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4、呪いの悪化
しおりを挟む週末明けにリンベルは、試練をただの呪いのように返していたようで、見事に悪化させていた。
身動き一つで授業中に動物の鳴き声がバラエティーにとんで聞こえた。
(まるで、動物園にいるみたいね)
ロメリアは、耳を澄まして目を閉じて、そんなことを思っていた。
リンベルには、そんな余裕など全くない。石のように身動き一つしないようにしていたが、授業の大事なところで、ニャーだの。ワン!だのと鳴くのだ。とんでもない合いの手だ。
それに本人は、慣れていなくて赤面して縮こまっていた。
動物園にいるような鳴き声のオンパレードが、しばらくするとしなくなった。
(鳴き声から、次は何になるのかしら?)
そんな疑問に負けて、ロメリアはリンベルとバンダカを観察することにした。
鳴き声の次は、痒みを伴い始めたようだ。リンベルも王太子も、腕や首筋をよく掻いているのを見るようになった。
(鳴き声の次は、痒みなのね)
その痒みから逃れたくて、2人は既に試練ではなく、本当の呪いにしか思えなくなったそれを返し続けたことで、グレードアップするのが早かった。
次は、痛みを感じるようになっているのか、お互い顔色がよくなく、お腹を抑えていることが増えた。
(数日で、ここまで悪化させられるのは、ある種の才能よね)
ロメリアは別の意味で2人を感心してしまった。
あの、試練と長らく、そのままにしてきた強者と最短で悪くさせていく2人。似た者同士でお似合いといえなくもない。ロメリアとは合わないのも、頷ける結果だ。
だが、静かになったことで、呪いに打ち勝ったと周りに思われていた。リンベルの取り巻きたちは、彼女を褒めちぎっていた。
「さすがはリンベル様ですわ!」
「そ、それほどでは、ありませんわ」
「呪いをこんなにも早く消せるなんて、お2人のことを精霊王様も、お認めになられたのね」
「こんなに早く消せるものを10年も、何も変えられなかったなんて……、信じられませんわね」
「っ、そ、そうよね。私も、そう思うわ」
王太子の側近たちも婚約者を替えて正解だったように話していた。
「よく10年も、我慢していたな」
「本当だ。授業妨害もいいところだった。大して美人でもなかったしな」
「それに比べて、今のリンベル嬢は美人で、羨ましい」
「た、大したことではないさ」
そんな話をロメリアによく聞こえるように話していた。
バンダカとリンベルは、ちらっとロメリアを見ていたが気にもしていなかった。
(確かに授業妨害をしていたわよね。それに彼女が美人なのも間違ってないわ。やっぱり、男性からしたら、美人な方がいいのかしら?)
美人ではないことにため息が出そうになって物思い耽っていたロメリア。彼女の周りにいた令嬢は、ショックを受けているのだと勘違いしていた。
「……許せませんわ」
「ロメリア様、あんな連中の言ったことなど、お気になさらないで」
「そうですわ。物凄く腹が立ちますけど」
「皆さん、ありがとう。でも、私が不甲斐ないからいけなかったのよ」
友達は憤慨していたが、ロメリアの考えていることが、別なことだとは誰も思っていなかった。
今やリンベルたちは試練から本格的な呪いへと進化したそれは、もはや他人事だと関わらないでいたのだが、あちらから声をかけられてしまった。
「ロメリア。ちょっと、いいか?」
「王太子殿下。私に何のご用でしょうか?」
「呪いのことだ」
「その話は、出来ません。ご存じのはずです。一番初めに精霊王と約束したではありませんか。ご質問があるのなら、直接、精霊王にお聞きになってください」
「い、いや、だがな。精霊王も、お忙しいだろうし……」
「あら、私が婚約者の時は、時折、お祈りの合間に来られては、この国のことで変わったことはないかと聞かれましたけど? リンベル様のところにも来られているのではありませんか?」
「え?」
「そうなのか?」
王太子は、リンベルに尋ねるが、困惑した顔をしていた。
「あ、いえ、その……」
「そもそも、きちんと精霊王にご報告はお済みなのですか?」
「っ、失礼な! そんなこと、破棄されたあなたには関係ないことですわ!」
「そうですね。失礼しました。では、こう言った質問も今後はなさらないでください。私には、もう関係ないことですので」
「っ、!?」
バンダカも、リンベルは眉を顰めて、それ以上は聞いてはこなかった。
(あの調子では、声も聞こえなかったようね。どこまで悪化させるのかしら?)
そんなことを思いながら、2人の背中を見送った。
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