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第九章 すれ違う想い
第三十話
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*
さて。
前にもこういうことはあった。仕事を終えた夜の街角を何も言わずに車が進んでいく。いつもより少し静かな眼差しで、街灯を見つめる玲一さん。
あれは確か、松岡くんとの約束があった後のことだ。玲一さんの誘いを断り、松岡くんと食事へ出かけた。その次に二人で過ごした夜、私はこうして車に乗ってはじめて彼の部屋に入った。
案の定玲一さんのマンションに連れて行かれた私は、今日は絶対に勧められても飲まないと固く決意をした。お酒さえ飲まずにいれば、あの日みたいな恐怖と快楽に吞まれるようなセックスにはならないと――そう、思っていた。
「あ、ああっ! あ、ひぁ、……ぁああ、あ、んぁ、あ、……っあああ!」
ピンと伸びた足先が震え、かかとが宙を蹴り上げる。
びくびくと痙攣する内腿。這うように逃げる私の腰が、乱暴に両手で捕らえられまた深く奥を穿たれる。
頭のてっぺんから足の先まで感電したみたいに痺れている。まぶたの裏で小さな花火がひっきりなしに爆発しているみたい。
(だめ、だめ、おかしくなる!)
少しでも遠くへ離れなければと縋るように伸ばした腕は、ただ彼の指に絡めとられるまま強くシーツへ縫い付けられて。
「逃げるなよ」
背中に覆いかぶさる彼の地響きのように低い声が、濡れた耳から直接脳を甘く揺さぶり溶かしていく。
「あっ、やだ! ぁあ、……あ、やだやだやだ! ねえ! だめだって!」
「だめじゃないでしょ」
「だめなの! ほんと! もうむり、ぁ、っあ、ああ! やだあ! やめてってばあ!」
「嫌だね。今日は何言われても絶対にやめない」
ああいやだ、これはもう間違いなくねちっこいやつだ。泣いて喘いでさんざん叫んで、それでも決して許されることのない悦楽の無間地獄。
嫌だと泣きながらまた絶頂した私の身体を見下ろして、玲一さんは喉で笑うとそのまま私の頬を叩く。
「顔見せて。気持ちよさそうな顔」
挿入したまま身体を仰向けにひっくり返されて、私はもう力も入らずされるがままになるしかない。虚ろな瞳で浅く呼吸する私の髪を軽く掴んで、玲一さんは唇を開けるとそのまま私の口へかぶりついた。
触れ合う唇で混ざる唾液がぐちゅ、と卑猥な音を立てる。口付けたままの荒い呼吸は酸素なんかほとんど取り込めずに、ただただ互いの熱い吐息が唇の中で溶け合うだけ。
角度を変えて責め込む舌先が上唇の奥をなぞり上げる。触れ合った舌がくちゅくちゅと、水音とともに絡み合う。
玲一さんのキスが好き。顎の下まで唾液でびしょびしょになるくらいの、余裕や遠慮をすべて放り出した獣の貪食みたいなキス。抵抗をやめればあっという間に頭から丸ごと捕食されて、そのまま彼の一部にされてしまいそう。そしてそんな野蛮な情欲が、私一人に向けられていると思うと、興奮で身体の芯が火をつけられたみたく熱くなる。
「腰、動いてるよ」
あまりにもキスが気持ち良すぎて、無意識のうちに私の方から欲しがってしまっていたらしい。あさましい、と思う反面、どうなじられても奥まで突いてもらえるならば構わないと、理性の枷を振りほどいた本能が私を甘く急き立てる。
玲一さんもそれがわかっているのだろう。唇を求めながら必死に腰を振る私を眺め、彼はどこか上機嫌に口角をゆるく上げている。熱く濡れた瞳が色っぽい。てのひらが私の下腹部を撫で、慈しむようにトントン叩く。ああ、これ、本当になんなのだろう。これをされるとあっという間に、私が私じゃなくなってしまう。
