『魔物解体と奢られ飯』 今日も回復術師のおっさんに奢られる。

くみたろう

文字の大きさ
17 / 122
第1章

17話 いかめしい


「………………さて」

 自室で腕を組んで立つレティリアは、眉を寄せてポスンとベッドに座った。
 そして、最近の出来事を振り返る。

 あれからマリーウェザーにあったらギルド内外関係なく話しかけてくるようになっていて、完全に裏方に徹していたレティリアは、これによって冒険者たちに顔を見られるようになった。
 見た目で印象を残りやすいレティリアは、数回街で声を掛けられるようになって辟易としている。

 勿論、そんな事気付かないマリーウェザーは構わず話し掛けてくるのだ。
 なによりマリーウェザーが人を呼び寄せやすいから、一緒にいると知らない人に囲まれている事が数回ある。
 そっと輪から離れるが、その度に帰るに帰れず時間を潰すしかない。

 今までの穏やかな生活が少しずつ崩れていっているのにレティリアは気付いていた。
 
 

 現在レティリアは一人暮らしである。
 両親は幼い頃に死別、家族は義兄のみ。
 幼い頃にユリウスの両親に引き取られたが、仕事の関係で遠くにいる為、実質2人だけなのだ。

 一人身の騎士は例外なく隊舎での生活を余儀なくされる為、義兄のユリシスは王城の横にある第3騎士魔物討伐隊用の隊舎で生活している。
 その為、以前は4人で過ごしていた一軒家に今はレティリアだけがいるのだ。

 魔物解体班に就職できたので、現在生活に困ることはない。
 インセンティブもつくし、特A級からの解体にはそれなりな上乗せもある。
 その為、家族を養う先輩は解体好きとは別にお小遣いの為にも解体したがるのだ。
 この先輩達を押しのけて特A級や特S級をもぎ取った時の爽快感はなかなかのもの。

 こうして現金にも心配なく、過保護な義兄とも程よい距離感で生活しているレティリアの生活はとても満足していたというのに。
 なんなのだろう、この1ヶ月は。
 これがずっと続くというのか。
 しかも、絡んでくる話の内容は、ほぼ義兄の事なのだ。

「これ以上続くなら、ストレスで爆食しちゃうし、捌く包丁使いが荒くなりそう……」
  
 部署が離れている筈なのにマリーウェザーとのエンカウントがとにかく多い。
 避けれない。どうなっているんだ。

 今日も悩みを抱えたまま、眠れぬ夜を迎えるのだった。

「……………………すぅ」

 一瞬で寝入った。







「おはようございます」

「おう、おはよう! なんだなんだ、今日は随分と不景気な顔してるな」

「不景気な顔ってなんですか」

「やる気ねー」

「面白くねー」

「愛想ねー」

「いかめしいー」

「………………イカ飯? 」

「ちっげぇぇよ!! 」

 おっさん達がいっせいに叫ぶ。
 中には銀髪のイケメンや、ガラの悪い兄さんもいるが、総じてレティリアを妹のように可愛がっている。
 たまに街中で見かけたユリウスがギラッ!と睨み尋問するくらいには仲がいい。

「で、何あったよ。最近元気ねーじゃん」

 ポン、と頭に手を置く銀髪イケメンな先輩ウィリアム。
 忘れてないぞ、特S級バジリスクを奪った事。

「いやぁ、最近新人受付の子に粘着されてて……」

「……粘着? 」

 すっ……と目を細めるウィリアムに頷く。

「義兄が気になるらしいですよ。だからめっちゃ絡まれる」

「なんだそれ、捌くか? 」

「死ぬわ」

 思わずそう答えると、でかい台車が運ばれて来た。
 いち早く気付いたレティリアは、隣にいたウィリアムを押しのけて走り出す。

「私やる!!」

「あっ!! おまっずりぃぞ!!」

「早い者勝ち!!」

 運ばれてきたのは特A級、最近沢山来る! と目をキラキラさせて、伝令の書類をひったくり、内容をざっと見てから名前を記入する。
 よし! と手を握ると、後ろからウィリアムに肩を組まれた。

「よーくも俺を押しのけやがったなぁ?」 

「バジリスクの恨み」

「根に持つなぁ……」

 そう言いながらも、巨大な台車を運んでくれるウィリアムを見上げた。

「…………手伝ってくれるんですか」

「可愛い後輩の為だからな」

 くしゃりと頭を撫でられてニッ!と笑ったウィリアムにレティリアも笑ってついて行った。

 レティリアは勤続年数が長く、自分より年齢の高い後輩は沢山いるのだが、その中でもウィリアムは正真正銘の先輩である。
 年齢は現在29歳で兄と同い年。その為他より取っ付きやすく、またウィリアムも妹のように気に掛けてくれている。

