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第三章 組立
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「お客さん、こりゃだめだね、入れないよ、何かあったのかねぇ」
これまで全然喋らなかったタクシーの運転手さんが一気に話した。おぉ、こんなに喋る人だったのか、と思ったけど、目的地に着けない言い訳を僕に伝えたかっただけかな。
夜中にメグの電話で起きてから、寝ぼけた頭でタクシーを呼んで、メグのオンボロアパートの近くまで来たんだけど、メグのオンボロアパートへ向かう道路の入り口付近に、たくさんの人や車が集まってる。テレビ局の車もある。何か起きてるのは間違いないなさそうだけど、その原因がメグなわけないよな。そう思いながらも、嫌な予感がむくむくと大きくなってなってく。早く、この感じを消したい。
「じゃあ、ここでいいです、降ろしてください」
タクシーの運転手さんに伝えて、料金を精算し、タクシーから降りて、人や車が集まってる場所を通ってメグのアパートへ向かう。メグのアパートに近付くほど、人が多くなってく。報道関係の人も多くなってく。
メグのアパート前に通じてる道路の前まで来ると、赤色灯をクルクル回してるパトカーが道を封鎖してる。真っ黒になった僕の嫌な予感が、僕の手を操って、メグへ電話をかけさせた。
コール音が続いてる。どうして電話に出ないんだろう。トイレとかに行ってるのかも。いいよ、いつまでも待つから、電話に出てよ。
コール音が止まった。なぜか男の声。頭が混乱。
「……マチダの携帯電話でしょうか?」言葉を絞り出す。
電話の相手はリュウガイと名乗った。リュウガイって……えっと……女の子のお兄さんだっけ。
「どうしてリュウガイさんが……?」
リュウガイさんは、自分は警察官だと言った。くらくらして、何も考えられない。
「マチダさんと思われる方は、何者かに襲われ、病院へ搬送されました」
最悪の言葉が聞こえた。
「襲われたって、ケガをしたんですか?」
「はい」
「大丈夫なんですか?」
「私が現場に来た時にはすでに搬送されていましたので、ケガの詳細をお伝えすることが難しい状況です」
「そんなに酷いんですか?」
「すみません……本当に分からないのです……申し訳ありません」
リュウガイさんの誠意の籠った声を聞いて、少しだけ冷静になった。今の僕がしなきゃいけないことは、リュウガイさんを困らせることじゃない。早くメグのとこへ行かなきゃいけない。
メグが搬送された病院の名前をリュウガイさんに訊いてる途中で、メグのお母さんのことを思い出した。メグの家族はお母さんしかいないけど、たぶんメグのスマートフォンには、お母さんの携帯電話の番号が登録されてない。固定電話はあったと思うけど、メグのお母さんが家にいるのを見たことは、ほとんどない。そんなことを一気に思い出した。リュウガイさんに、その情報を伝えて、電話を切る。
電話を切ったあとは、ひたすら走った。タクシーを降りた場所まで戻ったけど、タクシーは一台も見当たらない。スマートフォンでタクシー会社を検索して電話しようかと思ったけど、タクシーを待ってる時間が惜しいから、大通りに向かって走った。五分間全力で走り続けて、大通りに出て、ようやくタクシーを見つけた。
「アオヤギ、病院、お願い、します」
息を切らせながらタクシーの後部座席に座り、大きな声で目的地を言った僕を見て、タクシーの運転手さんの表情が強ばる。目的地が病院だからか、運転手さんが「大丈夫ですか?」と僕に訊く。僕は、知り合いが救急車で運ばれたから急いでほしい、とだけ応えた。
アオヤギ病院に向かってる間、タクシーの中で呼吸が落ち着けば落ち着くほど、頭の中がどんどん荒れてく。頭の中だけ台風に遭ってるみたい。いろんな考えがそこら中を飛び回って、いろんな場所にぶつかって壊れてく。壊れたものも、そこら中を飛び回って、他のものを壊してく。壊れて砕けた思考と感情の破片が、僕の体中にぶつかってくる。僕は頭を抱えて踞り、身を守ろうとするけど、いろんな方向から吹き付けてくる風の唸り声に責立てられながら、背中や腕や足や顔にぶつかってくる破片でボロボロになった。どうすればいいんだろう。何を考えればいいんだろう。
アオヤギ病院の正門前には、夜中とは思えない人数が集まってた。たぶん全員、報道関係者だ。病院の敷地内には入れそうにない。
「ここで降ろしてください」とタクシーの運転手さんに伝えて、料金を精算した。運転手さんは何か言いたそうに僕の方を何度か見たけど、最後まで何も言わなかった。
タクシーを降りて、人集りのほうへ歩いてく。照明が何機もある。カメラが何台もある。マイクが何本もある。いろんな声が聞こえてくる。
「今日未明、女性が刺されていると通報がありました」
「刺されていた女性は病院に搬送されましたが、間もなく死亡が確認されました」
