白狐とラーメン

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わたしは見てはいけないものを見てしまった

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 ――さて、そろそろ事の次第を語っておくべきであろう。
 そうでなければまったくもってこの物語は意味不明である。
 つかみとして劇的な部分を頭に持ってきたわけなので、これからあるのは説明である。
 まずはわたしという者についてから語っておこう。
 読み進める上でわたしのモノローグで進むのだから、最初に言っておかないとわけがわからないと思われるからだ。
 わたしは、面倒くさがり、出不精、気分屋と三拍子揃った駄目人間である。
 その駄目人間っぷりは我ながら堂に入るもので、外には絶対に漏らさないくらい真面目に駄目人間をやっている。
 今年で二十歳の大学二回生である。
 人間五十年の時代ならば人生の佳境な齢なのだが、今は幸か不幸か人間百年の時代であるところの現代である。
 わたしはまだまだ若輩、若人と呼べてしまう年齢、だからと言って何かあるわけでもないが。
 そんなわたしは日々を漫然と過ごす典型的な大学生であった。これでもっと駄目な方に振り切れていれば何か笑い話もあったことであろう。
 しかし、生来、愛すべき両親から受け継いだこの真面目気質は、わたしがこれ以上駄目な方に行くことを拒否してしまった。
 なぜかと言えば世間体を気にしたのである。真面目な駄目人間であるわたしは、他人にどう思われるかをことさら気にする。
 いつだってわたしの陰口を叩かれていると思っているし、笑い者にされていると信じて疑わないくらいには筋金が入っていた。被害妄想も甚だしい。
 だから、これ以上の駄目をわたし自身が望んでいても、わたし自身であるが故に臨めず、結果として出来上がったのは中途半端な駄目人間である。
 笑い話にもならないのが、なおのこと厄介であった。
 自分で言うしかないから自分で言うが、わたしの内側は腐っている。それをただ世間体を気にして、銀色くらいにめっきしているだけなのだ。
 そのおかげか真面目な優等生と一部の教授たちの間では評判である。まこと本物の真面目な優等生には申し訳ない限りだ。
 本当に真面目と言うのはわたしの隣に座っている彼女のことだろう。
 休み時間になると、何処からともなく現れ、なぜかわたしの隣に座ってくる後輩のことである。
 もちろん会話はなにもない。
 名を伊津野香織というらしい。
 そう件のケモ耳美少女である。
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