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第3話:小心で臆病な男、不可能を可能にする
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そうして次の日の放課後……再び彼らは鉄壁を超えるタングステン製の要塞こと、野亥 女子生徒と対峙していた。
「うっ……ぐ、はぁっ……!」
『おい、大丈夫なのか?』
「へへっ、これくらい……銭湯で全裸のジジイが腰を振りながら乱入してきた時にくらべればどうってことないぜ……! ちなみに、客は俺一人だったから本気で怖かった……」
『お、おう………それは……大変だったな……』
過去のトラウマを見つめなおすことで、昨日の傷から目をそらすことに成功。
それはそれとして学校で彼女を見る度にスリップダメージは入っていたが、なんとか対峙できるまでには回復していた。
『さて、作戦の方向性そのものは前と同じだ。可哀相だと抜けないなら、そう思わないようにすればいい』
「それやって火傷どころか火達磨になったんスけど……」
『どこぞの聖女のようにか? うむ、お前も同じことができるか試してやろう』
「ほわぁぃっ!?」
驚き戸惑う神小を無視し、開発者の男は説明を続ける。
『右の頬をぶたれたら左の頬を差し出せ、ある聖人はそう言った。だがそんなことができる人間がいると思うか? いいや、居ない! 悪意を向けられれば悪感情を持つのが人間だ。つまり、お前が襲っても可哀相だと思わないくらいにあの女を悪者に仕立てればいいのだ!』
「悪者って、何させる気ですか!? 野亥さんにサメの頭を増やしたり足を生やしたり飛ばしたり温泉に出したりするんですか!?」
『違う! というか何だそれは!? 善悪の向こう側にある怪奇現象を持ち出すな!!』
彼にとっての悪いことの線引きがどうしてサメ基準になっているかはさておき、開発者の男は違うと否定し、その答えを言う。
『女ァ! こいつにあらん限りの罵倒を投げつけろッ!!』
「……………はい」
人類という名の猿は木の棍棒で殴り合っていた。
そして今は"正義の棍棒"で殴り合っている。
それを逆手にとり、"悪者には何をしてもいい"という理由を彼から引き出そうとしているのだ。
要は生意気だけど可愛い女子が"ざぁ~こ♪ ざぁ~こ♪"と馬鹿にして挑発するムーブだ。
これだけを聞けばむしろ興奮するシチュエーションだろう。
しかし―――――。
「筋肉なんてほとんどない、だらしのない身体ですね。無駄に摂取したカロリーを消費せず、ただ腐らせただけ。食べられる分、まだ食用豚の方がマシでは?」
『ぬぉっ……!?』
彼女の言葉の殺傷力は、開発者の男すら引くレベルでガチであった。
「モテないことを理由に顔や髪をケアしてませんね。普通はモテないからこそ気を遣うものですよ。そういった常識的な感性がないからマトモになれない。あなたがモテないのは、あなたの顔のせいではなく、社会性や常識を持ち合わせていないことが理由なのも分からないのですか?」
単純な罵倒ではなく、その人物が突かれたくないであろう傷口を容赦なく言葉の機関銃が火を吹く。
並みの男であれば白旗をあげるどころか無条件降伏することだろう。
だが、この男……神小は違った。
「いやぁ~! 貴重なご意見、誠にありがとうございます!」
野亥の無差別破壊兵器級の罵倒を、そのまま受け流したのだ。
『お、お前……あれが効いていないのか……!?』
「フッ、外見なんて自分でも自覚してるし言われ慣れている! この程度の罵声なぞ、パンチラ演出のそよ風同然! むしろご褒美よ!」
とても胸の張れるようなことではないのだが、ダメージがないことは素直に称賛に値するメンタルだろう。
そんな彼を見て、野亥は切り口を変えることにした。
「女ひとりを襲うのにもいちいち言い訳しないといけないヘタレ。他人に協力してもらっておきながら自分から一歩も踏み出せない臆病者。まだ本能のままに腰を振る動物の方がマシ。動物以下とか、ミジンコですか?」
「グフッ……!」
外見でダメなら内面を責める。
心というものはいくつものペルソナという鎧を纏うことで心を守るのだが、彼女の言葉はその隙間をすり抜け、本心へと突き刺さった。
