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第2章 水の都アクアエデンと氷の城

加入ラッシュ

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第二の街のベンチでスイは足を振りながらクリスティーナを待っていた。
今日は前から言っていたフェアリーロードとクリスティーナの顔見せの日。
クリスティーナはこれでもか、と色々作って持ち込みをすると楽しそうに笑っていた。

「……………なんか、視線を感じる」

顔を上げるとかなりの人数がスイを見ていた

「……………!?」

なに!?なんなの!?

いろんな所であれが奏者か…
など聞こえる。
そして

(´Д`三´Д`*)hshs

なんか、hshs言ってる人いる…

だが、大半はフェアリーロードについてザワザワと声が聞こえていた。
加入お断りのクランにどうやって入った?
なんかコネがあるのか?
などがざわつきに聞こえてきていた。
その異様な雰囲気にスイも警戒し始めると、
あの子に言ったらフェアリーロード入れるのかな…
お前、天才か……!!
結婚してぇ……
て ん さ い か !!!
途中なんか変な声も聞こえてきた。
舐めるような視線も感じる中、スイはとうとう立ち上がる

「なに?なになに!?」

カタッと音を立てて立ち上がったが、クリスティーナとの約束はここ、困ったように立ち尽くすスイを囲うように立つプレイヤーに、スイはひぃ!と心の中で悲鳴をあげた。





フェアリーロードの新しいクラメンかぁ
でも、寄生だろ?
寄生でも!可愛いは正義!!
いや、可愛さは関係ないだろ
…………………ないよな?




「………………何このカオス」




この人混みの後ろでクリスティーナは立ち尽くしていた。
かすかに見えるスイは明らかに困惑している。
そしてスイも見えた希望に縋り付く様に手に力を込めて握りしめた。

「……………!クリスティーナァァァァ!」

遥か遠くに見えるムキムキ女子に気づき力の限り名前を叫んだ。
ふるりと揺れる胸に、全員の視線が一点集中する。


神は………神はいたんだ…………


カオスな様子にクリスティーナの顔が引き攣る。
そんな時だった。
先頭にいた男がスイに近づき前に立つ。

「なぁ、あんたフェアリーロードに入ったんだろ?俺も入りたいんだ!なぁ、口添えしてくないかな?」

キラキラと少年みたいな目をしているが、その奥には欲望が渦巻いている。

「す、すいません。無理かと」

「え?なんで?だってあんただってリィンさんの口添えで……」

「………………だれだ」

「グ……グレンさん!!」

人垣を掻き分けて近づく男を掴み抑えるグレンが現れる。
驚き目を見開くが、安堵に顔を緩ませた。

「あ!グレンさん!」

掴まれている男が振り向きグレンを見ると一気に顔を赤くした。
憧れているのか目がキラキラしている。

「お!俺、フェアリーロードに入りたいんです!」

グレンの表情は険しくなり鋭い視線を向けると後から同じ様な声がひっきりなしに聞こえてきた。

「…………いきなりなんなんだ」

男の腕を離しスイの顔を指先で拭う。
ダクダクする涙はそれでも止まらない。

「新しく2人加入してるから、入れるんですよね!?」

「公式サイトのクランのにも乗ってましたし!」

ザワザワと騒ぐ周りにグレンは息を吐き出した。
そして、全員に見えるようにスイを隠すように体の向きを変える。

「我々フェアリーロードは以前と変わらず加入は受け付けていない。クラメン全てが加入を認めた特例のみ加入を許可している。今回の2人も特例として加入を認めたが、通常は認めてはいない。これがフェアリーロードのリーダーカガリ、そして我々クラメンの意志だ。」

「………………じゃあ、やっぱり贔屓で入ったのは本当なんだ」

「………なに?」

「使えない奏者が高ランカークランに入ったのは贔屓って噂になってますよ!リィンさんのフレンドだとか!だから、入れたんですよね!!奏者なんて地雷職が!!!」

ザワザワとする周囲は不満がみられる。
それを鼻で笑ったグレンはチラッとスイを見た。
再度不安が押し寄せてきたスイだが、グレンはスイの頭を軽く撫でまた全員を見た

「使えない、足を引っ張る奏者が我らフェアリーロードにいると思うか?」

グレンの一言に一瞬静まり返った。
だって………でも…………
奏者だろ……………?

