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双子の桜

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居場所をくれた。役割を与え、それを成せば褒めてくれた。体温までもらってしまって、カラカラに乾いていた咲の心の中には、もうだいぶ、彼の熱がしみこんでいる。出来れば本当は、彼のような存在と別れたくない。でも人とあやかしは同じ場所に住めない生き物だ。いつ新たな居場所を告げられても良いように、咲は自分の気持ちが大きくなるのを一生懸命堪えていた。

桜の許までたどり着く。節のある幹をした古木は見上げるほど大きくて、輝かしいほどに花びらを大きく開いている。

「素敵……。桜の王様みたい……」

「そうか?」

咲は邑の山すそに咲く桜の花しか知らない。境界に気を配る千牙なら、他の人里に咲く桜も見たことがあって、それでこの桜の大きさを気に留めないのかもしれない。

「この大きさは、特別大きなわけではないのですか?」

「どうかな。私と同じ時を経ているから、少なくとも人里にはこの大きさはないだろうな」

同じ時を生きる、千牙と桜の古木。じゃあ、千牙にとって、双子のようなものだろうか。そう聞いたら、千牙は楽しそうに笑った。笑いながら目を細めて大木を見上げる千牙は、彼の里がここだというのに、どこか郷愁を感じさせるものだった。

「そうだな、そう言ってもいい。……咲。この桜に、名をつけてくれぬか」

「この桜に……、ですか? で、でも、千牙さんの双子のような樹ですよね?」

「そうだ。大事な樹ゆえ、咲に頼みたい」

ひたと見つめられれば、嫌とは言えず、咲は大きく枝を伸ばした桜を見上げた。堂々たるこの桜に名をつけるなら、この名しか思いつかない。

「……では、『桜玉』と。千牙さんの末なる友として、千牙さんを支えてくれるように」

「ほう、良い名だ。桜玉も喜んでいる」

千牙は穏やかに桜を見上げ、誇らしげに咲いている花を一輪手折ると、咲の髪に刺した。

「咲。今後、なにか困ったことがあれば、桜玉の名で助けを呼べ。桜といえど、桜玉もおにかみの里の命。名の礼として、きっとおぬしを助けてくれる」

「え……っ、でも……」

咲が遠慮を見せると、こつん、と指で額を弾かれた。

「そもそも、おぬしがなにも望みを考えぬから仕掛けたことだ。否とは言わせぬ」

千牙はそう言って、結構な迫力で咲に是と言わせた。咲が頷いたことで、どこかしら機嫌の良さそうな千牙をちらりと仰ぎ見る。
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