無能の少女は鬼神に愛され娶られる

遠野まさみ

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双子の桜

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(困ることって……。あやかしの里の桜なら、なにか不思議な力でも働くのかしら……。でもこれから私は何処かの人の邑に行くのだし、そうなれば桜玉の助けを借りずに、自分の力で生きて行かなきゃいけないもの……)

そうは思いつつも、千牙の配慮を嬉しく思う。嬉しく思うが、その心が自分を弱くしないと良いが……、と、咲は気を引き締めた。

部屋に戻ると、小夜が待っていた。どうやら千牙を呼びに来たらしい。咲が最初に千牙と契約について話をしていた時も部屋に控えていたし、小夜はきっと千牙に近しい地位のあやかしなのだろう、と思う。

「おや、その桜は」

小夜が咲を見て、そう気が付いた。髪に刺してもらったままになっていた桜を指摘されて、なんとなく照れる。

「長に贈られましたか」

「は、はあ……」

小夜は、ハチやスズのように感情を面に載せない。始終穏やかに微笑んでいて、それが里の長たる千牙の傍に控える立場の余裕なのだろうと思う。その余裕を、すごく、いいな、と思う。

(? 『いいな』?)

ふと、湧いた感情を疑問に思っていると、千牙がぽんぽんと咲の頭を撫でて、また来る、と言い残し、小夜と部屋を出て行った。部屋の襖が閉じる間際に聞こえた、『境界の際で……』と言う言葉が耳に入る。また、朧が生まれるのだろうか。思案していると、小夜が部屋から出ていくのを見計らって、部屋の隅から近づいてきたスズが、満面の笑みで咲に話し掛けてきた。

「咲さま、よかったですね! 庭の桜は、長そのものだと聞いております。その花を贈られただなんて、素敵です~!」

ああ、千牙が双子同然と表現したことか。その件については、咲の心中でも、御しがたい感情が走っている。千牙が去った今、改めて桜に触れてみて、その意味を推しはかろうとしている。

「あの……、花を贈ることは、なにか特別な意味が……、あったりする……? その、憐みを与えるというような意味合いの……」

故郷の邑では、咲になにかを与えようなどと考える者はいなかった。咲が無能の役立たずだったからだ。この里では、かろうじて千牙の役には立っているらしいから、食べ物ではないにしろ、これは餌付け……?

咲の言葉に、スズは吹き出した。

「やだ、咲さま! 殿方からの贈り物……、それも長からの贈り物を、憐みの所為だなんて思っちゃ駄目ですよう! これはれっきとした好意! そうに決まってます!」
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