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9尾リ手E

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悪への羞恥と期待と希望とそれとそれらへと続くもの

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黒田湊/怪人/男
瀬戸奈央/女
白石陵/レッド/男
尾見玲奈/ピンク女
佐野晃/車掌/男
姉貴/黒田美南:女
ト書きは黒田がお読みください

__あの、ショーに立ちたくて
誰よりも輝きたくて、あの一員になりたくて、
どうやったら立てるのかなぁ

__本編

黒田:「あれ俺ってば何をやってるんだろう」

レッド:「来たか悪魔怪人レヴィア!!!!!」

黒田:「いつから僕の手は真っ黒に染まって
いたんだろう。本当は、あんな眩しい
スーツを着て、高笑いをして、皆んなが
憧れるそんなヒーローになりたかったんだ」

レッド:「何ボサっとしてんだ(小声)」
瀬戸:「あれれ、レッドが固まってるこれは
もしかしてレヴィアの催眠攻撃か!!!!!」
レッド:「ぐぬぬ。おのれ、レヴィア卑怯な
手をそんなものに屈してなるものか!!!」

黒田:「今、僕はヒーローを壊す側に
回っている。人を安心させたくてこの道を
選んだと言うのに、気がつけば僕は人を
恐怖に陥れていた……」

__いつから、ヒーローを諦めたんだろう。
いつから、どうでもいいと匙を投げたんだろう。
__回想

__劇団南の星

佐野:「えっと希望はヒーローか」
黒田:「はい!ライジンカーZのレッドに
なりたいですっ!」
佐野:「レッド希望か、(舌打ち)お前みたいな
奴、腐るほどいるからなぁ……」
黒田:「別にレッドじゃなくても大丈夫です!」
佐野:「……(舌打ち)なんでこうもヒーロー
ばっかりなんだか」
黒田:「グリーンでもブルーでも大丈夫です!」 
佐野:「言っとくぞ先に、ヒーローなんてのは
な、数取れなきゃ意味ねぇんだよ。お前みた
いな平凡顔に何が取れんだよ」
黒田:「顔は関係無くないですか?」
佐野:「歴代のヒーローを思い出してみろよ。
何があるよ、そこに……」
黒田:「……」
佐野:「お前だってわかってんだろう、俺は
ヒーロー向きじゃないってよ」
黒田:「じゃあ何に向くんですか?」
佐野:「あ?今ちょうど、怪人に空きが出た、
それお願いするわ」

黒田:「怪人。人を不快にさせる。嫌われる。」
佐野:「当たり前だ、だから怪人なんだよ」
黒田:「ヒーローになりたかった……」
佐野:「じゃあ整形してこいよ?あ?」
黒田:「そんな事、言うんですね」
佐野:「舞台に立ちてェ人間なんてよ腐る程
居るんだァ、お前みたいに何の経験もない
トーシロウがよ、舞台に上がれるだけ感謝
しろって事、わかったか?」
黒田:「……はい」
黒田:「学祭でやってました!なんて言った
所で、お遊びだ、って一蹴されるに決まっ
てる……」
佐野:「何、まだ、なんかあんの?」
黒田:「いいえ」

__回想終了


__言葉は刃物。尖りに尖って引っこ抜く
のも、難しい。どうしたら良かったのか。

白石:「あちぃ、終わったぁ」
尾見:「ねえ、あの怪人役の人大丈夫なの?」
瀬戸:「ん?」
白石:「今日新人が台詞飛ばした」
尾見:「ゲネの時は大丈夫だったよね?」
白石:「緊張したんだろう、こっちはよ
デビュー戦が掛かってるってのによ……!」
瀬戸:「まあまあイライラしないでよ」
尾見:「まあでもイライラする気持ちは
わかるよ……うん」

__何になりたかったんだ俺は。なぁ姉貴、
ガキの頃に描いた夢は、白紙になっちまったよ。

黒田:「僕は、これでいいのか。ヒーローに
なろうって描いた夢は、いつから悪になる
に切り替わっていたんだ……」

黒田:「この黒い手は、何を掴もうとして
るんだ。」

黒田:「あの舞台に立つ。ライジンカーzの
一員になりたくて、誰よりも輝きたくて
あの赤い仮面(マスク)を被りたくて……」

__ヒーローを目指した道は、本当に
遠くなっていた。頬を伝う涙はコンクリの
中に浸透していった。

佐野:「お疲れちゃん(タバコを咥えながら)」
瀬戸:「……タバコ臭いウザい」
尾見:「流石瀬戸ちゃん!もっと言ってやれ!」
佐野:「プハァ、クックックックックッ……」
瀬戸:「顔に吐き掛けるとか最低」
尾見:「うわぁクズだ」
白石:「何で俺のデビュー戦あんな素人に
丸投げしたんですか!?舐めてんの!??」
佐野:「しょうがねえだろう。悪役の人がよ
インフルに罹っちまったんだからよ」
白石:「ならそれなりの所に頼んで下さいよ」
佐野:「ジャックアップに紹介でも掛けて
見れば良かったってか?」
白石:「まだその方がマシだったんじゃない
っすか?」
佐野:「ゲネの時は上手く行ってたんだけどな」
白石:「あの悪役は舞台を"殺し"たんだよ」
佐野:「流石にアクシデントまで先読みしろ
ってのは、暴論すぎるわ、引くわー!」

尾見:「ねえ、瀬戸ちゃんどうする?」
瀬戸:「お互いの言い分が分かるからこそ
私は、どっちの味方もしないよ……」
尾見:「えぇ」
瀬戸:「……私が味方するのはアイツだけ
だから」
尾見:「アイツ?」
瀬戸:「んん、なんでもない」
尾見:「……そうなんだ」
瀬戸:「……」
尾見:「白石さ、瀬戸ちゃんの事狙ってる
よね、彼氏いるって事は知ってるの?」
瀬戸:「……知らないんじゃない」
尾見:「言わなくてもいいの?」
瀬戸:「どうでもいい」
尾見:「あの"元劇団冬季"エースだった人
だよ。普通ならOKするって……」
瀬戸:「元でしょ?今も続けてなかったら
意味ないって」
尾見:「あれ瀬戸ちゃんは確か"劇団3$25cent"
だったっけ?」
瀬戸:「そうだよ、尾見ちゃんは?」
尾見:「私は"梨食う客"だよ」
瀬戸:「普通に有名じゃん」
尾見:「えへへ、照れちゃうな」

__ヒーローに憧れて、この業界を目指して
ルックスだ、なんだって、心に炎を灯せば
きっと、気づいてくれると思っていたのに

黒田:「……天井が高い」
白石:「おいノロマァ!お前のせいで台無し
だよ、どうしてくれるんだ?」
黒田:「……白石さんだ」
白石:「今日の舞台はよ、映像関係者が
いっぱい見に来てくれてたんだぞ、どうして
くれるんだよ……」
黒田:「……ごめんなさい」
白石:「佐野を信用した俺が馬鹿だった」
黒田:「佐野さんは悪くないです、僕が断りを
入れればいい話でしたから……」
白石:「ならなんで断らなかったんだ?」
黒田:「それでも、僕は__」

__ガキの頃に言った夢を、姉貴は信じて
くれた。馬鹿げた夢だって笑ってくれたら
良かったのによ、何であんな真っ直ぐに
僕の目を見てくるんだ。なんでバカだなって
嘲笑ってくれなかったんだよ。


姉貴:「湊はさ、私みたいにならないでね」
黒田:「……姉貴」
姉貴:「お姉ちゃんね心の病気で暴走しちゃって
全部駄目になっちゃった」
黒田:「俺は、姉貴の演技が好きだ、あの
光が差し込む、熱気を帯びたあの空間で
姉貴は一人戦っていた。それが好きだった」
姉貴:「湊に褒められて、お姉ちゃん嬉しいな」
黒田:「戻ってくれよ、あの舞台に……」
姉貴:「……戻りたいよ、みんなに笑って
欲しいよ、でも無理だよ……」
黒田:「何でだよ」
姉貴:「お姉ちゃん自分だけの世界に入り
込んじゃってね、色々な人達に沢山の悪口
を言っちゃったんだ……」
黒田:「……でもそれは」
姉貴:「印象が大事な世界。悪い事をして
復帰出来る人なんて本当に稀。ほとんどの
場合、ボロカスに言われて辞めていくのが
関の山……」
黒田:「__姉貴」
姉貴:「だから湊は、みんなから沢山愛される
そんな人になってね……」
黒田:「俺は、姉貴に愛されてる、それだけで
それが全てだよ」
姉貴:「……湊に愛されて嬉しい、ありがとう」
黒田:「……だから死ぬんじゃねえぞ」
姉貴:「……お互いになって、ふふっ」

