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第10話 静嵐の秘密
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「す、ストレスかな。とすると、私のせい?」
そんな疑問が過ぎり、むくむくと不安が広がる。
気にしていないようだし、そのままにしておこうと思って、ずっと静嵐のいる席の近くにいたが、それがストレスになってしまったのだろうか。
「え、まさか。でも」
すごく気になる。それほど、明確に髪の色が変わっていた。それは染めたというには不自然な変化だった。そう、色が抜けた。その表現がしっくりくる変化だったのだ。
じっと見ていると、静嵐が気付いた。そして気まずそうに目を逸らす。
「――」
その目も、何故か色が変わって薄くなっていた。
髪と連動しているのか。いやいや、そんなことないよねと、愛佳は驚いて固まってしまう。
すると、静嵐も気まずくなったのか、大きく溜め息を吐いた。そして、ちょいちょいと手招きしつつ立ち上がる。
つ、ついに向こうから話し掛ける気になったのだ。しかし、それは仲良くしようというようなものではない。何故か、聞いてはいけないこを聞くことになる。そう思ってしまった。
静嵐と愛佳は図書館の中にある会議室へと入った。本来ならば受付で使用許可を取らなければならないが、ちょっとの間だったら大丈夫だろう。
「気付いたのか?」
「え、まあ」
会議室に入るなり、静嵐が自分の髪を触って訊いてくる。その声は非常に不機嫌だ。
「う、うん。その、何か病気なの?」
どう考えても染めた感じではない。それに染めただけならば、こんな不機嫌には言わないだろう。何か重大な秘密があるのだ。
「病気ね。ま、そんなものかな」
静嵐は自嘲気味に笑った。その笑顔に、なぜか愛佳は胸が苦しくなる。
「お、お医者さんには」
「そういう類いのものじゃないんだ」
「で、でも」
「俺は消えるんだ。もうすぐね」
「え?」
一体、今、何を言ったのか。そう思う問い返そうとしたのに、静嵐はさっさと会議室を出て行ってしまった。
言うべき事は終わった。そう、背中が語っている。会話を、完全に拒否している。
「消える、って、どういうこと?」
悪い冗談だと、笑い飛ばせなかった。色の抜けつつある髪と目が、真実だと主張している。これは、寺本に確認するしかなさそうだ。愛佳は慌てて図書館を飛び出していた。
「そうか。奥山君も気付いたか」
「え、ええ」
丁度良く寺本は自らの研究室にいたため、すぐに話が聞けることになった。すると、深刻な顔をする。
「髪と目の色が、何だか薄くなってました。それを本人に訊くと、消えるんだって」
「そうか。かなり深刻なところまで来ているな」
「それって」
愛佳はどういうことだと、じっと寺本を見つめる。
「こんなことをすぐに信じろというのは無理かもしれないけど、静嵐は、人間じゃないんだ」
「――」
いつもの愛佳だったら、そんなわけないと笑っていたかもしれない。しかし、説明の付かない色の抜けた髪と目を見ているせいで、ああ、やっぱりかと思っていた。
「静嵐はねえ。神様になり損なったんだ」
「え?」
けれども、その次の言葉はさすがに聞き返していた。
まだ、幽霊だと言われた方が納得出来る。それなのに、神様になり損なったとはどういうことか。
「この辺りの神様になるはずだったんだよ、たぶん。その辺りの詳しい経緯を静嵐は話してくれないから、よく解らないんだけど、彼は神になる資格を、どういうわけか無くしてしまった」
「――」
「それからずっと、この辺りから離れることは出来ず、しかし消えるわけでもなく存在していたんだ。それはもう大昔から、この場所が都だったときもいた。そして大学が出来たときもね。ひっそりと潜むように生活していたという。でも、大学の創始者、君も知っている神学者だった前島爽は静嵐を見つけてね。図書館を見守る役割を与えたんだ」
「あっ」
いつも図書館にしかいない。それは、そんな理由からなのか。この大学の図書館の守り神。それが、静嵐。
「それからずっと、律儀に図書館にいた。代々、この手の話を信じやすい人にだけ、真実が伝えられていた。僕もその一人というわけ。でも、どうやら秘密はそれだけじゃないみたいなんだ。それが、つい最近になって言い出した、消えるという話だ」
