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1章 追放と受け入れ

20話 ダムも作れてしまう『超越』魔法

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無事に、岩石ゴブリンを打ち払ったあと。

ハイネらは、まだ沢の近辺に残っていた。

「マナ、構築ーー」

『武器変幻』を使い、腰刀を振るが、その相手は魔物でも獣でもない。


あたりに生えていて、手頃な大きさの杉の木だ。

刀は大斧へと変形させていた。

すっぱり根元から切り落とし、邪魔な枝などを削いで、腐った部分を取り除いていく。

ばらばらに切り分けるのは、ナナの役目だ。


手が空いているからと、自分から志願してくれたが……

「どーでしょうっ、ハイネ様!」

意外や、さまになっていた。
小さな斧を振りつける姿は、天使というよりすっかり建築屋の娘である。


そしてそれを沢のそばまで運ぶのは、タングとトングの兄弟だ。

戦術はともかく、普段の生活で身体は鍛え上げられているらしい。
率先して、運搬を担ってくれた。


「ハイネ様、この場所でよいですか?」
「はい、ありがとうございます、タングさん。あの、色々とお力をお借りしてすいません」
「いやいや、俺たち兄弟は今日もっと大きな恩を受けてますから、これくらい任せてください」


作業を分担したおかげか、必要な材料が集まるまでは早かった。

日が暮れるまでかかるかと思ったが、まだ太陽の勢いがあるうちに終えることができた。

「これくらいあれば十分です。ありがとうございます」

背丈ほどに積み上がった木々を前にして、ハイネは一つ、頷く。

「ハイネ様、これはなにに使うんですかー? あ、分かった! イカダで帰るんですね!?」
「……残念だけど、普通に下るつもりだよ。これは、沢の水を調節できないかと思って作ってみたんだ」

「……水の調節? えぇっと?」
「この沢から出る水を安定した量に調節するんだ。そうしたら、水害に困ることも、水不足も解消されるだろう?」

タング・トングの兄弟コンビ、ナナの三人が、へぇと口を揃える。


といって、ハイネも知っているだけだった。


大きな川などで、災害時などに水量を調節できるらしい「ダム」という施設のことだ。

文献で読んだことがあるだけで、どんな構造なのかまではよく知らない。


でも、そんな状況すら乗り越えてくれるのが、『超越』魔法だ。

ハイネは、再びマナ魔法を構築していく。


「兄者。ハイネ様の魔力は無限なのか……?」
「弟よ、俺も不思議でならない。むしろ、全く魔力のオーラを感じないというのに」


『超越』魔法が、一般の人に感知されにくいらしいのは、代官たちと一戦を交えた時の反応で分かっていた。


無限かどうかについては、ハイネ自身もよく分からない。

ただ少なくともわかるのは、まだまだ切れる気はしないということ。


これが、ハイネの中にいるという、女神・アテナイの加護だろうか。底が知れない力が漲り出してくる。

だから、普通なら大掛かりな作業のいるだろう工事も、

「……ふぅ、こんなんもんかな」

どうにかうまくいった。

強く明滅する光の塊が消えていったのち、忽然とそこに姿を現していたのは、小さなダムだ。

湖面を囲うように作ってあり、これで魔物がやってきても、水辺が塞がれることはない。

そして、水の流れを調整する弁も、ひとまずはうまく機能しているようだ。


流れが一定になってくれていた。


(……って、中の構造は僕も細かくは分からないんだけどね)


『超越』魔法による知識面のサポートあっての、ダムである。

なんとなくできてしまったが、メンテナンスなども必要だろう。

細かい仕組みは今度サンタナ爺に見てもらうことにしようか。


ハイネが納得して振り返ると、

「……って、あれ。タングさん、トングさん? どうかされましたか」

兄弟コンビは完全にフリーズしていた。

季節外れの、氷付人形と化している。いきなり見せるには、派手な技だったろうか。

「ハイネ様が凄すぎるんですよ。あんなの、人間離れしてますもん」

天使様がそれを言うかと、ハイネは少し呆れる。

「……ちなみにナナさん、この状態異常はヒールで治るかな?」
「んー、炎属性の魔法があれば溶けるかも知れませんよ」

……うん、僕には使えないね。

「ま、わたくしは待ってもいいですけど♪   だって結果的に、ハイネ様と二人きりですし♡」

肩をぐいっと寄せて、ナナの表情は一気にとろけだす。
可愛いのも、妖艶なのも、どんな仕草でも自在なのだから、すごい。

笑顔ひとつしか持ち合わせていないハイネには考えられない豊かさだ。

ぐいっと腕を引かれる。

「ねぇ、ちょっとあっち行きましょ、あっち」
「……あんまり離れると、二人が危ないからね」
「分かってますよ、だから川辺で二人、小川を眺めるんです♪   そういうのも、自然で素敵じゃないですか」


いったい何をしに来たのか忘れてしまうような平和な時間だった。

タングとトングの兄弟が意識を取り戻すのを待ってから、ハイネらは下山した。


もちろん、帰り道すがら果実類を採取するのも忘れなかった。




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