「っ、あっ」
突然上ずった声が漏れたのは、玲一さんの唇が私の喉元に吸いついたからだ。ちゅっと音を立てて軽く吸い上げ、一旦身体を離してから、彼は軽く小首を傾げると再び同じ場所へ唇を当てる。
「い゛っ……!」
鈍い悲鳴は痛みによるものだ。とっさに両目を開くと、満足そうに瞳を細める玲一さんと目が合った。
「いま、……何、したんですか?」
「ん? 噛んだ」
「噛んだって、え、なんで」
ひりひりと痛む箇所へそっと指を添わせてみる。離した指先にはほんの少しだけ赤い色がついていて、私が非難の眼差しで睨むと、玲一さんは肩をすくめた。
「さあ? なんでだろうね」
悪びれもしない悪戯っ子の笑顔だ。
「っ、こんな変な傷、困ります。明日は交流会なのに」
「別にいいじゃん」
「よくないですよ」
「いいんだよ。これで」
玲一さんの指先が猫をあやすように喉をくすぐる。
それと同時に揺さぶるような腰の律動を再開されて、私はむっと口を結んだまま甘やかな刺激に耐えるしかない。奥を撫でるように揺すられるたび、ぴく、ぴくと身体が跳ねて、自分がこの人の前だとあまりにも無力だと思い知る。
「覚えておいてね、凛ちゃん」
玲一さんは歌うように言う。
「凛ちゃんをこんな風にしたのは、他でもないこの俺だってこと」
「っ、あ、んぁ、……なに、言って、っひぁ」
「凛ちゃんのここをトントンしてやれるのも、たぶん俺くらいだよ」
「あ、……やめ、それ、あああ、っや、ぁ、……あああっ!」
「明日もさ、他の男で満足できなかったら、俺を呼んでくれていいからね。俺なら絶対に凛ちゃんを狂うまで気持ちよくしてあげられる」
自分の嬌声が遠くに聞こえる。つながったところから漏れる水音は、私の頭がどれだけ彼に狂わされているかを示すバロメータだ。
「それはっ」
突かれるたびに喘ぎながら、私はやっとのことで玲一さんの瞳を見上げ、渾身で言う。
「ルール、違反ですっ……!」
恋人とはまったく別物。友達以上恋人未満。羽よりも軽い間柄。
それがセフレの――私たちの間柄ではなかったか。
ほんの一瞬、我に返ったみたいに目を見開いた玲一さんは、すぐにくしゅっと力なく笑うと黙って私にキスをした。
それはさっきの深いものと違う、本当に唇が触れ合うだけの、中学生同士みたいなキスで――もっと深く、と続きをせがむみたいに見上げた私に、玲一さんは気づかないふりをして腰の動きを再開した。
さて。
前にもこういうことはあった。仕事を終えた夜の街角を何も言わずに車が進んでいく。いつもより少し静かな眼差しで、街灯を見つめる玲一さん。
あれは確か、松岡くんとの約束があった後のことだ。玲一さんの誘いを断り、松岡くんと食事へ出かけた。その次に二人で過ごした夜、私はこうして車に乗ってはじめて彼の部屋に入った。
案の定玲一さんのマンションに連れて行かれた私は、今日は絶対に勧められても飲まないと固く決意をした。お酒さえ飲まずにいれば、あの日みたいな恐怖と快楽に吞まれるようなセックスにはならないと――そう、思っていた。
「あ、ああっ! あ、ひぁ、……ぁああ、あ、んぁ、あ、……っあああ!」
ピンと伸びた足先が震え、かかとが宙を蹴り上げる。
びくびくと痙攣する内腿。這うように逃げる私の腰が、乱暴に両手で捕らえられまた深く奥を穿たれる。
頭のてっぺんから足の先まで感電したみたいに痺れている。まぶたの裏で小さな花火がひっきりなしに爆発しているみたい。
(だめ、だめ、おかしくなる!)