__ヒーローになって姉貴を救いたかった。
証明したかった。病気なんかに負けないって

佐野:「"劇団宝狩り" 女性のみの劇団。
その厳しさは他の劇団をも凌駕する程に、
そして、その最大手の劇団の花形である
"黒田美南"が自殺をした。とニュースで
流れた。あの、美南さんが……」

瀬戸:「美南さんなんでよ、なんで自殺なんか
しちゃったの……ぅぅ」

尾見:「劇団の人が、あんなにもTVで大大的
に放送されている。どれだけ凄い人だった
んだろう。ウチの所属してる劇団員もみんな
大慌てだった。自分の所属外の劇団にまで
影響を及ぼす程にこの人の死は途轍もない。」

黒田:「なんだよ、姉貴。みんな姉貴の事
好きなんじゃないか。だって貴方の葬式に
何千って人が来ている。TVで見た事ある
人が沢山来てる……」

黒田:「なぁ、姉貴。いっぱいの人が泣いて
くれてるよ。それでも姉貴は嫌われるって
言うの?ならさ、俺が証明するよ……」



瀬戸:「湊君?もしかして?」
黒田:「え」
瀬戸:「お姉様には沢山お世話になりました」
黒田:「……あ、奈央さん、もしかして?」
瀬戸:「瀬戸奈央、"劇団3$25cent所属の」
黒田:「どうも」
瀬戸:「お姉様には沢山可愛がって貰い
ました、なのに、なんで……ぅぅ」
黒田:「な、泣かないで、あ、でも葬式の
時に泣かないでって言うのも酷い話か……」
瀬戸:「ぅぅ……」
黒田:「でも、泣いてくれて、ありがとう
ございます……」

__ヒーローになりたい、その為に。

黒田:「姉貴、俺ヒーローになる!!!!!
ライジンカーZになるんだ!!!!!」
姉貴:「……湊ならなれるよ」



__ヒーローは、姉貴の夢でもあったんだ。

白石:「ヒーローはよ、ノロマは、なれねえし、モブ顔もなれねえし、棒読み君もなれねえし、ってこれ全部お前の事か」
黒田:「だから佐野さんのせいじゃないでしょ」
白石:「……佐野がお前を引っ張って来たん
だから、佐野にも責任あんだろうが」
黒田:「……流石にそこまでないよ」
白石:「なぁお前何しに来たんだよ?」 

黒田:「何をしに来たんだ。と言われても
そんなの、ヒーローになりたかったに
決まっているだろう。」

白石:「何がそんなに気に食わないの?」
黒田:「気に食わないとかじゃなくて……その」
白石:「え?何?」

__何でだよ、あの舞台に立とうと思った
俺は、馬鹿だって言うのかよ。

瀬戸:「……私が味方に」
尾見:「ん?」
瀬戸:「誰も頼れないなら私が」
尾見:「まさか、え?」
佐野:「あ?お前ら何やってんだ?」

__ヒーローになりたいと、あの日の窓辺に
思いを馳せたのに……。

瀬戸:「何で彼は、ヒーローになれないの」
佐野:「何で砂利も踏めねえ馬鹿にヒーローを
任せるんだよ」
瀬戸:「心は無視なのですか」
尾見:「え」
佐野:「瀬戸お前何が言いたいの?」
瀬戸:「心は叫んでいるんです!!!!!」
佐野:「何熱くなってんの?」
尾見:「瀬戸ちゃん落ち着いて」
佐野:「台詞も飛ぶ馬鹿に主役は任せらんねーよ」
瀬戸:「真摯に向き合えばどうにかなった!」
佐野:「お前頭おかしいのか?」
尾見:「瀬戸ちゃん流石に味方できないよ其れは」
瀬戸:「味方しろなんて言ってない。おかしい
事を言ってるって分かり切っているから……」
佐野:「なら何で突っかかってくるんだ?あ?」
瀬戸:「顔で選ぶのは違う!!」
佐野:「顔だよ、この業界じゃあヒーローは
顔だ。誰がモブ顔のヒーローを応援すんだ?」
瀬戸:「顔は関係ないっ!!」
佐野:「企業のイメージ。作品の売り方。
一つの作品を完成させる為だけに半年以上
掛かるんだ。おいそれと不安定なものを
入れる訳にもいかねえんだよ、わかれや」
瀬戸:「……」
佐野:「俺らはボランティアでもねえ、利益が
ただほしいだけだ、数取れたら正義だ……」
瀬戸:「……腐ってる」
尾見:「分かり切ってたじゃん、瀬戸ちゃん」
瀬戸:「何で何年もコツコツと"なりたい"
って思う人の心を無下にできるの?」
佐野:「なりたいでなれるんだったらよ、
誰も、オーディションなんかしないし、
養成所も無いし、学校なんかもねえよ」
瀬戸:「……諦めない」
佐野:「何ィ?お前ら付き合ってんの?」
瀬戸:「急に何」
佐野:「何であの"モブ"にそこまで執着
してんだァ、お前らしくもねーな……」

__ヒーローになりたいと思う心を
壊したくなかったんだ、それをしてしまっ
たら、俺の人生は何だったんだ

白石:「なんだよ、言ってみろよ」
黒田:「……顔で決められる世界ってそんな
理不尽が何で罷り通るんですか」
白石:「結局は企業の犬って事だよ」
黒田:「……は」
白石:「そんなことは百も承知だろうがァ」
黒田:「……ヒーローに」
白石:「(顎を手で摘みながら)」
白石:「クック……アッハッハ、汚ねえ一重、
高くもねぇ鼻、汚ねえカサカサな唇、
あのさ、お前"役者"舐めてんの?」
黒田:「……手、放してください」
白石:「ケアのケの字も知らねェ素人がよ
シャシャんなよ」
黒田:「白石さんはヒーローに心からなり
たいって思ってるんですか……?」
白石:「"売れたら"それでイイんだ、そんな
ガキみてえな奴、この業界にイラねぇんだ
ワ、わかれやモブ顔くん、アッハッハ」
黒田:「……(息は荒く)」
白石:「汚ねぇ顔はさ、悪役でもやってろよ
所詮お前ら悪役はよ、俺らの引き立て役
だよ、フフ、ハッハッハ……」
黒田:「……白石さん悪役似合ってますね
俺なんかよりも、ずっと」
白石:「あ?死にたいの、お前?」
黒田:「昔、よくヒーロー役をする俳優さんが
"強い" って思い込んじゃったらしくて、
それで、チンピラにボコボコにされたみたい
ですよ……」
白石:「何が言いたいの?」
黒田:「…… ただ似てるなって」
白石:「んっ(殴る)」
黒田:「……うっ」


なぁ、姉貴、殴られに、殴られた
ヒーローの行き着く先はどこなんだ


姉貴:「……湊はヒーローだけが全てだと
思う?」
黒田:「だってヒーローはみんなを守るん
だろう?」
姉貴:「でもね、悪がいないとヒーローは
成り立たない」
黒田:「ん?」
姉貴:「でも、それでも、悪は悪を貫いて
ヒーローもまた同じように」
黒田:「なんか難しくてよくわかんないよ」
姉貴:「自分が誇れる自分になりな、
どれだけ否定されてもその意思の矢だけは
絶対に折ったら駄目……」
黒田:「……姉貴は折れちゃったのか」
姉貴:「折れちゃったみたい」
黒田:「俺、また見たいよ、姉貴の舞台」
姉貴:「湊、これだけは忘れないで」
黒田:「ん?」
姉貴:「"一人でも自分を応援してくれる人が
居たら、勝ちだよ、舞台人としての"」
黒田:「……」
姉貴:「あのね、応援されるって凄いこと
なんだよ…… ファンがいるって凄いんだよ」