「はいはいはいはい、通して通してー」

後ろにいたクリスティーナがその体で体当たりしながら前に出てきた。
それに気付いたスイが走りよりクリスティーナにぎゅっとくっつく。

「ごめんねー、もっと早く来ればよかったー」

ふるふると首を横にふるスイをぎゅっと逞しい腕で抱きしめた。

「ねぇー、クラン加入はフェアリーロードが決めることでそれを関係ないプレイヤーがグダグダ言うのは違うんじゃないのー?どんな理由で2人が加入したとか大事なのは身内のフェアリーロード達だけで、入れないからってスイを貶すのはただの妬みだよねー」

「ち、ちが……」

「違うっていうの?」

いきなり現れたクリスティーナにざわつくが、スイを慰めている様子にフレンドか、と納得。
また、掲示板を見ている人はクリスティーナの存在を知っている為じっとクリスティーナを見ていた。
ふわふわと話していたクリスティーナが急に鋭く睨みながら言う。

「何より仲間を大事にするフェアリーロードのクラメンに、仲間内の事グダグダいう人を入れるとはクリスティーナちゃん思えなーい」

クリスティーナの言葉に全員が顔を見合わせた。
たしかに。

小さく悪かった……
その声を皮切りに謝罪の言葉が飛び交い人垣はあっという間になくなって行った。

「グレンさん、ありがとうございますぅぅぅ!」

「いや、大丈夫だ」

クリスティーナに抱きつきながら言ったスイに、グレンは小さく笑って返事を返す。

「クリスティーナも、ありがとう!」

「ううん、本当にもう少し早く来るんだった」

「すきぃぃぃぃぃ!!!」

「あぁん!私もー!!」

くねくねクリスティーナは通常運転だ。

「まぁ、来るとは思っていたがな加入ラッシュ」

「え?何ですか?」

「いや、なんでもない」

クリスティーナから離れてグレンを見上げるが、優しく笑って返されただけだった。

「あ、私のリアフレでクリスティーナです」

「愛の料理人、クリスティーナでーす!」

「……………あぁ、よろしく。しかし、まさかクリスティーナだとは」

くねくねして頬に手を当てるクリスティーナをじっと見るグレン

「知ってるんですか?」

「あぁ、βで有名な料理人だったからな」

「フェアリーロードのグレンさんに知っててもらえるのは光栄です!」

フワッと笑って嬉しそうにするクリスティーナ。
ムキムキ女子でなければ完璧である。
本当に残念。

こうして静かになった噴水広場を離れ3人は揃ってクランハウスに向かうことにした。


「加入したい、ねぇ」

頬杖をついて話を聞いたセラニーチェが言った。
ため息も吐き出してしまう。

「予想はしてただろう」

「そうだけど、まさかスイちゃんの方にいくとはね」

はぁ、セラニーチェはプルプル震えていたスイの頭をグイグイと撫でた。
泣き腫らした顔で帰ってきたスイに、クラメンは一斉に立ち上がり寄り添った。
見知らぬクリスティーナがいて視線を向けたが、先にクラメンのスイを優先した、それはクリスティーナに一言断ってからだ。
むしろ、クリスティーナは自分はいいからスイを、とスイの背中を押した。

「予想……ですか?」

「昔からクランの加入は一切しなかったからな、2人入った事で加入希望は出るだろうなとは思ってた」

「だから予想の範囲内」

座るスイのところに来て無理やり膝に乗り上げるナズナはそのままスイにしがみつくように座って落ち着いた。

「………すいません、俺、ですよね」

「んー、まぁきっかけはファーレンだったけど入れるのを決めたのは私達だし、正直に言うとスイちゃんが入ったのはリィンちゃんのフレンドだからって言うのも当たってるしねぇ。……………いい当たりものだったけどね」

