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第11話 落ちこぼれの神様
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「何か、ヒントは」
愛佳は縋るように訊いていた。
きっとそれは、静嵐の自嘲気味な顔を見てしまったせいだ。
「考えられるのは、知っている人数が限りなく少なくなってしまったからではないか。そう思うんだよね。過去、どう考えても静嵐は誰かの手助けを借りて生きていた。それは大学が出来る前も同じはずなんだ。つまり、神様として確立した地位があるわけではないけど、やっぱり神様だったんだよ。この辺りに住む人たちにとってね。それが、急速に忘れ去られている。君も歴史が好きならば、なんとなく解るだろ? 忘れられた神様は」
「消えてしまう」
「ああ。つまりは、静嵐にも同じことが起こっている。そういうことなんだと思う。だから僕は、一人でも静嵐を知っている人を増やしたくて」
そう言って、寺本は愛佳を見て悲しげに笑った。
一人でも増やしたい。その一人として、愛佳を選んだのだ。図書館をいつも利用していて、なんとなく静嵐を気にしていたから。
「そっか。静嵐の周りにあまり人がいないですもんね」
自分になった理由をそう納得すると、違うよと寺本は苦笑した。
「え? でも」
「まず。彼を気にとめることが出来る人じゃないと。どうして周囲に人がいないのか。それは彼が人ではないからなんだよ。なんとなく居づらくなっちゃうんだ。どういうわけかね。それを突破できる人は、君だけだった」
「――」
「これは、言おうかどうするか悩んでいたんだけど、隠しても仕方ないね。静嵐はどういうわけか、人を怖がっている。若い人を、というべきかな。特に女性はね。だから、図書館という場所を与えられて嬉しかったんだけど、同時に、居づらい場所でもあるんだ。共学になってからは特にさ。本に没頭していたら、どうでもいいらしいんだけど、でも、ある程度近づいて欲しくないんだ。それが、近寄れない空気になってしまって、彼の周囲はいつも人がいない。そういうところも、やっぱり神様なんだろう。自分で神域を作ってるわけだね」
「でも、今までは人の手助けを」
「そう。だからね、僕もそれを思って何人かを静嵐のところに向かわせて見たんだけど、駄目だった。反応を引き出せたのも、彼が気になると言ったのも君だけだった。たぶん、選ばれたんだよ、君は」
「――そ、そうですか?」
どう考えても邪険にされていると、愛佳は首を捻ってしまう。それに、選んだのならばあの時、丁寧に説明してくれてもよかったのではないか。
「まあ、僕にも色々と解らないことがあるし、説明できないこともある。ただ、静嵐は急に消えそうになっているのは確かだ。彼が、本当に神様ではなくなった、ということなのかな」
「――」
そういうものなのだろうかと、愛佳は何だか納得出来ない。
消えそうならば、もっと寺本を頼ってどうにかしてもらうべきではないか。図書館を守る仕事も大事なのだろうけど、神様として祀ってもらうことも可能なはずだ。
「ともかく、何とか静嵐の気持ちを聞き出してくれないかな。僕もあれこれと手を打とうとしているんだけど、単なる世話係から抜け出せなくてね」
親しいようで親しくないのだと、寺本は少し寂しそうに言った。それが、選ばれるかどうかに関係しているかのようだ。
「静嵐は、自分で選んでいるんですよね?」
「たぶん。伝承にも残っていない神様だからね。昔から、特定の人にだけ姿を見せていたのかも知れない。ここに大学が出来て困っていたから、創立者は見つけられたんだろうけど」
「ううん」
色々と難しいなと、愛佳は悩む。
が、勝手に消えられると寝覚めが悪いのは事実だ。こっちがあれこれ複雑な気持ちになったり悩んだ分、ちゃんと教えてもらいたかった。
「やってみます」