__なら、なんで、そんなファンを置いて
たったんだよ、馬鹿姉貴。
貴方は貴方が思うほど嫌われてなんて
いなかった、だって、あんなにも沢山の人が
泣いてくれたんだから……。

黒田:「……この矢だけは折れない」
白石:「引き立て役が何言ってんだよ、
何言ってか聞こえねえんだよ!」
黒田:「だから……(倒れる)」
白石:「……なんだよ、倒れんのかよ
ヒーローショーの怪人にしたって
もうちょっとは粘るぞ」

__夢を見た、姉貴が客席で、俺が
舞台でヒーローをやっているような

黒田:「ライジンガーZ!雷の聖者として
この地に参った!」
白石:「ふふ、アッハッハ!!!!!」
黒田:「怪人、ケルベロス!この熱き鉄拳
で、お前を倒す!!!!!」
白石:「効かぬわ!!!!!アッハッハ」
黒田:(楽しい。楽しい。ヒーローだ。
俺が目指してた、ヒーローだ。)
白石:「どうした弱い、弱いぞ!!!!!」
黒田:(俺は、引き立て役なんかじゃない)
白石:「ふふ、アッハッハ」
黒田:「いくぞ、必殺!サンダーボルトー
クロスチョップー!」
姉貴:「……やっぱり湊は"下手"だね」
黒田:「え」
白石:「だから、効かねえって言ってんだろ
ドカスがァ!」
黒田:「くっふ、がはっ!!!!!」
黒田:「はっ!!!!!(目を覚ます)」

瀬戸:「湊……」
黒田:「……ここは」
瀬戸:「私の家」
黒田:「……はぁはぁ」
瀬戸:「なんであんなトコで倒れてたの」
黒田:「……奈央さん、俺」
瀬戸:「呼び捨てでいいよ」
黒田:「ヒーローになりてェ、なりてぇよ」
瀬戸:「そうだよね、湊はその為だけに
頑張ってきたんだもんね、私は知ってる」
黒田:「くっ(悔しく泣く)ぅぅぅ」
瀬戸:「我慢してたんだね、もうコップの
中にある水は流していいんじゃない……」
黒田:「くっ……ぅぅぅ。ヒーローは泣かない
泣いたら駄目なんだ、悪に屈したら……」
瀬戸:「ここに悪はいないから、いないよ」
黒田:「……姉貴」
瀬戸:「やっぱり湊の中には美南さんがいる
私なんかが、入れない位に、ねぇ湊お願い
少しでいいから私の分の隙間も作ってよ」
い……」
黒田:「……くっ」

姉貴:「奈央、おいで」
瀬戸:「あれは5年前、私が劇団宝狩りで
体験入団してた時……」
姉貴:「演技はね、見てもらうんじゃない
魅せるんだよ」
瀬戸:「魅せる、か」
姉貴:「演技に答えはない、でも流れはある
道筋もある、ただ、何処に行くかは奈央
次第…… 無限に在る道の一つを探すんだよ」
瀬戸:「発する言葉、一つ、一つ、が綺麗で」
姉貴:「奈央はね、上手いから大丈夫」
瀬戸:「私は、美南さんに憧れてこの世界に
入ったから、貴方が演じたあのクレオス妃は
私の中の永遠の道標になった」
姉貴:「私が奈央を育ててあげる」
瀬戸:「もっと教えてください、もっともっと、
知らない事いっぱいあったんですよ、なのに
何で、置いて行くんですか……」

瀬戸:「気づいたら、お経が流れていた」

黒田:「姉貴の為に泣いてくれて、ありがとう
ございます……」
瀬戸:「嘘だよ、嘘。だっていっぱい教えて
くれるって言ったのに」
黒田:「奈央さんの手は俺の服を掴んだ、
でも、段々と力が抜けていくのがわかる」
瀬戸:「うっ、ゔゔゔ……」
黒田:「唸るような、汚らしい声が姉貴の
式を包み込んだ……。蹲る奈央さんを
見つめる俺が居た」


__もし、もしだ、あの蹲る奈央さんに
ヒーローのような台詞を言えたのなら、
でも、きっと、台詞のストックがあったと
しても、それを言う為の口が動かないんだ、
何が、ヒーローだよ、笑わせんな。


__あれに荒れて、路頭に迷って
クソと蔑まれて、ゴミと罵倒され、
でも、それでも……。

白石:「クソッ、クソがあああ!!!!!」
佐野:「おぉ~荒れてんなぁ、失敗ヒーロー」
白石:「茶化してんのか佐野?」
佐野:「プハァ(顔にタバコの煙を吹きかける)」
白石:「この野朗ッ!(胸ぐらを掴む)」
佐野:「ケヒッ、クッ(苦しむ)」
白石:「ハァ……ハァ、佐野、このまま
締め殺してもいいんだぞ?」
佐野:「あんさァ、ここのよションベン臭ェ
劇団で、何を目指してたんだ、テメェは」
白石:「……う」
佐野:「そんなによ、大舞台に立ちてぇなら
坂本んとこに戻れや!!!!!」
白石:「無理だ、実は」
尾見:「クビ?」
佐野:「あれ、帰ったんじゃなかったの?」
尾見:「帰ろうと思ったら、馬鹿でかい声
が聞こえたから戻ってきたの……」
佐野:「そか、てかよ、そろそろ苦しいから
離せよ」
白石「……あぁ」
佐野:「ふぅーはぁー(深呼吸)空気はうめぇ」
尾見:「副流煙塗れだけどね」
白石:「……(苦虫を噛む)」
佐野:「あらよっと!(白石の腹を蹴る)」
白石:「うっ、ぐっはぁ」
佐野:「劇団冬季をクビになって、何処にも
行き着くアテがなくて、ここにきた……」
尾見:「あ~痛そう(棒読み)」
白石:「蹴りやがったな」
佐野:「お前を拾ってやったのはドコの
誰だよ、あ?」
白石:「なんだよ、あの時はすげえヘコヘコ
してた癖によ、お前のそう言う所大嫌いだ」
佐野:「プハァ、あんさぁ俺を何だと思って
んだ?聖者か何かだと思ってんのか?あ?」
尾見:「ふふっ」
白石:「くっ……」
佐野:「ほげぇー。マジかー。えー。」
尾見:「私さ、白石君が劇団冬季の期待の
エースとかって呼ばれてたから、お近づき
になろうと思ったけど、何だよただの
ゴミかよ……」
佐野:「流石、"劇団林檎"は違うねえ」
尾見:「"梨"ね、林檎は嫌い。」
佐野:「おめえさ、顔はいいけどよ演技の
中に"泥臭さ"がねぇよな、まあそれは
俺の趣味だからヒーローショーの舞台
では関係ねえけどなぁ……」
白石:「売れたい(小声)」
佐野:「まだ言ってんのか、あーそうか
知らなかったのか、悪りぃ悪りぃ……」
白石:「え」
佐野:「あん時にいた映像関係者はな、この
ヒーローショーが終わった後の、あー、
丁度、今日か、今日の9時からやる
"ブラックパンクシリーズの舞台挨拶"を
撮りにきてたんだよ、誰もお前なんか
眼中にねえよ。バァーカ。」
白石:「そんな」
佐野:「少しは夢持てたか?」

姉貴:「ねえ、佐野さん」
佐野:「美南さん?」
姉貴:「タバコそろそろやめたら?」
佐野:「……癖になってますからなぁ」
姉貴:「だからやめれないの?」
佐野:「ですねぇ、何回これが最後の"一本"
だからって言った事か」
姉貴:「佐野さん、劇団を建てるって聞いた
けど、本当?」
佐野:「あれ、知ってたんですか!?」
姉貴:「うん」
佐野:「ヒーローショーを生業とした劇団を
建てるんです、ヒーローってのは子供の
永遠の憧れだから…… ねぇいいでしょ?」
姉貴:「うん、いいと思う」
佐野:「建てた暁には美南さんをピンク
として、呼びたいんです、きっとカッコ
いいから……!ねぇ、いい考えでしょ?」