「警察では、女性が何者かに刺されたとみて、殺人事件として捜査しています」
「現場の状況から、現在、都内各所で起きている連続殺人事件との関連性も疑われます」
これまで全然喋らなかったタクシーの運転手さんが一気に話した。おぉ、こんなに喋る人だったのか、と思ったけど、目的地に着けない言い訳を僕に伝えたかっただけかな。
夜中にメグの電話で起きてから、寝ぼけた頭でタクシーを呼んで、メグのオンボロアパートの近くまで来たんだけど、メグのオンボロアパートへ向かう道路の入り口付近に、たくさんの人や車が集まってる。テレビ局の車もある。何か起きてるのは間違いないなさそうだけど、その原因がメグなわけないよな。そう思いながらも、嫌な予感がむくむくと大きくなってなってく。早く、この感じを消したい。
「じゃあ、ここでいいです、降ろしてください」
タクシーの運転手さんに伝えて、料金を精算し、タクシーから降りて、人や車が集まってる場所を通ってメグのアパートへ向かう。メグのアパートに近付くほど、人が多くなってく。報道関係の人も多くなってく。
メグのアパート前に通じてる道路の前まで来ると、赤色灯をクルクル回してるパトカーが道を封鎖してる。真っ黒になった僕の嫌な予感が、僕の手を操って、メグへ電話をかけさせた。
コール音が続いてる。どうして電話に出ないんだろう。トイレとかに行ってるのかも。いいよ、いつまでも待つから、電話に出てよ。
コール音が止まった。なぜか男の声。頭が混乱。
「……マチダの携帯電話でしょうか?」言葉を絞り出す。
電話の相手はリュウガイと名乗った。リュウガイって……えっと……女の子のお兄さんだっけ。
「どうしてリュウガイさんが……?」
リュウガイさんは、自分は警察官だと言った。くらくらして、何も考えられない。
「マチダさんと思われる方は、何者かに襲われ、病院へ搬送されました」
最悪の言葉が聞こえた。
「襲われたって、ケガをしたんですか?」
「はい」
「大丈夫なんですか?」
「私が現場に来た時にはすでに搬送されていましたので、ケガの詳細をお伝えすることが難しい状況です」
「そんなに酷いんですか?」
「すみません……本当に分からないのです……申し訳ありません」
リュウガイさんの誠意の籠った声を聞いて、少しだけ冷静になった。今の僕がしなきゃいけないことは、リュウガイさんを困らせることじゃない。早くメグのとこへ行かなきゃいけない。
メグが搬送された病院の名前をリュウガイさんに訊いてる途中で、メグのお母さんのことを思い出した。メグの家族はお母さんしかいないけど、たぶんメグのスマートフォンには、お母さんの携帯電話の番号が登録されてない。固定電話はあったと思うけど、メグのお母さんが家にいるのを見たことは、ほとんどない。そんなことを一気に思い出した。リュウガイさんに、その情報を伝えて、電話を切る。
電話を切ったあとは、ひたすら走った。タクシーを降りた場所まで戻ったけど、タクシーは一台も見当たらない。スマートフォンでタクシー会社を検索して電話しようかと思ったけど、タクシーを待ってる時間が惜しいから、大通りに向かって走った。五分間全力で走り続けて、大通りに出て、ようやくタクシーを見つけた。
「アオヤギ、病院、お願い、します」
息を切らせながらタクシーの後部座席に座り、大きな声で目的地を言った僕を見て、タクシーの運転手さんの表情が強ばる。目的地が病院だからか、運転手さんが「大丈夫ですか?」と僕に訊く。僕は、知り合いが救急車で運ばれたから急いでほしい、とだけ応えた。
アオヤギ病院に向かってる間、タクシーの中で呼吸が落ち着けば落ち着くほど、頭の中がどんどん荒れてく。頭の中だけ台風に遭ってるみたい。いろんな考えがそこら中を飛び回って、いろんな場所にぶつかって壊れてく。壊れたものも、そこら中を飛び回って、他のものを壊してく。壊れて砕けた思考と感情の破片が、僕の体中にぶつかってくる。僕は頭を抱えて踞り、身を守ろうとするけど、いろんな方向から吹き付けてくる風の唸り声に責立てられながら、背中や腕や足や顔にぶつかってくる破片でボロボロになった。どうすればいいんだろう。何を考えればいいんだろう。
アオヤギ病院の正門前には、夜中とは思えない人数が集まってた。たぶん全員、報道関係者だ。病院の敷地内には入れそうにない。
「ここで降ろしてください」とタクシーの運転手さんに伝えて、料金を精算した。運転手さんは何か言いたそうに僕の方を何度か見たけど、最後まで何も言わなかった。
タクシーを降りて、人集りのほうへ歩いてく。照明が何機もある。カメラが何台もある。マイクが何本もある。いろんな声が聞こえてくる。
「今日未明、女性が刺されていると通報がありました」
「刺されていた女性は病院に搬送されましたが、間もなく死亡が確認されました」
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