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しおりを挟む兎を飼うことになったのは、私が保育園を選んだきっかけだったりする。
「さっきの幼稚園は、どう?」
「あそこは、やだ」
「そう。じゃあ、他を探してみるわね」
近くで、評判の幼稚園に母に連れられて見学に行った。母子の会話だ。
幼稚園の先生が、見学も兼ねて中の遊具で遊んでもいいと声をかけてもらっても、私はじっと遊具を見ているだけで、幼稚園の遊具の方には、決して行こうとしなかった。ましてや幼稚園の敷地に入りたがらなかったのだ。
人見知りも、ちょっぴりあったのだろう。一人遊びも得意な子供だったが、その時の私は中に入る気がなかったのだ。子供ながらに何かしらを察知したのだろう。
私は、全く覚えていないが。母は、そう直感したようだ。
母は、そうなった我が子の扱いに慣れていた。嫌だということを絶対にしない。頑固な一面を話をする前から発揮していたのだ。
母は、幼稚園のパンフレットやらをその人から一式もらって帰宅をしながら、尋ねた我が子があそこは嫌だと答えたことで、別のところを探してくれたのだ。
何が嫌なのかは説明しなくとも、そういうところで強制的に無理矢理あーしろ、こーしろということはしない母だったから助かった。
どうしても、そうしなければならないことは、しっかりと説明してくれた。それこそ、幼稚園や保育園に行かねばならない理由も、きちんと説明してくれ、あの頃の私なりにちゃんと理解をしていた。
だから、預けられて泣くなんてことは一度もしなかった。逆に泣いて親と離れたくないと騒ぎたてる子供を見つけては、何度となく、なぜ泣くのかと話しかけ、ここで待っていれば、遅くなろうとも必ず向かえに来てもらえる。その間、遊ぼうと泣いている子の涙を拭きながら話して、納得させて、園の中に入って行くのだ。
子供というのは、大人に言われるより、同年代の子供から話をされると納得するところが多いのかも知れない。
私の母は約束は絶対だとして、破るような人ではなかったこともあり、同じ説明を別の子にした程度だったが、泣いて暴れていたのが、嘘のように落ち着くのだから不思議だ。
もっとも、約束していても、緊急時は別だ。急に呼び出されて仕事に行かねばならない職種だった父のこともあり、母が迎えに来れない時は、祖母が来てくれて、我が家から近い祖父母宅にいることもあったが、仕事は大事なものだと教えられていたから、約束を故意に破ったうちには入らなかった。
「どうだった?」
「嫌だって」
「そうかい? 評判はいいとこなのにねぇ」
見学から祖母のところに寄った時に母と祖母が、そんな会話をしていた。
そして、しばらくして、数年前に出来たという保育園に見学に行った。そこで、飼われていたのが、兎だったのだ。
「うさぎさんだ!」
「あら、本当ね」
「良かったら、中に入って見ていいですよ」
親子の会話が聞こえたらしく、中から出て来た年配の女性が声をかけてくれた。
「どうする?」
「うさぎさん、見る」
兎を近くで見たいがために中に入った私は、兎に大興奮している間に母は必要書類を受け取っていた。
「もっと、ゆっくりして見てていいのよ?」
「ううん。もういい」
私は、首を振り、お礼を言って帰宅した。
「あそこは、どう?」
「あそこなら、いいよ」
決して兎だけにつられたのではない。もっとも、兎を飼うきっかけになったのは、あの、兎を見たからではあったが。
こうして、のちに頼み込んで飼ってもらった兎だが、その兎に私が好かれることはなかった。
リードをつけて散歩する時も、私がリードを持つと途端に動かなくなるのだ。餌を用意してくれている大人を見分けて、従っていたように思えた。何とも賢い兎だ。
そのせいで、保育園の兎を更に可愛いがることになった私。誰にでも人懐っこい保育園の兎と賢すぎて融通のきかないというか。愛想の欠片もない我が家の兎。
環境のせいというより、もはや兎の性格だろう。
(兎が寂しくて死ぬなんてことはない)
私が、得たのは、それくらいだろうか。
そのせいで、次にまた、兎を飼いたいということには二度とならなかった。
もちろん、兎小屋も作ってくれたのは、祖父だ。
それこそ、孫が世話しやすくて、見やすいような背丈で作ってくれていたように思う。
でも、その丁度良さを私が有効活用できたわけではなかったのは、今思い出すとそこが、申し訳なかった。
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