白石:「……佐野」
佐野:「チッ、何でだ、何で今思い出した
んだよ、……何がいいてぇんだ美南さん」
尾見:「美南……」

佐野:「夢、夢だった、誰もが夢中になれる
ものを創り上げるのが、そうだ、いい事を
思い付いた、ヒーローだ、ヒーローを
創ればいいんだ、そうだな、名前何にしよ
雷……。雷か、ライ、雷神、、あーこれだ!!
!!!、ライジンガーZ、まぁZは何と
なくだ……」

姉貴:「いいね、呼んでよ」
佐野:「本当ですか!?よっしゃ!!!」
姉貴:「本当にヒーローが好きなんだね
佐野さんは……」
佐野:「さん付けなんて良してください」
姉貴:「なら呼び捨てでいい?」
佐野:「美南さんに呼び捨てして貰える
そんなに嬉しい事この上ありません」
姉貴:「大袈裟だなぁ」
佐野:「それで、ですね、最初にレッドが
舞台の中央に立つんです、それから
美南さんが演じるピンクは上手から登場
して……そして」
姉貴:「楽しそうだなぁ……ふふっ」

佐野:「……ふと、TVを付けた、いつもなら
付けない時間帯なのに、なんか虫の予感
がしたんだ」
佐野:「……自殺、誰かが自殺をしたんだ、
自分とは遠い誰かだと思った、自分とは
無関係な、でもTVから聞こえる声は、
俺の考え、思った事を全否定したんだ……」
佐野:「……美南さんが死んだ」


__一度、崩れたヒーローは立ち上がる
のに、時間が掛かる、掛かりまくる、

尾見:「瀬戸の言った通りだったな」
白石:「ん?」
尾見:「辞めたら意味ないって」
白石:「え」
尾見:「……見掛け倒し、クソカス、鈍間、
今ならどんな言葉も浴びせれる」
佐野:「……(タバコを吸う、吐く)」
白石:「……言いたければ言えばいい」
尾見:「白石君さ、瀬戸の事狙ってるよね?」
白石:「え、あ?は?」
尾見:「はいかいいえで答えて」
白石:「(溜息)はい」
佐野:「ヒュー」
白石:「だったら何なんだ」
尾見:「確実では無いけど確実に近い」
白石:「ん?」
尾見:「瀬戸は白石君の事が好きだよ」
白石:「え、マジ?」
尾見:「90%の確率でマジ」
佐野:「……パチンコなら残りの10%引くん
だろうな、G△ROとか当たらないからな」
白石:「へー、瀬戸が俺の事好きなのか」
尾見:「そうだよ、猛アタックしないと」
白石:「してこなきゃ」
尾見:「だね」


__次の日

瀬戸:「おはようございますー!」
尾見:「おはよう、瀬戸ちゃん」
瀬戸:「あれ尾見ちゃん、今日稽古入って
た?」
尾見:「なんかね急遽」
瀬戸:「本当、いい加減だねあの人」
尾見:「今に始まった事じゃないでしょ」
瀬戸:「それな」
黒田:「おはようございます(小声)」
尾見:「声が小さいぞ、新人!」
黒田:「お!おはようございます!!」
尾見:「うるさい、黙れ」
瀬戸:「……やらせておいて(小声)」
黒田:「すみません……」
瀬戸:「"ヒーロー"になるんだろ、頑張れ」
黒田:「……はい」
尾見:「何その応援の仕方、え、まさか」
瀬戸:「ち、違うし!!!!!」
尾見:「良かった、私、間違えてなかった」
瀬戸:「今なんか言った?」
尾見:「言った!ねむいーな!帰りたいー!
って」
瀬戸:「ふふ、なにそれ」
佐野:「あーい、おはようさん」
黒田:「おはようございます」
佐野:「おぉ、何か、何だかわかんねぇけど
スーッと顔立ちが良くなったな、あ!
お前、もしかして、ソープにでも!!」
瀬戸:「このエロクザレジジィ!!!」
佐野:「いってぇ、一斗缶なんてド○フ以外
で見た事ねーぞ!何でもってんだよ!」
白石:「ふっ、おはようございます(ドヤ)」
尾見:「うげー切り替えはや」
佐野:「メンタルは鬼か、まあそこら辺は
高く評価してやるよ……」
黒田:「あ……」


__俺、思い出したんだ、あの頃を
突然に、何の脈絡もなく……。

黒田:「今日さ学祭で演劇をやる事になった
んだよ」
姉貴:「凄いじゃん」
黒田:「凄くねーよ」
姉貴:「演目は何?」
黒田:「演目は、確か九月とかって人の
"正義の味方"って言う作品」
姉貴:「くがつ?あー、それねきゅうげつ
って読むんだよー!」 
黒田:「そうなの!?」
姉貴:「そうだよ!」
黒田:「アブねー。助かったー。」
姉貴:「ちゃんと調べないと駄目だぞ!」
黒田:「みんな"くがつ"って当たり前に
読むからさ、そう言う風に思い込んでた」
姉貴:「なんと!きゅうげつさんは、私の
所属する、"宝狩り"の専門の台本職人さん
なんですー!」
黒田:「へえー」
姉貴:「興味無さそう……私、この台本ね
実は知ってるんだ」
黒田:「まあ、そりゃあそうだろ」
姉貴:「湊はどの役をやるの……」
黒田:「……和明役」
姉貴:「ふふっ、凄いじゃん、ちゃんと名前
が入ってる役がある、それってね物凄い
事なんだよ……」
黒田:「でもよ、こいつさ、すげえクズ
なんだぜ、女性を殴ったり、蹴ったりって
俺、嫌われる為に演技するのかよ、やだよ」
姉貴:「んー」
黒田:「姉貴はさ、花形だからさすげえいい
役とかもらってるから、わからねーかも
知んないけどさ、俺はこんなヨゴレ役なんか
やりたくねーよ……これじゃあ俺がヨゴレだ」
姉貴:「役にヨゴレはあるかもしれないけど
でも、演者にヨゴレなんかいない」
黒田:「え」
姉貴:「どの役にも"必要"が絶対あるの
演劇に於いて悪役は、ヨゴレなんかじゃない
ヒーローを輝かせる"裏の主人公"だよ」
黒田:「でも、姉貴だって見たかねーだろ
そんな、自分の弟がクズだゴミだって
言われる現場を……舞台を」
姉貴:「何でよ、どうして自分の大好きな
弟が頑張ってる姿を見に行きたくないとか
ってなるの、ならないよ、うん……」
黒田:「でも」
姉貴:「ここだけの話、悪役の方がね自由が
効くもんだよ、派手にド派手に悪を撒き
散らせばいいよ……」
黒田:「自由……」

姉貴:「悪がいなかったら正義もいない
確かに、初めて演じる上で怖いのもあるかも
知れない、でもねそれでもね、自信を持って
欲しい、だってヒーローものに悪は必要
だから……きゅうげつさんは悪に拘りがある
人だから」
黒田:「……拘り」
姉貴:「湊は私の弟なんだよ、自信持ってよ
大丈夫、私がいる、私がいるから……」

__違うんだ姉貴、本当はさ貴方に
ヒーローの姿を見せたかったんだ、でもさ
やっぱりヒーローは顔のいい奴ばかりが
貰えてさ、俺みたいな平凡野朗は何にも
貰えなくてさ、一番要らない役しか回って
来なくてさ、"輝いてる姿を姉貴に魅せた
かった" 俺が姉貴の演技に憧れたように……。

黒田:「……ダサくてごめん」
姉貴:「ううん、カッコいいよ湊は」



黒田:「……どの役にでも必要がある」
佐野:「あ?」
黒田:「佐野さん、白石さん、自分は悪役を
ヨゴレのするもの、とかって」
佐野:「……」
白石:「その通りだろう」
黒田:「悪が居なければ正は成り立たない
悪役は正義を輝かせる為の"裏主人公"」
佐野:「……へ?いまなんて?」
黒田:「悪はモブじゃない、主人公です、
もう一つの!」
佐野:「……何だよ、そっくりだぁ、あの目
……やべぇ、涙が……クソ、クソッ止まれ
止まりやがれ」


