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二章 属性魔法学との対峙
55話 【幕間】広がる噂と嫉み 時代を変える男
その人物の噂は、じわりじわりと王都の中で広がりを見せていた。
たとえば、大通りの裏手にある宿屋にて。
宿屋の主である老婆とその孫娘は、宿の掃除をしながら会話を交わす。
「おばあちゃん、やっぱりアデルさんすごいんだよ。
魔法で部屋の修繕もしてくれたし、この間は壊れた井戸も直してくれたの。もう、びっくりしちゃう! 本当に頼りになるの」
「ほっほ、あんたはよっぽど気に入ってるみたいだね、あのお客さんのこと。
ま、私も彼には感謝をしているよ。店が綺麗になったおかげで、新しい客も泊ってくれるようになったからね」
「うんうん! ほんと、うちの宿の救世主だよ。あー、今日はいつ帰ってくるんだろ。今日も疲れてるだろうから、たくさんご飯用意しなきゃ! あと、干したてのベッド作ってくるね」
「ほっほ、いつになくやる気じゃな。恋でもしたか? 孫よ」
「なっ、ちょっとやめてよ、おばぁちゃん~!」
時にはその優しい人柄と、魔術の万能さによって。
また時には、その勇敢さと魔術の強力さによって、アデル・オルラドは噂の種になる。
冒険者ギルドのロビーにおいては、彼に憧れを覚えた冒険者が高い熱量で語り合う。
「聞いたか? 『惑いの森林』に現れたアーマヅラを、簡単に倒したって話。まじですげぇよなぁ。俺だったら絶対怖くて逃げだしてる」
「普通は誰でもそうするわよ、あんな強力な敵。立ち向かう勇気と、力があったアデルさんがすごすぎるの。そりゃあ、ギルドから報奨金を貰えるわけよね。
はぁ、今度ギルドで見かけたらサイン貰おうかしら。あと、できれば握手もしたい」
「いいなぁ、それ。俺も握手してもらいたい! あとついでに、魔術を一つ教えて貰いたい」
「分かる。もう一回、学校入り直して、じかに学びたいくらい。だって、あの人の生徒もすごい人ばっかりだもん。
最年少で学校理事になったリーナさんに、フェルショップのフェデリカさん、ギルドで試験総括をしてるレオナルドさんも、みんなアデル先生の愛弟子なんだって」
とにかく、話題はアデルの英雄譚で持ち切り状態になっていた。
さらに、行商らが集まる商店街においても、噂は熱をもって語られる。
「いったい誰が作ったって言うんだ、このポーション! 効果を一部の箇所に限定できるなんて優れもの、異国でも耳にしたことがないぞ……」
「あぁ、まったくだ。ポーション界に革命を起こせる品だよ。いま流通しているどのポーションよりも優れている。ただ白魔法を込めただけじゃないらしいんだ。
常識を変える、とんでもない一品だよ。これは」
「でも、これを作った人はたった一回、ふらっと売りに来ただけなんだろう? もったいないよなぁ。幻の薬師だな」
「あぁ、まったくだ。次に会ったら、いくら払ってでも仕入れたいよ」
たった一度、残りもののポーションを売っただけでこれだ。
なかば伝説になりかけている。
噂は彼の勤める学校においても、じわりじわりと水面下で話題に上がっていた。
「アデル先生、すごいなぁ。赴任数日で、教授の不正を暴き、ダンジョンの危険も退けた。
ここまで成果をあげる教師、他に見たことがないな」
その活躍を耳にして、純粋なる尊敬を覚える者。
「ちっ、気に食わねぇ。たった数日で、教授になるなんてありえねぇ」
一方で、その大活躍に嫉妬心をくすぶらせる者もいる。
なかでも、もっとも深い憎悪をにじませていたのは、一人の老教授だ。
王立第一魔法学校に勤めて、50年以上の齢75歳。
もはや生きる化石となっている、シモーニ・エレンストだ。
かつて魔法学の権威として、その発展に貢献していた彼だが……、その思考は時を経て、凝り固まっていた。
非常に保守的な人間である彼は、自分の理解できないものがひどく嫌いであった。
ましてや、自分の培ってきた魔法学での地位を脅かす『魔術』などは目障りそのものだ。
「喪失魔術のごとき劣等魔法を持て囃して、なにになる! あんなものに、誇り高き属性魔法が負けるはずがない!」
彼は教授室にて一人、書類を撒いて苛立ちをぶつける。
その老いて凝り固まった思考と目に、現実は映っていない。
「ふんっ、今にまた排斥してやるぞ、あの若造め!!」
5年前、『喪失魔術学』を国に反する学問だとして、王家に進言し、廃止に追い込んだのは他ならぬシモーニだ。
今度も同じように事を運んでやればいい。
そう意地の悪い企みをする彼であったが……かつてとは状況が違う。
大成した彼の元生徒、リーナ・リナルディはいまや学校理事であるし、他の生徒たちも様々な分野で活躍を見せている。
アデルの教えた魔術は確実に、時代を変えようとしていた。
過去に固執するシモーニに、それが気づけるわけもない。
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