自分が納得出来ないままなのが嫌だからと、愛佳は寺本の願いを受け取った。そしてすぐ、図書館に取って返す。
愛佳は縋るように訊いていた。
きっとそれは、静嵐の自嘲気味な顔を見てしまったせいだ。
「考えられるのは、知っている人数が限りなく少なくなってしまったからではないか。そう思うんだよね。過去、どう考えても静嵐は誰かの手助けを借りて生きていた。それは大学が出来る前も同じはずなんだ。つまり、神様として確立した地位があるわけではないけど、やっぱり神様だったんだよ。この辺りに住む人たちにとってね。それが、急速に忘れ去られている。君も歴史が好きならば、なんとなく解るだろ? 忘れられた神様は」
「消えてしまう」
「ああ。つまりは、静嵐にも同じことが起こっている。そういうことなんだと思う。だから僕は、一人でも静嵐を知っている人を増やしたくて」
そう言って、寺本は愛佳を見て悲しげに笑った。
一人でも増やしたい。その一人として、愛佳を選んだのだ。図書館をいつも利用していて、なんとなく静嵐を気にしていたから。
「そっか。静嵐の周りにあまり人がいないですもんね」
自分になった理由をそう納得すると、違うよと寺本は苦笑した。
「え? でも」
「まず。彼を気にとめることが出来る人じゃないと。どうして周囲に人がいないのか。それは彼が人ではないからなんだよ。なんとなく居づらくなっちゃうんだ。どういうわけかね。それを突破できる人は、君だけだった」
「――」
「これは、言おうかどうするか悩んでいたんだけど、隠しても仕方ないね。静嵐はどういうわけか、人を怖がっている。若い人を、というべきかな。特に女性はね。だから、図書館という場所を与えられて嬉しかったんだけど、同時に、居づらい場所でもあるんだ。共学になってからは特にさ。本に没頭していたら、どうでもいいらしいんだけど、でも、ある程度近づいて欲しくないんだ。それが、近寄れない空気になってしまって、彼の周囲はいつも人がいない。そういうところも、やっぱり神様なんだろう。自分で神域を作ってるわけだね」
「でも、今までは人の手助けを」
「そう。だからね、僕もそれを思って何人かを静嵐のところに向かわせて見たんだけど、駄目だった。反応を引き出せたのも、彼が気になると言ったのも君だけだった。たぶん、選ばれたんだよ、君は」
「――そ、そうですか?」
どう考えても邪険にされていると、愛佳は首を捻ってしまう。それに、選んだのならばあの時、丁寧に説明してくれてもよかったのではないか。
「まあ、僕にも色々と解らないことがあるし、説明できないこともある。ただ、静嵐は急に消えそうになっているのは確かだ。彼が、本当に神様ではなくなった、ということなのかな」
「――」
そういうものなのだろうかと、愛佳は何だか納得出来ない。
消えそうならば、もっと寺本を頼ってどうにかしてもらうべきではないか。図書館を守る仕事も大事なのだろうけど、神様として祀ってもらうことも可能なはずだ。
「ともかく、何とか静嵐の気持ちを聞き出してくれないかな。僕もあれこれと手を打とうとしているんだけど、単なる世話係から抜け出せなくてね」
親しいようで親しくないのだと、寺本は少し寂しそうに言った。それが、選ばれるかどうかに関係しているかのようだ。
「静嵐は、自分で選んでいるんですよね?」
「たぶん。伝承にも残っていない神様だからね。昔から、特定の人にだけ姿を見せていたのかも知れない。ここに大学が出来て困っていたから、創立者は見つけられたんだろうけど」
「ううん」
色々と難しいなと、愛佳は悩む。
が、勝手に消えられると寝覚めが悪いのは事実だ。こっちがあれこれ複雑な気持ちになったり悩んだ分、ちゃんと教えてもらいたかった。
「やってみます」
自分が納得出来ないままなのが嫌だからと、愛佳は寺本の願いを受け取った。そしてすぐ、図書館に取って返す。
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