__聞き覚えのある言葉、今、あの人の
声が脳裏に突き刺さった……。

姉貴:「ねえねえ、佐野」
佐野:「美南さんまた来たんですか、暇なん
でしょ、実は……」
姉貴:「あれぇ(ニヤニヤ)そんな事言っても
いいんだ、私、降りちゃおうかなピンク」
佐野:「えぇ、か、勘弁してくださいよ」
姉貴:「嘘だよ嘘。ふふっ」
佐野:「今日は、4月1日でしたっけ?」
姉貴:「んー、5月1日」
佐野:「1しかあってない……」
姉貴:「で、今なにやってたの」
佐野:「あー。それがですねえ、レッドと
グリーンとブルーとイエローとピンクは
演者が決まったんですけど、はぁ……」
姉貴:「….どうしたの」
佐野:「怪人役の応募が全然なくて今、
めちゃくちゃ困ってます……」
姉貴:「なんかさ、あれだよね、最近の
新人の子達、悪役だけはやりたがらない
子、多いんだよね、なんか"一発屋"の
イメージがあるのかな」
佐野:「うげー、困った」
姉貴:「悪役こそ、正義を輝かせる為の
"裏主人公"なのにね」
佐野:「裏主人公、その発想はなかったです」

黒田:「……佐野さん?」
佐野:「おい、黒田、お前その姉貴とか
って居たりするのか」
瀬戸:「え」
黒田:「……」
瀬戸:「言ってもいいんじゃない」
黒田:「実は、劇団宝狩りの黒田美南の
弟です……!」
佐野:「やっぱりそうか、俺の見立ては
まだ衰えてねえな、目がよ、そっくりだぁ」
尾見:「嘘」
瀬戸:「黒田湊は、劇団界のトップ黒田美南
の弟。でも、言いづらかったよね、きっと」
佐野:「なぁ、弟くん」
黒田:「え」
佐野:「ん?」
黒田:「普通に前まで通り、黒田でいいです」
佐野:「呼び捨てなんかできねーよ」
尾見:「タメ口はしてるけどね、ふふっ」
黒田:「……黒田で大丈夫です」
佐野:「(咳払い)わかった、わかったよ」
黒田:「で、どうしました?」
佐野:「あーその、美南さんは何で自殺
なんかしたんだ?」
尾見:「(息を呑む)」
白石:「誰?」
尾見:「うるさいっ(足を踏む)」
白石:「いてぇっ!」
佐野「……教えてくれよ、俺さ美南さんに
ヒーローショーの台本頼んでてさ、それを
して貰えるのが、夢だったし、目標だった
んだよ、だから頼む……、もう叶わないから」
瀬戸:「……」
黒田:「ごめんなさい、俺にもわからない
んです、何で自殺したのか……」
白石:「あー、この人か、なんか鬱で死んだ
って言われてた人でしょ?あれ?」
瀬戸:「白石、(小声)」
白石:「なぁに、瀬戸さん」
瀬戸:「黙ってろよ(ドスをきかせて)」
白石:「は、はィィ」
白石:「照れ屋さんなんだから、もう」

佐野:「何だよ、やっぱり、わからないのか」

尾見:「劇団界のトップ鳳凰。そしてその
下には、劇団冬季、日本台劇団、
そして、劇団宝狩りがありこの三劇団の座長
ですら頭が上がらない存在、それが黒田
美南。なによ、こんなところに、こんな
"お宝"がいたなんて……」

瀬戸:「私も沢山お世話になった、本当に
返しきれない位の指導をしてもらった
でも、美南さんの指導は指導って言う
よりも、何かこう、姉妹みたいな……」
黒田:「奈央さんにとっても、姉貴は姉貴
でしたか?」
瀬戸:「うん、私ねお姉ちゃん欲しかった
から、本当に美南さんにはいっぱいの
愛情を貰ったんだ……!」

__私に、愛をありがとう、全てに、
貴方がいます、ありがとう。

瀬戸:「美南さーんー!」
姉貴:「やほー!」
瀬戸:「美南さんー!むぎゅー!」
姉貴:「可愛いな、この野朗、ふふっ」
瀬戸:「今日やってた演劇のキャラ抜けて
ないんじゃないですか(ニヤニヤ)」
姉貴:「そうかもしれない」
瀬戸:「ふふっ」
姉貴:「"3$25cent"に入るの?」
瀬戸:「私には"宝狩り"はあまりにもその
ハードルが高くて、せっかく良くして
くれたのに、本当にすみません……!」
姉貴:「ふふっ、謝らなくていいんだよ!
奈央の好きな所に入ればいいの、私は
奈央をこうやって後ろからムギュッって
してる時間が大好きだから……」
瀬戸:「……うん」
姉貴:「そっかぁ、ここのね、右田さんとは
仲がいいから、奈央の事可愛がってねって
言っておくね……!」
瀬戸:「み!みぎ!右田さん?右田さんって
右田悦子さんですか!?」
姉貴:「それ以外にいる?」
瀬戸:「い、いないです……!」
姉貴:「良かった、安心した」
瀬戸:「右田さんってここの花形の人ですよ」
姉貴:「そうだね、ふふっ」
瀬戸:「本当に凄い、敵わないや、どれだけの
人と繋がってるの本当に。
それで、しかも、偉そうにもしない、本当に
仲がいいんだ、って思えるような、
この人のパイプは無限なの……」
姉貴:「私の可愛い可愛い妹……!」

瀬戸:「また抱き締めてくんないかな……」
佐野:「あの人のパイプってどれくらいだった
んだろうな……」
白石:「ほへー!」
尾見:「ねえ、黒田君」
黒田:「え」
尾見:「私と、付き合ってよ」
黒田:「げほっげほっ(むせる)なんですか急に」
瀬戸:「はァ!!!!!??」
尾見:「ん?」
瀬戸:「い、い、今な、なんて言ったの」
尾見:「付き合ってって」
瀬戸:「か、か、か、か、簡単にそ、そんな
事言っていいと思ってるの….…!」
尾見:「こう言う時は、"押してみる"瀬戸
ちゃんみたいに"引いてみる"のスタンス
じゃあ私は無理だからね、ふふっ」
瀬戸:「だ、だ、誰が引くスタイルよ!!」
白石:「じゃあ俺も、瀬戸さんつきt」
瀬戸:「黙ってろよ、挽肉すんぞ、あ?」
白石:「は、はい!」

佐野:「……君のお姉さんには本当に頭が
上がらない、あの人がいるから俺もこの
業界で残って行こうって決めたんだ……!」
黒田:「……そうなんですか」
佐野:「上と下に挟まれて、頭もおかしく
なって、演出家はうるせえし、役者も
役者でよ"あれやだ""これやだ"って本当に
嫌になるくらいイライラした、何回も
こんなクソ業界辞めてやろうって思ったよ」
黒田:「……」
佐野:「(深呼吸)でも、美南さんが俺を沢山
褒めてくれるから、俺の創る世界をあの人
は、心の底から喜んでくれた、お世辞じゃ
ない、本心で、目を見てわかったんだ……
何でこんなにもキラキラしてやがるんだって」
黒田:「それは本当に、姉貴が好きなものを
見る時の目です、姉貴は嘘付くのが苦手な
人でしたから……分かり易いくらいに」
佐野:「あぁ、聞けて良かった、美南さんは
本当に俺の作品を好いてくれたんだ!!」
黒田:「……はい」


__学祭を見に来てくれた、笑ってくれ
てた。嬉しかったよ、姉貴。



尾見:「足の引っ張り合いの世界、私はそれを
するだけ、人との会話なんか興味ない、
私が、スポットライトを浴びれたらいい
人が泣こうが、喚こうが、地の底まで
引きずって私が這い上がる、それだけ……。」

尾見:「付き合ってるのは、わかってる
奪う、地の底に落ちろ、瀬戸奈央……。」


__瀬戸家

瀬戸:「ねぇ、」
黒田:「きょ、今日はなんか積極的だね」
瀬戸:「だって何だか"悶々"とするの」
黒田:「モンモンモン?漫画?」
瀬戸:「なにそれ」
黒田:「な、なんでもない」
瀬戸:「手、握っていい」
黒田:「え」
瀬戸:「….…私の家だからいいでしょ」
黒田:「え、あ、う、ん……」
瀬戸:「ぎゅーっ」
黒田:「口に出すタイプなんだ」
瀬戸:「思いが伝わるように」
黒田:「……そっか」
瀬戸:「キ……ス」
黒田:「魚食べたいの?」
瀬戸:「これわざとだよな絶対(小声)」
黒田:「ん?」



