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しおりを挟むじっと見ているとにゅっと爪が伸びていた。
「一本、切り忘れてたみたいだわ」
「……そうみたいだね」
千沙都は爪を確認して、そんな会話をしていたのがお気に召さなかったようだ。アインシュタインの機嫌が悪くなって、暴れたのだ。母も同じく引っ掻かれることになった。そして、千沙都までも引っ掻かれるはめになった。たった一本切り忘れただけで、とんでもない被害にあったものだ。
あれは、アインシュタインからしたら、何見てるんだと言いたかったに違いない。それか、一本でもやろうと思えばやれるのだと言いたかったのかも知れない。
まぁ、何はともあれ、朝の麻呂サン情報に千沙都の家族みんなが事欠くことはなかったのは、確かだ。
猫好きが、犬好きなはずなのにおかしすぎる家族の愛犬の心配をしているのだ。そんな風に心配されていることを一希の一家の誰かしらが気づく気配は今のところない。
まぁ、期待してはいないのだが、改善される可能性があれば千沙都たちももっと色々アプローチしているが、それは無理だと思っているから、こんな風に間接的に麻呂サンを気にかけているのだ。
それよりも一体、どうやって一希一家のことを察しているのかが気になるところではあったが、アインシュタインは涼やかな顔のままで、そのことでドヤ顔することもなかった。
時間調整をするのに邪魔をするアインシュタインに構われている父と兄を思うと羨ましすぎてならないが。
(まぁ、でも、母さんもやってもらったことないはず)
そして、父や怜久だけを羨ましいと思っていて、母も千沙都と同じ気持ちだと思っていたが……。
「アインシュタイン。お財布を枕にするのはやめてちょうだい。ママ、買い物に行けないわ」
「……」
出しっぱなしの母の財布やスマホを枕にして眠る愛猫の姿を見ることになり、千沙都は自分だけが持ち物の上で寝られたことがないことを思い知ることになって、愕然とした。とんでもない敗北感が千沙都を襲っていた。部活では、負け知らずと思われていたようだが、部活以外では呆気なく負けることもよくあった。
いたたまれない気持ちで落ち込んでいるとアインシュタインが何かを察したのか側に寄ってきてくれた。
「アインシュタイン」
その目は、何も落ち込むことないと物語っているように千沙都には見えた。何もかも承知の上で慰めてくれようとしている。思わず感激して抱き上げようとしていたら……。
「アインシュタイン。ご飯よ~」
「なぁ~」
「え……?」
母の声にアインシュタインは、機敏な動きで千沙都の手から逃れて、ご飯を食べに行ってしまった。
「……」
愛猫を抱き上げようとした千沙都の手は一瞬で行き先を失うことになってしまった。去りゆくアインシュタインの尻尾が、揺らめいている。
(ご飯に負けた。……可愛い。けど、辛い。私は、ご飯よりは下ってことね)
それで、益々落ち込んでしまい、ご飯を食べ終えた後に千沙都を慰めようとアインシュタインは近寄って来るも、他の家族に遊ぶとか、おやつと言われてそれに反応したりして、慰めようとしてはくれているのだろうが、その優先順位の低さを思い知ることになって、千沙都はその都度凹むことになったが、そのうち開き直るのも早かった。
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