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第一章 結婚なんてしたくない
五話 両思い
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「待って」
いつも思い浮かべていたその透き通った声に、はっと振り向いた。学生服を着ていて、黒髪の癖付けのある漆黒がお美しい、あのエルノ様だ。そう認識すると、胸が締め付けられ時が止まったように感じた。
馬車に乗ろうとしている私を呼び止めていたのだと気が付き、恐る恐るその名前を口にした。
「エルノ……様?」
「え……っ…と」
「……夢、でしょうか。そうですわ、きっとこれは夢ですわね!」
多分、思考能力が完全に壊れてしまったのだろう。婚約破棄&エルノ様に会える感激の思考の負荷により、私はもう限界を超えていた。
酷く深い深い疲れが混じったため息をつく。
「あぁ、もう!私幸せー!なによ、この神イベント!お顔が相変わらず美しい!顔面国宝、人間国宝か!」
「え……?」
私の中で何かが切れた音がした。心のなかで、抑え込んだ感情が爆発する。
「はあぁぁぁ!!最後にエルノ様に会えて夢でも感激ですわ。エルノ様、愛してますわー!!」
「待って……僕、夢じゃ……」
エルノ様の言葉を遮って、エルノ様を抱きしめる。急展開に頭が追いつけていなかったようだが、私はもうどうでも良くなっていた。
ぎゅっと、エルノ様の胸にすがりつく。
「エルノ様、私、愛してましたの。ずっと好きで、片思いをして、いつも眺めてましたわ。私ね、もうこの学園を去ると思います。だから、気持ち悪いだろうけど、言わせてね」
細々とけれどはっきりとした口調で自分の心を話す。きっと、婚約破棄された私は王家にとって邪魔な者にしかならないだろう。
地方の領地へ送られるのが妥当だ。となれば、私はもうエルノ様に会えないことは計算済みだった。
「愛してますわ」
そっと耳元で囁く。囁きながら、とんっと胸を押し、エルノ様を突き放した。
「だからどうか、胸を張って生きてくださいませ。素敵な方、さようなら」
とても驚いて、何か言いたげにしていたがエルノ様の言葉は風のふく音で遮られてしまった。
髪が乱れる、音が風に包まれ、その苦々しい表情だけが私の目に写った。
夢なら、これくらい許してもらえるかしら。
その表情が痛々しくて、風が吹く方向へと自然に目が移る。数分、沈黙が続く。夢からまだ覚めないのかと思いながら、馬車へ乗り込もうとした。
「さようならになんかさせないから…!」
最後に聞こえたのは、エルノ様の言葉だったかしら。
☆ ☆
「まーさか、本当に婚約破棄されるとは」
「私も思わなかったわよ」
口にいっぱいに広がる紅茶の香りを堪能しながら、それとは上腹に苦い記憶を思い起こす。あいつ多分わかってないな、というのが本心だ。
「お嬢様……その、聡明なお嬢様ならわかると思うんですが……」
「どこ?」
大方遠いところへ飛ばされるのは見当がついていたので、驚きもせず返事を返す。リンは申し訳無さそうにし、頼りのない声でぽつりと単語を零す。
「………国外追放です」
「あは……っ!笑えるわね!はーっ、そんなんで国外追放なんて世も末ね」
「私はお嬢様についていきますよ」
「ありがとう、けど貴方は自分の家族を大事にしなさい。私についていくなんて簡単に言っちゃだめよ」
「ですが……隣国となれば、お嬢様がお慕いしているエルノ様はどうなるのですか?」
「んー?いいのよ、もう」
もう、夢で本心言っちゃたのだし。私はそれで満足なのだ。ヘタレで弱くて、エルノ様は好きだけど、私はあの方の隣に立てる気がしない。
そんな私を見て、いつもの強気の私ではないと悟ったのか、それでもなお言葉を返してきた。
「けどあんなにも……!婚約破棄された今、今しか婚約は申し込めませんよ?」
「そーねぇ……」
私はただそれを聞き流すだけだった。紅茶を飲みながら、私は何も見たくなかった。
「お姉様!大丈夫なのですか…?」
「あら、どうしたの?」
暫くすると、普段なら礼儀正しくおとなしい弟が突然ノックもせずに部屋の中へ入ってきた。
それにはびっくりし、びくっと肩を震わせた。
「だって、婚約破棄としかも国外追放なんて……納得いきません!」
「………大丈夫よ、それよりも私のせいでケイが危ない目にあってる事に関して謝るわ。最後まで駄目な姉でごめんなさいね」
薄っすらと笑みを浮かべながらそう言うと、何か言葉を返そうとしたらしいが、何も言えなかったらしくただ唇を噛んでいるだけだった。
ふふっと微笑みながら見ていると、弟の後ろから、母と父までやってきた。
「けれど、本当にいいの?」
「お母様まで……大丈夫です、もう決心はつきました」
体の弱い母が私の部屋まで来るなんて珍しいことだ。羽織っているふわふわとした布を押さえつけながらも、一つ一つの言葉を美しく響かせる。私のお母様は美女と言われ、お父様も美男とうたわれている一人だった。
「…………アリス、お前は本当に私達の自慢の娘だ。それを忘れるな」
普段なら何も言わないお父様がそれだけを告げて、去っていく。
