私が好きなのは王子様ではございません

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第一章 結婚なんてしたくない

二話 片思い

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 先程の出来事は全て記憶から削除し、るんるん気分でその場所へ、使われていない教室へ向かった。

「今日もお麗しい…エルノ様」

 窓から外にいるエルノ様をじっと見つめた。エルノ様はいつもこの時間帯に木に寄りかかって本を読んでいるのだ。

 エルノ・カルトル。あの浮気ルークの双子の兄である。とはいっても、二卵性の双子で顔は似ても似つかない。
 ルークと真逆の存在、ルークがキラキラ王子で女性から注目を集める存在で、エルノ様はご自身で目立とうとせず成績優秀、別名、根暗王子とも言われている。

 私はなぜこちらと婚約できなかったのだろうと凄い不思議だったが、エルノ様は王家から毛嫌いされていることがわかった。
 エルノ様は、漆黒の髪に赤い瞳。容姿については不気味悪がれ、そして色がわからないらしい。生まれつき色が見えない、理由わからず、見えているのはモノクロの世界。それが呪いだと言われる。

「エルノ様と婚約したい……」

 ポツリと本音を零した。私が彼と会ったのは遠い遠い昔の話。
 家の都合上、こちらから婚約破棄なんてできなかったので、私はそれからこうやって彼を眺めて片思いをしていた。
 私は公爵家だから、浮気なんてしたら隠蔽なんてできないだろう。

 はぁ……と一旦溜息をついたあと、帰ろうと体の向きを変える。
 明日は私の十八の誕生日パーティー、婚約者の女性が十八歳になると、その婚約は正式な婚約とされ、どう足掻いても破談にすることは不可能になるのだ。

 だから今日でこの片思いも終わらせなくてはと、涙ぐみながら一人床を歩いていく。
 がちゃんっと大きな音が部屋に響き渡り、本能的に肩を震わせた。どうやら、ドアを開けた音だったらしい。

「あの、アリス…?さん!」

 内心、早いところ去りたいと思った。部屋に入ってきたのはあのジュル・エルリーだったからだ。
 ぱあっと私を見つけた瞬間、天使みたいな笑顔を見せてきた。

「………あ、ご機嫌麗しゅう、ジュル・エルリー様」
「え、あ、えっと……」

 服を広げ、一礼をする。それが貴族内での一般的なルールである。けれど、ジュルはかしこまれてあたふたと混乱しているようだった。
 自分はできるだけ優しく声を和ませ、相手にとって辛くないような言い方で注意をする。

「……ジュル様、本来地位が高い者に地位が低いものが話しかけてはなりませんし、まず基本的に一礼をするのが礼儀ですわ」
「あ、あの……そんなつもりじゃなくて…」
「……ごめんなさい、言い方がきつかったですわね」

 あの言い方じゃきつかったのかもしれないと思い、すぐさま謝罪の言葉を述べた。
 彼女は、いえいえと苦笑いをしながらも、礼をしてくる。

「ただ、その……」 

 けど、そんな彼女から出てきた言葉は衝撃なものであった。

「ルークを私にください」
「は?」

 いくらでもあげますが?と、言いそうになったところで第二の私が止めに入った。
 先程とは打って変わって、満面な笑みを浮かべながらもはっきりと主張するその姿には流石にぞっとした。

「ふふ…っ、ルークが可哀想。貴方みたいな女と結婚なんて、可哀想だと思いませんか?」

 またまたどこから出てきたんだろうというように、言ってることはヤバいがみたこともないキラキラとした眩しい笑顔は目に応えた。

「私の方が可愛いし、愛想もいいし、絶対幸せにできると思うんです。ルークをください」
「………申し訳ないけれどーー」

 少し考えたが、こちらから婚約破棄はできないし、無理かなという考えに陥った。
 彼女はその最初の言葉だけ聞くと、うるうると目を潤わせ、辺りに響き渡る大きな声で私を悪者に仕立て上げた。

「うっ……酷いです…う」

 急に泣き出して最初こそ焦ったが、手で目を擦るその姿は口元だけ上がっていて微笑んでいるのだと勘付いた。
 気づいたときにはもう遅く、その声に集められた人々が私達を中心にし集まってきた。

「まさかジュル様を虐めてるのかしら……」
「ジュル様と殿下がご一緒にいることが多いから?」
「そんなの妬みじゃないの」
「公爵家のご令嬢がイジメなんて……」
「流石に幻滅した」
「わかるわ、俺もあんな性格悪い女だとは思ってなかった」
「ジュル様可哀想」
「アリス様なんていなくなればいいのに」

 様々な声が飛び交う。一方私は使われていない教室に人が入ってくるなんて滅多にないから、少しこの状況が面白いと思ってしまった自分がいた。

「う……っ…私、ルーク様を取ろうとしたわけじゃないんです…だから、もう、嫌がらせはやめてください……」

 泣き声が大きくなるにつれて、女子や男子、多数の人間がジュル様の方についた。
 私には、妬みの視線を送り、彼女には哀れみの視線を送っていた。

「ジュル様、何を言われましたの?」
「さっきも、「礼儀正しくないあんたなんかルークに相応しくないわ」なんて言ってきてぇ……」

 あれ?言ったっけ?と一瞬思考が止まったが、私がそんな事言うはずないなとこれも演技なのだと気がついた。

 ここまで来ると尊敬する、まさに名演技。
 心のなかで拍手を送っていると、その騒動に駆けつけてきたのか婚約者のルークが来た。

 私には目もくれず、ジュルの方へ一目散へ駆け寄る。

「な……っ!ジュル!大丈夫か?」
「ルーク様ぁ……アリス様が私をイジメてきて……前からあったんですけど、ここ最近酷くてぇ」
「ジュル……」

 ぎゅっと二人して抱きしめ合い、帰りたいなと思いながら、ルークは私に鋭い視線を送ってきた。
 初めて顔を合わせた婚約者、そして顔を合わせた婚約者に初めて言われた言葉は現実的なものであった。

「………アリス、君は最低だな」

 その言葉は魔法のようで、私の体は氷のように固まって動けなくなった。
 ルークはジュルに肩を貸し、他の方々も皆そちらについていった。最後に見たのは、教室を去ろうとしたジュルの微笑んだ表情。

 取り残された私は、未だ現実を理解できないままでいる。慣れていたから、そんなにダメージは受けない私でも流石に婚約者にそんな事言われたら、呆然と立ち尽くすことしかできない。

 ねぇ、何を間違えたの?
 私は、何をすればよかったの?

 幼い頃から好きでもない彼の事を好きになれと強制され、だから勉学も何もかも人一倍努力してきたつもりなのに。

 初めて顔を合わせて、最初に言われた言葉がそれ?

 私がね、今までずっと我慢してきたの。
 私がね、お父様やお母様、弟に苦労をさせないように、わがままを言わなかっただけなの。
 私がね、政治に関与して貴方の国を未来の王妃として守ってきたの。


 「私もね、貴方のことなんて好きじゃないわ」

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