできそうだ。他は微妙な時もあるし、質問攻めにはあいたくないそうだが」
それにサヴァスティンカは笑ってしまった。
ラカトゥシュ侯爵には、感謝された。サヴァスティンカの父も、ラカトゥシュ侯爵家の長男であるクリストフォルのことを気にかけてあたらしく、父親同士で随分と仲良くなったようだ。
サヴァスティンカは、幸せそうにする2人を見ながら、アウレリューと時に喧嘩の仲裁をしたりしながら、お互いが仲睦まじく理想の家庭を築くことができた。
笑顔溢れる日々の中には、血の繋がりのないもうお義祖父とは呼べない方もいた。1人娘とその孫を勘当したのだが、サヴァスティンカたちが何かと寄り添い続け、母の話を良くしてくれた。
時折、母と仕草が似ているように思えたが、きっと母が実の父親以上に懐いていたから、似たのだろう。
それ以上に深く追求することはしなかった。サヴァスティンカは、誰もが羨む人生を送ることができたのだった。
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