 ドン!と音を立てて作業台に置いた魔物を確認してからウィリアムを見た。

「ありがとうごさいます」

「どういたしまして」

 頑張れ、と肩を叩いて離れていったウィリアムを見送ってから、作業台の高さを動かしベルトの包丁を確認してから作業台に飛び乗った。

 今日一番だろう特A級のグリーンスモーク。
 鮮やかなオレンジに発光する皮が特徴的なグリーンスモークは海や川にいる生物で、前世のサーモンに良く似た姿をしている。
 魚によく似た姿だが、鱗がなく、一枚のペロンとした皮になる。
 熱を冷ましやすい効果もあることから加工されて肌着等に重宝される数も多く比較的討伐しやすい魔物だ。
 何より、身が絶品である。

「……じゅるり」

「生だぞ」

「腹壊すぞ」

 通り過ぎる同僚達が注意をしていく。
 わかってる……と呟いてから、腰にあるベルトから使い慣れて巨大な包丁を取り出した。

「……よし。潔く肉になれ」

 エラに包丁を押し当てて、小さく笑ったレティリアはグッと力を入れて首を落としたのだった。

 綺麗に落ちた頭はそのまま廃棄、エラも目も素材に使えない為、作業台の下にある廃棄用バケツに投げ入れる。
 そのまま薄い皮を触ると、損傷は少なく剥がしやすそうで、ペロリと唇を舐める。

 使っていた包丁を血ぶりをしてからベルトにしまい、刺身包丁のような包丁を出した。
 人によって部位毎に使う包丁は様々なのだが、レティリアは専ら刺身包丁である、
 皮の硬さや大きさにより別の包丁を使うこともあるが、皮剥ぎの場合は一番手に馴染む。

「……いい色」

 血が滴る赤身にこくん……と喉がなる。
 この世界は魔物に限り魚だろうが何だろうが食用は肉と言われる。
 このグリーンスモークも、切り分けられ店に売り出されるのだ。
 ただ、様々な毒や雑菌を持っているので下処理は必須。例え美味しそうでも捌いてすぐには食べれない。

「…………よし、片側完了。ちぎれる事無く綺麗だね…………プラス上乗せぇ」

 捌いた後の出来により、追加報酬が着く。皮を切らずに剥がす、長く美しく残す等。
 切れてしまったら、せっかく良い魔物素材でも端切れ扱いになるからだ。
 これについては、レティリアはかなりの追加報酬を貰っている。

 皮を剥いだら、次は骨にそって丁寧に肉を剥ぐ。
 カリカリ……と音を鳴らしながら巨大なサクを作ってトレーに乗せていくと、あっという間に半身を終わらせた。
 今度は逆、とひっくり返すとレティリアはため息をつく。

「……………………うん、仕方ない」

 渡された資料にもあったのだが、半身、酷く損傷となっていた。
 簡単な図が描かれていて、ざっくりとここ爛れ、だったり、燃えカスだったり、注意事項がかいてある。
 こちらの皮は滅多刺しになっていて、肉までえぐれている。

「えぐれてる所は切り取って……こっちは端切れになるなぁ……」

 損傷が激しずきると廃棄になる。
 大丈夫な場所は端切れとして切り取り納品と見極めるのも解体班の仕事である。
 最初のうちは、解体後の仕上げに全て任す場合もある。

 レティリアは、包丁を替えて小さめのナイフを持つ。
 それをグルッと円にしたり長方形にしたりと、損傷箇所を避けて剥ぎ取っていく。
 綺麗な皮はべろりと一枚で剥がしてしまうだけなので楽だが、損傷が激しいと使える皮を切り取り後にボロボロの皮を剥ぎ取り、傷のある肉を切り分ける作業がある。
 かなり面倒かつ、時間が掛かる作業になるのだ。

 ティティーリアは慎重に、繊細にナイフをグリーンスモークに滑らせていった。





「………………ふぅ」

 昼休憩。
 午前中から損傷の激しいグリーンスモークを解体して少し疲れていた。
 解体は楽しいのだが、今回みたいな魔物を相手だと些かがっかりしてしまう。
 多分、討伐者はそれなりに強い相手なのだろう。
 片側が綺麗で、片側だけ損傷が酷いのは楽しみながら狩りをしたからだ。不必要にいたぶったのだろう。
 運ばれてきてから死後3時間の割にはグリーンスモークの目が濁っていた。
 瀕死の状態で上手い具合に時間を空けて、逃げているグリーンスモークを何度も切りつけた証だ。
 魚型は瀕死になると目が曇る。
 回復したら戻るが、そのまま死んだら目がどんどん曇っていく。
 3時間の曇り方では無かったのだ、あのグリーンスモークは。

