試練が必要ないと言われたので、妖精王と楽しくお喋りすることにしました

珠宮さくら

文字の大きさ
4 / 6

4、呪いの悪化

しおりを挟む

週末明けにリンベルは、試練をただの呪いのように返していたようで、見事に悪化させていた。
身動き一つで授業中に動物の鳴き声がバラエティーにとんで聞こえた。


(まるで、動物園にいるみたいね)


ロメリアは、耳を澄まして目を閉じて、そんなことを思っていた。

リンベルには、そんな余裕など全くない。石のように身動き一つしないようにしていたが、授業の大事なところで、ニャーだの。ワン!だのと鳴くのだ。とんでもない合いの手だ。
それに本人は、慣れていなくて赤面して縮こまっていた。

動物園にいるような鳴き声のオンパレードが、しばらくするとしなくなった。


(鳴き声から、次は何になるのかしら?)


そんな疑問に負けて、ロメリアはリンベルとバンダカを観察することにした。

鳴き声の次は、痒みを伴い始めたようだ。リンベルも王太子も、腕や首筋をよく掻いているのを見るようになった。


(鳴き声の次は、痒みなのね)


その痒みから逃れたくて、2人は既に試練ではなく、本当の呪いにしか思えなくなったそれを返し続けたことで、グレードアップするのが早かった。

次は、痛みを感じるようになっているのか、お互い顔色がよくなく、お腹を抑えていることが増えた。


(数日で、ここまで悪化させられるのは、ある種の才能よね)


ロメリアは別の意味で2人を感心してしまった。
あの、試練と長らく、そのままにしてきた強者と最短で悪くさせていく2人。似た者同士でお似合いといえなくもない。ロメリアとは合わないのも、頷ける結果だ。

だが、静かになったことで、呪いに打ち勝ったと周りに思われていた。リンベルの取り巻きたちは、彼女を褒めちぎっていた。


「さすがはリンベル様ですわ!」
「そ、それほどでは、ありませんわ」
「呪いをこんなにも早く消せるなんて、お2人のことを精霊王様も、お認めになられたのね」
「こんなに早く消せるものを10年も、何も変えられなかったなんて……、信じられませんわね」
「っ、そ、そうよね。私も、そう思うわ」



王太子の側近たちも婚約者を替えて正解だったように話していた。


「よく10年も、我慢していたな」
「本当だ。授業妨害もいいところだった。大して美人でもなかったしな」
「それに比べて、今のリンベル嬢は美人で、羨ましい」
「た、大したことではないさ」


そんな話をロメリアによく聞こえるように話していた。
バンダカとリンベルは、ちらっとロメリアを見ていたが気にもしていなかった。


(確かに授業妨害をしていたわよね。それに彼女が美人なのも間違ってないわ。やっぱり、男性からしたら、美人な方がいいのかしら?)


美人ではないことにため息が出そうになって物思い耽っていたロメリア。彼女の周りにいた令嬢は、ショックを受けているのだと勘違いしていた。


「……許せませんわ」
「ロメリア様、あんな連中の言ったことなど、お気になさらないで」
「そうですわ。物凄く腹が立ちますけど」
「皆さん、ありがとう。でも、私が不甲斐ないからいけなかったのよ」


友達は憤慨していたが、ロメリアの考えていることが、別なことだとは誰も思っていなかった。


今やリンベルたちは試練から本格的な呪いへと進化したそれは、もはや他人事だと関わらないでいたのだが、あちらから声をかけられてしまった。


「ロメリア。ちょっと、いいか?」
「王太子殿下。私に何のご用でしょうか?」
「呪いのことだ」
「その話は、出来ません。ご存じのはずです。一番初めに精霊王と約束したではありませんか。ご質問があるのなら、直接、精霊王にお聞きになってください」
「い、いや、だがな。精霊王も、お忙しいだろうし……」
「あら、私が婚約者の時は、時折、お祈りの合間に来られては、この国のことで変わったことはないかと聞かれましたけど? リンベル様のところにも来られているのではありませんか?」
「え?」
「そうなのか?」


王太子は、リンベルに尋ねるが、困惑した顔をしていた。


「あ、いえ、その……」
「そもそも、きちんと精霊王にご報告はお済みなのですか?」
「っ、失礼な! そんなこと、破棄されたあなたには関係ないことですわ!」
「そうですね。失礼しました。では、こう言った質問も今後はなさらないでください。私には、もう関係ないことですので」
「っ、!?」


バンダカも、リンベルは眉を顰めて、それ以上は聞いてはこなかった。


(あの調子では、声も聞こえなかったようね。どこまで悪化させるのかしら?)


