私を捨てたのは貴方達

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第一章 神の子

十三話 甘い蜜

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 ーーー気まずい…

 私は今、食事をしているはずだがはっきり言って食べてる気がしない。
 部屋に入った途端、様々な料理が私の前にあった。匂いがぐちゃぐちゃで、鼻が追いついていない。
 縦に長いテーブルの横に私とシリウス様が座って食べていて、真ん中には当主様がいる。部屋に入ってきた時にはすでに二人が座っていて、「食べるぞ」という当主様の一言で話は終わった。

 けれど、食事は豪華なものばかりで、クローズロール家よりももっと品物が多い。だがやはり、味は感じなかった。

 ーーー味覚障害というやつなのかしら…

 気まずさを忘れるためにそんなことを考える、匂いで味を想像してみようともしたが、そもそも食べたことのない味は想像できずに終わる。



 次々と運び込まれる料理、そんな中、当主様のグラスだけ違和感を感じた。

 ーーー私が、飲まされた……

 すぐ、わかった。当然だ、姉に飲まされていた毒なのだから。

 この毒薬、暗殺としては役に立つのだが、抗体を持ちやすいものであった。もちろん、死んだほうがマシという地獄を見るというのを数十回する羽目にはなるのだが。

 この毒は無味無臭で、再来年くらいにこの毒で事件が起こり、それ以来、貴族達は少しでも抗体を持とうとその毒を摂取した。
 それで死んだものは多数で、自害扱いされたが、逆に生きているというのは抗体を持ってる証という事で効かなくなり、この毒は使われなくなった。

 ーーー再来年、だったはずよね。私が姉に飲まされたのもそれくらいだったし…

 私が気づいた理由は簡単で、過去に姉に何度も飲まされ抗体を持っていたからだ。
 抗体を持っていると、無味無臭と言われるこの毒の匂いがわかるようになる。鼻につくようなローズの香り。

 ーーー過去に戻ってるし、体も抗体は持っていないし、本来ならこの毒が見つかったのは再来年……私の勘違い?

 悩んでも悩んでも、解決策が一向に出てこなかった。そんな様子を見かねた当主様が心配そうに声をかけてきてくれた。

「どうかしたか?」
「えっと…」

 言葉をつまらせる。そのグラスに毒が塗ってある!なんて言ってもわかってくれないし、余計不審がられるだけだろう。
 返答に詰まっていると、シリウス様もナイジェル様も皆が皆私の方へと気に掛ける。

「わ、私も、そのキラキラしたグラスで飲みたいです」

 本当に、苦しい言い訳だった。確かに当主様のグラスは珍しいもので、光の当て加減により、見え方が複数ある。
 幸い、グラスには水が入っているだけだ。お酒類だったら、は?と言われていたところだろうが。

「ナイジェル、用意できるか?」
「いや、大丈夫です。交換したほうが早いですから」
「そうか」

 間髪入れずに、交換という体で、ナイジェルに変えてもらった。冷や汗が酷く、自分の演技力にも限界があったがなんとか堪える。
 食事を再開し、周囲に目を配る。当主様とシリウス様が人嫌いというのは本当のようで、異種族のものばかりだ。

 外には護衛の方々、この部屋にいるのは当主様とシリウス様、ナイジェルと私。

 ーーーとなると、調理場かしら……

 この数人じゃないような気がして、調理場の方へ目を向ける。調理場は足を運んだことがないため、犯人の探しようがないと諦めるしかない。やはりこれはあの毒ではないのか?ひたすらに考えた。
 この部屋なら護衛しかーー

 ーーーあれ、護衛なんていたかしら…?

 おかしい、そうだ、最初からおかしかったんだ。
 当主様とシリウス様は人間が嫌いだ。
 人間が嫌いで使用人が少ないと思っていたのだが、違う。必要がないから、使用人を雇っていないだけ。

 なら、単純じゃないか。当主様とシリウス様は、私がいても必要ないのだ。

 なら、なぜ護衛がいる?なぜ必要がある?
 そして、なぜ当主様も護衛に違和感を持たない?護衛なんていらない、むしろ好きじゃない、けれどなんの違和感も嫌悪感も示さなかった。まるで、いないもののように。

 ーーー犯人は、魔力の源の公爵家

 自然と答えが脳内に浮かび上がる。
 私の匂いがぐちゃぐちゃになったのは、魔力の匂いが混じったから。人間の匂いを消す香水と姿を見せない魔法でも使ったのだろう。
 元々この毒は魔力の源の公爵家が作ったものだ。魔法で毒を入れるなど容易いだろう。

 ーーーでも、なんでこんなわかりやすい方法を使ったのかしら。魔力を感知できる人がいればわかるはずよ、そこに関しての考慮をしないわけがないでしょうに……まさか、

 思わずフォークとナイフを落としそうになるほど、疑問が確信に変わった。

 ーーー相手は私のことを知っていた?

 この先は考えてはいけないと思いながらも、思考は続き、苦難もまた続いた。

 ーーー私の趣味趣向性格まで理解し、当主様のグラスを取って私が飲むと確信して?

 その人物は誰なのか、そんなことはどうでも良かった。けれど、ということは過去に戻った今までの私の行動に関して違和感を覚えたはずだ。

 ーーーここで飲まなかったら、相手は私のことを疑うわね………飲まなきゃ…

 脳内が飲まなきゃという言葉に支配された。大丈夫、私はこれを何度も飲まされたのだから。
 表情筋が死んでいて助かった。じゃなければ今、私は恐怖で怯える子羊かなんかに見えただろう。

 もしかしたら今のは自分の妄想で、毒なんて元からないんじゃないかという儚い希望を胸に、ナイフとフォークを置く。

 グラスを手に取り、平常心で水を口に含んだ。

 ーーーあ、駄目ね、これ。

 口に含んだ途端に、口の中が焼けるように痛みだした。いや、知っている口の中の皮膚は溶けていた。
 唇と唇はそれによりくっついてしまう。だから、吐き出すことができない。

 意を決して、毒を飲み込んだ。
 呼吸が浅くなり、喉は誰かに締め付けられているようだ、肺は鉄バットで殴られているのではないかというくらいに強い痛みに襲われる。胃に関しては穴があいてるようで、脳にも鋭い痛みが走る。

 それでもなお平穏を装うと我慢する。普通なら叫びたくなるほどの激痛に我慢できるのは、この辛さを何度も味わったから。

   けれど、人間の体はそう頑丈にできていないらしい。

 こみ上げてくる血。開かない口、何も食べずにただ俯いてる私を見て、さすがに変だと思ったのだろう。
 ナイジェルが、とんっと肩に触れた。

 そこで何もかもが限界だった。

「ァ…っガァはッ…!」

 口が開いた。そして出てきたのは血だ。椅子から崩れ落ち、視界は床しか捉えない。
 ただ、人の声が聞こえるのを微かに聞き取れるだけ。

「スピアクレイはどこにいるッ!!!!」
「父上!すぐに呼びに行ってきます!!!」
「俺も急いで…!」

 あれ、目の前にいる黒髪の人は誰なんだっけ。心配そうに見つめてくる。

 その姿を願望という欲が形を変え、私のお母様が目の前にいる幻覚が見えた。
 心配して、欲しかった。毒を飲まされて、苦しむ私を心配してほしかった。

「あ、ぁ……やっ…と、心配、して…ッくれ、た。おか、さま、いい子、なる……から。ど、くもの…む、から」

 必死に、縋り付くかのように、お母様の服を掴む。

「私を愛して」

とびっきりの笑顔で。

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