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第1章
17話 いかめしい
「………………さて」
自室で腕を組んで立つレティリアは、眉を寄せてポスンとベッドに座った。
そして、最近の出来事を振り返る。
あれからマリーウェザーにあったらギルド内外関係なく話しかけてくるようになっていて、完全に裏方に徹していたレティリアは、これによって冒険者たちに顔を見られるようになった。
見た目で印象を残りやすいレティリアは、数回街で声を掛けられるようになって辟易としている。
勿論、そんな事気付かないマリーウェザーは構わず話し掛けてくるのだ。
なによりマリーウェザーが人を呼び寄せやすいから、一緒にいると知らない人に囲まれている事が数回ある。
そっと輪から離れるが、その度に帰るに帰れず時間を潰すしかない。
今までの穏やかな生活が少しずつ崩れていっているのにレティリアは気付いていた。
現在レティリアは一人暮らしである。
両親は幼い頃に死別、家族は義兄のみ。
幼い頃にユリウスの両親に引き取られたが、仕事の関係で遠くにいる為、実質2人だけなのだ。
一人身の騎士は例外なく隊舎での生活を余儀なくされる為、義兄のユリシスは王城の横にある第3騎士魔物討伐隊用の隊舎で生活している。
その為、以前は4人で過ごしていた一軒家に今はレティリアだけがいるのだ。
魔物解体班に就職できたので、現在生活に困ることはない。
インセンティブもつくし、特A級からの解体にはそれなりな上乗せもある。
その為、家族を養う先輩は解体好きとは別にお小遣いの為にも解体したがるのだ。
この先輩達を押しのけて特A級や特S級をもぎ取った時の爽快感はなかなかのもの。
こうして現金にも心配なく、過保護な義兄とも程よい距離感で生活しているレティリアの生活はとても満足していたというのに。
なんなのだろう、この1ヶ月は。
これがずっと続くというのか。
しかも、絡んでくる話の内容は、ほぼ義兄の事なのだ。
「これ以上続くなら、ストレスで爆食しちゃうし、捌く包丁使いが荒くなりそう……」
部署が離れている筈なのにマリーウェザーとのエンカウントがとにかく多い。
避けれない。どうなっているんだ。
今日も悩みを抱えたまま、眠れぬ夜を迎えるのだった。
「……………………すぅ」
一瞬で寝入った。
「おはようございます」
「おう、おはよう! なんだなんだ、今日は随分と不景気な顔してるな」
「不景気な顔ってなんですか」
「やる気ねー」
「面白くねー」
「愛想ねー」
「いかめしいー」
「………………イカ飯? 」
「ちっげぇぇよ!! 」
おっさん達がいっせいに叫ぶ。
中には銀髪のイケメンや、ガラの悪い兄さんもいるが、総じてレティリアを妹のように可愛がっている。
たまに街中で見かけたユリウスがギラッ!と睨み尋問するくらいには仲がいい。
「で、何あったよ。最近元気ねーじゃん」
ポン、と頭に手を置く銀髪イケメンな先輩ウィリアム。
忘れてないぞ、特S級バジリスクを奪った事。
「いやぁ、最近新人受付の子に粘着されてて……」
「……粘着? 」
すっ……と目を細めるウィリアムに頷く。
「義兄が気になるらしいですよ。だからめっちゃ絡まれる」
「なんだそれ、捌くか? 」
「死ぬわ」
思わずそう答えると、でかい台車が運ばれて来た。
いち早く気付いたレティリアは、隣にいたウィリアムを押しのけて走り出す。
「私やる!!」
「あっ!! おまっずりぃぞ!!」
「早い者勝ち!!」
運ばれてきたのは特A級、最近沢山来る! と目をキラキラさせて、伝令の書類をひったくり、内容をざっと見てから名前を記入する。
よし! と手を握ると、後ろからウィリアムに肩を組まれた。
「よーくも俺を押しのけやがったなぁ?」
「バジリスクの恨み」
「根に持つなぁ……」
そう言いながらも、巨大な台車を運んでくれるウィリアムを見上げた。
「…………手伝ってくれるんですか」
「可愛い後輩の為だからな」
くしゃりと頭を撫でられてニッ!と笑ったウィリアムにレティリアも笑ってついて行った。
レティリアは勤続年数が長く、自分より年齢の高い後輩は沢山いるのだが、その中でもウィリアムは正真正銘の先輩である。
年齢は現在29歳で兄と同い年。その為他より取っ付きやすく、またウィリアムも妹のように気に掛けてくれている。
ドン!と音を立てて作業台に置いた魔物を確認してからウィリアムを見た。
「ありがとうごさいます」
「どういたしまして」
