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「お邪魔しまーす」

「お邪魔しますぅ」

「いらっしゃーい!さぁさぁ、入ってー!!」

 あっという間に土曜日が来た。
 普段なら土日はミラージュが入り浸るのだが、今日は桃葉と郁美がお泊まり会である。
 それぞれ着替えなどが入ったちょっと大きめの鞄を持って来た2人の荷物を受け取る。

「私の部屋に置いていいですか?」

「勿論!ありがとう!」

「わざわざごめんねぇ」

「リビングに行ってて下さい」

 亜梨子は荷物を持って2階に上がる。
 我が家にふたりが来る時は、母も張り切り部屋に行く前にリビングで母も交えて談笑するのがいつの間にか当たり前になっていた。

「相変わらず雅子さんのおやつ激ウマ……」

「やぁん!照れちゃう!」

 郁美が幸せそうに言うと、母も幸せそうに腰をくねらせた。
 やめないか、見た目若くても年はとっているんだぞ。

「あ、カップケーキと言ったら……」

 思い出したかのように桃葉が呟くと、母はカップケーキ?と出した1個を持ち上げた。

「この間、亜梨子ちゃんに手作りカップケーキ貰ったんですよぉ、そうしたら亜梨子ちゃんと仲の悪い子が作り方教えてって小声で言ってきたんですぅ」

「まぁ!そんな事あったの!?亜梨子ちゃんったらなんにも教えてくれないんだからぁ」

「ふふっ、いわないから私が教えちゃいますぅ」

「ありがとう、桃ちゃん!でも、そっかぁ亜梨子ちゃん仲良くない子……」

 一気にどよん……とした母に郁美は慌てて両手を振った。

「仲悪いっていうか、その子の好きな子が亜梨子にちょっかいかけるから気に入らないっていうか!!」

「あら、あらあらあら!!亜梨子ちゃんったらモテモテ!?」

「…………なんの話しをしてるんですか」

 丁度荷物を置いて戻ってきた亜梨子は眉を寄せて聞く。

「恋する乙女にカップケーキレシピ聞かれた話だよぉ」

「…………あぁ、ありましたね」

「ちょっと亜梨子ちゃん!男の子にちょっかい掛けられてるなんて、お母さん知らなかったわよ!」

 目をキラッキラさせた母は亜梨子に詰め寄るが、嫌そうに顔を顰めさせる。

「その男の子がすっっっごいイケメンなんですよぉ!!」

「たまーに亜梨子に近付いては頭撫でたりしてるんだよね?」

「…………いい迷惑です」

「えぇ、桃はあんなイケメン羨ましいけどなぁ」

「あんたは彼氏いるでしょうが」

「まぁ!桃ちゃん彼氏いるの!?」

「いるんですー!見てくださいぃ!」

 スマホを出してツーショットで撮る彼氏を見せ付ける桃に母はまたクネクネする。

「やぁん!素敵な人ね!青春だわぁ!!」

「青春ですぅー!」

 波長が合うのかこの2人はまるで友達のようにキャッキャウフフとスマホを見ている。

「それで、それで!!亜梨子ちゃんは!どんな人!?」

「…………柳君ですよ」

 ギンっと目を光らせ聞いてきた母に、ため息混じりに言う亜梨子。
 相手がミラージュだとわかり母は目をパシパシと瞬きした。

「…………あら、ミラ君なのね。良かったぁ、ミラ君以外ならどんな顔面の野郎かと思っちゃったわぁ」

 あらあらあら!と言いながら座った亜梨子に紅茶を出すと、素直に受け取り1口飲んだ。

「え?雅子さんミラの事知ってるの?」

 誰だかわかっている雰囲気の母に郁美は飲もうとしたカップを口から離して聞いた。

「勿論よぉ!大事なお友達だもの!」

 そう言ってメッセージアプリのトーク画面が表示された。
 それには、

 今日ハンバーグよー
 やった!行きまーす
 来る時マヨネーズ買ってきて?
 了解でーす

 という内容が書かれていた。
 2人沈黙して亜梨子を見ると、サッと顔をそらす。

「ど、どういう事これ!?」

「あああああ亜梨子ちゃん!?」

「…………これの話をしなくてはと呼んだのですよ」

「詳しく!!」