そんなことを思いながら、2人の背中を見送った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者に愛されたいので、彼の幼馴染と体を交換しました【完結】

小平ニコ
ファンタジー
「すまない。でも、全部きみのためなんだ」 ランデリック様はそう言って、私との婚約を解消した。……許せない、きっと、『あの女』にたぶらかされたのね。半年ほど前から、ランデリック様のそばをウロチョロするようになった、彼の幼馴染――ウィネットに対する憎しみが、私に『入れ替わり』の呪文の使用を決意させた。 『入れ替わり』の呪文は、呪文を唱えた者と、使用対象の心を、文字通り、『入れ替え』てしまうのである。……呪文は成功し、私の心はウィネットの体に入ることができた。これからは、私がウィネットとなって、ランデリック様と愛を紡いでいくのよ。 しかしその後、思ってもいなかった事実が明らかになり……

【本編完結】真実の愛を見つけた? では、婚約を破棄させていただきます

ハリネズミ
恋愛
「王妃は国の母です。私情に流されず、民を導かねばなりません」 「決して感情を表に出してはいけません。常に冷静で、威厳を保つのです」  シャーロット公爵家の令嬢カトリーヌは、 王太子アイクの婚約者として、幼少期から厳しい王妃教育を受けてきた。 全ては幸せな未来と、民の為―――そう自分に言い聞かせて、縛られた生活にも耐えてきた。  しかし、ある夜、アイクの突然の要求で全てが崩壊する。彼は、平民出身のメイドマーサであるを正妃にしたいと言い放った。王太子の身勝手な要求にカトリーヌは絶句する。  アイクも、マーサも、カトリーヌですらまだ知らない。この婚約の破談が、後に国を揺るがすことも、王太子がこれからどんな悲惨な運命なを辿るのかも―――

義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜

reva
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。 「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」 本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。 けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。 おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。 貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。 「ふふ、気づいた時には遅いのよ」 優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。 ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇! 勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!

ずっと嫌なことと迷惑なことしかしてこなかった父とは縁を切りますね。~後は一人寂しく生きてください~

四季
恋愛
ずっと嫌なことと迷惑なことしかしてこなかった父とは縁を切りますね。

王太子殿下の拗らせ婚約破棄は、婚約者に全部お見通しです

星乃朔夜
恋愛
王太子殿下が突然の“婚約破棄宣言”。 しかし公爵令嬢アリシアの返答は、殿下の想像の斜め上だった。 すれ違いからはじまる、恋に不器用な王太子と すべてお見通しの婚約者の、甘くて可愛い一幕。

紅の髪のせいで理不尽な目に遭わされてばかりでしたが、婚約破棄の向こう側に出会いと幸せがありました。

四季
恋愛
紅の髪のせいで理不尽な目に遭わされてばかりでしたが、婚約破棄の向こう側に出会いと幸せがありました。 生きていて良かったです。

あなたの罪はいくつかしら?

碓氷雅
恋愛
 公爵令嬢はとある夜会で婚約破棄を言い渡される。  非常識なだけの男ならば許容範囲、しかしあまたの罪を犯していたとは。 「あなたの罪はいくつかしら?」 ・・・ 認証不要とのことでしたので感想欄には公開しておりませんが、誤字を指摘していただきありがとうございます。注意深く見直しているつもりですがどうしても見落としはあるようで、本当に助かっております。 この場で感謝申し上げます。

まさか、今更婚約破棄……ですか?

灯倉日鈴(合歓鈴)
恋愛
チャールストン伯爵家はエンバー伯爵家との家業の繋がりから、お互いの子供を結婚させる約束をしていた。 エンバー家の長男ロバートは、許嫁であるチャールストン家の長女オリビアのことがとにかく気に入らなかった。 なので、卒業パーティーの夜、他の女性と一緒にいるところを見せつけ、派手に恥を掻かせて婚約破棄しようと画策したが……!? 色々こじらせた男の結末。 数話で終わる予定です。 ※タイトル変更しました。

処理中です...