好き逃げ! = 好きですけど、逃げていいですか? × 俺の許容範囲は限界です!(連載版)

m.sei

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好きじゃない

9 一章〈2〉① 掲げた鞄

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《どうして、こうなってしまったのだろう》

 壁際に追いつめられている状況に、頭がついていかない。というより、圧が強すぎて逃げられない。顔も近すぎて直視できない。

(あれ、これっていわゆる、壁ドン状態?)

 気がつけば左右の両側をその腕に塞がれ、逃げ道がなくなっている。

《本当に、どうして、こうなってしまったのか―――》



  * * *

 あと少しと思っていた出口を前にして、ギクリと足が止まる。

(――ひぇっ)

 俺の目の前を通り過ぎ、行く手を遮らんばかりに伸ばされた腕に、一瞬肝が冷える。身を守るように、反射的に持っていた鞄を顔の前に掲げた。

(お、俺の心臓を止める気か⁉)

「藤崎?」

 鞄を掲げたまま固まってしまった俺の名を訝しげに、だが今度はしっかりと呼ぶ声がすぐそばから聞こえる。

 案の定というか、予想していた人物に驚きはしなかったが、まさかこんなにも早く追いつかれるとは思わなかった。

(階段を二段抜きどころか、飛んできたんじゃないのか、この人)

 心臓がいくつあっても足りないと思いつつ、これ以上、上司を無視するわけにもいかない。

 いい加減あきらめた俺は、気持ちを落ち着かせるために、一度大きく息を吸い込みゆっくり吐き出すと、鞄を下ろし、今度はそれを胸に抱え直した。

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