少しでも遠くへ離れなければと縋るように伸ばした腕は、ただ彼の指に絡めとられるまま強くシーツへ縫い付けられて。
「逃げるなよ」
背中に覆いかぶさる彼の地響きのように低い声が、濡れた耳から直接脳を甘く揺さぶり溶かしていく。
「あっ、やだ! ぁあ、……あ、やだやだやだ! ねえ! だめだって!」
「だめじゃないでしょ」
「だめなの! ほんと! もうむり、ぁ、っあ、ああ! やだあ! やめてってばあ!」
「嫌だね。今日は何言われても絶対にやめない」
ああいやだ、これはもう間違いなくねちっこいやつだ。泣いて喘いでさんざん叫んで、それでも決して許されることのない悦楽の無間地獄。
嫌だと泣きながらまた絶頂した私の身体を見下ろして、玲一さんは喉で笑うとそのまま私の頬を叩く。
「顔見せて。気持ちよさそうな顔」
挿入したまま身体を仰向けにひっくり返されて、私はもう力も入らずされるがままになるしかない。虚ろな瞳で浅く呼吸する私の髪を軽く掴んで、玲一さんは唇を開けるとそのまま私の口へかぶりついた。
触れ合う唇で混ざる唾液がぐちゅ、と卑猥な音を立てる。口付けたままの荒い呼吸は酸素なんかほとんど取り込めずに、ただただ互いの熱い吐息が唇の中で溶け合うだけ。
角度を変えて責め込む舌先が上唇の奥をなぞり上げる。触れ合った舌がくちゅくちゅと、水音とともに絡み合う。
玲一さんのキスが好き。顎の下まで唾液でびしょびしょになるくらいの、余裕や遠慮をすべて放り出した獣の貪食みたいなキス。抵抗をやめればあっという間に頭から丸ごと捕食されて、そのまま彼の一部にされてしまいそう。そしてそんな野蛮な情欲が、私一人に向けられていると思うと、興奮で身体の芯が火をつけられたみたく熱くなる。
「腰、動いてるよ」
あまりにもキスが気持ち良すぎて、無意識のうちに私の方から欲しがってしまっていたらしい。あさましい、と思う反面、どうなじられても奥まで突いてもらえるならば構わないと、理性の枷を振りほどいた本能が私を甘く急き立てる。
玲一さんもそれがわかっているのだろう。唇を求めながら必死に腰を振る私を眺め、彼はどこか上機嫌に口角をゆるく上げている。熱く濡れた瞳が色っぽい。てのひらが私の下腹部を撫で、慈しむようにトントン叩く。ああ、これ、本当になんなのだろう。これをされるとあっという間に、私が私じゃなくなってしまう。
「っ、あっ」
突然上ずった声が漏れたのは、玲一さんの唇が私の喉元に吸いついたからだ。ちゅっと音を立てて軽く吸い上げ、一旦身体を離してから、彼は軽く小首を傾げると再び同じ場所へ唇を当てる。
「い゛っ……!」
鈍い悲鳴は痛みによるものだ。とっさに両目を開くと、満足そうに瞳を細める玲一さんと目が合った。
「いま、……何、したんですか?」
「ん? 噛んだ」
「噛んだって、え、なんで」
ひりひりと痛む箇所へそっと指を添わせてみる。離した指先にはほんの少しだけ赤い色がついていて、私が非難の眼差しで睨むと、玲一さんは肩をすくめた。
「さあ? なんでだろうね」
悪びれもしない悪戯っ子の笑顔だ。
「っ、こんな変な傷、困ります。明日は交流会なのに」
「別にいいじゃん」
「よくないですよ」
「いいんだよ。これで」
玲一さんの指先が猫をあやすように喉をくすぐる。
それと同時に揺さぶるような腰の律動を再開されて、私はむっと口を結んだまま甘やかな刺激に耐えるしかない。奥を撫でるように揺すられるたび、ぴく、ぴくと身体が跳ねて、自分がこの人の前だとあまりにも無力だと思い知る。
「覚えておいてね、凛ちゃん」
玲一さんは歌うように言う。
「凛ちゃんをこんな風にしたのは、他でもないこの俺だってこと」
「っ、あ、んぁ、……なに、言って、っひぁ」
「凛ちゃんのここをトントンしてやれるのも、たぶん俺くらいだよ」
「あ、……やめ、それ、あああ、っや、ぁ、……あああっ!」
「明日もさ、他の男で満足できなかったら、俺を呼んでくれていいからね。俺なら絶対に凛ちゃんを狂うまで気持ちよくしてあげられる」
自分の嬌声が遠くに聞こえる。つながったところから漏れる水音は、私の頭がどれだけ彼に狂わされているかを示すバロメータだ。
「それはっ」
突かれるたびに喘ぎながら、私はやっとのことで玲一さんの瞳を見上げ、渾身で言う。
「ルール、違反ですっ……!」
恋人とはまったく別物。友達以上恋人未満。羽よりも軽い間柄。
それがセフレの――私たちの間柄ではなかったか。
ほんの一瞬、我に返ったみたいに目を見開いた玲一さんは、すぐにくしゅっと力なく笑うと黙って私にキスをした。
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