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第二章 予想外の再会
第七話
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テーブルに手をついた社長さんが、うきうき顔で上からメニューに手を突っ込んでくる。ううん、テンションの高いオジサマだ。悪気がないのはよくわかるのだけど、とにかく人にお酒を勧めるのが好きで好きでたまらないらしい。
止めようとする社長代理を遮り、私は社長さんの顔を見上げて大袈裟なくらいの笑みを見せた。
「美味しそうですね! 私、是非その梅酒をいただきたいです」
「うんうん、そうしたまえ。君みたいな若い女の子には飲みやすくて良いと思うよ。……ええと、高階さんだっけ? 君は本当に美人だねえ」
「ありがとうございます。でも、先輩方に比べればまだまだ何もできなくて」
「いやあ、そんなことはないよ。実はウチの社員から君の話は聞いていてね。とても優秀で話が早くて、仕事のできる女の子だと。今日、玲一くんが連れてくると聞いて、ひそかに楽しみにしていたんだよ」
オーバーな褒め言葉になんだか恥ずかしくなってくる。もちろん社交辞令だとは思うけど、認めてもらえるのは嬉しいものだ。
「玲一くんもそう思ったから、彼女を秘書に抜擢したんだろう?」
――仲良くやろうよ。あの時のことは、お互いさっぱり忘れてさ。
社長室で再会したあの日の言葉が蘇る。違う。実力で選ばれたわけじゃない。私の異動はただ単純に、口止め料なだけだから。
頂いた杯を笑顔で空けながら、もしかしたら私の頬は少し引きつっていたかもしれない。隣の社長代理の方を見られなくて、お酒に口をつけるふりをして視線を左右へ泳がせる。
「そうですね」
社長代理は静かに言った。
「この上ないタイミングで、この上ない部下に出会えたと思います」
よかったねえ高階くん、と社長さんが哄笑する。
恥ずかしがってうつむくふりをして、私は奥歯を噛みしめる。本当にそう思われていたなら、どんなに嬉しいことだろう。でも。
「……もう、お二人とも、あんまりからかわないでください」
顔を手で扇ぐ真似をしながら、私は梅酒を一気にあおった。社長代理が目を見張っているけど、気づかないふりをして次のお酒を注文する。
「お、高階さん、いける口だね? 強い女性は格好いいねえ」
すっかり上機嫌な社長さんに乗せられ、私は笑顔を浮かべたまま次々にお酒を空にした。こんなことしかできない私だけど、少しでも役に立てるなら。自分のできるすべてを持って、私の有用さを認めさせて、ああやっぱり高階を秘書にしたのは正解だと思わせて……。
……それで、ええと……なんだっけ……?
HMCの社長さんが乗ったタクシーをお見送りする。ご機嫌な社長さんがにこにこで手を振る姿が、夜の都会の喧騒の中に風のように消えていく。
「では私もこれで失礼します今夜はありがとうございました」
「待て高階待て待て待て」
大股で立ち去ろうとした私の襟首を社長代理の手が引っ掴んだ。その場で足を止めた私は、唇をぎゅっと固く結んだままロボットみたいに振り返る。
「なんですか社長代理」
「お前コンビニで吐くつもりだろ、迷惑になるから絶対やめろ」
「コンビニでは吐きませんこのまま鼻呼吸で家に帰ります」
「いや絶対無理だって、顔真っ青だしほっぺたぱんぱんじゃん。吐く寸前で堪えてるんだろ、家に着く前に暴発するぞ」
「平気です慣れてますそれでは急ぐので失礼します」
「質問の答えになってねえよ! ああもう、やっぱり途中で止めておくんだった……!」
ぐい、と社長代理に腕をひかれた瞬間、喉から溢れる寸前まで来ていたモノが、何か道を間違えたみたいにゴクンと胃袋へ逆戻りした。むわっとした臭気が喉から鼻へ、身体の内側でにおいたつ。うげえ、最悪! 気持ち悪い!
