17 / 96
第1章
17話 いかめしい
しおりを挟む「………………さて」
自室で腕を組んで立つレティリアは、眉を寄せてポスンとベッドに座った。
そして、最近の出来事を振り返る。
あれからマリーウェザーにあったらギルド内外関係なく話しかけてくるようになっていて、完全に裏方に徹していたレティリアは、これによって冒険者たちに顔を見られるようになった。
見た目で印象を残りやすいレティリアは、数回街で声を掛けられるようになって辟易としている。
勿論、そんな事気付かないマリーウェザーは構わず話し掛けてくるのだ。
なによりマリーウェザーが人を呼び寄せやすいから、一緒にいると知らない人に囲まれている事が数回ある。
そっと輪から離れるが、その度に帰るに帰れず時間を潰すしかない。
今までの穏やかな生活が少しずつ崩れていっているのにレティリアは気付いていた。
現在レティリアは一人暮らしである。
両親は幼い頃に死別、家族は義兄のみ。
幼い頃にユリウスの両親に引き取られたが、仕事の関係で遠くにいる為、実質2人だけなのだ。
一人身の騎士は例外なく隊舎での生活を余儀なくされる為、義兄のユリシスは王城の横にある第3騎士魔物討伐隊用の隊舎で生活している。
その為、以前は4人で過ごしていた一軒家に今はレティリアだけがいるのだ。
魔物解体班に就職できたので、現在生活に困ることはない。
インセンティブもつくし、特A級からの解体にはそれなりな上乗せもある。
その為、家族を養う先輩は解体好きとは別にお小遣いの為にも解体したがるのだ。
この先輩達を押しのけて特A級や特S級をもぎ取った時の爽快感はなかなかのもの。
こうして現金にも心配なく、過保護な義兄とも程よい距離感で生活しているレティリアの生活はとても満足していたというのに。
なんなのだろう、この1ヶ月は。
これがずっと続くというのか。
しかも、絡んでくる話の内容は、ほぼ義兄の事なのだ。
「これ以上続くなら、ストレスで爆食しちゃうし、捌く包丁使いが荒くなりそう……」
部署が離れている筈なのにマリーウェザーとのエンカウントがとにかく多い。
避けれない。どうなっているんだ。
今日も悩みを抱えたまま、眠れぬ夜を迎えるのだった。
「……………………すぅ」
一瞬で寝入った。
「おはようございます」
「おう、おはよう! なんだなんだ、今日は随分と不景気な顔してるな」
「不景気な顔ってなんですか」
「やる気ねー」
「面白くねー」
「愛想ねー」
「いかめしいー」
「………………イカ飯? 」
「ちっげぇぇよ!! 」
おっさん達がいっせいに叫ぶ。
中には銀髪のイケメンや、ガラの悪い兄さんもいるが、総じてレティリアを妹のように可愛がっている。
たまに街中で見かけたユリウスがギラッ!と睨み尋問するくらいには仲がいい。
「で、何あったよ。最近元気ねーじゃん」
ポン、と頭に手を置く銀髪イケメンな先輩ウィリアム。
忘れてないぞ、特S級バジリスクを奪った事。
「いやぁ、最近新人受付の子に粘着されてて……」
「……粘着? 」
すっ……と目を細めるウィリアムに頷く。
「義兄が気になるらしいですよ。だからめっちゃ絡まれる」
「なんだそれ、捌くか? 」
「死ぬわ」
思わずそう答えると、でかい台車が運ばれて来た。
いち早く気付いたレティリアは、隣にいたウィリアムを押しのけて走り出す。
「私やる!!」
「あっ!! おまっずりぃぞ!!」
「早い者勝ち!!」
運ばれてきたのは特A級、最近沢山来る! と目をキラキラさせて、伝令の書類をひったくり、内容をざっと見てから名前を記入する。
よし! と手を握ると、後ろからウィリアムに肩を組まれた。
「よーくも俺を押しのけやがったなぁ?」
「バジリスクの恨み」
「根に持つなぁ……」
そう言いながらも、巨大な台車を運んでくれるウィリアムを見上げた。
「…………手伝ってくれるんですか」
「可愛い後輩の為だからな」
くしゃりと頭を撫でられてニッ!と笑ったウィリアムにレティリアも笑ってついて行った。
レティリアは勤続年数が長く、自分より年齢の高い後輩は沢山いるのだが、その中でもウィリアムは正真正銘の先輩である。
年齢は現在29歳で兄と同い年。その為他より取っ付きやすく、またウィリアムも妹のように気に掛けてくれている。
ドン!と音を立てて作業台に置いた魔物を確認してからウィリアムを見た。