白石:「おい、どうなってんだよ好き所か
嫌われていってるぞ、嘘付いたのか!?」
尾見:「……」
白石:「おい、聞いてんのか、おい!」
尾見:「……」
白石:「お前が好きって教えるからこっちは
よ、猛アピールしたんだ、なのに何だよ
これは、おい!!!」
尾見:「……足りないって言ったら」
白石:「え」
尾見:「まだまだ、足りないよ、白石君」
白石:「これ以上は無理だよ」
尾見:「"強引な人が好き"って言ってたよ」
白石:「そうなの!?」
尾見:「……うん」
白石:「まじか」
尾見:「もう一押しだね、ふふっ」
白石:「……劇団3$25cent、櫻組、リーダー
瀬戸奈央。それが俺のものになる、ふひっ」
尾見:「……へー」
白石:「楽しみだなぁ」
尾見:「今アンタ、レッド役とは思えない
顔をしてるよ、今一番キショいよ……」
白石:「そうなぁのを?」
尾見:「本当、キショいな」
白石:「開き直ることにしたわ、ふひっ」
尾見:「草」



__目指した雲は、ずっと高くて、
目指した場所も、夢も、いつの間にか
あの雲のように流れていった



姉貴:「佐野、それ、ロンッ」
佐野:「ゲッ」
姉貴:「問断平、三色、ドラドラ」
佐野:「跳ねた!!!!!」
姉貴:「ハコってしまいましたね、佐野~!」
佐野:「麻雀もつぇえのかよ、エグいな
宝狩りのトップは……!」
姉貴:「トップは宍戸君だよ、私はただの
リーダーだよ」
佐野:「宍戸秀を君呼ばわりだなんて、
なんて命知らずなんだ、だけど宍戸さんも
美南さんに君付けされるなら本望だろうな」
姉貴:「どう集まってきた?」
佐野:「全然」
姉貴:「それポンッ」
佐野:「あ、俺の発……」
姉貴:「ロン、大三元!!!!!」
佐野:「いやあああああ」
姉貴:「弱々だァ、坂本君よりも弱いねえ~!」
佐野:「あの野郎だけには負けたくないっ」
姉貴:「ガッツは坂本君よりもあるね」
佐野:「こんな業界、ガッツもなかったら
生き残っていけねぇ、美南さんだって
そうだったでしょ、特に宝狩りなら……」
姉貴:「みんな宝狩りを神聖視するよね
別に、冬季も日台も宝狩りも、対して
変わんないのに……」
佐野:「……変わるでしょ、女性のみの
劇団。男性役も女性がやる、"をのこ組"が、
それを象徴とさせた、他の劇団とは違うって」
姉貴:「昔は"男性"の劇員も居たんだけどね
まぁ、それでも7対3で女性の方が多かった
んだけどね」
佐野:「え、それは初知り」
姉貴:「宍戸になってからはその事を隠した
の……」
佐野:「とうとう呼び捨てに」
姉貴:「ちなみに言うと私の師匠は男性です」
佐野:「えぇ!!!!!」
姉貴:「"無名の劇団"って言う名前の本当
に無名の劇団の座長の土屋優三郎って人が
私の師匠……」
佐野:「……あ、ロン、やっと上がれました」
姉貴:「あ、ああぁぁ……佐野、それチョンボ
8000点払い」
佐野:「いやあああ!!!!!」


__迷うな、過酷な毎日だとしても
それを選んだのはお前なんだろう、なぁ。



尾見:「黒田君、おはよう~!」
黒田:「……おはようございます」
佐野:「本当に、彼は"美南"さんの弟、
信じられないや、でも目を見る度に
本当だ、と訴えかけて来やがるんだ」
瀬戸:「何、ボッーとしてんの」
佐野:「あぁすまねえ」
白石:「瀬戸さーん、おはよー!」
瀬戸:「ウザい、話しかけないで、死んで」
白石:「いつも以上に辛辣ッ」
尾見:「死んでは言い過ぎなんじゃない?」
瀬戸:「は?」
尾見:「仮にも"劇団冬季"期待のエース君
だよ、次元が違うでしょ、瀬戸ちゃんと
白石君じゃあ……」
瀬戸:「は?何が言いたいの?」
尾見:「……謝んなよ」
瀬戸:「てかさっきから、何で突っかかって
くんの?」
尾見:「ううん、突っかかってないよぉ~
怖い目やめてよ、私、泣いちゃうよ」
黒田:「あ……」
尾見:「黒田君もこんな"野蛮"だけの女って
嫌だし、嫌いだよねぇ~!」
瀬戸:「段々と化けの皮が剥がれてきたね
"クソカマトト女"」
尾見:「私こう見えても"梨食う客"の梨隊
の二番隊長だったんだけど」
瀬戸:「劇団でマウント取るんだ、馬鹿
じゃないの、そんなんで名前を使われる
劇団が可哀想」
尾見:「売って"ナンボ"の世界でしょ?
形がどうあれ」
瀬戸:「一番気にしなくちゃいけない形を
疎かにするなんてね、落魄れたね尾見ちゃん」
尾見:「何勝手に哀れみの目で見てんの?」
佐野:「あ~うるせえな、頭痛え話をするな
ど阿呆共」
尾見:「誰に向かって言ってんの?」
瀬戸:「佐野、次変な真似したらわかるね?」
佐野:「……すんません」
黒田:「えぇ」

__姉貴なら、どうする、どうしてた
何を言ったら正解だったんだ。

黒田:「和也はさ、劇団パンジー、沖田は
早房歌劇団……」
姉貴:「湊はいっぱい劇団を知ってるんだね」
黒田:「え」
姉貴:「みーんな、自分が好きなトコに入れ
たのかな、"好き"で続けていく業界だから
さ、それが根底にないと潰れちゃうから」
黒田:「好きがモチベなの?」
姉貴:「よくね、講師とか師匠は好きだけ
じゃあどうにもならないって言ってたん
だけど、ね、でもそんな事ない、好きが
なかったら絶対に続かない……だから師匠も」
黒田:「なんかあったの?」
姉貴:「なんもないよ、ふふっ」
黒田:「ん?」
姉貴:「ねぇ湊、この劇界は沢山あってる
ようで、狭いの。二、三歩、進むと
知り合いの知り合いにぶつかっちゃう位に」
黒田:「……うん」
姉貴:「だからね、"競い合い"とか蹴落とし
合いとかも生まれて、傷付く劇団員が沢山
居てね…… お姉ちゃん悲しいよ」
黒田:「でも、みんな自分でいっぱい、
いっぱい、だから……」
姉貴:「だからこそ、手を取り合うの、私もね
沢山嫌なこと言われてきたし、泣いたり、
誰かを恨んだりも散々してきた、でもね、
途中で気付いたの。蹴落としてばっかり
じゃあ、この業界は廃るって……!」
黒田:「……」
姉貴:「だからね、湊が、この業界を沢山
救ってね。私には無理だから、もう……」
黒田:「……」
姉貴:「私の師匠の願い、叶えられないや
でも、叶えても師匠は喜ばない……」
黒田:「姉貴の師匠って土屋さんだよね、
なんかあったの……」
姉貴:「ふふっ、なんもないーよ、まさか
お姉ちゃんの事が気になる~の?それって
恋って事、きゃー!」
黒田:「……そんなわけ」
姉貴:「本当に、何でもないから」

黒田:「あの目は、何か合った時の目だ、
俺には分かる、長い付き合いだもん、
本当、隠すの下手っぴだよな……」

姉貴:「ほら、おいで。お姉ちゃんが
抱き締めてあげる、ふふっ」
黒田:「え、やだよ」
姉貴:「チューしてあげよっか、ふふっ」
黒田:「ゲロ吐いていいなら」
姉貴:「失礼な弟には、コーチョコーチョ」
黒田:「ふふ、あっはっはっはっはっ、
しー、しぬぅ、脇弱いからやめてー!」