「自分をいい人のように見せてるけど、本当は勇気がないだけ。本当の自分を曝け出すのが怖いから、嫌われて拒絶されるのが怖いから、笑っておどけて誤魔化してる卑怯者」
「~~~~~~っ!!!!!」
正論を突き刺すどころか、ドリルのように抉っていく。
言葉によるグロでサイコな凄惨な処刑ショーだった。
「だからあなたはこれまで人に好かれたこともないし、これからも誰にも好かれずに一生を終えるんですよ」
「ヵ……コ……ヒュッ……」
神小の呼吸は、もはや蚊の羽ばたきよりも小さくなっていた。
『ウオオオォォ! しっかりしろ、小僧! いくら言葉のナイフでめった刺しにされたとはいえ、所詮は言葉! お前には暴力があるだろう!』
「はぁ……はぁ……! そ、そうだ……俺には………男には……最後の手段がある……! そこまで言ったのなら……無理やり押し倒されても文句はないよなああああぁ!!」
先ほどまで瀕死になっていたとは思えないほどの勢いで、神小が野亥に掴みかかった。
「っ……!」
あまりの迫力に野亥はたじろぐが、神小が怯む理由にはならなかった。
「人には……人には触れちゃいけないところがあるんだ! そこを刺した野亥さんが悪い! 俺は悪くねぇ! 俺は悪くねぇんだ!」
そうして神小は彼女の衣服に手をかけ、無理やり剥ぎ取ろうとし、開発者の男はガッツポーズをした。
そこで気づいてしまった。
彼女の身体が小刻みに震えていることを。
彼女の口元が気丈に振舞おうと引き締められていることを。
彼女の目が……うっすらとうるんでいることを。
言いたくていったわけではないことを、分かってしまったのだ。
「~~~~~~~!! 無理ィッ!!!!!!!」
『なっ……!?』
「やっぱ無理!! こんなん可哀相にしか思えないもん!! こんなんじゃ抜けないよ!!!!」
泣きたいのは野亥の方だと思うのだが、何故か襲う立場のはずの神小の方が男泣きしていた。
『あらん限りの罵倒に晒され! 徹底的に自己を否定され! それでもなお、お前はあの女が憎くないとでも言うつもりかァ!?』
「まぁ……確かに野亥さんのハートブレイクショットな言葉で、文字通りハートがずたずたになったけど、言ってることは全部当たってるし…………それに、よくよく考えたら、言わせたのあんただよな?」
場の空気が一変したことを、その場にいる全員が感じ取った。
『……………私は言ってないぞ』
「でも言わせたよね? なら原因はあんただよね? じゃあ恨むのはあんたってことになるよなぁ?」
そうは言うものの、相手はスマホ越しに話しているだけの男。
直接の手出しなどできるはずもなく、やり返すことなど不可能である。
だが、神小はその不可能を可能にした。
「野亥さん、ちょっとスマホに今から言うURLを入れてほしいんだけど。あ、入れたら画面こっちに見せてね」
「…………いいけど」
そうして神小は、自分のスマホのレンズを表示された画面に向けた。
『いったい何を…………ウオオオオォォアアアアアヌォオオオアアアア!?!?』
今まで常に支配者であるかのような態度をとっていた男が絶叫し始めた。
『なんだコレは!? 何なんだコレは!? お前は何を見せたのだ!?』
「サメの卵ってさ、孵化するまで数年かかったりするのよ。だからそういった貴重な映像が少ないわけ。だから、ある馬鹿が考えたんだ………"そうだ、AIに作らせよう"って」
『卵の孵化だと!? 馬鹿を言うなそんな生易しい映像ではなかっただろうが!! 何故ボディビルダー並の筋肉の鮫が雄同士で交尾してる!? そして卵から孵化した赤子同士がどうして盛り合うのだ!? 他にもワケの分からないものが多すぎて処理できん……ッ!!!!』
「だろうね。だってあれ、まだラーメンを手で食べるころのAIで作られたもんだし」
それは生成AIが産み落とした奇跡だった。
人類の想像では到達しえぬほどの冒涜的なものであり、人類の尊厳に対する罰罪。
一度でも見た者は悪夢として再び見るようになり、カウンセリングを行った精神科すら病ませるほどのものであった。
『グ、ヌオオオォ……! 忘れようにも……意識するほどに焼き付いてくる……! グアアアァァァ! いっそ狂えれば楽になるというのにィ!!』
