狙撃銃は女神の懐

荒井文法

文字の大きさ
13 / 26
第三章 組立

しおりを挟む
 「お客さん、こりゃだめだね、入れないよ、何かあったのかねぇ」
 これまで全然喋らなかったタクシーの運転手さんが一気に話した。おぉ、こんなに喋る人だったのか、と思ったけど、目的地に着けない言い訳を僕に伝えたかっただけかな。
 夜中にメグの電話で起きてから、寝ぼけた頭でタクシーを呼んで、メグのオンボロアパートの近くまで来たんだけど、メグのオンボロアパートへ向かう道路の入り口付近に、たくさんの人や車が集まってる。テレビ局の車もある。何か起きてるのは間違いないなさそうだけど、その原因がメグなわけないよな。そう思いながらも、嫌な予感がむくむくと大きくなってなってく。早く、この感じを消したい。
 「じゃあ、ここでいいです、降ろしてください」
 タクシーの運転手さんに伝えて、料金を精算し、タクシーから降りて、人や車が集まってる場所を通ってメグのアパートへ向かう。メグのアパートに近付くほど、人が多くなってく。報道関係の人も多くなってく。
 メグのアパート前に通じてる道路の前まで来ると、赤色灯をクルクル回してるパトカーが道を封鎖してる。真っ黒になった僕の嫌な予感が、僕の手を操って、メグへ電話をかけさせた。
 コール音が続いてる。どうして電話に出ないんだろう。トイレとかに行ってるのかも。いいよ、いつまでも待つから、電話に出てよ。
 コール音が止まった。なぜか男の声。頭が混乱。
 「……マチダの携帯電話でしょうか?」言葉を絞り出す。
 電話の相手はリュウガイと名乗った。リュウガイって……えっと……女の子のお兄さんだっけ。
 「どうしてリュウガイさんが……?」
 リュウガイさんは、自分は警察官だと言った。くらくらして、何も考えられない。
 「マチダさんと思われる方は、何者かに襲われ、病院へ搬送されました」
 最悪の言葉が聞こえた。
 「襲われたって、ケガをしたんですか?」
 「はい」
 「大丈夫なんですか?」
 「私が現場に来た時にはすでに搬送されていましたので、ケガの詳細をお伝えすることが難しい状況です」
 「そんなに酷いんですか?」
 「すみません……本当に分からないのです……申し訳ありません」
 リュウガイさんの誠意の籠った声を聞いて、少しだけ冷静になった。今の僕がしなきゃいけないことは、リュウガイさんを困らせることじゃない。早くメグのとこへ行かなきゃいけない。
 メグが搬送された病院の名前をリュウガイさんに訊いてる途中で、メグのお母さんのことを思い出した。メグの家族はお母さんしかいないけど、たぶんメグのスマートフォンには、お母さんの携帯電話の番号が登録されてない。固定電話はあったと思うけど、メグのお母さんが家にいるのを見たことは、ほとんどない。そんなことを一気に思い出した。リュウガイさんに、その情報を伝えて、電話を切る。
 電話を切ったあとは、ひたすら走った。タクシーを降りた場所まで戻ったけど、タクシーは一台も見当たらない。スマートフォンでタクシー会社を検索して電話しようかと思ったけど、タクシーを待ってる時間が惜しいから、大通りに向かって走った。五分間全力で走り続けて、大通りに出て、ようやくタクシーを見つけた。
 「アオヤギ、病院、お願い、します」
 息を切らせながらタクシーの後部座席に座り、大きな声で目的地を言った僕を見て、タクシーの運転手さんの表情が強ばる。目的地が病院だからか、運転手さんが「大丈夫ですか?」と僕に訊く。僕は、知り合いが救急車で運ばれたから急いでほしい、とだけ応えた。
アオヤギ病院に向かってる間、タクシーの中で呼吸が落ち着けば落ち着くほど、頭の中がどんどん荒れてく。頭の中だけ台風に遭ってるみたい。いろんな考えがそこら中を飛び回って、いろんな場所にぶつかって壊れてく。壊れたものも、そこら中を飛び回って、他のものを壊してく。壊れて砕けた思考と感情の破片が、僕の体中にぶつかってくる。僕は頭を抱えて踞り、身を守ろうとするけど、いろんな方向から吹き付けてくる風の唸り声に責立てられながら、背中や腕や足や顔にぶつかってくる破片でボロボロになった。どうすればいいんだろう。何を考えればいいんだろう。
 アオヤギ病院の正門前には、夜中とは思えない人数が集まってた。たぶん全員、報道関係者だ。病院の敷地内には入れそうにない。
 「ここで降ろしてください」とタクシーの運転手さんに伝えて、料金を精算した。運転手さんは何か言いたそうに僕の方を何度か見たけど、最後まで何も言わなかった。
 タクシーを降りて、人集りのほうへ歩いてく。照明が何機もある。カメラが何台もある。マイクが何本もある。いろんな声が聞こえてくる。
 「今日未明、女性が刺されていると通報がありました」
 「刺されていた女性は病院に搬送されましたが、間もなく死亡が確認されました」
 「警察では、女性が何者かに刺されたとみて、殺人事件として捜査しています」
 「現場の状況から、現在、都内各所で起きている連続殺人事件との関連性も疑われます」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

僕の彼女はアイツの親友

みつ光男
ライト文芸
~僕は今日も授業中に 全く椅子をずらすことができない、 居眠りしたくても 少し後ろにすら移動させてもらえないんだ~ とある新設校で退屈な1年目を過ごした ごくフツーの高校生、高村コウ。 高校2年の新学期が始まってから常に コウの近くの席にいるのは 一言も口を聞いてくれない塩対応女子の煌子 彼女がコウに近づいた真の目的とは? そしてある日の些細な出来事をきっかけに 少しずつ二人の距離が縮まるのだが 煌子の秘められた悪夢のような過去が再び幕を開けた時 二人の想いと裏腹にその距離が再び離れてゆく。 そして煌子を取り巻く二人の親友、 コウに仄かな思いを寄せる美月の想いは? 遠巻きに二人を見守る由里は果たして…どちらに? 恋愛と友情の狭間で揺れ動く 不器用な男女の恋の結末は 果たして何処へ向かうのやら?

処理中です...