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8.仕合とバイタルアラーム
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勝った。コロが勝ったんだ。怒涛の展開についていけずに呆然としているのは、僕だけじゃない。三人組も、誰もなにも言わない。静寂の中を、深い呼吸で体を揺らしているコロの声だけが風のように駆け抜けていく。
「もう二度と、俺の友達に嫌な思いさせんな」
ともだち。その言葉が誰を指しているのか、考えるまでもなくわかってしまったから。誰のために、楽しくもなんともない仕合を受けてくれたのか、わかってしまったから。鼻の奥が、つんと痛くなる。目の奥も、じんと熱くなる。
三人組はといえば「カッコつけてんじゃねぇぞ!」とか「次に会ったときは覚えてなさいよ!」とか「ごめんなさい、失礼しました!」とか三者三様の捨てゼリフを残して、あっという間にいなくなってしまった。うん、山伏さんだけは割といい人だったのかもしれない。
「コロ……!」
ありがとうとか、ごめんなさいとか。言いたいことはたくさんある。慌てて駆け寄る僕を、けれどコロはちらりとも見ようとしない。無言で立ちすくんだまま、片手で胸を抑えている。荒い呼吸も、なかなか整わない。むしろ、どんどん悪化しているような気がする。
「コロ、だいじょ――」
コロの腕に触れようとした、そのとき。鳥の声のような、笛の調べのような音が僕の耳を打った。一度だけでなく、断続的に続いている。ひどく不安を煽るそれは、まるで何かに注意をうながしているようにも聞こえた。
注意? そういえば、ヒノモトには《バイタルアラーム》というシステムがあった。現実世界で置き去りにしている体に深刻な異変が起こったことを知らせる警告音。それが今、コロのそばから、コロに向けて聞こえてくる。
「コロ!」
そうだ。さっきからモヤモヤしていた得体の知れない不安の正体は、これだったんだ。コロはきっと、最初からずっと具合が悪かった。バイタルアラームが鳴るほど苦しかったのに、それでも僕をかばって戦ってくれたのだ。
それなら一刻も早くログアウトしてほしい。けれど、ここで別れたら、もう二度と会えないような気がする。迷いながらゆっくりと手を伸ばした僕に、ようやくコロが視線を向けてくれた。なにかを伝えようとしてくれているのか、ほんのわずかに唇が動く。けれど、そこから声は生まれない。やがてゆっくりとコロの全身が淡く発光し、そのまま解けて消えてしまった。
「また会える?」と、言えないまま。
「さあな」と、聞けないまま。
「もう二度と、俺の友達に嫌な思いさせんな」
ともだち。その言葉が誰を指しているのか、考えるまでもなくわかってしまったから。誰のために、楽しくもなんともない仕合を受けてくれたのか、わかってしまったから。鼻の奥が、つんと痛くなる。目の奥も、じんと熱くなる。
三人組はといえば「カッコつけてんじゃねぇぞ!」とか「次に会ったときは覚えてなさいよ!」とか「ごめんなさい、失礼しました!」とか三者三様の捨てゼリフを残して、あっという間にいなくなってしまった。うん、山伏さんだけは割といい人だったのかもしれない。
「コロ……!」
ありがとうとか、ごめんなさいとか。言いたいことはたくさんある。慌てて駆け寄る僕を、けれどコロはちらりとも見ようとしない。無言で立ちすくんだまま、片手で胸を抑えている。荒い呼吸も、なかなか整わない。むしろ、どんどん悪化しているような気がする。
「コロ、だいじょ――」
コロの腕に触れようとした、そのとき。鳥の声のような、笛の調べのような音が僕の耳を打った。一度だけでなく、断続的に続いている。ひどく不安を煽るそれは、まるで何かに注意をうながしているようにも聞こえた。
注意? そういえば、ヒノモトには《バイタルアラーム》というシステムがあった。現実世界で置き去りにしている体に深刻な異変が起こったことを知らせる警告音。それが今、コロのそばから、コロに向けて聞こえてくる。
「コロ!」
そうだ。さっきからモヤモヤしていた得体の知れない不安の正体は、これだったんだ。コロはきっと、最初からずっと具合が悪かった。バイタルアラームが鳴るほど苦しかったのに、それでも僕をかばって戦ってくれたのだ。
それなら一刻も早くログアウトしてほしい。けれど、ここで別れたら、もう二度と会えないような気がする。迷いながらゆっくりと手を伸ばした僕に、ようやくコロが視線を向けてくれた。なにかを伝えようとしてくれているのか、ほんのわずかに唇が動く。けれど、そこから声は生まれない。やがてゆっくりとコロの全身が淡く発光し、そのまま解けて消えてしまった。
「また会える?」と、言えないまま。
「さあな」と、聞けないまま。
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