 2人の勢いに負けて話し出した亜梨子は、仲良しねぇ、と笑って台所に言った母にギリギリと歯ぎしりした。







 
「………………はぁ、和臣さんの知り合いの子供がミラで、一人暮らしになるから週2回亜梨子の家に来てる、と」

「それがそろそろ1ヶ月でぇ、気付いたら週2回じゃなくて、雅子さんに呼ばれたりとかなりの頻度来てるのねぇ」

「とーっても仲良しなのよ、亜梨子とミラ君!お風呂上がりにドライヤーしてもらうくらいに」

「「!?」」

「…………余計な事を言わないで下さい」

「情報が多すぎて……」

「桃達が知らない間にこんなことになってたのぉ?」

 くたりと脱力する2人の間に座る亜梨子のスマホがピロンと通知した。
 くたりとしていたはずの2人がギュインと起き上がり亜梨子をガン見する。
 見ずらいなぁ……と思いながらスマホを見ると息を吐き出した。



『亜梨子、まだ桃葉達来てない?父さん達から荷物が送られてきて、それが亜梨子達のもあるんだ。食べ物もあるから出来たら今から持っていきたいんだけどどうかな?』



「ミラから!?」

「なんて言ってるのぉ!?」

 興奮気味な2人にぐったりする亜梨子はすぐに返事を返した。

「………………用事があって今からちょっとこっちに来たいけど、いいかな?…………らしいです」

「「きゃーーー!!」」

「…………なんてタイミングですか」


 騒ぐ2人をなだめすかし、母に伝えてため息を吐き出した亜梨子は時計を見る。
 メッセージ書きてから10分がたっていた。ミラージュの足だと10分もしないで着くだろう。
 玄関に行きスリッパを用意していると、丁度インターホンが鳴って、一緒に来ていた桃葉と郁美がきゃ!と小さく声を上げる。

「………………どうぞ」

「ごめんね、今日は来るつもり無かったんだよ?」

 眉を下げて言うミラージュを見上げていいえ、と返事を返した亜梨子は扉を大きく開いて中へと促した。

「うわぁ、本当にミラだ」

「桃葉に郁美、遊びに来てるのに邪魔してごめんね」

「私達は気にしないよぉ」

「そう?ありがとう」

 にっこり笑ったミラの腕には大きめな箱を抱えている。
  
「てか、それ持って歩いてきたの?」

「うん、重くないからね…………雅子さーん、父さんからお土産ー」

 ミラージュはそれだけ言うと、ダンボールを抱えたままリビングに入っていった。
 勿論私服のミラージュに桃葉は熱い息を吐き出す。

「わぁ、休日のミラ君かっこいいなぁ」

「彼氏はどうしたよ」

「誠君は大好きだよぉ!当たり前!」

「しっかし、本当にミラが来た」

 3人がまだ玄関出話していてリビングに来ないので、ミラージュが玄関に顔を出す。

「入んないの?」

「あ、入る入る!!」

「ん」

 扉を開いて3人を先に入れるミラージュ。
 最後にリビングに入ってきた亜梨子のすぐ後ろにミラージュがいてサラサラと髪を触っている。

「…………鬱陶しいですよ」

「えぇ、ダメ?」

「離れなさい」

 後ろで話す2人に桃葉と郁美はチラチラと視線を向ける。
 明らかに教室より距離が近い。

 定位置に座るミラージュの前に母がお茶を起き、当然のように隣に亜梨子の分も入れ直されたお茶が置かれた。
 向かいに桃葉達のお茶も起き、いざ!とダンボールを開け出す。


「あぁ、やっぱり服でした?軽かったからそうだと思った」

 中には布布布布布の山。
 別に持ってきていた紙袋に食べ物が入っていたのだろう、紙袋はキッチンに置いてある。

「えーっと、試作品が沢山あるから是非亜梨子ちゃんに着てもらってください……よかったわね、亜梨子!!」

 キャ!と喜ぶ母は1番上にある服を取り出した。
  
「あらぁ、素敵」

 白のトップスだった。
 レースが使われただいぶ大人っぽいデザインだが亜梨子はきっと着こなすだろう。
 中の八割はワンピースだった。
 綺麗めのロングワンピースが多いのは以前そういうのが好みだと言ったからだろう。