開発者の絶叫を堪能し、復讐を果たした神小は満足そうに頷くのであった。
そんな様子を見ていた野亥は、生まれて初めて人間に恐れおののいていた。
人は、ここまでになれるのだと。
ただ、身体の震えと涙は止まっていた。
「うっ……ぐ、はぁっ……!」
『おい、大丈夫なのか?』
「へへっ、これくらい……銭湯で全裸のジジイが腰を振りながら乱入してきた時にくらべればどうってことないぜ……! ちなみに、客は俺一人だったから本気で怖かった……」
『お、おう………それは……大変だったな……』
過去のトラウマを見つめなおすことで、昨日の傷から目をそらすことに成功。
それはそれとして学校で彼女を見る度にスリップダメージは入っていたが、なんとか対峙できるまでには回復していた。
『さて、作戦の方向性そのものは前と同じだ。可哀相だと抜けないなら、そう思わないようにすればいい』
「それやって火傷どころか火達磨になったんスけど……」
『どこぞの聖女のようにか? うむ、お前も同じことができるか試してやろう』
「ほわぁぃっ!?」
驚き戸惑う神小を無視し、開発者の男は説明を続ける。
『右の頬をぶたれたら左の頬を差し出せ、ある聖人はそう言った。だがそんなことができる人間がいると思うか? いいや、居ない! 悪意を向けられれば悪感情を持つのが人間だ。つまり、お前が襲っても可哀相だと思わないくらいにあの女を悪者に仕立てればいいのだ!』
「悪者って、何させる気ですか!? 野亥さんにサメの頭を増やしたり足を生やしたり飛ばしたり温泉に出したりするんですか!?」
『違う! というか何だそれは!? 善悪の向こう側にある怪奇現象を持ち出すな!!』
彼にとっての悪いことの線引きがどうしてサメ基準になっているかはさておき、開発者の男は違うと否定し、その答えを言う。
『女ァ! こいつにあらん限りの罵倒を投げつけろッ!!』
「……………はい」
人類という名の猿は木の棍棒で殴り合っていた。
そして今は"正義の棍棒"で殴り合っている。
それを逆手にとり、"悪者には何をしてもいい"という理由を彼から引き出そうとしているのだ。
要は生意気だけど可愛い女子が"ざぁ~こ♪ ざぁ~こ♪"と馬鹿にして挑発するムーブだ。
これだけを聞けばむしろ興奮するシチュエーションだろう。
しかし―――――。
「筋肉なんてほとんどない、だらしのない身体ですね。無駄に摂取したカロリーを消費せず、ただ腐らせただけ。食べられる分、まだ食用豚の方がマシでは?」
『ぬぉっ……!?』
彼女の言葉の殺傷力は、開発者の男すら引くレベルでガチであった。
「モテないことを理由に顔や髪をケアしてませんね。普通はモテないからこそ気を遣うものですよ。そういった常識的な感性がないからマトモになれない。あなたがモテないのは、あなたの顔のせいではなく、社会性や常識を持ち合わせていないことが理由なのも分からないのですか?」
単純な罵倒ではなく、その人物が突かれたくないであろう傷口を容赦なく言葉の機関銃が火を吹く。
並みの男であれば白旗をあげるどころか無条件降伏することだろう。
だが、この男……神小は違った。
「いやぁ~! 貴重なご意見、誠にありがとうございます!」
野亥の無差別破壊兵器級の罵倒を、そのまま受け流したのだ。
『お、お前……あれが効いていないのか……!?』
「フッ、外見なんて自分でも自覚してるし言われ慣れている! この程度の罵声なぞ、パンチラ演出のそよ風同然! むしろご褒美よ!」
とても胸の張れるようなことではないのだが、ダメージがないことは素直に称賛に値するメンタルだろう。
そんな彼を見て、野亥は切り口を変えることにした。
「女ひとりを襲うのにもいちいち言い訳しないといけないヘタレ。他人に協力してもらっておきながら自分から一歩も踏み出せない臆病者。まだ本能のままに腰を振る動物の方がマシ。動物以下とか、ミジンコですか?」
「グフッ……!」
外見でダメなら内面を責める。
心というものはいくつものペルソナという鎧を纏うことで心を守るのだが、彼女の言葉はその隙間をすり抜け、本心へと突き刺さった。
「自分をいい人のように見せてるけど、本当は勇気がないだけ。本当の自分を曝け出すのが怖いから、嫌われて拒絶されるのが怖いから、笑っておどけて誤魔化してる卑怯者」