受け止めきれず押し戻したはずのモノを再びお腹の中に落とされて、パニックに陥った内臓が全身に悲鳴を伝播させる。胃のむかむかが脳を支配して、正常な思考が遠のいていく。社長代理の不安そうな顔が、二重三重にぶれて見える。ああ、気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い……。
「う、う゛ぅっ……」
「うわ、おい、どうしたの? 大丈夫?」
頭が痛い。
めまいがする。
気持ちが悪くて仕方ない。
そのままふらりと倒れる刹那、真っ白に包まれる私の視界を不思議な既視感が駆け抜けた。頬にぴったりとくっつく胸はあの日と同じくあたたかで、私は安心感に身を任せそのまま意識を手放した。
止めようとする社長代理を遮り、私は社長さんの顔を見上げて大袈裟なくらいの笑みを見せた。
「美味しそうですね! 私、是非その梅酒をいただきたいです」
「うんうん、そうしたまえ。君みたいな若い女の子には飲みやすくて良いと思うよ。……ええと、高階さんだっけ? 君は本当に美人だねえ」
「ありがとうございます。でも、先輩方に比べればまだまだ何もできなくて」
「いやあ、そんなことはないよ。実はウチの社員から君の話は聞いていてね。とても優秀で話が早くて、仕事のできる女の子だと。今日、玲一くんが連れてくると聞いて、ひそかに楽しみにしていたんだよ」
オーバーな褒め言葉になんだか恥ずかしくなってくる。もちろん社交辞令だとは思うけど、認めてもらえるのは嬉しいものだ。
「玲一くんもそう思ったから、彼女を秘書に抜擢したんだろう?」
――仲良くやろうよ。あの時のことは、お互いさっぱり忘れてさ。
社長室で再会したあの日の言葉が蘇る。違う。実力で選ばれたわけじゃない。私の異動はただ単純に、口止め料なだけだから。
頂いた杯を笑顔で空けながら、もしかしたら私の頬は少し引きつっていたかもしれない。隣の社長代理の方を見られなくて、お酒に口をつけるふりをして視線を左右へ泳がせる。
「そうですね」
社長代理は静かに言った。
「この上ないタイミングで、この上ない部下に出会えたと思います」
よかったねえ高階くん、と社長さんが哄笑する。
恥ずかしがってうつむくふりをして、私は奥歯を噛みしめる。本当にそう思われていたなら、どんなに嬉しいことだろう。でも。
「……もう、お二人とも、あんまりからかわないでください」
顔を手で扇ぐ真似をしながら、私は梅酒を一気にあおった。社長代理が目を見張っているけど、気づかないふりをして次のお酒を注文する。
「お、高階さん、いける口だね? 強い女性は格好いいねえ」
すっかり上機嫌な社長さんに乗せられ、私は笑顔を浮かべたまま次々にお酒を空にした。こんなことしかできない私だけど、少しでも役に立てるなら。自分のできるすべてを持って、私の有用さを認めさせて、ああやっぱり高階を秘書にしたのは正解だと思わせて……。
……それで、ええと……なんだっけ……?
HMCの社長さんが乗ったタクシーをお見送りする。ご機嫌な社長さんがにこにこで手を振る姿が、夜の都会の喧騒の中に風のように消えていく。
「では私もこれで失礼します今夜はありがとうございました」
「待て高階待て待て待て」
大股で立ち去ろうとした私の襟首を社長代理の手が引っ掴んだ。その場で足を止めた私は、唇をぎゅっと固く結んだままロボットみたいに振り返る。
「なんですか社長代理」
「お前コンビニで吐くつもりだろ、迷惑になるから絶対やめろ」
「コンビニでは吐きませんこのまま鼻呼吸で家に帰ります」
「いや絶対無理だって、顔真っ青だしほっぺたぱんぱんじゃん。吐く寸前で堪えてるんだろ、家に着く前に暴発するぞ」
「平気です慣れてますそれでは急ぐので失礼します」
「質問の答えになってねえよ! ああもう、やっぱり途中で止めておくんだった……!」
ぐい、と社長代理に腕をひかれた瞬間、喉から溢れる寸前まで来ていたモノが、何か道を間違えたみたいにゴクンと胃袋へ逆戻りした。むわっとした臭気が喉から鼻へ、身体の内側でにおいたつ。うげえ、最悪! 気持ち悪い!
受け止めきれず押し戻したはずのモノを再びお腹の中に落とされて、パニックに陥った内臓が全身に悲鳴を伝播させる。胃のむかむかが脳を支配して、正常な思考が遠のいていく。社長代理の不安そうな顔が、二重三重にぶれて見える。ああ、気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い……。
「う、う゛ぅっ……」
「うわ、おい、どうしたの? 大丈夫?」
頭が痛い。
めまいがする。
気持ちが悪くて仕方ない。
そのままふらりと倒れる刹那、真っ白に包まれる私の視界を不思議な既視感が駆け抜けた。頬にぴったりとくっつく胸はあの日と同じくあたたかで、私は安心感に身を任せそのまま意識を手放した。
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