頑張れ、と肩を叩いて離れていったウィリアムを見送ってから、作業台の高さを動かしベルトの包丁を確認してから作業台に飛び乗った。
今日一番だろう特A級のグリーンスモーク。
鮮やかなオレンジに発光する皮が特徴的なグリーンスモークは海や川にいる生物で、前世のサーモンに良く似た姿をしている。
魚によく似た姿だが、鱗がなく、一枚のペロンとした皮になる。
熱を冷ましやすい効果もあることから加工されて肌着等に重宝される数も多く比較的討伐しやすい魔物だ。
何より、身が絶品である。
「……じゅるり」
「生だぞ」
「腹壊すぞ」
通り過ぎる同僚達が注意をしていく。
わかってる……と呟いてから、腰にあるベルトから使い慣れて巨大な包丁を取り出した。
「……よし。潔く肉になれ」
エラに包丁を押し当てて、小さく笑ったレティリアはグッと力を入れて首を落としたのだった。
綺麗に落ちた頭はそのまま廃棄、エラも目も素材に使えない為、作業台の下にある廃棄用バケツに投げ入れる。
そのまま薄い皮を触ると、損傷は少なく剥がしやすそうで、ペロリと唇を舐める。
使っていた包丁を血ぶりをしてからベルトにしまい、刺身包丁のような包丁を出した。
人によって部位毎に使う包丁は様々なのだが、レティリアは専ら刺身包丁である、
皮の硬さや大きさにより別の包丁を使うこともあるが、皮剥ぎの場合は一番手に馴染む。
「……いい色」
血が滴る赤身にこくん……と喉がなる。
この世界は魔物に限り魚だろうが何だろうが食用は肉と言われる。
このグリーンスモークも、切り分けられ店に売り出されるのだ。
ただ、様々な毒や雑菌を持っているので下処理は必須。例え美味しそうでも捌いてすぐには食べれない。
「…………よし、片側完了。ちぎれる事無く綺麗だね…………プラス上乗せぇ」
捌いた後の出来により、追加報酬が着く。皮を切らずに剥がす、長く美しく残す等。
切れてしまったら、せっかく良い魔物素材でも端切れ扱いになるからだ。
これについては、レティリアはかなりの追加報酬を貰っている。
皮を剥いだら、次は骨にそって丁寧に肉を剥ぐ。
カリカリ……と音を鳴らしながら巨大なサクを作ってトレーに乗せていくと、あっという間に半身を終わらせた。
今度は逆、とひっくり返すとレティリアはため息をつく。
「……………………うん、仕方ない」
渡された資料にもあったのだが、半身、酷く損傷となっていた。
簡単な図が描かれていて、ざっくりとここ爛れ、だったり、燃えカスだったり、注意事項がかいてある。
こちらの皮は滅多刺しになっていて、肉までえぐれている。
「えぐれてる所は切り取って……こっちは端切れになるなぁ……」
損傷が激しずきると廃棄になる。
大丈夫な場所は端切れとして切り取り納品と見極めるのも解体班の仕事である。
最初のうちは、解体後の仕上げに全て任す場合もある。
レティリアは、包丁を替えて小さめのナイフを持つ。
それをグルッと円にしたり長方形にしたりと、損傷箇所を避けて剥ぎ取っていく。
綺麗な皮はべろりと一枚で剥がしてしまうだけなので楽だが、損傷が激しいと使える皮を切り取り後にボロボロの皮を剥ぎ取り、傷のある肉を切り分ける作業がある。
かなり面倒かつ、時間が掛かる作業になるのだ。
ティティーリアは慎重に、繊細にナイフをグリーンスモークに滑らせていった。
「………………ふぅ」
昼休憩。
午前中から損傷の激しいグリーンスモークを解体して少し疲れていた。
解体は楽しいのだが、今回みたいな魔物を相手だと些かがっかりしてしまう。
多分、討伐者はそれなりに強い相手なのだろう。
片側が綺麗で、片側だけ損傷が酷いのは楽しみながら狩りをしたからだ。不必要にいたぶったのだろう。
運ばれてきてから死後3時間の割にはグリーンスモークの目が濁っていた。
瀕死の状態で上手い具合に時間を空けて、逃げているグリーンスモークを何度も切りつけた証だ。
魚型は瀕死になると目が曇る。
回復したら戻るが、そのまま死んだら目がどんどん曇っていく。
3時間の曇り方では無かったのだ、あのグリーンスモークは。
「………………胸糞悪い」
解体するが、魔物は好きだ。
だって、この世界の魔物はレティリアが作ったのだから。
それを、こんな姿になるまでいたぶり、報酬を得るのだから。
それが仕事だから文句は言わないが、いい気がしないのは仕方ないだろう。
「…………あれは低俗な冒険者だろうな」
今日の仕事は1日気分が悪そうだ。
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