「~~~~~~っ!!!!!」
正論を突き刺すどころか、ドリルのように抉っていく。
言葉によるグロでサイコな凄惨な処刑ショーだった。
「だからあなたはこれまで人に好かれたこともないし、これからも誰にも好かれずに一生を終えるんですよ」
「ヵ……コ……ヒュッ……」
神小の呼吸は、もはや蚊の羽ばたきよりも小さくなっていた。
『ウオオオォォ! しっかりしろ、小僧! いくら言葉のナイフでめった刺しにされたとはいえ、所詮は言葉! お前には暴力があるだろう!』
「はぁ……はぁ……! そ、そうだ……俺には………男には……最後の手段がある……! そこまで言ったのなら……無理やり押し倒されても文句はないよなああああぁ!!」
先ほどまで瀕死になっていたとは思えないほどの勢いで、神小が野亥に掴みかかった。
「っ……!」
あまりの迫力に野亥はたじろぐが、神小が怯む理由にはならなかった。
「人には……人には触れちゃいけないところがあるんだ! そこを刺した野亥さんが悪い! 俺は悪くねぇ! 俺は悪くねぇんだ!」
そうして神小は彼女の衣服に手をかけ、無理やり剥ぎ取ろうとし、開発者の男はガッツポーズをした。
そこで気づいてしまった。
彼女の身体が小刻みに震えていることを。
彼女の口元が気丈に振舞おうと引き締められていることを。
彼女の目が……うっすらとうるんでいることを。
言いたくていったわけではないことを、分かってしまったのだ。
「~~~~~~~!! 無理ィッ!!!!!!!」
『なっ……!?』
「やっぱ無理!! こんなん可哀相にしか思えないもん!! こんなんじゃ抜けないよ!!!!」
泣きたいのは野亥の方だと思うのだが、何故か襲う立場のはずの神小の方が男泣きしていた。
『あらん限りの罵倒に晒され! 徹底的に自己を否定され! それでもなお、お前はあの女が憎くないとでも言うつもりかァ!?』
「まぁ……確かに野亥さんのハートブレイクショットな言葉で、文字通りハートがずたずたになったけど、言ってることは全部当たってるし…………それに、よくよく考えたら、言わせたのあんただよな?」
場の空気が一変したことを、その場にいる全員が感じ取った。
『……………私は言ってないぞ』
「でも言わせたよね? なら原因はあんただよね? じゃあ恨むのはあんたってことになるよなぁ?」
そうは言うものの、相手はスマホ越しに話しているだけの男。
直接の手出しなどできるはずもなく、やり返すことなど不可能である。
だが、神小はその不可能を可能にした。
「野亥さん、ちょっとスマホに今から言うURLを入れてほしいんだけど。あ、入れたら画面こっちに見せてね」
「…………いいけど」
そうして神小は、自分のスマホのレンズを表示された画面に向けた。
『いったい何を…………ウオオオオォォアアアアアヌォオオオアアアア!?!?』
今まで常に支配者であるかのような態度をとっていた男が絶叫し始めた。
『なんだコレは!? 何なんだコレは!? お前は何を見せたのだ!?』
「サメの卵ってさ、孵化するまで数年かかったりするのよ。だからそういった貴重な映像が少ないわけ。だから、ある馬鹿が考えたんだ………"そうだ、AIに作らせよう"って」
『卵の孵化だと!? 馬鹿を言うなそんな生易しい映像ではなかっただろうが!! 何故ボディビルダー並の筋肉の鮫が雄同士で交尾してる!? そして卵から孵化した赤子同士がどうして盛り合うのだ!? 他にもワケの分からないものが多すぎて処理できん……ッ!!!!』
「だろうね。だってあれ、まだラーメンを手で食べるころのAIで作られたもんだし」
それは生成AIが産み落とした奇跡だった。
人類の想像では到達しえぬほどの冒涜的なものであり、人類の尊厳に対する罰罪。
一度でも見た者は悪夢として再び見るようになり、カウンセリングを行った精神科すら病ませるほどのものであった。
『グ、ヌオオオォ……! 忘れようにも……意識するほどに焼き付いてくる……! グアアアァァァ! いっそ狂えれば楽になるというのにィ!!』
開発者の絶叫を堪能し、復讐を果たした神小は満足そうに頷くのであった。
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