「あ、亜梨子これ似合いそう」

 緑のAラインクラシカルワンピースを取り座ったままの亜梨子の体に当ててみる。

「……似合います?」

「うん、丁度今からの服だし着てみたら?」

「今からですか?」

「うん、せっかくだし」

 少し考えてから、ダンボールの中をゴソゴソした亜梨子は白レースにピンクのワンピースと、セパレートの服を取り出し桃葉と郁美に渡した。

「着替えましょう」

「あれぇ?桃達も?」

「はい、行きましょう」

「わぁ、似合うかな……」

 2人を連れて2階に上がった亜梨子は、サクサクと着替えをし、郁美の背中のファスナーを上げてあげた。
 白レースにピンクのワンピースは普段着ないタイプの服で郁美はソワソワとしている。

「わぁ、可愛い!郁ちゃん似合うよぉ」

「ほ、本当?」

 テレテレと頭をかく郁美に桃葉はなんども頷いた。
 そんな桃葉が着ているのが薄い青のセパレートである。
 ファスナーでしめる短い上着は胸がパツパツになっていて、ピタッとした膝丈のスカートからは細い足がスラリと出ている。
 お腹は完全に服から出ていてくびれた腰が強調されている。

「桃はなんて言うか……似合うんだけど……」

「胸がちょっと目立つの恥ずかしいなぁ」

 そう言いながらも堂々と立つ桃葉に郁美は尊敬する。

「……なんていうか、亜梨子は」

「亜梨子ちゃんって感じだよねぇ」

「…………どこかおかしいですか?」

 袖と裾にレースがあしらわれた緑のAラインワンピースはとてもクラシカルでお淑やかなワンピースだった。
 腰のところにリボンがあり、後ろでキュッと結んでいて体のラインがわかる。

「似合うねぇ」

「亜梨子可愛いよ」

「ありがとうございます」

 ふわりとスカートを翻しておかしな所がないか確認する亜梨子に桃葉がソロリと近づく。   

「……亜梨子ちゃん、ミラ君と付き合ってるのぉ?」

「柳君と?まさか」

「でも、学校よりも仲良かったよね?」

「本当に付き合ってないの?」

「ないです」

「一華達が見たら発狂しそうな様子だったよ」

「ないです!」

 2人のミラと付き合ってるんじゃない?をかわしながらリビングへと降りてきた亜梨子達。
 リビングに入った瞬間、母は可愛いと褒め讃え、ミラはコップを持ったまま固まっていた。

「あれ?ミラ?固まってる?」

「………………あ……亜梨子……」

「はい」

 ゆらりと立ち上がったミラージュがシュバ!と音がしそうな速さで亜梨子の前に来た。
 ビクッ!と体を揺らすと、キラッキラの笑顔で亜梨子の手を握った。

「うわぁ、亜梨子可愛い!可愛い!!ワンピース似合うねぇ、はい、くるってして」

 片手を離し掴んだ手を上げてくるりと亜梨子を回す。
 フワッとスカートが膨らんだのにもミラージュが可愛いと褒めた。

「後ろ見せて後ろ」

「後ろ?」

 背中を向くと、スカートに段になったレースがボリュームをだしている。

「おー、後ろも可愛い」

 またくるりと回され亜梨子を見たミラージュがウズウズと体を動かし、亜梨子は首を傾げる。

「んー、可愛い!!」

「離れなさい」

「ちょっと無理かな!」

 ミラージュよりもだいぶ小さな亜梨子をすっぽり抱き込み嬉しそうに笑うその姿を見て、もう諦めたように高揚もつけず離れろと言うがいやいやと、首を横に振って拒否された。

「い、いやいやいやいや!待って待って!!」

「本当に付き合ってないの!?亜梨子ちゃん!?」
 
「付き合ってません」

「抱きしめられてるよ!?」  

「そうですね…………離しなさい」

「いったぁぁぁ」

 脇腹に強烈な一撃を入れ、痛みに亜梨子を離して脇腹を抑えるミラージュを亜梨子は虫を見るような眼差しで見つめた。



 
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