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1章 追放と受け入れ

21話 変わり始めた零細村

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沢にダムを設置してから一週間ほど、カミュ村に流れ出る湧水は、安定した水量を保ちはじめていた。


干からびる寸前だった水田は見違えたようにみずみずしくなり、

「ハイネさん。おかげさまで、本当楽になりました、ありがとうございます、ありがとうございます」

水を汲んでは田へ流すという重労働から、レティを解放することもできた。

2回言うのは相変わらずだが、「ありがとう」の方が、「すいません」よりは、いい。


同じ湧水を利用していた他の住民からも、感謝の声が相次いでいた。

「結構ですよ」と断るのに、毎日のごとく獣肉やら野菜類やらの捧げ物が送られてくる。

そのせいか、レティは料理に目覚めたらしい。

毎日のように腕によりをかけ、ハイネらにご飯を用意してくれていた。

おかげで、日中の農作業でも精力的に動くことができている。


雑草抜きなどの作業がひとまず終わり、ハイネは田んぼ全体を見回す。
と、横にやってきたレディが声を弾ませた。

「おかげさまで、これなら秋の実りも、昔と同じくらいは期待できるかもしれません」
「それはよかった。また、美味しいお米ができるといいですね」
「はい。ハイネさんと一緒に食べられる日が、今から待ち遠しいです」


……いつまで自分はここにいるんだか。

それ以前に、呪われた子だったと知られたら、どうなるやら。


ふと考え込むハイネだったが、レティの屈託のない笑顔を見ていると、

「あ、サリちゃん! だめですよ、田んぼに入っちゃ!」
「……ナナもくる?」
「行きません~、戻ってください。ハイネ様に私が怒られる~」

完全に村へ馴染んだナナを見ていると、

そんな未来があってもいいかもしれないと思えてくる。

にっこり、笑い返しておいた。





一方、朗報が届いたのは水田だけではなかった。

ハイネの作り出した家具や道具などを詳しく調べていたサンタナ爺の研究にも、進歩があったらしい。

ナナは、相変わらずサリの子守りをしていた。

そのため一人で家へと伺ってみれば、なんと大量の柵が壁に立てかけてある。


「サンタナさん、もしかしてこれ……」
「そうとも、ハイネ殿よ。この間、貴殿の作った柵を分解させてもらっただろう? あれから分析を重ねて、ついに複製できるようになったんじゃ!」


それはまた、なんとも革命的な話だった。

マナを使えるハイネだけが作れるのでは、どうしても作れる数が限られてしまう。

だが、こうして分析してもらうことで量産できるとなれば……

飛躍的に利用価値が上がる。


「いやぁ、本当に良いものじゃった。接合部分も良かったが、木々のなめし方もなかなか見たことない技法でーー」


もう職人は引退したと聞いていたはずだ。

だが、消えかけていた探究の炎は、もう心配がいらぬほど熱く燃えていた。

早口で、ハイネにもわからぬ話を語る。

再利用のための分解はハイネも仕事の一環でよくやっていたが、細かいことまでは分からない。

「あぁ。そうじゃ、一つ、すごい機能を見つけてなぁ。見てくれんか。この柵なんじゃが、下部に小さな穴があるだろう」 
「……小さな穴、あれ、本当だ」

目立たない場所にあったから、作った時には気づかなかった。

「そこに、魔石を嵌め込むとのう。その魔石の属性を持った魔力を纏うんじゃよ、柵自体がの!」

試しに、ということで、サンタナ爺の家にあった風の魔石を拝借し、はめ込む。

すると、柵自体がほんのりとライトグリーンに光りだした。

「こういったことができる物があるのは、知っておったが……。
 この柵は、別格だ。作りが美しいから、魔石の魔力を木々へ効率よく伝導させ、効果の発現が実に綺麗に行われとる。
 かなりの防御効果を発揮するじゃろうな。耐久性も文句はないじゃろう」

魔石は、放っておけば魔力を空気中から補充し、永久とはいかないが繰り返し使える代物だ。

このように道具と組み合わせことで、その効果を引き出せるのはハイネも知っていたが、まさか自分が作れようとは思わなかった。

「……ということは、これを川沿いに埋めれば。
 落下防止はもちろんですけど、魔物に侵入されることも減りそうですね」

しかり、とサンタナ爺は白髭を蓄えた顎を縦に振った。

「間違いなく、他にない逸品ですぞ。むろん、売るような真似はしませんがな。
 ハイネ殿の作じゃしな」

「僕は別に構いませんよ。研究して、量産したのはサンタナさんですし、この村のためになるのなら」
「なんとお心の広い……。ハイネ殿のような方が、本当は領主(・・)に向いておろうになぁ」


教会で下働きしている時には、まさかこんなセリフを言われるようになるとは思わなかった。

ハイネはおどろきながらも、いつもの笑顔で愛想を作って、その言葉を受け流す。

「はっは、ワシは本気で言っとるんじゃがの。
 ハイネ殿ほどの力、知識があれば、この村を乗っ取ることなど簡単な話だ。
 だが、貴殿はそれをしないばかりか、ワシらと同じ目線で村の改革に取り組んでくれておる……」

「乗っ取るなんて、そんなめっそうな」

「いいや、力を手にして変わらない人はかなり珍しいんじゃよ。
 ひとえに、貴殿の徳のおかげ。まさしく、領主の器と言えよう」

「……それは買い被りすぎですよ。えっと、それで、その柵はどうするんです?」

ハイネは、むりくり話を引き戻した。

意図を察したのか、サンタナ爺はニヤッと笑って見せる。

「あぁ、でもひとまずは売るほどの量もない。川沿いと、村の外周に設置するのが先じゃな。
 明日、設置したいのじゃが、手伝ってくれますかな」
「えぇ、もちろんです」
「それはありがたい。士気が上がりますからな。ワシの方でも、村のものに声をかけておくぞい」

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