__そっか、好きで、入団したんだもんな
妥協だとしても、好きになる事に努力した
筈だ。それが、根底にあるんだ。



瀬戸:「……そう言う風に"梨客"は名前を
売れって劇団員にでも言ってんの?」
尾見:「ううん、私が単独でしてる事」
瀬戸:「だよねぇ、あの朗読が天下の梨客が
そんな事する訳ないよね、野毛さんが
聞いたら泣くレベルだよ……」
尾見:「座長の名前を出す辺り、瀬戸ちゃん
って、本当ッ、ミーハーだよね」
瀬戸:「その言葉そのまま返してあげる」
黒田:「……二人は好きで劇団に入ったん
だよね、競い合うとかそんなの無しにして」
白石:「なんだァ?」
黒田:「好きが根底にあるのに、どうして
それを互いに否定し合うの、それって
なんか虚しくない?」
瀬戸:「……」
白石:「また偉そうに何か始まった、草」
黒田:「好きなら、好きな事を話して行こ
うよ。姉貴も言ってたよ、狭い世界
なんだから、競い合うよりも仲良くなる
方が絶対いいって……」
尾見:「そうだねー!絶対その方がいいよね!」
瀬戸:「……うん」


佐野:「確かに、そうだ。だがそれじゃあ
成長しねえぞ美南さん、貴方はむしろ
そんな、戦いだらけの最前線に居たのに
そんなこと言うだなんて、らしくない、
嫌、違うか。美南さんだからそれを選んだ
んだ……。だからこそあんなにも愛された」



姉貴:「奈央ちゃーん、おいでー!」
瀬戸:「美南さーんー!」
姉貴:「ぎゅーっ、すんすん、あぁいい匂い」
瀬戸:「聞いてくださいー!」
姉貴:「じゃあ、あそこのベンチ座ろうよ」
瀬戸:「はい!」



瀬戸:「マウントを取る人ってどう思い
ますか?」
姉貴:「……うーん、例えば?」
瀬戸:「それこそ、日台とか冬季とか早房
とか、その辺りに入団した!みたいな……」
姉貴:「うーん、それは報告だったんじゃ
ないの~?」
瀬戸:「……あれは自慢でした」
姉貴:「奈央が所属してる3$も凄い劇団じゃん」
瀬戸:「え」
姉貴:「それにさ奈央の公演何回も見に行っ
たけど、奈央の事応援してくれるファンが
いっぱい居た、それがあれば他劇団とかに
対して変にライバル視とかしなくていいの、
ライバルを作るのも大事だけど、それ以上
に大事なのは、"ファン"だから……」
瀬戸:「で、でも」
姉貴:「どうしたー!妹よー!さーてーはー、
お姉ちゃんの事、言った事、わかって
ないな~ふふっ」
瀬戸:「……わかります」
姉貴:「なら、どうして落ち込んでるのまだ」
瀬戸:「私、美南さんの事、ずっと見てきた
宝狩りの公演がある度に……ずっと」
姉貴:「……いっぱい来てくれたもんね」
瀬戸:「これからも行きますよ」
姉貴:「私ね、もしかしたら、"をのこ組"
に移動になるかも知れない……特例で」
瀬戸:「ですよね、宝狩りは移動とかそう
言うの無いって聞いてますから」
姉貴:「私、男役できるかな、不安だな~」
(ニヤニヤ)奈央の匂い嗅げたら自信
付くなぁ~」
瀬戸:「(咳払い)いいですよ、お姉ちゃん
ですから……」
姉貴:「うーん、いい匂いだー、すんすん」



瀬戸:「確かに言ってた、ファンが居たら
そんなのも関係無くなるって……」
尾見:「……」
黒田:「ですよね」
白石:「俺は、貴方に一目惚れをしたファン
であり、貴方の将来の婚約者です……!」
瀬戸:「……白石君、ごめんね、実は、私と湊、
付き合ってるから」
尾見:「ふーん、そこでバラすんだ、へー」
黒田:「あ!」
瀬戸:「だから、白石君の気持ちには答え
られない」
尾見:「……やましいから黙ってたの?」
瀬戸:「そんなつもりはなくて」
尾見:「だったら黒田君が来た段階から
言ったら、良かったのに」
瀬戸:「え……」
尾見:「私、間違った事言ってる?」
瀬戸:「その……だから」
尾見:「ま、さ、か、あの有名な3$
25centの、櫻組のTOPがさ、
人の恋心を弄んじゃうとか劇団員
として!とかじゃなくて"人"として最低
なのですぅ~!」
瀬戸:「な」
尾見:「ごめんねぇ、今演ってるさぶりっ娘
の役が出てきちゃった、てへっ」
瀬戸:「……」
尾見:「後さ」
瀬戸:「ん?」
尾見:「白石君が自分を好きな事知ってたよね?」
瀬戸:「そ、それは、演技の邪魔になるかと
思って隠してたの……黒田君の件も」
尾見:「へー」
瀬戸:「だからその……」
尾見:「ねぇ、瀬戸ちゃんの性格の悪い所
出て来たね♪ さっき私に向かってさ化けの皮
がどうのとか言ってきたけど自分が剥がされ
てんじゃん……笑える、チョー笑える」
黒田:「……奈央」
白石:「おいおい、勘弁してくれよ、何だよ
元劇団冬季の俺に対して、恥かかせたって
事か、あ?」
佐野:「……(小声)自分を大きく見せる
演技は流石だな、流石元"劇団冬季"だ」
黒田:「……違う」
白石:「あ?」
黒田:「奈央さんはそんな事しないっ!」
瀬戸:「……」
尾見:「瀬戸信者怖ー!(煽るように)」
黒田:「奈央さんは真剣に演技と向き合って
いる。そんな中、そんな酷い事をするな
んてあり得ない……!」
白石:「……盲信は罪だねェ」
尾見:「はぁ(溜息)きも」
瀬戸:「湊、ありがとう、大丈夫」
黒田:「何が大丈夫なんだよ、大丈夫じゃあ
ない癖にッ!何で、姉貴も奈央さんも
平気じゃ無いのに平気なフリをする……」
瀬戸:「え」
黒田:「本心を言ってくれない、俺はね、
簡単な事しか言ってない、辛かったら
辛い。寂しかったら寂しい。ただ其れを
言って欲しいだけなのに……くっ(悔しい)」
瀬戸:「私は、本当に平気」
佐野:「そろそろ辞めろ!全員こっから
追い出すぞ……!」
黒田:「……熱くなり過ぎた、何年振り
だろう。でも、護りたかったから……」
白石:「自己満か?あ?(小声)」
黒田:「違います!」
白石:「だとしても、気持ち悪いわ(小声)」
佐野:「黒田、追い出すぞ」
黒田:「すいません」
白石:「イラとしたし、俺、腹減ったんで、竹家で牛丼、食ってきますわー!」
尾見:「あ、私も行く、ここ空気悪いしー!」

瀬戸:「は、、、、、ぁ」
黒田:「奈央さん」
瀬戸:「あいつら行った?(震わす声)」
黒田:「……行ったよ」
瀬戸:「く、、悔しい悔しい悔しい、違う
違う、違う。弄んだじゃない、空気が
悪くならない選択してただけ!」
黒田:「うん」
瀬戸:「この役目は私には無理だぁ(泣きそう)」
佐野:「……ありがとよ」
黒田:「うん」
佐野:「あいつらはもう戻ってこね、さっき
机を見たら二つの"退団願い"が置いてあっ
た……」
瀬戸:「そうですか」
佐野:「でも、最後の舞台はやって貰う」
黒田:「空気悪そうだ」
佐野:「悪役はまだ嫌か?」
黒田:「いいえ、役を愛すって決めました」


__ヒーローになれたのか、誰かを守れる、
辛いだらけの世界を俺は救えたのか……。



レッド:「さぁ、悪魔怪人レヴィア!!!!!」
怪人:「がーおー!」
レッド:「退治してくれるっ!」
怪人:「なんだと」
レッド:「いくぞ、必殺。サンダーハンマー」
怪人:「こんな低レベルな攻撃、効かぬわ
届かぬわ、この、心の臓には!!!!!」
レッド:「なんだと!!!!!」
怪人:「我の力を見せてやろう、ダーク
スパイラル!!!!!」
レッド:「ぬわああああああ、ち、力がで、
出ないっ、くっ!」
瀬戸:「みんなー!レッドが大変だー!」
怪人:「どうした、立てないのかレッドよ」
瀬戸:「みんなー力を貸してー!大きな
声で、レッドって叫んでー!」
怪人:「そんな事で目覚める筈がない」
瀬戸:「せーのー!」