「ありがとうごさいます」
「どういたしまして」
頑張れ、と肩を叩いて離れていったウィリアムを見送ってから、作業台の高さを動かしベルトの包丁を確認してから作業台に飛び乗った。
今日一番だろう特A級のグリーンスモーク。
鮮やかなオレンジに発光する皮が特徴的なグリーンスモークは海や川にいる生物で、前世のサーモンに良く似た姿をしている。
魚によく似た姿だが、鱗がなく、一枚のペロンとした皮になる。
熱を冷ましやすい効果もあることから加工されて肌着等に重宝される数も多く比較的討伐しやすい魔物だ。
何より、身が絶品である。
「……じゅるり」
「生だぞ」
「腹壊すぞ」
通り過ぎる同僚達が注意をしていく。
わかってる……と呟いてから、腰にあるベルトから使い慣れて巨大な包丁を取り出した。
「……よし。潔く肉になれ」
エラに包丁を押し当てて、小さく笑ったレティリアはグッと力を入れて首を落としたのだった。
綺麗に落ちた頭はそのまま廃棄、エラも目も素材に使えない為、作業台の下にある廃棄用バケツに投げ入れる。
そのまま薄い皮を触ると、損傷は少なく剥がしやすそうで、ペロリと唇を舐める。
使っていた包丁を血ぶりをしてからベルトにしまい、刺身包丁のような包丁を出した。
人によって部位毎に使う包丁は様々なのだが、レティリアは専ら刺身包丁である、
皮の硬さや大きさにより別の包丁を使うこともあるが、皮剥ぎの場合は一番手に馴染む。
「……いい色」
血が滴る赤身にこくん……と喉がなる。
この世界は魔物に限り魚だろうが何だろうが食用は肉と言われる。
このグリーンスモークも、切り分けられ店に売り出されるのだ。
ただ、様々な毒や雑菌を持っているので下処理は必須。例え美味しそうでも捌いてすぐには食べれない。
「…………よし、片側完了。ちぎれる事無く綺麗だね…………プラス上乗せぇ」
捌いた後の出来により、追加報酬が着く。皮を切らずに剥がす、長く美しく残す等。
切れてしまったら、せっかく良い魔物素材でも端切れ扱いになるからだ。
これについては、レティリアはかなりの追加報酬を貰っている。
皮を剥いだら、次は骨にそって丁寧に肉を剥ぐ。
カリカリ……と音を鳴らしながら巨大なサクを作ってトレーに乗せていくと、あっという間に半身を終わらせた。
今度は逆、とひっくり返すとレティリアはため息をつく。
「……………………うん、仕方ない」
渡された資料にもあったのだが、半身、酷く損傷となっていた。
簡単な図が描かれていて、ざっくりとここ爛れ、だったり、燃えカスだったり、注意事項がかいてある。
こちらの皮は滅多刺しになっていて、肉までえぐれている。
「えぐれてる所は切り取って……こっちは端切れになるなぁ……」
損傷が激しずきると廃棄になる。
大丈夫な場所は端切れとして切り取り納品と見極めるのも解体班の仕事である。
最初のうちは、解体後の仕上げに全て任す場合もある。
レティリアは、包丁を替えて小さめのナイフを持つ。
それをグルッと円にしたり長方形にしたりと、損傷箇所を避けて剥ぎ取っていく。
綺麗な皮はべろりと一枚で剥がしてしまうだけなので楽だが、損傷が激しいと使える皮を切り取り後にボロボロの皮を剥ぎ取り、傷のある肉を切り分ける作業がある。
かなり面倒かつ、時間が掛かる作業になるのだ。
ティティーリアは慎重に、繊細にナイフをグリーンスモークに滑らせていった。
「………………ふぅ」
昼休憩。
午前中から損傷の激しいグリーンスモークを解体して少し疲れていた。
解体は楽しいのだが、今回みたいな魔物を相手だと些かがっかりしてしまう。
多分、討伐者はそれなりに強い相手なのだろう。
片側が綺麗で、片側だけ損傷が酷いのは楽しみながら狩りをしたからだ。不必要にいたぶったのだろう。
運ばれてきてから死後3時間の割にはグリーンスモークの目が濁っていた。
瀕死の状態で上手い具合に時間を空けて、逃げているグリーンスモークを何度も切りつけた証だ。
魚型は瀕死になると目が曇る。
回復したら戻るが、そのまま死んだら目がどんどん曇っていく。
3時間の曇り方では無かったのだ、あのグリーンスモークは。
「………………胸糞悪い」
解体するが、魔物は好きだ。
だって、この世界の魔物はレティリアが作ったのだから。
それを、こんな姿になるまでいたぶり、報酬を得るのだから。
それが仕事だから文句は言わないが、いい気がしないのは仕方ないだろう。