寺本も、困ったという顔をしている。どうして消えるのか。それについて、寺本も解らないのだ。
そんな疑問が過ぎり、むくむくと不安が広がる。
気にしていないようだし、そのままにしておこうと思って、ずっと静嵐のいる席の近くにいたが、それがストレスになってしまったのだろうか。
「え、まさか。でも」
すごく気になる。それほど、明確に髪の色が変わっていた。それは染めたというには不自然な変化だった。そう、色が抜けた。その表現がしっくりくる変化だったのだ。
じっと見ていると、静嵐が気付いた。そして気まずそうに目を逸らす。
「――」
その目も、何故か色が変わって薄くなっていた。
髪と連動しているのか。いやいや、そんなことないよねと、愛佳は驚いて固まってしまう。
すると、静嵐も気まずくなったのか、大きく溜め息を吐いた。そして、ちょいちょいと手招きしつつ立ち上がる。
つ、ついに向こうから話し掛ける気になったのだ。しかし、それは仲良くしようというようなものではない。何故か、聞いてはいけないこを聞くことになる。そう思ってしまった。
静嵐と愛佳は図書館の中にある会議室へと入った。本来ならば受付で使用許可を取らなければならないが、ちょっとの間だったら大丈夫だろう。
「気付いたのか?」
「え、まあ」
会議室に入るなり、静嵐が自分の髪を触って訊いてくる。その声は非常に不機嫌だ。
「う、うん。その、何か病気なの?」
どう考えても染めた感じではない。それに染めただけならば、こんな不機嫌には言わないだろう。何か重大な秘密があるのだ。
「病気ね。ま、そんなものかな」
静嵐は自嘲気味に笑った。その笑顔に、なぜか愛佳は胸が苦しくなる。
「お、お医者さんには」
「そういう類いのものじゃないんだ」
「で、でも」
「俺は消えるんだ。もうすぐね」
「え?」
一体、今、何を言ったのか。そう思う問い返そうとしたのに、静嵐はさっさと会議室を出て行ってしまった。
言うべき事は終わった。そう、背中が語っている。会話を、完全に拒否している。
「消える、って、どういうこと?」
悪い冗談だと、笑い飛ばせなかった。色の抜けつつある髪と目が、真実だと主張している。これは、寺本に確認するしかなさそうだ。愛佳は慌てて図書館を飛び出していた。
「そうか。奥山君も気付いたか」
「え、ええ」
丁度良く寺本は自らの研究室にいたため、すぐに話が聞けることになった。すると、深刻な顔をする。
「髪と目の色が、何だか薄くなってました。それを本人に訊くと、消えるんだって」
「そうか。かなり深刻なところまで来ているな」
「それって」
愛佳はどういうことだと、じっと寺本を見つめる。
「こんなことをすぐに信じろというのは無理かもしれないけど、静嵐は、人間じゃないんだ」
「――」
いつもの愛佳だったら、そんなわけないと笑っていたかもしれない。しかし、説明の付かない色の抜けた髪と目を見ているせいで、ああ、やっぱりかと思っていた。
「静嵐はねえ。神様になり損なったんだ」
「え?」
けれども、その次の言葉はさすがに聞き返していた。
まだ、幽霊だと言われた方が納得出来る。それなのに、神様になり損なったとはどういうことか。
「この辺りの神様になるはずだったんだよ、たぶん。その辺りの詳しい経緯を静嵐は話してくれないから、よく解らないんだけど、彼は神になる資格を、どういうわけか無くしてしまった」
「――」
「それからずっと、この辺りから離れることは出来ず、しかし消えるわけでもなく存在していたんだ。それはもう大昔から、この場所が都だったときもいた。そして大学が出来たときもね。ひっそりと潜むように生活していたという。でも、大学の創始者、君も知っている神学者だった前島爽は静嵐を見つけてね。図書館を見守る役割を与えたんだ」
「あっ」
いつも図書館にしかいない。それは、そんな理由からなのか。この大学の図書館の守り神。それが、静嵐。
「それからずっと、律儀に図書館にいた。代々、この手の話を信じやすい人にだけ、真実が伝えられていた。僕もその一人というわけ。でも、どうやら秘密はそれだけじゃないみたいなんだ。それが、つい最近になって言い出した、消えるという話だ」
寺本も、困ったという顔をしている。どうして消えるのか。それについて、寺本も解らないのだ。
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