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「運命の相手を見つけた。彼女との未来にお前は邪魔でしかない。婚約は破棄する。二度と俺の前に現れるな」


突然のことだった。婚約者のルトリにドレスを贈るどころか、エスコートすらしたことがない最低最悪な男、ドルムはわけのわからないことを言い出した。


(それを言いたいのは、こっちよ。婚約者だというのにエスコートしたことなんて一度もないじゃない! 現地集合。現地解散だなんて、どういう教育受けて来たのよ!)


しかも、学園の食堂で、わざわざ破棄を言い出すドルムの気がしれない。物凄いドヤ顔も何なのだろうか。


(どうせ、格好良く破棄を言った自分に酔いしれてるのでしょうけど。みんな、食事を楽しみたいのよ。相変わらず、空気読めない男ね)


面倒でしかなくて、きっちり嫌味と共に破棄を了承したが、それがドルムに通じるわけもなかった。



家に戻るなり両親や義弟のキライに報告した。普段、優しい家族が私の話を聞くうちに笑顔なのに目が笑っていなくて、部屋の温度が低くなった気がする。


「義姉上」
「何かしら? キライ」
「殺しましょうか?」


キライは、とてもいい笑顔で恐ろしいことを確認してきた。この義弟を初対面の人間は、女性と間違えることが多い。可愛らしく整った顔立ちをしている。
騎士となるべく訓練を受けているが、筋肉がつきにくい体質なようで、華奢だ。それでも、騎士になるべく訓練を受けている中では一番強く、見た目から“姫騎士”と呼ばれるほど、絶世の美少女っぷりをしている。
既にどこの騎士団に配属にするかで、将軍たちが躍起になるほどの逸材だ。

まぁ、見た目から癒やしを求めてもいるのもあるのだろう。不埒なことなど考えるだけならまだしも、実行したら痛い代償を払うことになる。彼は細腕で、容易く大男を投げ飛ばせるのだ。
それを教えたのは、何を隠そう。義姉のルトリだ。


「駄目よ」
「ですが、義姉上を侮辱した奴です」
「殺るなら、私が殺るわ。誰の手も煩わせたりしない」


義弟の剣をあんな馬鹿な男の血で染めるなんて出来ない。キライは騎士となるのだ。国王とこの国のために使う剣を私事に使うなんて絶対にさせられない。


婚約破棄は、すぐに処理された。ドルムの両親は、息子のしたことに最初、何かの間違えだと言っていたが、その息子が“運命の相手を見つけた”と繰り返し言うので、観念したようだ。慰謝料を払うことになったあとには、息子の意中の相手を探す手筈を母親の方は考えていたほどだ。とことん、息子に甘い。


(まぁ、私の家族も、そうだけど)


ルトリの両親は射殺しそうな目でドルムを見ているが、夢見る乙女のような彼とそっくりな両親は全く気づいていなかった。何とも幸せなことだ。



あれから、傷物令嬢として噂のまとになるのを避けていたのだが、引きこもりすぎていては勿体ないと義弟が用意してくれたドレスにつられてパーティーに出た。やはり、しっかりとエスコートする殿方と出ると全然違う。キライは飽きさせないように色んな話題をふってくるから、楽しくてしかたがなかった。

元婚約者が現れる前までは。


「やっと会えた。私の運命の人」
「?」
「障害でしかないこの女に何かされているのか? なかなか会えなかったのも邪魔していたんだな。なんて、女だ。さっさと消えろ!」


(気分が台無しだわ)


「……先程から黙って聞いていれば、ずいぶんと失礼な」
「ん? あぁ、こいつなんかを女性扱いすることはない」


よく聞いているとドルムの“運命の相手”とやらは、義弟のことのようだ。


(着ている服を見て、何で、女性だと思っているのかしら? 不思議だわ)


男だと言っても冗談だと思って埒が明かない。片膝をついて、本気でプロポーズを始めたのに会場の空気は、何かの余興か?と思っていたところから、笑えないという空気になってきていた。
“姫騎士”の恐ろしさをよく知っているのだろう。将軍や騎士たちが、女性扱いしていることに殺気だち始めている。見た目ではなく、実力を認めているのだ。

そこにドルムの友人が取りなそうと割って入ってきてくれた。


「おいおい、ドルム。笑えない冗談はよせ。お前、死にたいのか?」
「貴様こそ、ここで話しかけるな! 俺は一世一代の求婚をしてるんだ!」
「本気なら、もっと質悪いだろ。そいつ、男だぞ」
「だから、」
「えぇ、僕は彼の言う通り男です」
「は?」


どうやら、顔にしか目がいってなかったらしい。キライの服装を見て、男の癖に女と間違えられる方がおかしいと言い出して、更にこの会場の空気は悪くさせた。


「私だけでは飽き足らず、義弟まで侮辱するのね」
「は? 義弟??」


ぞくりとする殺気の出どころに騎士たちの何人かが目を丸くした。
騎士以外の者たちは、殺気に気を失う者や立っていられずにしゃがみ始めるが、ルトリは目の前の無礼な男が許せなかった。


「お前のような男に騎士の剣を汚させるなど、論外よ。何とも腹正しく、嘆かわしいのかしら」


義弟だけが目を輝かせて、熱っぽく激昂するルトリを見ていた。


ドルムは、女相手に決闘をすることになった。


「今なら、土下座したら、許してやらなくもないぞ?」
「あら、私は、土下座しても許してやれないわ」
「剣すら持てないひ弱な腕でか?」
「あなたのような男を潰すのに剣など勿体ないだけよ」


ドルムは扇子一本で、ルトリにボコボコにされることになり、女性にボロ負けしたことを馬鹿にされ続けることになった。


あの決闘を見て、騎士団の婚約者の居ない者たちからの釣書が届いたが、その相手を片っ端から片付けたのが、キライだった。

血の繋がりはないため、義弟はルトリの婿となり、最強夫婦として恐れられることになる。


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