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好きじゃない
8 一章〈1〉③ 階下の靴音
しおりを挟む階段を使用する社員は少ない。
大抵は2~3階に部署がある人がほとんどのようで、4階を過ぎればほぼ無人になったが、俺が所属する営業3課があるフロアにたどり着くためには、まだ上を目指す必要があった。
ようやく5階と6階の間の踊り場に差し掛かった頃、ふと足を止めた。
休憩も兼ねてではあったが、階下から足音が続いてきている気がしたからだ。
うっすらと額に浮き出た汗をワイシャツの袖口で拭い、浅くなった呼吸を整えていく。
カツカツと一定のリズムを刻み、軽やかな音が下から響く。もうそろそろ途切れるだろうと思っていた靴音は、さらに上を目指しているのか、俺との距離を縮めてくる。
どこまで行くつもりなんだろうかと、他人事のように悠長に考えていると、階下から声が聞こえた。
「藤崎?」
「――っ‼」
まさかの問いかけに息を呑む。
確信はないのか、控えめな声量ではあったが、確かに知っている声だった。
止まらない足音が、どんどん近づいてくる。
「……ぁ」
返事を返す代わりに、俺は問いかけには気づかないふりをし、再び階段を上り始める。
駆け上がりたい衝動を抑え、動揺を悟られないように、それでもできるだけ早く足を進めていく。
(なんで、こっちに)
理由がわからない。
ひとまず、6階で一度出てやり過ごそう。人違いだと思ってくれるかもしれない。
そう考え、次の階の出口がもうそこまで――というところで、人影に遮られた。
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