ペコッと頭を下げたファーレンにセラニーチェが苦笑する。
リィンのフレンドだと言われた時、リィンも弾かれた様に顔を上げた。

「今後は一切の加入希望受付はしない、入る場合は俺たちの求めている人材を俺達が見つけたときだけ。クラメンからの加入希望もなしな。」

ゴタゴタするからな。
そう言ったカガリに、全員がはーい!と手を挙げた。

「………………あの」

「どうした?」

ファーレンが俯きながら声を上げた。
大きくはないが全員がそちらに視線を向けた時に頭を下げた。

「あの………今まですいませんでした。すごく失礼な態度や嫌な態度を取って不快にさせたし、何よりスイ…さんには暴言も吐きました。クランの仲良くを出来なかった。」

「………それ、スイには謝ったのか?」

「はい、謝りました。」

カガリがスイを見て確認すると、泣いて赤くなった目をカガリに向けて頷いた。

「……スイは許したのか?」

「はい」

頷いたのを見て、カガリは全員を見た。

「どうだ?」

「………まぁ、正直不快ではありましたねー。ギスギスしたって楽しくない、集まる意味がないですからねー」

クラーティアが言うと、ファーレンは小さな声ではい、と返事をする。

「でも、ちゃんとごめんなさいが言えたのは偉いのですよー」

「ちゃんと反省してるのも伺えるしね」

「何も私たちはね仲良く出来ないならすぐ切り捨てるなんてしないわよ。ゲームだって人付き合い、一緒に居てみないと誰がどんな人かなんてわからないもの。」

「まぁ、目に余るものはあったがな。」

「だから、今後を見させてもらう。ちゃんとスイに謝ったみたいだしな。」

クラメンがどうしようもないな、と言うように苦笑しながら口々に答えた。
ファーレンは弾かれたように顔を上げた。

「………俺、フェアリーロード抜けなくていいんですか?」

「あなたが誠心誠意謝ったら、今後のあなたの成長を見るとみんなで決めたんですよ」

「頑張ってくれよ、盾は俺しかいないんだからな。」

「は、はい!!本当にすいませんでした!!」

ばっ!と頭を下げるファーレン。
すぐ近くにあるテーブルが頭スレスレで、何人かがギョ!としていた。

「あとスイ。」

「はい」

「なんかあったら通報なりなんなりしろ、危ねぇ」

カガリが真剣に言ってきた。

「ゲームでもほぼ現実と一緒なんだから、やろうと思えば犯罪並みの事だって出来る。1人の時は通報なりなんなり自衛をしろ。」

「スイちゃんなら一発殴るでも良さそうよね」

ウインクしながら手をグーにして言うセラニーチェに、スイは自分の手を見る。

「1対1ならすぐ通報、複数ならそれこそ殴れ。複数相手でハラスメントとかなら正当防衛は働くし、運営に注意や対処されるのは向こうだ。」

「わかりました。」

真剣に頷くスイに、クラメンはちょっと安心するが、次に出た話にまた心配は押し寄せてきた。

「ちょっと失礼しますね、私スイのリアフレで愛の料理人クリスティーナです!」

「!?!?」

「クリスティーナ!?く、クリスティ……ナ…」

「てか、βから居るクリスティーナ!?」

「………スイ、お前すげーやつ連れてきたな…」

あはー!と頬に手を当ててくねくね二割増で挨拶したクリスティーナに全員顔を引きつらせる。

「か、可愛いんじゃなかったんですか!?」

「……………中身とリアルは可愛いです」

「………そう来たか………」

うふふ、と笑うクリスティーナに全員が、じゃああれはクリスティーナの作ったやつか、それは美味いに決まってるわ!!と内心叫んだ。

「それでですね、これです。この掲示板」

公式サイトと掲示板はゲームからも見れるようになっていた。
開いた掲示板にはフェアリーロード加入への情報や新人2人について書かれている。
特に地雷職、寄生と書かれたスイについてはスクショまである。
そのなかには

スイたん、(´Д`三´Д`*)hshs
かわい!スイたん!
ご飯をあむあむあむあむあむあむスイたん
など書かれている。
ご丁寧に食事中のスイも貼られていた。

『ひぃ!!!』

気味の悪さに全員が腕を摩った。

「この内容とスイの外見拡散された結果、スイに加入の話が行ったみたいですよ。リィンさんに口添えしてもらってるって書いてるから、これが原因ですかねぇ?」

「す…スクショ?」

「ゲーム内で写真を撮れるんですよ。それを貼ったり送ったりも出来ます。基本自由ですね、アバターで身バレもしませんから。ただ、拒否のひとはここの……ここをこうすると……拒否になります。」

リィンが自分のステータスをだして説明する。
ステータスの項目で変更可能らしい。
設定した人以外のスクショの悪用は自動的に森と小鳥がさえずる画像に切り替わる設定だ。

「か、変えときます!」

「その方が良さそうだな。」

ポチポチと変更するスイを見て全員が顔を見合わせた。

「これは長引きそうね」

「あぁ………………随分個人的な事を詳しく書いてるな」

初期の戦闘棒立ちや、リィンとフレンドなどクラメンしか知らない情報も書かれている。
ファーレンは、はっ!と目を見開いた

「あ、俺アキラにその話したと思います。本当に最初の時の話を少し………」

「…………じゃ、そいつが拡散したか」

「本当にすいません……」

「謝るのは俺らじゃないだろ」

「………はい。あの、スイさんすいませんでした…」

設定を変更はしたスイはファーレンを見てふるふると首を横に振った。
地雷職だから、いずれは言われると思うと。

「……スイ、これはマジで通報とか何でもいいから直ぐに動け。アブナイ。」

「わ、わかりました」

こくこくと何度も頷いたスイをみんなが心配そうに見ていた。
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