「………………胸糞悪い」

 解体するが、魔物は好きだ。
 だって、この世界の魔物はレティリアが作ったのだから。
 それを、こんな姿になるまでいたぶり、報酬を得るのだから。
 それが仕事だから文句は言わないが、いい気がしないのは仕方ないだろう。

「…………あれは低俗な冒険者だろうな」

 今日の仕事は1日気分が悪そうだ。
 

 
 
感想 6

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

空港清掃員58歳、転生先の王宮でも床を磨いたら双子に懐かれ、国王に溺愛される

木風
恋愛
羽田空港で十五年、黙々と床を磨いてきた清掃員・田中幸子(58)は事故死し、没落寸前の子爵令嬢エルシアとして転生する。 婚約破棄の末に家を追われた彼女が選んだのは、王宮の清掃員――前世の技で空気まで変わるほど磨き上げていく仕事だった。 やがて母を亡くした双子王子王女に懐かれ、荒れた執務室の主である喪中の国王とも距離が縮まり……。 「泣くなら俺の胸で」――床も心も磨き直す、清掃令嬢の溺愛成り上がり。

誘拐された公爵令嬢ですが、なぜか皇帝に溺愛されています』

富士山麓
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間―― 目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。 そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。 一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。 選ばれる側から、選ぶ側へ。 これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。

刺繍妻

拓海のり
恋愛
男爵令嬢メアリーは魔力も無くて、十五歳で寄り親の侯爵家に侍女見習いとして奉公に上がった。二十歳まで務めた後、同じ寄り子の子爵家に嫁に行ったが。九千字ぐらいのお話です。

世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました

由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。 ——皇子を産めるかどうか。 けれど私は、産めない。 ならば—— 「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」 そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。 毒を盛られても、捨てられず。 皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。 「お前は、ここにいろ」 これは、子を産めない女が ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。 そして—— その寵愛は、やがて狂気に変わる。

兄妹じゃないとわかったのでお兄様と結婚したら、全部仕込みでした

こじまき
恋愛
【20260401読みやすいように話を分割しました】 伯爵令嬢ヘイゼルは、兄アリステアに恋をしている。叶わないと知りながら、それでも諦めきれなかった。 しかし子ども時代の「取り違え」が発覚し、子爵令嬢ロレッタとして“正しい場所”で生き直すことに。 そして妹ではなくなった彼女に、アリステアは求婚する。 運命のねじれは正されて、望んだとおりに最愛の人と結ばれた―― けれど――その「正しい運命」は、兄アリステアによって用意されたものだった―― ※「小説家になろう」にも投稿しています。

平凡な令嬢と平凡じゃない友人たち

ぺきぺき
恋愛
身分問わず優秀な学生が通う、王立学園。その中で目立たない茶髪にハシバミ色の瞳を持ち、真ん中よりちょっと下くらいの成績の、平凡な伯爵令嬢であるはずのセイディ・ヘインズはなぜか学園の人気者たちに囲まれて平凡ではない学園生活を送っていた。 ーーーー (当社比)平凡なヒロインと平凡じゃない友人たちが織り成す恋愛群像劇を目指しました。 カップル大量投入でじれもだラブラブしてます。お気に召すカップルがいれば幸いです。 完結まで執筆済み。 一日三話更新。4/16完結予定。

「妾の子だから」と呑気に構えていたら、次期公爵に選ばれました

木山楽斗
恋愛
父親であるオルガント公爵が大病を患った、その知らせを聞いた妾の子のヘレーナは、いい気味であるとさえ思っていた。 自分と母を捨てた父のことなど、彼女にとっては忌むべき存在でしかなかったのだ。ただ同時にヘレーナは、多くの子がいるオルガント公爵家で後継者争いが起こることを予感していた。 ただヘレーナは、それは自分には関係がないことだと思っていた。 そもそも興味もなかったし、妾の子の中でも特に存在感もない自分にはそんな話も回ってこないだろうと考えていたのだ。 他の兄弟達も、わざわざ自分に声をかけることもない。そう考えていたヘレーナは、後継者争いを気にせず暮らすことにした。 しかしヘレーナは、オルガント公爵家の次期当主として据えられることになった。 彼の兄姉、その他兄弟達が彼女を祭り上げたのだ。 ヘレーナはそれに困惑していた。何故自分が、そう思いながらも彼女は次期当主として務めることになったのだった。 ※タイトルを変更しました(旧題:「どうせ私は妾の子だから」と呑気にしていたら、何故か公爵家次期当主として据えられることになりました。)