「もちろんですわ」
私がもう、誰かを愛することはできないでしょうけど。
いつも思い浮かべていたその透き通った声に、はっと振り向いた。学生服を着ていて、黒髪の癖付けのある漆黒がお美しい、あのエルノ様だ。そう認識すると、胸が締め付けられ時が止まったように感じた。
馬車に乗ろうとしている私を呼び止めていたのだと気が付き、恐る恐るその名前を口にした。
「エルノ……様?」
「え……っ…と」
「……夢、でしょうか。そうですわ、きっとこれは夢ですわね!」
多分、思考能力が完全に壊れてしまったのだろう。婚約破棄&エルノ様に会える感激の思考の負荷により、私はもう限界を超えていた。
酷く深い深い疲れが混じったため息をつく。
「あぁ、もう!私幸せー!なによ、この神イベント!お顔が相変わらず美しい!顔面国宝、人間国宝か!」
「え……?」
私の中で何かが切れた音がした。心のなかで、抑え込んだ感情が爆発する。
「はあぁぁぁ!!最後にエルノ様に会えて夢でも感激ですわ。エルノ様、愛してますわー!!」
「待って……僕、夢じゃ……」
エルノ様の言葉を遮って、エルノ様を抱きしめる。急展開に頭が追いつけていなかったようだが、私はもうどうでも良くなっていた。
ぎゅっと、エルノ様の胸にすがりつく。
「エルノ様、私、愛してましたの。ずっと好きで、片思いをして、いつも眺めてましたわ。私ね、もうこの学園を去ると思います。だから、気持ち悪いだろうけど、言わせてね」
細々とけれどはっきりとした口調で自分の心を話す。きっと、婚約破棄された私は王家にとって邪魔な者にしかならないだろう。
地方の領地へ送られるのが妥当だ。となれば、私はもうエルノ様に会えないことは計算済みだった。
「愛してますわ」
そっと耳元で囁く。囁きながら、とんっと胸を押し、エルノ様を突き放した。
「だからどうか、胸を張って生きてくださいませ。素敵な方、さようなら」
とても驚いて、何か言いたげにしていたがエルノ様の言葉は風のふく音で遮られてしまった。
髪が乱れる、音が風に包まれ、その苦々しい表情だけが私の目に写った。
夢なら、これくらい許してもらえるかしら。
その表情が痛々しくて、風が吹く方向へと自然に目が移る。数分、沈黙が続く。夢からまだ覚めないのかと思いながら、馬車へ乗り込もうとした。
「さようならになんかさせないから…!」
最後に聞こえたのは、エルノ様の言葉だったかしら。
☆ ☆
「まーさか、本当に婚約破棄されるとは」
「私も思わなかったわよ」
口にいっぱいに広がる紅茶の香りを堪能しながら、それとは上腹に苦い記憶を思い起こす。あいつ多分わかってないな、というのが本心だ。
「お嬢様……その、聡明なお嬢様ならわかると思うんですが……」
「どこ?」
大方遠いところへ飛ばされるのは見当がついていたので、驚きもせず返事を返す。リンは申し訳無さそうにし、頼りのない声でぽつりと単語を零す。
「………国外追放です」
「あは……っ!笑えるわね!はーっ、そんなんで国外追放なんて世も末ね」
「私はお嬢様についていきますよ」
「ありがとう、けど貴方は自分の家族を大事にしなさい。私についていくなんて簡単に言っちゃだめよ」
「ですが……隣国となれば、お嬢様がお慕いしているエルノ様はどうなるのですか?」
「んー?いいのよ、もう」
もう、夢で本心言っちゃたのだし。私はそれで満足なのだ。ヘタレで弱くて、エルノ様は好きだけど、私はあの方の隣に立てる気がしない。
そんな私を見て、いつもの強気の私ではないと悟ったのか、それでもなお言葉を返してきた。
「けどあんなにも……!婚約破棄された今、今しか婚約は申し込めませんよ?」
「そーねぇ……」
私はただそれを聞き流すだけだった。紅茶を飲みながら、私は何も見たくなかった。
「お姉様!大丈夫なのですか…?」
「あら、どうしたの?」
暫くすると、普段なら礼儀正しくおとなしい弟が突然ノックもせずに部屋の中へ入ってきた。
それにはびっくりし、びくっと肩を震わせた。
「だって、婚約破棄としかも国外追放なんて……納得いきません!」
「………大丈夫よ、それよりも私のせいでケイが危ない目にあってる事に関して謝るわ。最後まで駄目な姉でごめんなさいね」
薄っすらと笑みを浮かべながらそう言うと、何か言葉を返そうとしたらしいが、何も言えなかったらしくただ唇を噛んでいるだけだった。
ふふっと微笑みながら見ていると、弟の後ろから、母と父までやってきた。
「けれど、本当にいいの?」
「お母様まで……大丈夫です、もう決心はつきました」
体の弱い母が私の部屋まで来るなんて珍しいことだ。羽織っているふわふわとした布を押さえつけながらも、一つ一つの言葉を美しく響かせる。私のお母様は美女と言われ、お父様も美男とうたわれている一人だった。
「…………アリス、お前は本当に私達の自慢の娘だ。それを忘れるな」
普段なら何も言わないお父様がそれだけを告げて、去っていく。
「もちろんですわ」
私がもう、誰かを愛することはできないでしょうけど。
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