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第13話 どうして?
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静嵐の薄い茶色の目に見つめられ、何も言えなかった。そうだ、相手は神がたまたま乙女と交わって生まれた存在だという。となると、相当な昔だ。まさしく、神代の話。
「今伝わる、記紀と呼ばれる神話より前の話だ。平然とどんな神も存在できた時代。人の信仰がそのままダイレクトに神という存在を作り出せた時代のことだ。そんな昔から、俺はずっとこの土地にいる。他に行くことは出来ない。説明の付かない存在である自分を、受け入れてくれる場所は他にはないから」
「――」
川へと降りる階段をゆっくりと降りながら、静嵐は世間話をするような調子で語り続ける。でもそれは、よく考えると残酷な話だった。
神でも人でもないのに、土地に縛られてしまった存在。姿は変わらず、いつも人ではない事実を突きつけられる。でも、誰かに縋らなければ、その存在は消えてしまう。だから、誰かに説明し続けなければならない。常に人ではないと思いながら、それでも消えるわけでもなく存在し続けた。
「どうして今、消えそうなの?」
もし、静嵐がその努力を怠れば、もっと早く消えていたのだろうか。そんな疑問が浮かんで、訊ねてしまう。
「さあ。それまでは多分、俺が何もしなくでも誰もが人ではない存在を受け入れ、なんとなく、守ってくれていたんだろうね。それが消えたんだ」
「――」
そうだろうか。何だか違和感を覚える。でも、静嵐が必死に自分の存在に関して説明している図というのも、違和感があった。
それこそ、空気が変わったとしか言えないのだろうか。確かに今の時代、信仰というのは薄れている。祭りが途絶える地域も多い。それが、影響しているのだろうか。
鴨川を見つめる静嵐は、とても寂しそうだ。何かまだ、言えない理由があるはずだと、愛佳は直感する。そしてそれこそ、消えそうになっている理由なのだ。
「もう、いたくないの?」
図書館にいる静嵐は、とても寂しそうだった。ひょっとしてもう、図書館を守るのは嫌なのだろうか。
「――本を読むのは、好きだけどね」
「でも、嫌なの?」
「嫌というか」
静嵐は困ったように振り返った。その顔には困惑が浮かんでいるように愛佳には見える。
「何か、あるの?」
「俺はやっぱり、人間じゃないんだなって、楽しそうにしている大学生を見ているとね」
「――」
それは当然起こる感情だろう。愛佳はぎゅっと心臓を掴まれた思いだ。でも、それは消えそうになっている理由ではない。普通を羨ましく思った。それだけだ。
「どうして消えるの?」
どんどん先に歩いて行く静嵐に向け、愛佳は大声で訊く。そうしないと、今すぐに消えてしまいそうだった。夕闇に飲まれ、そのまま彼岸へと旅立ってしまいそうだった。
「俺が願ったから」
そして、返ってきた答えは、どこかで想像していたとおりのものだった。やはり、静嵐の思いが反映されているらしい。
「どうして、今になって願ったの?」
愛佳は先へと歩いて行ってしまう静嵐の腕を捉えて訊いた。何だか逃げようとしているようで、ものすごく気になる。
「今伝わる、記紀と呼ばれる神話より前の話だ。平然とどんな神も存在できた時代。人の信仰がそのままダイレクトに神という存在を作り出せた時代のことだ。そんな昔から、俺はずっとこの土地にいる。他に行くことは出来ない。説明の付かない存在である自分を、受け入れてくれる場所は他にはないから」
「――」
川へと降りる階段をゆっくりと降りながら、静嵐は世間話をするような調子で語り続ける。でもそれは、よく考えると残酷な話だった。
神でも人でもないのに、土地に縛られてしまった存在。姿は変わらず、いつも人ではない事実を突きつけられる。でも、誰かに縋らなければ、その存在は消えてしまう。だから、誰かに説明し続けなければならない。常に人ではないと思いながら、それでも消えるわけでもなく存在し続けた。
「どうして今、消えそうなの?」
もし、静嵐がその努力を怠れば、もっと早く消えていたのだろうか。そんな疑問が浮かんで、訊ねてしまう。
「さあ。それまでは多分、俺が何もしなくでも誰もが人ではない存在を受け入れ、なんとなく、守ってくれていたんだろうね。それが消えたんだ」
「――」
そうだろうか。何だか違和感を覚える。でも、静嵐が必死に自分の存在に関して説明している図というのも、違和感があった。
それこそ、空気が変わったとしか言えないのだろうか。確かに今の時代、信仰というのは薄れている。祭りが途絶える地域も多い。それが、影響しているのだろうか。
鴨川を見つめる静嵐は、とても寂しそうだ。何かまだ、言えない理由があるはずだと、愛佳は直感する。そしてそれこそ、消えそうになっている理由なのだ。
「もう、いたくないの?」
図書館にいる静嵐は、とても寂しそうだった。ひょっとしてもう、図書館を守るのは嫌なのだろうか。
「――本を読むのは、好きだけどね」
「でも、嫌なの?」
「嫌というか」
静嵐は困ったように振り返った。その顔には困惑が浮かんでいるように愛佳には見える。
「何か、あるの?」
「俺はやっぱり、人間じゃないんだなって、楽しそうにしている大学生を見ているとね」
「――」
それは当然起こる感情だろう。愛佳はぎゅっと心臓を掴まれた思いだ。でも、それは消えそうになっている理由ではない。普通を羨ましく思った。それだけだ。
「どうして消えるの?」
どんどん先に歩いて行く静嵐に向け、愛佳は大声で訊く。そうしないと、今すぐに消えてしまいそうだった。夕闇に飲まれ、そのまま彼岸へと旅立ってしまいそうだった。
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そして、返ってきた答えは、どこかで想像していたとおりのものだった。やはり、静嵐の思いが反映されているらしい。
「どうして、今になって願ったの?」
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