瀬戸:「まだ!まだよー!」

瀬戸:「せーのー!」

ピンク:「私、参上」
瀬戸:「えー!貴方は、雷神ガールピンク!」
ピンク:「そう、私が来たからには安心して」
レッド:「うおおおおお!!!!!」
ピンク:「やっと目覚めたのね、遅いわ」
レッド:「お、ピンクー!久しぶりだー!」
瀬戸:「レッドとピンクが揃ったー!」
怪人:「たかだか二人になった所で何が
変わると言うんだー!」
ピンク:「変わる」
レッド:「あぁ」
瀬戸:「これは、雷神砲!!!!!」
レッド:「これを使うのには、みんな声が
必要だ、みんなの、"ガオーン"が必要
なんだー!」
ピンク:「お願い、力を貸して!」
怪人:「なんだそのオモチャは、ふふっ
アッハッハ!!!!!」
ピンク:「何がおかしいの!!!!!」
怪人:「そんなおもちゃなど、我の闇で
葬り去ってくれるわ!!!!!」
レッド:「クソッ、動かない、みーんな!
ガオーンと、雄叫びをあげてくれー!」

瀬戸:「みんなー!レッドとピンクの思い
聞こえたよねー!!聞こえた人は手を
挙げてー!!!」

瀬戸:「さぁ、"ガオーン"雄叫びを上げる
のよ、恥ずかしさも全部捨ててー!」

瀬戸:「ガオーン!!!!!と今!!!!!」

レッド:「溜まった、溜まったァ!!!!!」
ピンク:「みんなの思いが今一つに」
怪人:「や、やめろ」
レッド:「いくぞ、悪魔怪人レヴィア」
ピンク:「その悪しき心、ライジンカーが
切り裂く」
レッド:「いくぜえ」
怪人:「やめろ」
ピンク:「ガオーン!!!!!」
怪人:「やめろおおおおお!!!!!」
レッド:「ガオーンドライブ!!!!!」
怪人:「うわあああああああ」
レッド:「正義は勝つ」
ピンク:「ライジンカーの名の下に」

瀬戸:「みんなーありがとうー!」
黒田:「くっ、破れたり、ぐふっ」
瀬戸:「ライジンカーZにまた会いに来てね」

白石:「ふぅー、あちぃ」
尾見:「風通しわる」
黒田:「.……」
白石:「おい!バカ」
尾見:「うける」
黒田:「……」
白石:「一生ツラ見せんなよ」
尾見:「役者志望でそれば辛すぎワロタ」
白石:「どうせ悪役しかできねえよ」
尾見:「だったら見せる必要ないか」
黒田:「……」
黒田:「これが、いや、これでいいんだ
役は役だ。俺はそれを全うした、
これからも、し続けるんだ……」
白石:「ツラ見せないのは楽だな」
尾見:「私達は見せちゃうから大変だぁ」
白石:「佐野の劇団"南の星"は、長くもたねぇ
だろうな。俺ら二人はフリーでも出来る
位に技術力もあるからな、アッハッハ」
白石:「ふふっ」
瀬戸:「湊、帰ろ」
黒田:「うん」
白石:「仲良くデートですか、ヒュー!」
尾見:「馬鹿同士お似合いね」
白石:「はぁ(溜息)」


__電車の中、ガタンゴトン

瀬戸:「電車に乗った。ガタンゴトンと
揺れる車内。」
黒田:「あー、なんか、疲れた」
瀬戸:「今日、すき焼きにする?」
黒田:「普通に肉焼いて食べたいな」
瀬戸:「はいはい、肉野菜炒めね」
黒田:「……野菜は要らないですな」
瀬戸:「ピーマンと玉ねぎとキャベツと」
黒田:「嫌いな野菜TOP3」
瀬戸:「ちゃんと覚えてたからね」
黒田:「うげー」
瀬戸:「なにその顔、ふふっ」



黒田:「姉貴、貴方が居なくなって何度目
の春が来て、夏がきて、秋がきて、
冬が来たんだろう。」

瀬戸:「会いたい気持ちはいっぱいあるん
だけど、それと、同じ位に沢山会いたい
って思える人と出会ったから」
 



瀬戸:「あ、そうだ」
黒田:「ん?」
瀬戸:「美南さんの師匠について調べて
見たんだけど……」
黒田:「確か、土屋優三郎さんだっけ」
瀬戸:「そう」
黒田:「何かわかったの?」
瀬戸:「それがね、土屋さんって人、美南さん
が亡くなる、二ヶ月前にマンションから
飛び降りてるの……」
黒田:「……何だよそれ」
瀬戸:「きっと、美南さんの自殺の原因は」
黒田:「土屋さんの自殺……」
瀬戸:「それがね、死因は不明なの」
黒田:「だって、飛び降りったって」
瀬戸:「このマンション飛び降りができない
ように柵が掛かってたらしくて、だから
当然だけど、飛び降りなんか出来ない使用
になってるの……」
黒田:「……意味がわからないよ」
瀬戸:「調べない方が良かったかな」
黒田:「ううん、ありがとうございます」
瀬戸:「敬語、メッ!」
黒田:「……ありがとう」
瀬戸:「いい笑顔、うん」
黒田:「少しは姉貴も報われんのかな……」
瀬戸:「きっと」

車掌:「次は、北新宿、北新宿」

瀬戸:「もうすぐだね」
黒田:「だね、家帰ったら寝ようかな少し」
瀬戸:「私も寝よ、一緒に」

車掌:「急停車致します」

瀬戸:「キキィと耳をつんざくようなそんな
音が鳴った」

車掌:「北新宿駅構内にて、人身事故が
発生しました。暫くお待ちください。」

黒田:「今、人身事故って…… 」
瀬戸:「……」
黒田:「奈央さん?」
瀬戸:「……(鼻を啜る)」
黒田:「……泣いてるの?」
瀬戸:「今日って、美南さんの命日だよね」
黒田:「え……あ、そっか」
瀬戸:「……」
黒田:「何で忘れてたんだろう、姉貴の命日。
それ程にまで余裕がなかったのかな。
てか、俺、忘れてたよ、ずっと……。」
瀬戸:「今日だよ今日」
黒田:「(嗚咽)姉貴を忘れてく自分がいる、
忘れたくないのに、忘れようとする自分が
いるんだ、奈央さん…… 俺、怖いよ……」
瀬戸:「大丈夫だ、私がいる、怖くない
私が一緒に覚えているから」
黒田:「(嗚咽)」
瀬戸:「コップの水が溢れちゃったんだね」
黒田:「……ぅぅ」
瀬戸:「今は泣いてもいいんだよ」

佐野:「一つの時代が確かに終わった、
なぁ、美南さん、貴方の死がこの劇界を
狂わせたのは事実だ……」


姉貴:「佐野!」
佐野:「美南さんどうしましたか」
姉貴:「焦って答え出そうとしたら駄目だよ」
佐野:「はい」
姉貴:「謂わば演技、演劇とは、何か嘘を
真実のように、演じる事、だってさ、
そうでしょ?現実に悪魔もいなければ
魔王だっていないし、勇者もいないし
そして剣だってない……」
佐野:「う、うん」
姉貴:「その嘘を演じるのが楽しくて
日々、みんな頑張ってる」
佐野:「……」
姉貴:「劇に上も下もない、みんな一緒」
佐野:「美南さんって本当面白いですね」


車掌:「暫くお待ちください」

黒田:「ずっと、一緒にいようね」
瀬戸:「……うん」
黒田:「てか、姉貴から見たら俺ら二人って
血の繋がってない兄妹なのかな」
瀬戸:「さぁ」
黒田:「やっぱり今眠い、少し寝るね」
瀬戸:「私も」
黒田:「おやすみなさい」
瀬戸:「……おやすみ」

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