「…………あれは低俗な冒険者だろうな」
今日の仕事は1日気分が悪そうだ。
125
あなたにおすすめの小説
英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です
氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。
英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
婚約破棄されて去ったら、私がいなくても世界は回り始めました
鷹 綾
恋愛
「君との婚約は破棄する。聖女フロンこそが、真に王国を導く存在だ」
王太子アントナン・ドームにそう告げられ、
公爵令嬢エミー・マイセンは、王都を去った。
彼女が担ってきたのは、判断、調整、責任――
国が回るために必要なすべて。
だが、それは「有能」ではなく、「依存」だった。
隣国へ渡ったエミーは、
一人で背負わない仕組みを選び、
名前が残らない判断の在り方を築いていく。
一方、彼女を失った王都は混乱し、
やがて気づく――
必要だったのは彼女ではなく、
彼女が手放そうとしていた“仕組み”だったのだと。
偽聖女フロンの化けの皮が剥がれ、
王太子アントナンは、
「決めた後に立ち続ける重さ」と向き合い始める。
だが、もうエミーは戻らない。
これは、
捨てられた令嬢が復讐する物語ではない。
溺愛で救われる物語でもない。
「いなくても回る世界」を完成させた女性と、
彼女を必要としなくなった国の、
静かで誇り高い別れの物語。
英雄が消えても、世界は続いていく――
アルファポリス女子読者向け
〈静かな婚約破棄ざまぁ〉×〈大人の再生譚〉。
「愛することはない」と言った冷徹公爵様、やり直しの人生は溺愛が重すぎます!~王宮が滅びるのは記憶を隠した旦那様と幸運な息子のせい?~
ソラ
恋愛
王宮の陰湿な包囲網、そして夫であるアリステア公爵の無関心。心身を削り取られたセラフィナは、孤独と絶望の中でその短い一生を終えた。
だが、彼女は知らなかった。
彼女の死を知ったアリステアが、復讐の鬼と化して王宮へ反乱を起こし、彼女を虐げた者たちを血の海に沈めたことを。そして彼もまた、非業の死を遂げたことを。
「……セラフィナ。二度と、君を離さない。この命、何度繰り返してでも」
気がつくと、そこは五年前――結婚三日目の朝。
セラフィナが「今度は期待せずに生きよう」と決意した矢先、飛び込んできたアリステアは泣きながら彼女を抱きしめた。
前世の冷淡さが嘘のように、甘く、重すぎるほどの愛を注いでくるアリステア。
さらに、前世には存在しなかった息子・ノエルまで現れ、セラフィナを苦しめるはずだった敵は、彼女が知らないうちに裏で次々と社会的に抹殺されていく。
アリステアは記憶がないふりをして、狂気的な執着を「優しさ」という仮面で隠し、今度こそ彼女を檻のような幸福の中に閉じ込めようと画策していた。
知っているのは、読者(あなた)だけ。
嘘から始まる、究極のやり直し溺愛ファンタジー!
(本作品はAIを活用して構成・執筆しています)
砕けた愛
篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。
あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
愛してると泣かれても迷惑です〜お姉様の身代わりに冷徹公爵へ嫁ぐ〜
恋せよ恋
恋愛
「この香りは、彼を共有する女たちの『印』だったのね」
ロレンタ侯爵家の次女ジュリアは、初恋の婚約者マキシムに
愛されていると信じて疑わなかった。
しかし、彼が彼女に贈った「特注の香水」を纏っていたのは、
ジュリアだけではなかった。
学園の親友。そして、隣国へ嫁ぐはずの自慢の姉、サンドラ――。
「会ってくれないならジュリアにバラすわよ」
女たちの脅迫に屈し、私への謝罪の裏で密会を繰り返すマキシム。
すべてを知った日、ジュリアは絶望の中で凛と立ち上がる。
愛を失い、人間不信に陥った少女。
裏切った者たちには地獄を、高潔な乙女には真実の愛を。
最悪の初恋から始まる、逆転婚姻ファンタジー!
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる